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猫守紀行  作者: ミスター
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白亜の都

脱走者side


黄色い弾丸が王都への道を脇道に逸れそうになりながらも疾走する。

実際にはそれほど速度は出ていないが、本人の気分は風よりも早い。

走る事こそ我が使命と言わんばかりの黄色い弾丸に、脱走を提案したはずの白い毛玉は必死に追いすがる。


「ぴぴー!!」

「み、み~!?」


その様子に気付いたシェルパ民(白亜の変態)達は道を譲りながら視姦する。

頬を緩めだらしない顔で見つめる者。今にも跳びかかりそうな者を抑える者。

聡い者は背後を気にし、追っての有無を確認していた。


そんな事とは露とも知らず、取りあえず走る毛玉と黄色いの。

しかし、突然黄色いのが急停止する。

足元に蟻の行列が出来ており、それに興味を持って行かれたのだ。


「ぴ」


見ろよコレ。と言わんばかりに毛玉に振り向く黄色いの。

しかし、黄色いのは急停止、100の速度から0にするという異常を成し遂げており、それを毛玉が出来る訳も無く…。


「み!?」

「ぴ!?」


毛玉はわたわたとしながら、黄色いのに激突。事故った。

もびゅと擬音が出そうなほど柔らかい者同士でぶつかり、毛玉の方が重いので黄色いのは踏ん張りが効かず、絡まりながら転がっていく。

これにはシェルパ民からも悲鳴が上がった。


「誰か!治癒を!!」

「担架、担架だ!」

「よし、緊急クエストの招集を掛けようぜ。蟻のせいで白タンが転んだ。根絶やしにするぞ!ん?テンのせい?何を言ってる、蟻のせいだ」

「転ぶ白タンハアハア…」

「テンちゃまアホ無邪気かわゆす。クチバシぺろぺろしたいお…」


二匹が絡まり転がるのは割と良くあることなので、怪我など一切してないのだがこの騒ぎ。

特にシェルパ民では無い白亜教の信徒は大騒ぎである。

最後の二人は天の声的に見逃せぬ、裏路地まで来い。


「み~…」

「ぴー…」


目を回していた二匹が立ちあがると、シェルパ民は喧騒を収め、一斉に拍手を送る。

白タンが立った!テンちゃんが立った!と。もう馬鹿の集団である。

毛玉と黄色いのは何故拍手されているのかは理解出来ていないが、自分達に向けてというのは理解出来た。

故に。


「み!」

「ぴぴ!」


二匹はその場でしゃきーん!と決め顔をして拍手に応えるのだった。

その勇姿?にさらに場の興奮度は高まる。カメラがあれば撮影会待ったなしだろう。

少々調子に乗りつつある黄色いのと毛玉。お前等、目的はどうしたと問いたい。

だが、そんな二匹の目に、正面の人だかりからムイムイと鼻をだしすぴすぴと匂いをかぎわけようとする一南パーティー最速の鼻が入って来た。

その鼻の持ち主はひょっこりと顔を出す。

なぜか疲れた表情ではあるがサウスだ。


「………ガウ」

「み!?」

「ぴー!?」


追手のサウスの顔を見て二匹の動きは一瞬止まる。

そんな中、シェルパ民からの罵声が飛ぶ。


「お前等…!何でそこにサウスが居る事を知らせなかった!!」

「…はぁはぁサウスの毛並みはぁはぁ…あ、いやっこれは…!?えっと、ば、馬っ鹿野郎!サウス派の俺達にとっては、この密着はご褒美以外の何物でもない!!こんなに密着する事なんてもう無いかもしれないんだぞ…、わかれよ!!!」


そんな勢いで誤魔化そうとするサウス派に囲まれ、セクハラを受け続けるサウスの気持ちも分かって上げて欲しい。

尾を巻き、耳をたたみ、かなりどん引きのサウスであった。

白派とサウス派の言い争いの一瞬をついて、第二の追手黄助おじいちゃんが建物の上から背後に降り立つ。

黄助の背にはチビスラがしっかりと張り付いていた。


「グルガァ…!」

「……?」

「み…!?」

「ぴ…!?」

説教の時間じゃとでも言いたげに唸る黄助に反応したのは、黄助派だった。


「不動の黄助、帰った来たか!!」

「体も大きくなって、更に貫録も増した…。多くを語らず行動で示す。これが我々漢のあるべき姿だ!」


黄助派は少々毛色が違い、体躯の良い強者然とした男臭い奴等に人気がある。

主に騎士や城兵、高ランクの冒険者等が含まれており、白亜教の派閥としては少数だが戦闘力は非常に高い一派だと言われている。

だが、白亜教の敬虔な信者は無意識かつ割と簡単に身体のリミッター解除を成し遂げるため、あまり戦闘力に意味はないかもしれない。

ちなみに第一王子であるシャーニスがサウス派だと公表すれば派閥の発言力の関係も変わってくるのだが、実にどうでもいい事である。


サウス達が一堂に会し、信者の興奮も収まることなく天元突破。

このままいけば軽い暴動が起きるのでは?と不安になる様相を見せてきた頃、黄助と同じく一人の男がその場へと降り立った。

武神降臨である。


暴動を起こしかけているシェルパ民に向かって、有無を言わせぬ威圧を込めた視線を投げかけ牽制した後に、武神カートス・マリゲーラは言葉を発する。


「…行きたいのは分かるけど、君達だけじゃ行かせてあげられないんだよ。危ないからね」

《…どうもこの王都に入った時から使徒の気配が充満してやがるな。戦の神の神気を掴みづらい…。おい、カートスあんまり白にゃんを叱るなしょんぼりするだろ。可愛いだろうが》


ゼプリバンの声を意図的にに無視しながら、困ったような表情で毛玉達に言い聞かせる様は、とても今し方シェルパ民の動きを止めるほど凶悪な威圧を放った武神とは思えない穏やかなものだった。


「みー…」としょんぼり落ち込む毛玉をよそに、黄色いのはそろりと動き、関係無いねと駆けだそうとする。

しかし、黄助が背中のチビスラを鞭を使いシュート、エキサイティンした。

風になる予定だった黄色いのはチビスラに首まで埋まりそのまま転がるで終わる。


「ぴぴぴー!!!」

「……」

「がぅ」

「…ぴ!」


黄色いのがチビスラに抗議の声を上げるも、黄助の一声に封殺され拗ねたようにぷいと顔を背ける。

その反応にカートスは苦笑を浮かべる。


「取りあえず、王城の方はファルナーク達に任せようね。君達が行くとどういう反応が返ってくるか分からないんだ。下手をすると祀り上げられてイチナ君と会えなくなっちゃうかもしれないよ?」

「み!?み~…」


しょんぼりとした毛玉がさらにくてっとへこむ。

それを見たカートスは毛玉を抱き上げ優しく撫でるのだが、周囲からはカートスに向けて嫉妬の嵐と殺意の波動が飛び交ったいた。イチナの殺気に慣れている彼にはどこ吹く風であるが。


「そい言えば、ソルファちゃん達どうしたんだろう?遅いな…」

「み?」

《…まずいぞカートス。ソルファ達には感知用に砂を仕込んでたんだが、あいつらここに辿り着く前に魔族の後続と会いやがった》

「なんだって!?ワクじいちゃんだけじゃなく後続…、どのくらいの規模か分かりますか?」

《今王都中の砂にリンクを広げてついでに魔族の規模も調べてるところだ。後続と言っても少数だが、一人が厄介極まりない神気の量だ。後はカスみたいな使徒の力を持った兵士とそこそこの使徒の女魔族が一人?……なんだこれ、アルスとかいうのは馬鹿なのか!?ゴミみたいな神気だが魔族全員を使徒にしてやがる!?道理で戦の神の場所が掴めない訳だ、王都中使徒だらけだ》


感知に専念したゼプリバン様が急に声を荒げ出し、勝手に納得していた。

とてもじゃないが聞き捨てならない事も言っている。

カートスはその言葉を聞きながら、頬を引きつらせ、魔族全員が使徒?そんな馬鹿な事……やるかもしれない。と微妙に納得していた。


《…カートス。今ソルファ達と対峙しているのは戦の神の神気を十二分にどころか本体の神の力が減衰するぐらいの力を授けた特別製の使徒だ名前が違うだけの神と思え。神を宿してない、使徒でもないソルファ達は鎧袖一触にされるぞ!》

「…サウス!先に屋根からソルファちゃんの処へ!黄助、テンとチビスラ回収!すぐ行くよ!」

「ガウッ!!」

「グルガァ!」


ゼプリバンの一言に、ソルファ達に神様を付けてない事に焦りを感じ、慌てて指示を出し、カートス自身も白を抱きながら屋根の上へと駆け上がる。

移動手段としてイチナ君に返した神袋田中(次元の神)を付けていれば焦る事もなかったのだろうが。


「くそ、間に合え!」


カートスは白を抱えたまま建物から建物へと飛び移り、ソルファ達の元へと急ぐのだった。


sideout





ソルファside


まいった。

白達を追って、大通り以外のルートを走っていたら嫌な相手に当たってしまった…。

魔族、しかも将が二人も。

引き連れている兵士は少ないけど、もし戦闘になれば王都にいる魔族達もここに集まってくるだろう。

どうするべきか…。


「…貴様はアマサカの女とその仲間か。こっちはリリスの要望で王都まで買い物に来ただけだが、貴様達がいると言う事はアルス様の邪魔をするという事だな?」

「おじい様が死んで、落ち込んだ私を誘ってくれたアル様☆…そのデートの邪魔するなら馬に蹴られちゃえ☆」


すでに相当量の買い物を済ませているようで、両手一杯に荷物をもった魔軍の将アルケイド・ガンマとそれに寄り添うように立つ同じ魔軍の将リリス・マキュリーダ。

ただでさえ厄介な相手なのに、彼等から神様達から感じる神気を感じる…。

それにこのアルケイドから感じる圧倒的な威圧感、…戦闘態勢に入っていなくてもこれとは、もしかして治癒の使徒様よりも強いのでは?

…今は別段戦う必要性はない、逃げてもいい場面だ。

だが、イチナさん=邪魔者の方程式が出来ている彼等が僕達を逃がしてくれるだろうか?


「なるほど、それが答えか」

「え?」


僕は何のアクションも起こしていないのに、その場の空気が緊張感に包まれる。

何故?と思うと、横で光樹くんが聖剣を抜刀していたお目目ぐるぐる状態で。


「嫌ですぅ! 吹き飛ばされて(メイデンメイス)治癒されて(メイデンメイス)の繰り返しは嫌ですぅ!!アイアンメイデンは嫌ぁ!!」


そう叫びながらアルケイドに斬りかかります。

…どうやら光樹くんのトラウマ、治癒の巫女様との鍛錬をアルケイドの持つ空気で掘り返されたようだ。

僕も駆けだしてはいるが、これでは間に合わない…!


「…不憫な子☆」

「…不憫な、せめて一太刀で」

「……ばっさりだぜ」


アルケイドが背中に背負う大太刀に手を掛けようとしたところで、なにも無い場所から声が響き、動きが止まる。

その一言で間を外された二人は、眼前に迫った大剣タイプの聖剣『グラクニス』を後ろに大きく飛び退いて避ける。

そして、グラクニスが地面に叩きつけられた衝撃でなにも無い場所からころりとパー子ちゃんが転がり出てきた。


「……びっくり」

「…パー子ちゃん、なに魔族側に行ってるんですか。助かりましたけども。早く戻って来なさい」

「……やー」


パー子ちゃんはよいしょと立ちあがり、テコテコと足音を鳴らしながら僕の傍までやって来る。

アルケイド達も意表を突かれた顔してるでしょ、いや、呆れも多少混じってはいますが。

それでも完全に警戒態勢を飛び越えちゃったじゃないですか…!


「存在そのものを消す神具か?厄介だな」

「んー☆勇者君腕上げたね、前より格段に強くなってる☆」


ああ、どうしましょう…。

逃げるタイミングを完全に失いました。

仲間から手ほどきを受けた今の僕なら、リリスを相手に時間を稼いで二人を逃がす事も出来るでしょうが、アルケイドはまずい。

老将クラスの剣技と神並みの神気とか相手出来る気がしないです。


「……めんご、…吹き矢忘れてきた。…矢だけならある。撒く?」

「え!?いや、撒いてどうするんですか…、パー子ちゃんはサウスが来るまで自重してください。光樹くんもむやみに斬りかからないで、お願いですから…」

「あぶぶ、ごめんなさい。色々ごめんなさぃ!」

「……おーけー、…べいべー」


二人を諫めながら、アルケイドに動きない事に安堵する。

会談が行われるため、戦闘を避けているのでしょうか?

もしそうならまだ目はある。


「アル様☆どうします?ここで戦うとアルス様の会談にも影響があるかも☆」

「こいつ等が居る時点で甘坂一南の介入は確実だ、すでに会談は失敗だと思え。そして、こいつ等を斬れば甘坂は確実に来るだろう。だが、奴を斬らねば、アルス様の安全は永久に無い。どちらにしても戦い、決着を付けねばならん相手だ。奴が怒りで我を失うならばやりやすい。ゆえに、ここで手を抜く意味は無い」


会談よりも主の命を優先、ですか。

当然と言えば当然ですが、…駄目ですねこれは。言葉を尽くそうがひっくり返る気がしません。

覚悟を決めるしかないですね。

僕はギミックハルバート『マリョフソ』の柄を握り、構えをとる。

その姿を見たリリスはディスシリーズの一つ大剣にしたディスジェミリナを構え、アルケイドも大太刀を抜く。

あの大太刀からもディスシリーズのような威圧感を感じます…。

構えを取り、斬りかかられる寸前でした。

一瞬、僕の横を銀色の風が通り過ぎました。


「ぬっ!?」

「ウルォオーーーン!」


僕は見た。まるでやる気を感じなかったパー子ちゃんがその場から消え、その銀の風にしがみついたのを。

そして、その銀の風は肩から生やした3対6本の魔力刀でアルケイドと拮抗し、弾かれるように僕の隣にやって来た。


「…ありがとう、サウス助かりました!」

「ガウッ!」

「……サウス来た。…自重を捨てる時。…サウスミンふるぱわー」


サウスの力強い返事に安心感を覚え、パー子ちゃんの一言に不安が広がります。


「…銀色二尾。それがモンスター名不明の『アンノウン(トーテムポール土台)』サウスか」

「違いますぅ!土台は当番制でクロハ黄助サウスの順番なんですよぅ!」

「なんですかその二つ名!?光樹くんもそれ要らない情報ですからね!」


真面目な顔をしてのたまうアルケイドにぼけ倒す光樹くん。

思わず突っ込みを入れてしまいました。

そして遠巻きに見ているシェルパ民達がメモを取っているのは見ない事にします。


「…分かった。土台はバルマストに訂正させよう」

「知将まで関係してるんですか!?光樹くんも満足気に頷かないで!」

「アル様、時々天然☆」

「……大丈夫。…サウスは、私の土台」

「…キューン」


サウスが悲しそうな顔で僕を見上げます。

そうですね、真面目に戦いに来たのに来たらカオスになるって辛いですよね…。


「さて、そろそろ始めようか」


…殺気と神気の奔流!?

この人、イチナさんばりの力技でカオスを無かった事にする気だ…!

なあなあで戦闘が無くなればと思って積極的に乗ったけど、…手強い。

イチナさんならやる気を失いかねないレベルだったのに…!


「きゃぁっ!?」

「リリス!?」


突然アルケイドの背後にいたリリスが吹き飛び出店へと突っ込む。

建物の上からの奇襲、その犯人はアルケイドと吹き飛ばしたリリスを油断なく見ながらも、

その背中から逃げ出さんとする黄色いのと青い半休体をしっかりと捕縛していた。


「グルガァ!!」

「…ぴぴー!」

「……!」

「…『不動神虎(トーテムポール)』の黄助と『黄色い疾風(トーテムポール)』テン。そして『蒼の癒し(トーテムポール)』チビスラ、か」


…もうアレですね。

冒険者の二つ名は大体二文字で纏められますが、自由ですね付け方。

何故読み方は全てトーテムポールなのでしょうか…?

あれですかね、二つ名は知将が考え、読みは元魔王が適当にとかそんな理由ですかね。

アリー風に言えば愛の違いですね。

僕今遠い目をしてると思います、きっと。


「…貴様もか『武神』カートス。そして、神の宿りし剣か…(いくら使徒の身とはいえ、神そのものを相手にするのは分が悪いな)」

「や、その名で呼ばれるのは久しぶりだね。僕様には大層な二つ名だよ、イチナ君にあげたいくらいだ。この神剣の名前は砂塵神剣レプリカ、ゼプリバン様が宿る剣だ」

《おいカートス、律義に紹介してんなよ。手札は隠してこそ切り札になるんだぞ》

「み!」

「いや、どっちにしろ神様の事はばれてるみたいだしね。うん、ごめんごめん気を付けるよ白」


建物の上から僕のそばへと油断なく降り立ったカートスさんの肩には白がだれるように張り付いていて、ぺしぺしとカートスさんの肩を肉球で叩いていてゼプリバン様の声に同意しているようだった。


「それが『|神秘輝く世界の中心《言葉に出来ない愛の衝動》』白か。たしかに膨大な魔力だ」

「「「ぶふぉ!?」」」

《なに噴いてんだお前等、良い二つ名じゃないか》


白亜教の神は黙ってください。

アルケイドが真顔で言葉に出来ない愛の衝動とか言うから噴いてしまうしかないじゃないですか!?

どんな二つ名ですか!?

光樹くんとカートスまで噴き出しています。

つけたのは間違いなくアリーですね…。それ以外に考えられません。

緊迫した空気が一気に吹き飛びました…。

ですが、アルケイドは剣を収める気はないようです。

噴き出した僕達を怪訝な表情で見ています。


「もう!びっくりしちゃった☆使徒になってなかったら怪我してたよ☆」

黄助に吹き飛ばされ、出店に突っ込んだリリスがそう言いながら出てきた。


「…無事か。リリス、俺はカートスをやる。そこで見学している兵達を連れ、残りをやれ」

「了解☆まあ、これだけ騒いだから散らばってる兵士達も集まって来るだろうし☆ここの冒険者たちにも邪魔者排除の依頼してあるから……手伝ってくれますよね☆」


リリスの視線の先には、騒ぎを聞きつけてきたのだろう頭を抱えたハフロスさんを先頭にした冒険者の一団があった。

その顔には様子を見に来ず、仕事してれば良かったという思いがありありと読みとれた。

そして何かを思いついたようにハフロスさんは猫耳の付いた禿げた頭を光らせ、顔を上げる。


「申し訳ない」

「へぇ☆断っちゃうんだ☆」


リリスは明るい声とは裏腹な暗い笑みを見せる。

しかし、ハフロスさんもその程度では怯みはしなかった。


「あ、もちろん依頼が嫌という訳ではありません。しかし、我々冒険者は敬虔な白亜教ですので、これ以上白ちゃんやサウス達には近づけないのです。どうしても、と言うのならイチナさんに許可を取って頂きたい。許可さえ取って頂くか、白ちゃん達が近くにいない場合は、全力で依頼達成のために働かせて頂きますとも。ああ、ギルド全体で民衆を守るための援護くらいはさせて頂きます」

(白亜教、便利ですねぇ。白ちゃん達がこの王都にいる限り、彼女達の元を離れる訳がないですし、誰が好き好んで冒険者仲間と戦いますか。それに、民衆を守る援護ですから流れ矢くらいあっても仕方ないですよね)


ハフロスさんの背後の冒険者たちもニヤニヤと笑いながら頷いた。

ハフロスさんなら、僕達を結界で隔離するくらい簡単にできるんですけどね。

それをしないという事はシェルパの冒険者たちはイチナさんはともかく、僕達とは戦う気はないという事でしょう。

イチナさんが居たら結界迷宮って言ってましたけど、今はありがたいです。

すると、何かを察したのか、アルケイドが剣を収めました。


「……退くぞ、リリス。「えっ!?でも…」我々は任務でここにいる訳ではない。俺は奴とは万全で当たりたい。それにカートスはワクバラン翁の弟子()だ、勝手に戦うと何を言われるか分からない。どうせ奴は来るのだ、ならばその時でいい。ギルド長、貴様もその時は依頼を果たしてもらうぞ」

「ギルドとしても敵対したくはないので」

「フッ、食えない男だ。その言葉はどちらに重きを置いたものか、分かるのが楽しみだな」

「……惜しい、…サウスとの合体技、…吹き矢乱舞の出番がきえた」


ただ笑みを浮かべるハフロスさんにそう告げると、アルケイドは買い物袋を回収し背を向けて歩き去る。

リリスはそれを慌てて追って行った。

あとパー子ちゃん、それサウスの風に乗せて吹き矢をばら撒くやつですよね?

市街地でやったらただの無差別攻撃です、本当に止めてください。


「助かったよギルドマスター、流石『反射(てりかえし)』のハフロスだ」

「お礼は受け取りますが、結界王以前の二つ名で呼ぶの止めてください『泣女(なきめ)』のカートスさん。それハゲのハフロスって言われ続けて付いた名ですからね」


うん、ごめん…。と素直に謝るカートスさんを横目に、僕達もハフロスさんにお礼を言います。


「いえいえ、この場にカートスさんが来ていなければ私達がどうこうしようがアルケイドは剣を納めなかったでしょう。彼もカートスさんとその神様の宿った神剣を相手に戦って無傷ですむとは思ってなかったようですからね、イチナ君と万全で決着をつけたいと思う彼が引いてくれただけですよ。では、私達もギルドに戻りますね」


去っていくハフロスさんは日の光を反射し、輝いて見えた。


「……おお、…後光がさしてる。…あれが神だ」

《違うからな!?あれは見事なまでに毛根が死んでるハゲなだけだ!》

「えぇ?ハフロスさん剃ってるだけだって言ってましたよぉ…?」

《チビ助、分からないのか?隠したいんだよ若ハゲをよ。察してやろうぜ》


危機が去ったとたんにハゲ談議になるのはどうでしょうか?

白はカートスさんの肩に飽きてきたのか、頭の上へと移動を始めました。

カートスさんも気付いていますが、白は自由にさせ苦笑しながら白ではなくゼプリバン様を諫めています。


僕は足元に寄って来たサウスと黄助を撫でながら、取りあえず宿に戻ろうと決めたのでした。


「……違う、…撫でるなら、…もっと真剣に」

「あ、はいごめんなさい」

「がう…」

「きゅーん…」


なんか叱られちゃいました…。

サウスと黄助が気にするなと顔を磨り寄せて来てくれたのが嬉しかったです。

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