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猫守紀行  作者: ミスター
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再会

カートスside


白達を回収した僕達は取りあえず、城に向かう組と宿屋に向かう組で二手に分かれた。

会談が行われると聞いていたため、関係のない人間が行っても門前払いをされる可能性があったためだ。

当初の目的通り王城に向かったのは、アイナクリン王女とハチカファ、ファルナーク、そしてこの国の勇者アンナちゃん。

僕様と光樹くんは精神的に疲れ切ったソルファちゃんを休ませるためにと、白亜教の盟主と白を引き合わせないためにアニマルズとパー子ちゃんを伴って宿屋に向かう事にしたのだが…。


宿屋に向かう道は自然と人だかりが開け、道の脇で拝む人々が多く目につく。

僕様と光樹くんは自然と無言になっていく。この国、もう駄目かもしれないという思いで。

ソルファちゃんもその光景を見て、徐々に目が死にはじめている…。

今は白とテンを抱き、チビスラを肩に乗せて癒しを求めている状態だ。

パー子ちゃんだけは元気にサウスの背に顔を擦りつけている。


「…ソルファさん、あの、辛かったら黄助に乗ったらどうでしょう?」

「うん、僕様もそれが良いと思う。白達も心配そうにしてるし」

「大丈夫ですよ。白達にも元気を貰いましたし、ほら宿屋も見えて……」


見えてきた。そう言いかけて、ソルファちゃんが突然固まった。

その視線の先には、魔族が一人。

宿屋の子供で僕様の友達、マルニちゃんが手を振って別れを告げているところだった。

それは僕様にとってとても懐かしい顔であり、こんな様の王都でなければ人間にとっては不倶戴天の敵。

老将の中でも剣を冠する将。剣将ワクバラン・ソイルがそこにいた。


ワクじいちゃんが振り返り、僕様と目が合う。

ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、道行く人たちも脇によけ、白では無くこちらを注視していた。

そんな中、目を鋭くし、こちらを観察してワクじいちゃんが口を開く。


「…うむ、怪我も無く、良く鍛えている。元気そうで何よりだ。カー君」

「ワクじいちゃんも元気そうだね。イチナ君が斬ったって言ってたから心配したよ」

(((((((((カー君!?ワクじいちゃん!?)))))))))


…なんだろう、なんでか皆から驚愕の目で見られてる気がする。

何か変な事言ったかな?


「旧交を温めるのもいいが、先に聞いておこう。カー君、アルス様の邪魔をするか?」

「うん。するよ。友達が…、イチナ君が彼との戦いを望んでる。なら僕様は露払いをするだけだよ」


ワクじいちゃんは僕様の迷いのない言葉を聞いて嬉しそうに笑う。

僕様の目を見て本気を悟り、成長したなと、笑う。

剣将の前でその台詞を吐く意味を分かっているのか?と、笑う。

露払いの露の中に自分が含まれている事を、それは楽しそうに笑った。


「そうかそうか、人を助け、友を助け、不義理はするな。と教えたのは俺だからな。…ならば敵だなカー君」

「うん……敵だねワクじいちゃん…」


互いが敵と認識しあい、同時に剣の柄へと手が伸びる。

一瞬で張り詰める空気。

野次馬していた人たちも、巻きこまれてはかなわないと、逃げて行く。

ワクじいちゃんの一種極まった剣気が肌に刺さる。


…これがワクじいちゃんが『敵』に向ける剣気…。

子弟として何度も剣を合わせてきたけど、こんなにも鋭利なものだとは知らなかった。

心が痛む。迷いが生まれる。戦いたくないと心が叫ぶ。


ああ、やっぱり僕様は弱いなぁ。ちょっと泣きそうだ。

自分で敵だと宣言したのに、誰かに止めて欲しいと思っている。


「あー!泣き虫おじちゃんだ!!それに白ちゃんにテンちゃん!…それ黄助?おっきくなったねー。サウスも居る!あ、ししょー!」

「……お?おー、…でしだ」


張り詰めた空気の中、底抜けに明るい声が響く。

宿屋の女将さんもマスターもマルニちゃんと一緒に外の様子を見に来ていたが、こちらに駆けだすマルニちゃんを止める様子はない。

いつの間にかワクじいちゃんから、あの鋭利な剣気が感じられなくなっている。

女将さんもマスターも止めなかったあたり、ワクじいちゃんを良く見抜いてるなぁ。


「…フフ、泣き虫おじちゃんか。カー君にぴったりだな。やはり、子供には勝てん。ここまでだなカー君。『次』はぶれるなよ」

ワクじいちゃんは昔を思い出したのか、懐かしそうに目を細める。


「はは、あまり嬉しくないけどね。でも、ばればれかぁ。…うん、分かった頑張るよ」


僕様の答えに苦笑を洩らしながらワクじいちゃんは去っていった。

…次か、大丈夫かな僕様。


「あのぅ、カートスさん?もしかして、剣将とお知り合いなんですか?」

光樹くんの言葉にハッとなる。


「…そう言えばイチナ君にしか言ってなかったっけ。ワクじいちゃんは僕様の育ての親なんだ。僕様が5歳の時だったから19年前かな、生れた村がモンスターに襲われて滅んでね。唯一生き残った僕様を拾ってくれたのがあのワクバラン・ソイルさ」


その時のモンスターはワクじいちゃんによって斬られた。

人類の敵であると教えられてきた魔族が、間に合わなくて済まないと幼い僕様に頭を下げ、一緒に家族や村の仲間の墓を作ってくれた。

それから魔族領に行く事になって最初は怖かったけど、ワクじいちゃんが編み物をしてる姿を見たら不安も消えたんだっけ…。

僕様にとっては、お母さんみたいなお父さんで、厳しくて優しいじいちゃんだった。

そして、一人前にしてくれた恩人で僕様のヒーローだ。

本当は戦いたいとはこれっぽっちも思わない。


「…カートスさん、無理して戦う事は無いんですよ?僕なんかよりよっぽど酷い顔色です」

「ソルファちゃん…、大丈夫ありがとう」


人を助け、友を助け、不義理はするな。でも、魔族に対して容赦はするなとも教えられていた。

僕様は『人』で普通の魔族には受け入れられず、人のコミュニティに必ず戻る事になる。

その時に異端にならないように徹底されて教えれられた事だった。

幼い時は魔族を斬る事はワクじいちゃんへの恩を仇で返す事になるんじゃないかと悩んだこともあった。

でもワクじいちゃんの考えは違った。


『カー君。戦に出る者は斬ってもいい、覚悟が決まっているからな。だが、どんな種族であれ民は斬るな、魂が腐る。外道に堕ちる事は許さんからな。俺に恩を返すと言うなら俺を超える事で返せばいい。弟子が師を超える。これほど嬉しい事はない』


そういって笑っていたのを思い出す。

だからさっきも僕様と戦えると事が嬉しそうだったんだ。

なら、僕様も覚悟を決めよう…。


「ワクじいちゃんと戦うのは僕様がやる。これはイチナ君にも譲らない。ワクバラン・ソイルは僕様が超える」


今の僕様に出来る唯一の恩返し、頑張るよ。


……でも何でワクじいちゃんまで猫耳を付けてたんだろうか。

可愛いものは確かに好きだったけど、士気に係わるからって隠すタイプだった気が…。

うん、考えるのは止めよう。


「…マルニちゃんも待ってるし、取りあえずチェックインしちゃおうか」

「そうですね。光樹くんも行きましょう。…光樹くん?どうしたんですか?」

「いえ、その…!」


ん?きょろきょろして、なにか言いにくい事でもあったのかな?


「パー子ちゃんの手から白とテン、それとチビスラが脱走しましたぁ!!」

「……握ってたのに、…気付いたら、居なかった。…ぬかった、ぜ」


その言葉を聞いてバッ!とソルファちゃんと同時にサウスの方を振り返れば、白達を掴んでいた手をにぎにぎと所在なく動かすパー子ちゃんが居た。

握ってたのに…?あのパー子ちゃんの容赦ない鷲掴みからなんの補助もなしに白達が抜けられるだろうか…?

…足元に少量の砂が落ちているのは気のせいだろうか。

いや、石畳だし、どこにでもあるんだけどなんか気になる。

なにもしてないですよね、ゼプリバン様?

僕様が問いかけると無言だった。

…これは後でいいか。取りあえず今は白達だ。


…そう言えば、サウスも黄助も居ない?


「勝手でしたけど、サウスと黄助にはすでに追ってもらってますぅ!」

「「良くやった!」」


パー子ちゃんが自分でサウスから降りるなんて驚きだが、その方が速いと判断したんだろう。

それでもマズイ事には変わりはない。

でも何故白達は逃げたんだろうか?

……まさか!

アイリンちゃんが白達の言葉を翻訳した言葉、野望を止めて見せるってアレか!!


「…だとすると、白達は王城へ向かった可能性が高いかな?僕様は王城へ先回りしてみる。皆は一応他のルートから向かってみて!」

「「はい!」」

「……おー」


僕様達はすぐさま行動を開始する。

はぁ、白もテンも無茶しないで欲しいよ、フォローするにも限度があるんだよ?


ここは人が多すぎて身動きがとりずらい、屋根伝いに行った方が早いか。

そう思った僕様は付加魔法で脚力を強化し、近くの建物の壁を一気に駆け上がった。

屋根の上に登ると、遠くの屋根に黄助の影が見えた。

でもサウスの姿は見えない、サウスは下を走ってるのかな?

取りあえず王城に向かっているのは間違いなさそうだ。


ここは僕様達が知るシェルパじゃないと思わなきゃいけない。

なにより、アルスが居る。もし、アルスに白達が捕まりでもした目も当てられない。

そうなればイチナ君を呼び寄せる事になるだろう。

出来れば、呼ぶのは民衆の避難とか最低限の対策を取ってからにしたいなぁ…。


そんな事を考えながら、僕様は急いで屋根から屋根へとを駆け移るのだった。


sideout





ファルナークside


王城へは我とアイリンが居たためすんなりと入れたが、そこからが問題じゃった。

我等を出迎えた…、というよりはち合わせたのは金獅子隊の隊長バーマックと第一王子シャーニス(ババ専)、そして第二王子のバスハール(ロリ魂)だった。

これだけなら問題なかったんじゃが、バーマックが今から出奔するとぬかしおる。

王家に忠誠を誓った身としては不本意だが、猫耳と盟主の講義は耐えられんらしい。

王子たちはそれを止めに来たらしい、が。

バス坊はあまり止める気はないんじゃろうな、むしろバーマックを煽っておる。


「ファルナーク様からも何か言って下さい」

「我か!?」


完全に部外者目線で見ておったから、シャーニスの突然の振りについていけなんだ。

うぬぅ、仕方ない…。

では、と我が口を開こうとした瞬間『時間』が止まった。


「…!これは、クロノフール様!何のつもりですか!」

《すいません。ちょっとした手助けですよ。手伝ってと請われればやりますとも。ああ、気にしないでください、すぐ戻しますから》


な、なんのことじゃ?我、そんなこと言ったかの?いやそもそも手伝いになっとらんし。

クロノフール様は宣言通り、すぐに力を解いてくれたんじゃが、なんなんじゃ一体…。


「…ええい、まあよいか。まず、バス坊は黙れ。「酷い!?」…バーマック今、軍のまとめ役であるお主が出て行く事はシェルパ崩壊を意味すると知れ」

「……は?」


我の言葉に王宮側の全員が疑問符を浮かべる。

アンナとアイリン、その後ろに控えるハチカファは我の言葉に頷くだけじゃった。

さて、説明してやるかの。






「あのチンピラめ…、いつかやらかすと思っていたがシェルパに攻め入ろうとは…!軍を再編成、いや先に民衆の避難か。殿下、この事は…」

「ああ、分かってるよバーマック。私が父に伝える、行きなさい」

「いっやー、相変わらず無茶苦茶だねイッチーナはさ」


真剣な表情のバーマックとシャーニスに対し、バス坊のお気楽な事よ。

そんなんじゃから巷で『幼女迷子はバスハール』なんていう意味不明な迷子の注意喚起の標語が出来るんじゃ。


「アイナクリン王女様、挨拶が遅れ申し訳ありません…。さらには、お見苦しい処をお見せし申し開きも御座いません…。処罰は後ほどいかようにもお受けいたします。そして、ファルナーク様、貴重な情報ありがとうございました」

「気にしないで、バーマック。民の事頼みましたよ」

「うむ、アイリンの言う通りじゃ。己が職務を果たせ」


バーマックはその言葉に最敬礼で応えると、一度ハチカファを睨んで去っていった。


「…あや~、そう言えば~、城への報告をしてませんでしたからね~…。報告してたら~、会談を防げたかもしれないのに~…。大失態です~」

「いや、報告しようにも時間がなかろうて、我らでさえイチナからの報を聞いてこれじゃし、イチナとアルスが敵対しとるんは知っとって行動じゃろ。のどちらにせよ防げんよ」

「うう~、そうですけど~」


今回はタイミングが悪いとしか言えんのじゃ。

そう気落ちする事もあるまいて。


「て言うかハチヤン報告とかしてたんだ、豆だねぇ。私だったら3日で投げる自信があるよ!!」

「もう、自信を持って言う事じゃないですよアンナさん…」

「アンナさんは~、暗部どころか普通の兵士も務まりませんね~」

「ま、勇者だからね!」

「腐っとるがの」


ふむ、少し持ち直したかの。

さて…。


「シャーニス。ザル坊はどこじゃ?そこにアリーナンもおるんじゃろ?案内せい」

「父上は今職務室です。最近のごたごたで職務が滞ってまして…。アリーナン嬢は別室で控えて貰ってます。アルス神が来てから大まかな意見のすり合わせを行い会談に臨む予定です。父上には僕から伝えますので、アリーナン嬢の方をお願いします。…今ならまだ間に合うかもしれません。…彼女達をアリーナン嬢の処へ」


シャーニスはそういうと二度手を叩き、侍女を呼び寄せ我等の案内に付けた。


「バスハール、お前は…」

「難しい事は兄上に任せて、部屋に戻ってるよ。出来る事なさそうだし。アリーナン嬢は見てて面白いけど、近くに控えてるバルマストが怖い。アイリンも気を付けるんだよー?」

「…全く、お前は…。分かった」


シャーニスに呆れられながらも、アイリンの頭を一度撫で、去っていくバスハール。

バスハールもやれば出来る子なんじゃが、王権を兄弟で争うのを嫌っとる。

一時期は王権を使っての『幼女ハーレム』か『老婆ハーレム』かで殴り合いをした事もあった程じゃったが、貴族達の権力争いに使われるのが嫌でシャーニスに譲ったんじゃったか…。

どちらが王になるにせよ、生産性というものが欠けておる王家じゃの…。

第三王子は継承権を返上して、完全に人形職人になってしもうたし。


しかし、あのアホの近くには知将バルマストが控えておるのか…。

ここで殺れれば楽なんじゃがのう」


「ファルナーク様、心の声が漏れてますよ…」

「む、済まんのアイリン。気を付ける」


苦笑するシャーニスは聞かなかった事にしますと言ってザル坊へ報告に行った。

では、我等も行こうかの。


「案内頼むぞ」


シャーニスが呼んだ侍女にそう声をかけ、我等はアリーナンの待つ部屋へと向かったのだった。


sideout





バルマストside


私は老将であり、知将と呼ばれた魔軍の将…。

昔は一万の人族兵を相手に策略だけで退かせた事もあったわ。

その私が今心血を注いでいるのがこの計画…。


『全ガファーリア住民感涙!白タニスト計画』


このシェルパはもう落ちたも同然。

あとは形だけの会談を済ませて、我々の手中にある事を世界に知らしめればいい。


今は魔軍暗部と人族の白亜教信者を使ってパレサートと復興中のシーバンガ、ファグスの三か国を同時攻略中です。

現在は各国でグッズの工場を制作、普及を開始。

復興途中の二カ国に対しては食料と物資を『白亜教』が収め、炊き出しもぬこグッズと共に配布している。

臨時戦力としてぬこ騎獣を与えた魔族兵信者を出す事で国の防御を下げず、魔族への意識の改革も行っている。

教会が極端に力を無くしている今だからこそ、迅速にそして確実に影響を強める必要がある。

…人とは縋るものが無くなった時が一番付け入りやすいのだから。


さて、取りあえず考えるはの後にして、ここから避難しないといけないわね。

盟主と共にお茶を楽しみながら白亜教の未来を考えていると、城に一定の力以上を持つ白亜教では無い者が入ると発動するように設定した魔法『アラート』

それが先ほどから頭の中で鳴っていた。



「…………白タン!!!」

「…はい?」


盟主が突如席から立ち上がり白目をむいて両手を天に突き上げ奇声を上げた。

完全にヤバい人ですね。このレベルにならないと盟主は名乗れないと言う事です。


「バルさん」

「…盟主、その呼び方は止めて頂戴。なにか嫌だわ。何が嫌かは具体的に聞かれると困るのだけれど…。せめてバルマまで言って頂戴」


私の意見はスルーして、来たわ…!と呟く。

盟主はいつも通り電波をキャッチしたらしい。

どうやら神々との通信を行っているらしいのだが、その方法が一向に分からない。

というより出来る訳が無い、ここは教会では無いのだから。

例え神が干渉していたとしても、神気での干渉はアルス様で波長を覚えたので認識できるのですが、それを感じる事も無い。

聞いてみれば「愛よ!」としか返ってこないのはすでに分かりきった事だ。

これは、ただの感覚で喋っている可能性が高いわね…。



「感じないの?この空気、この匂い、この愛を!……白タンがシェルパにいるわ!!しかもイチナは居ない!!!」


触り放題じゃ!ひゃっほーい!とテンションだだ上がりのこの盟主。

今にも踊り出しそうですが、この犯罪臭どうしたのもか。

しかし、この子の感覚は馬鹿に出来ない。。

魔導的な意味でも、性格的な意味でも、生物的な意味でも本当にこの盟主は面白い。


「ハァハァ…じゅるり…、こんなチャンス滅多にないわ。行かなきゃ、白タンが待ってる…!」

「落ち着きなさい」


私は自分の騎獣『黒ぬこザーニャ』を呼び出し、外へ駆けだそうとする盟主を鞭で絡め取りザーニャの背中に顔面から押しつけた。

迷惑そうに顔を顰めるザーニャ。

ごめんねぇ、またブラッシングしてあげまちゅからねぇ。


「むふぅ!?……ああ~、良い毛並みね~うへへへ」

「全く、会談が控えているのに盟主たるあなたが飛び出してどうするの。落ち着きなさいな……聞いてないわね。…まあ、あながち間違いでもない処が怖いのよね」


アラートの反応からして正門からの侵入…、いえこれは正規の手続きで入ったのかしらね。

今は会談のために関係者以外は入れないようになっている。

別の侵入経路からなら慌てもしますが、誰が来たかは大体見当がつきますからね。

それに、逃げるにしろ隠れるにしろ、盟主に構いすぎてもう遅いのよね。


私のため息と同時にコンコンと控えめなノックの後、お客様をお連れしましたと侍女の声。

仕方ありません、ご対面といきましょうか。


「どうぞ」

「邪魔するぞい」

「失礼します」

「失礼します~」

「オイッスー、アリーちゃんおひさー」


その四人が入ってくると思わず顔が引きつった。

アイナクリン王女は当然として、その護衛の暗部、そして勇者…。これだけならアラートは鳴らない。

時姫ファルナーク・サリス。こちらも厄介極まりない相手だが、私も坊ちゃんに使徒にして頂いた身。負ける気はない。

…だが、彼女達が入って来た時から感じる神気。

神具、神剣の類だとしても大きすぎる神気が漏れている。

これが報告にあった神を宿した武具ですか…。


彼女だけでも鳴るであろうアラートの最大警報。これが原因ですね。

中の神が自由に力を使えるならば、敵対すると厄介を通り越して攻略の道筋が見えませんね…。

幾ら私達が使徒化したからといって、神に勝てる訳ではありませんからね。

どうにかしてこちらに引き入れるか敵対しない策を練らないと…。

出来ればもっと時間が欲しいですね。


「うへへへへ………ふぉっ!?久、久しぶりね皆!」

「うむ久しいの。その反応、自分がどれだけやらかしたのか自覚はあるようじゃの。しかし、もっと感動的な再会をしたかったもんじゃな。取りあえず猫から離れい」


ファルナークはそう言いながらも私への警戒は一切緩める事はない。

いえ、ファルナークだけではありませんね、ここにいる王女を含めたアマサカ陣営は私を警戒しています。

まあ、ごく最近まで完全に敵対していたのですから当然ですね。

これで警戒もなく歩みよって来たのなら、無能と判断せざる負えませんでしたが杞憂でしたね。

白様の身辺警護には十分な力量と見ました(最大級の賛辞)

まずは自己紹介とお茶で警戒を解きましょうか。


「初めまして。私はバルマスト・ハイオル。さあ、御掛けになってください。盟主の友は我々の友です」


さて、どうしたものでしょうか…。

胡散臭いと言わんばかりの視線を投げつけるアマサカ陣営に対しこちらが切れるカードは少ない。

あちらも話があるようですし、まずはあちらの話を聞いてみましょう。

いざとなれば会談の中止も視野に入れますか…。


sideout

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