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猫守紀行  作者: ミスター
138/141

そのころの魔導王と鬼いさん達

エギュニートside



アマサカ達が消えてからしばらくの間、私とバルドカールはこの教会本部に漂う神気を回収しながら下へと降りる道を探索していた。

使い魔も飛ばし、入口を見つけたら即座に連絡が入るようになっている。


[エギュニート、生体反応はどれくれい残っている?気配では大体の事しか掴めん]

「サーチマジックで感知出来るのは30だな。そのうちの一つは魔力が大きい、恐らくアマサカ達の探しているサリューナ・サリスだろう。…先ほどまでは36だったが、6つ消えた。やはり崩落しているか。この人数でどれだけ短角種が残っているかは分からないがな」


死んでいても問題はないが、混じり物の多い短角種の場合血の一滴すら無駄に出来ない。

いや、今は死んでいようが、数があればそれでいい。

先の召喚の儀には虎の子の純血種のミイラまで投入し、更には運よく見つけた生きた純血種も使って臨んだ。

…邪魔されたがな。


だが今回はあれほど大規模な召喚術式は必要ない。

天神の牢獄をすり抜け我が神の意思をこちらに持ってくるためのパイプを作るだけでいい。

混じり物の多い短角種だろうと数が居ればこなせる術式だ。


「…見つけたか」

使い魔の視界を通して、私の視界にその映像が送り込まれる。


「どうやらお前の体では入れそうもないな。行ってくる」

[ぬかるなよ]


バルドカールの言葉に頷きを返し、使い魔の見つけた入口へと向かう。





そこは元々地下都市である教会本部が愚かにも掘った地下坑道とでも言おうか。

坑道内に蝙蝠型の使い魔を放ち地形を把握していく。

その中は、まるで蟻の巣のように入り組んではいるものの、白紙のマップ形成術式に使い魔からの情報をあてはめ、形にする事で迷いなく進む事が出来た。

一応、通路は魔導的に強化されているようだが、私からすれば実に脆い術式だ。

現に上からの衝撃で崩落している区画もある。だが、目指すべきはそこでは無い。

私が目指すのはまだ生体反応がある区画。

崩落しなかった区画である。




崩落しなかった区画に辿り着いた私は、先行させていた使い魔で中の様子をすでに確認している。

そこには血の薄れた短角種が集まっていた。

なるほど、消えた生体反応は教会騎士のものか。

数が少なくなった処を狙い、他の短角種共を連れて逃げようとしたのだろう。

だが、崩落してすぐには動かなかったのは、外の様子を確認するすべを持っていなかったからと考えていいだろう。


「何者だ貴様!!…がっ!?」


前に出てきた短角種の男衆が声を上げて私を牽制する。

その声には答えずに、指先に魔力弾を作り、頭に当てる事で昏倒させた。

混じり物が多いが、短角種は素材として数を確保できればいい。

殺しても別段問題はないが、ただせさえ血の薄い交ざり物だ。

血の一滴すら無駄にしたくはない。


「やめぇな。勝てへんよコレには。皆後ろにさがっとくとええよ」

その声で前に出ていた男達は道を開け後ろに下がる。


「…ふん。崩落しなかった。ではなく、崩落を『止めた』か。更に術式も書き換えることが出来るとはな。時の加護だったか?随分な使い手のようだなサリューナ・サリス」


私は恐らくサリューナだと思われる人物に声をかける。

発動媒体がなくとも教会騎士を殺し、術式の書き換えまで出来るか。

だが、やはりというか時の加護なしでは崩落は防げないのだろうな、時折ミシミシと音がする。

優れた術者である事は良く分かるが、しかし、なんだこの違和感は…。


「おや、わっちの名前を御存じとは。かの降魔の神の使徒であるエギュニート・ゲンデルはんに褒められると照れてしまいますわぁ。これでも時の魔女いう二つ名もろとるんどす」


…何故こいつは私の名前を知っている?しかも、我が神のことを邪神ではなく、今の時代に馴染みのない『降魔』と呼んだ。

私が邪神の使徒である事は何かしらの手段で知れたとしても、降魔の使徒である事はもちろんだ。

それ以上に名前はあまりにも知られていない。

私の中でサリューナ・サリスに対し警戒度が跳ね上がる。


「ふふふ…。これでも長い事生きとるどす。おんしと天神の戦いも見させてもらいました」

「…馬鹿な!いくら短角種が長寿種だからと言って7000年前だぞ!?バルドカールのような我が神に加護を……そうか、貴様あの時代に天神に加護を貰っているな?副官クラスか」


私の言葉に笑みを深めるサリューナ。


…そうか違和感はここに使ってある強化の術式だ。

これは私の時代のものだ。

そういえば、あの時代、意識を奪い操り人形とした無魂種達の指揮を取らせるために加護を与えた人間を使う事があった。

長く使うために長寿に重きを置いた加護。あの時代の加護持ちはすでにバルドカールだけだと思っていたがな…。

短角種を副官にした部隊は多かった。

本来は副官なぞ要らないのだが、いざという時の召喚媒体の確保を簡略化するという目的もあった。

部隊を一つ落とすたび純血種が一体手に入るためありがたかったが。


「…そうやね、このまま話すのもなんやし。寝て貰おか」


そう言うとサリューナは指を鳴らす。

ワンアクションで 『スリープ』を完成させ発動させた、が。

対象が私では無い。背後の短角種共が一斉に崩れ落ちるように眠りに落ちた。


「味方の短角種共を眠らせてどうする気だ?」

「勿論交渉どすえ。わっちは死にたくないんどす。分かるやろうが、わっちは純血種や。おんしの目的は降魔の復活やろ?わっちを使わんで欲しいんどす。甘坂はんと潰しあってくれればこんな事せんでもよかったんどすが、ままならんもんどすなぁ」


…なるほど。外の様子は魔法で確認していたようだな。

そして、ここにいる奴等は好きに使ってもいいから見逃せと。

確かに聞かせれる内容ではないな。


「通ると思っているのか?」

「身重やから教会に捕まったけどな、何ですぐに使われん勝ったと思う?わっちの身一つでも召喚できる準備はあったんよここ」


それならば何故……まさかコイツ。


「…貴様がこいつ等を集めさせたのか」

「わっちはただ教会に脅されただけどす。子孫の居場所を吐けば、わっちを殺さないと。みんな可愛い子供達どす、好んで売ったりはしませんよって」


…ようは情報をやるから殺さないでということか。

その可愛い子供達より自分の命が優先のようだな。


「使えない交ざり物より純血種を取るのは当然だろう。諦めるんだな」

「そうかぁ残念やなぁ…。中には隔世遺伝で交ざり物でも血ぃの濃い子が生まれたりして、その子らの場所把握しとるんやけどなぁ…?」


そこまで血の濃い交ざり物が居るはずが……いやまて、私が召喚に使ったあの女もそうなのか?私が間違える程の交ざり物か…。

だとしたら期待は持てる、か…?

しかし、なんのために他の短角種の場所を把握しているのか…。


「可愛い可愛い子孫の場所を把握しとくのは、生き物として当たり前どすえ?それになぁ、おんしを封印しとった邪神像、あれいつ壊れてもおかしなかったんよ…。わっち怖くてなぁ。死にたくなかったから増やしたんよ?大変やったわぁ」


私の疑う視線に気付き、そうのたまうサリューネ。

いつ封印が解けるか分からない私への生贄として、子孫を繁栄させてきたということか…?

生き物として当たり前とは、生き残るための手段を把握しておくのは当然という事だろう。

自分が生き残るために増やし、増やした子孫を切り捨てる…。


なるほど、ただの害悪でしかないなこの女。


「7000年か。…まあ、十分だろう」

「そやろ!気付いとらんだけで血の薄い子も合わせれば、たっくさんおるんよ?わっちなんて使わんでも…」


何を勘違いしている。

声を聞きながら、私の魔法は完成する。


「いや、それだけ生きたのなら十分だろう『這え。求める物を喰らうため。サンダースネイク』」

「…初歩魔導?分からんお人やねぇ…。魔導王の名が泣き…って数多っ!普通多くても5匹やろ…。数撃ちは威力を無くすで?」


私は足の裏に術式を発生させ、そこから滲み出るように20を超える雷の蛇がサリューナに向かい奔る。


詠唱を始めた瞬間に初歩魔導の詠唱だと見抜き、雷属性のレジスト術式と二重障壁を同時に張るか。見事な魔力のコントロールだ。

その瞬時の判断力は賞賛に値する。

実際、ほとんどの蛇が障壁を前に弾けて消えていく。

サリューナは私の魔法を防いで得意げだが警戒も緩めてはいない。

私の動きを注視して、次の魔導は何かと観察も怠ってはいない。

蛇が完全に消えればあちらも仕掛けて来るだろう。


まあ、こちらが全ての蛇を魔力で放っていたのならの話だが。


「っ!?障壁が貫かれる!?…そうか神気を隠す、そのための数撃ちどすか!?」


例えレジストだろうと障壁だろうと、ただの魔力で神気を混ぜた魔法が防げるとは思わない事だ。

サリューナの張った障壁を私のサンダースネイクは容易く食い破り蛇が足や腕に咬みついた。


「貴様は随分と使えるようだからな」


あの時代を生き抜いたのならば神気対策も持っているだろう。

だからこそ、詠唱破棄できる魔法を態々唱えてやったのだ。

対策を取ってくれるように。

そして、神気を混ぜたとばれないように態々足の裏で発動させた。

同時に二つの術式を扱えたのは驚いたが。それだけだ。


「一度防げばその魔道は安全だと思っただろう?安全を確保出来れば次の手を先の先まで考える。それがあの時代の魔導士の欠陥だからな。副官ならば尚更だ。安心しろ、今は殺さん。軽く麻痺させるだけだ」


「……こん、なんに神気、乗せる馬鹿初めてみたわ…っ!」


当然だな。貴様と私は初めて戦うのだから。

しかし、まだ喋れるか。この耐魔力、やはり魔導士としての腕はかなりのものだな。

ここで派手な魔法を使うと逃がす可能性も生まれる。

魔法の打ち合いで負ける気はしないが、それを消すため、侮られる魔法を選んで使った。

少々面倒ではあったが、最善手だったな。


「さて、貴様も先ほど言っていたが、私は魔導王と呼ばれてる。使える魔法が人より多い。その中には他人から必要な情報を抜きとる魔法もある」

「…やめ、…近づかんといて…!」


一歩一歩近づく私に、サリューナが初めて恐怖の表情を浮かべる。

私は近づきながら詠唱破棄で術式を完成させ、左手の人差し指に神気で編んだ三重の魔方陣が宿る。

体の麻痺が取れないサリューナの眼前でその人差し指をサリューナの額に押しつけた。


「『リーディング・コード』」


リーディング・コード。

簡単に言えば相手の記憶を探り、情報を得るための魔法である。

それを使ってサリューナ・サリスの持つ短角種の全ての情報を得た瞬間。


「……何?」

一瞬、一瞬だが視界がぶれた。

そして、目の前から今まで恐怖の表情を浮かべていたサリューナ・サリスが消えていた。


体のどこにも異常はない。

当然だ、私は常時身に纏わせるように神気障壁が発動している。

強度に関しては対甘坂用に練り上げた試作品だが、生半可な魔導士風情に破られるものではない。

そして、この場にいる血の薄い30人の短角種も誰一人欠けてはいない。

私を倒す事も諦め、一人での逃亡を選んだようだ。

なによりこの区画の崩落が始まろうとしている。

あの女、逃げる時に強化の術式を全て解いていったようだ。


…しかし、あの麻痺状態や恐慌状態すらも演技だったとは恐れ入る。


「なるほど、これが時の加護か。…全く、厄介な。侮ってはいない積りだったが、足りなかったか。対象認識、転移陣発動」


この区画で眠る30人の短角種をバルドカールの元へと送る。

これであとはあの女だけだ。

神気障壁の上に次々と岩が落ちて来る、が関係ない話だ。

その程度で圧壊するような軟な障壁では無い。


「念のために『マーキング』を付けて置いて良かったか」


ああ、全く、本当に今は殺すつもりはなかったと言うのに…。


人差し指の三重の魔方陣。

一つ目は『リーディング・コード』

そしてもう二つ目は、居場所を知るための『マーキング』

時の加護を持っている事は、先行させた使い魔に仕込んだ『アナライズ』を通して分かっていた。

こうなる事もある程度は予測の範疇だからこそ、額に埋め込んでおいたのだから。

これを剥がせるとしたら、私はそいつに我が神から頂いた『魔導王』の称号を送ってやってもいい。

マーキングの動きを制作したマップに落とし入れる。


「…見つけた。さらに地下へと潜っているのか、転移方陣でもあるのか?…まあ、今となっては関係ないが『メルトニードル』」


右手の人差し指の先端に細くて小さな針を作りだす。

小さな針だが、全て神気で編んだ魔法であり、肉体への貫通効果はもちろんの事、その超高熱で焼かれた傷口からは血が流れないのが素晴らしい。

だが、甘坂相手では使えない魔法だ…。

貫通は良いが、そこから血が流れないのでは体力を削る事も出来ない。

これで貫かれた程度で止まる相手ではないし、一撃必殺を狙うのも難しい。


…まあいい、三つ目の魔方陣を起動する。

三つ目は極小の転移陣だ。通すのは勿論…。


「ここで逃がすと後々どうなるか分からん。『転移陣』発動」


右手にあったメルトニードルはすでになく。

転移陣として開いた小さな穴からは何かが焦げた臭いが立ち上ってくる。

念を入れて、マーキングへと向かう追尾も付加してある、外れる事はない。

更に確実に仕留めたかどうかを確認するため、虫型の使い魔にアナライズを付加して転移陣の先へと送りこんだ。


「……問題はないか。さて、回収してバルドカールと処に戻るか。純血種の体に短角種の情報。思わぬ収穫だ……甘坂には感謝だな」


私は唇を歪めながら召喚に必要な『道具』となったサリューナ・サリスを回収しバルドカールの元へ向かうのだった。


[戻ったか。半端なスリープなんて掛けてどういうつもりだ。嫌がらせか?やるなら昏倒させろ]

「…私が掛けたのではない。起きたのか?」


いや、永眠中だ。と言われ視線を向けると、送った30人は水に濡れ苦悶の表情を浮かべながら死んでいた。


「水魔法で窒息かエグイな。まあいい、30体全部使うぞ。召喚にはこれ一体で十分だ」

[何を…、ああ精製するのか]

「ああ、血の薄い短角種を合わせて純度を高める。純血種には勝てないだろうが予備だ。あとは余った短角種で何本かポーションとマジックポーションを作る、回復薬の方が魔脈での自然回復よりも効率が良い。大分回復の短縮が出来る」


私は早速準備に取り掛かる。

待っていろアルス…。確実にこの世から消してやる。


sideout





一南side


ホームに戻って来た俺は、真っ先にマキサックから渡された人肌に暖まっている一匁と刻波を腰に差し、何故か正座している田中に取りあえずアバラを貰わんと蹴りを放っていた。


「チョイサァッ!?」


ちぃ、いつもながら避けるのが上手いこって。

足がしびれて動けないと思ってたんだがねぇ…。

体全体をばねのように使って虫みたいな動きをしやがった……流石神か。


「せめて痺れた足をつつくとか、もうちょっとかわいらしい事にしてくれませんかね!?まじで命の危機を感じたんですけどぉ!!何がしたいんですかねぇ!?いや、勝手に飛ばしたのは悪かったけどさぁ…」

「ん?ちいとアバラを貰おうと思っただけだ。痛いのは一瞬だけだ。綺麗に折ってやるから、3本程。…まあ、八つ当たりみたいなもんだ、甘んじて受けとけ、な?」


ルナのばあさんを見捨ててきた事で多少考える事もある。

もう少しうまくやれたんじゃないかと反省点もある。

まあ、終わった事を嘆いても仕方ねぇし、守るためにやった事だ後悔はしてない。

だが、気分はよくねぇから八つ当たりだ。


「な?じゃねぇよ!?嫌だよ!?」

「チナさん、八つ当たりって言われて死ぬかもしれない攻撃を受けたいとは思わないっスよ?」


マキサックの言う事ももっともだが、綺麗に折るって言ってんだろ。

死なねぇように加減はする。

まずは一撃目でどこまで力を込めるかの探りを入れながらだが。

…じゃあ、逝ってみようか。


何が良いかねぇ?杭月(一本拳のコークスクリュー)か?

それとも久しぶりに『無手六銭』でもやってみるか?

アバラじゃなく胸板に向かってほぼ同時に六回正拳突きを放ち、陥没させて六文銭が並んださまを作る技だからなぁ。

しかも相手の動きを鈍らせる、もしくは足を踏んでから零距離から放つ無駄極まる止め技だしねぇ。

同条件なら乱打ぶち込むか、氣で殴った方が早い。うん、使う機会ねぇな。


…まあ、確実に殺れはするが、アバラだけってのには向いてねぇな。


「…やっぱ杭月か」

「甘坂さん、そこまでにしてくださるかしら?いくらフレアリア様でも死んでは治せませんよ?」

「そうですね、私でも死体はどうしようもないです。…アバラを折るなら体を固定して、じっくりと力をかけ続けるという方法もお勧めですよ?決して緩まない力、そして確実に体を壊されると言う認識を持たせ、心を折ります。ミシミシと鳴り続ける体の悲鳴を聞かせながら、言葉で攻める事で更に絶望を引き出せます。あ、勿論アバラくらいなら私が治しますよ、じっくりと。そうだわ、骨が歪んで繋がらないよう一度開きましょうか!」


どうでしょう、試してみませんか?と、俺以上にどうしようもない提案をしてくる治癒の神をこの場で斬ろうか真剣に悩む。


俺はフレアリアの提案に即座に却下を下し、田中を見る。

田中は治癒の神の言葉を聞いて、すでに心が折れていた。

恐らくその光景を明確に想像したのだろう、田中の眼には光彩が無く、いわゆるレ○プ目というやつになっていた。


……流石に不憫になって来たな。


「……悪かったな田中。取りあえず、その目を止めろキショイ」

「………酷くね!?マジで神生(じんせい)終わる2秒前だと思ったんですが!?」


つっこみ根性で元気になった田中の事よりも、さっきから王真君が何の反応も示さないのが気になる。

いつもなら王真君のストップが入るんだが、それも無い。

治癒ーズストッパー仕事しろ。と言いたいが、…これは、俺がサリューナを見捨てた事が引っかかってんのかね。

やっちまったかね、俺。

まあ、あんときは完全に王真君の意見無視で帰って来たからな。

なにかしらあるのは仕方ねぇ。

しかしだ、ルナには謝罪を兼ねて斬られてもいいが、今の王真君に斬られるのは御免だぞ俺は。

…ま、そんな雰囲気でもねぇか。

俺以上にへこんでやがるしな。


…勇者ってのは、正義の味方でなきゃいけない訳でもないんだろうに。

ここが俺と王真君の違いか?割り切り方、方向性の違い、性格の問題。

言い方は何でもいいが、そんなに難しいもんかねぇ。


「…マキサック、皆はもうシェルパにいんだよな?」

「あ、そうっす。主戦場がツァイネン領になるから、王様に許可と兵を出すなって言いに行ったっす」


神を殺すから兵だすなってか?…それ言うと討伐されるの俺達じゃね?

それはそれで厳しいんだがな。

まあ、こっちは神様大量発生してるから、どっちに転んでも被害考えずにやれるか。

うん、いいことだ。…そういう事にしとこう。


「えーっとすね。それで、チナさんにはここで待機して欲しいんすよ」

「…あー、まあ忘れかけてたが俺神敵だもんなぁ…。シェルパに迷惑かけるより皆がなんとかしてくれるのを待った方がいいか。了解。だが、エギュニートから連絡があったら俺も行くからな」


まあ、もう教皇どころか教会本部すらねぇから神敵うんぬんも気にしないで良さ気だが、冒険者垂涎の高額賞金も掛かってるしねぇ。

今幾らになってんだろうなぁ…。


「うっす!たのんます!じゃあ、田中さんはチナさんと一緒でお願いしますっす!次元の神様の力でチナさんを運んでくださいっす!」

「…………うわぁい、俺の次元の力が転移陣扱いだー。俺もっといろいろ出来るよ、きっと。こう、感覚でやるのは得意だから」


確かに色々出来そうではあるな。

体ん中から直で心臓かすめ取るとか出来そうだ。

期待はしてねぇが、重宝させてもらおう。


「……先に行ってるよ」

「…王真?」


ようやく喋ったかと思ったら、すぐに踵を返し、転移陣の部屋まで歩いていく王真君。

ばあさんも流石に不信に思ったようで、その後を追う形で広間を出て行く。


「なんかあったんすか?」

「んー、音楽性の違いかねぇ…」


音楽性の違い、それはどこぞのバンドが解散する時の理由第一位(一南のうろ覚え)

王真君は先に行くとは言ったが、どこに行くとは言ってない。

嫌な予感がするのは俺だけかねぇ?


何すかそれ。と首をかしげるマキサックにちょっとイラッとしたので、取りあえずノーモーションから田中をビンタする。

唖然とするマキサックとあまりにも理不尽で突然で神気障壁を自然に抜いてくるビンタにイイ感じに脳を揺らされ崩れ落ちる田中。

そして、それを見て愉悦に浸る治癒の神がこの場に残った。


《気をつけろよ一南、今の状態で創世に付け込まれたら奴は敵に回るぞ。奴も使徒だ、もうすでに干渉されているかもしれん》

「ガトゥーネよぅ、そんなフラグはいらねぇんだよ。」


今までの流れのすべてをスルーしたガトゥーネから真面目な声が掛かる。

まあ、ばあさんがそばにいれば大丈夫だと思うが…。


「どうも面倒な事になりそうだなぁ…《メシマダー?》一匁自重、今シリアスだから」

俺はそう呟いて、頭を掻きながら王真君の出て行った扉を見つめるのだった。


sideout

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