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猫守紀行  作者: ミスター
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かおすきんぐだむ

ソルファside


ホームから転移陣を通ってシェルパのギルド裏に出た僕達でした。

久々のシェルパだと言うのに、どうしても警戒心が先立ち、ギルド裏からそっと表通りを覗き見ます…。


……立ちくらみがしました。


「おっと、大丈夫かソルファ。…まあ、分からんでもないの。なんじゃこりゃ…、えらくカオスっとるのう。祭りか?」

「…ありがとうございます、ファルナークさん。…ええ、これはちょっとぉ」


僕を支えてくれたファルナークさんが顔をしかめてそう言いたくなるのも分かります。

ですが、この時期に祭りはありません。が、なにか大きなイベントでもあるのかもしれません。

そう思わせるのには十分なほどに浮かれた光景です。

…これは、酷い。


「みなよ光樹タン。今や猫耳はトレンドだぜぃ!」

「タンは止めてくださいよぅアンナさん。…というか、かなりの数の魔族が交ざって生活してる?いくら教会の影響が低いって言ったってこれは…」

「ハハハ…。夜明けって、白亜教の夜明けって事?…止めなきゃ。…止めらるのかなコレ」


民も、その民衆に交る魔族達も皆、白い猫耳のカチューシャを装備している。

例外としては犬耳や虎柄なんて人達も居るがそれは元々のシェルパ民です。

酷い者は白い毛皮で作った全身を覆う猫スーツを身に纏い、その背には剣を付け他の者から羨望の眼差しで見られている。ってアレここの冒険者ですね…。

あれ?あの人イチナさんのランクアップテストの時のランクBパーティーのリーダーじゃないですか、何してるんですか。

しかもあの毛皮、市場には出回らないランクAのモンスターの物だったはず。

まさか自力で…?どれだけ冒険者の水準上がってるんですかシェルパ。

この異様な街を見ているとアレを着たいがために狩って来たと言われても不思議とは思えないのが嫌です。

いやもう、どうなったんですかシェルパは…。


しばらく唖然としていると、大通りの噴水の近くで言い争う二人に人だかりが出来ています。

ギルドの近くで話している声を拾ってみると、どうやら酒の席でサウス派か白派かで言い争いになり表に出てきたようです。

そもそも、何なんですか?サウス派の冒険者と白派の魔族の言い争う姿が見れる王都って。

しかもあの魔族、戦場で見た事あるんですけど…。

確か、イチナさんに片腕を斬られたジューデという魔族だった気がします。

何でいるんですか?

彼は兄の仇を討つためにイチナさんに挑んだはずが何故そんなところで猫耳を…?


「なんちゅうか…。しばらく見んうちにアレじゃの。アレになったのシェルパ」


そうですね…、アレになりましたねシェルパ…。

それ以外に表す言葉を僕は持っていません。

建物ですら屋根に猫の耳を連想させる白い突起を付けている処があるくらいです。

これが白亜教……この常識とか無意味に飛び越えた感じ、間違いない。

確信しましたアリーはここにいる。


「もう少しここで様子を見てみようか。流石にあの人だかりが消えるまで動けそうにない」

「んー…。でもさ、別に戦う訳じゃないんだし、取りあえず宿屋まで行こうよ。噂のマルニちゃんに会いたいし。白亜教が広まったなら教義も広まってるはずでしょ?問題ないと思うよ」

「ええ!?アンナさんはもしかして白亜教の教義を知っているんですか!?」


その言葉に僕達は驚き、アンナさんに注目が集まる。

…マルニ、久しぶりですねぇ。名前覚えてくれましたかね?

無理ですよねぇ、ここにいた時ですらアリーのお供としか覚えてもらえませんでしたから。

離れている間に忘れられている可能性大です。


「ん?アイポンも知ってるよね、白亜教の教義。神様達が力説してたからね」

「あ、え?えっと、…ソォイ!でしたっけ?」

「あ~、一番インパクトが~強かったですからね~。皆さん、声を揃えてソォイって~。ウザいくらいでした~」

《む、アイナクリン。ちゃんと覚えてなかったのですか…》


アイリン様はえいえいおーとでも言うように左手で拳を作り高く掲げて、可愛らしくソォイと叫んでいた。

何気に毒を吐いたハチカファはその様を愛でるように細い目を更に細めていた。

最後の残念そうな声は、アイリン様の持つ杖に宿った知識の神ノバディラ様のようだ。


「違う違う、そこは重要じゃないよアイポン。重要なのは『守護者の許可なき信者は遠くから愛でるべし』だよ」


アンナさんはまさか白亜教の教義の全てを把握しているのですか?何気に優秀ですよねアンナさん。

しかし、守護者ってイチナさんの事ですよね?…アリーは一度も許可された事ないのですが?許可がなくても突っ込むのがアリーですし。

その教義自分の首を絞めると思うのですが、流石はアリーですかね…。

まあ、がちがちの規律では多くの人は集まりませんし、いいんでしょう。


《まあ、その点は大丈夫だろう。なにせ、白亜教の神は俺達だからな!》

とカートスさんの腰にある砂塵神剣から声が聞こえました。

カートスさんも頭を抱えています。

僕達はその言葉に、なんともやるせないため息をつく。

…そういえば渦中の白達は何処へ?


ざわりざわりと広場に動揺が走る。

ぎゃーぎゃーと五月蠅かった広場の喧騒が嘘のようだ。

喧騒とは別種のヤバめな雰囲気が漂い始める。

たとえば「教義にならって距離を開けるべきか…」や「ここがソォイの見せどころ…」などです。


一体何が?と目を凝らす。

すると、原因が分かった。


「み!」

「ぴ!」

「…!」


噴水近くで言い争う冒険者と魔族のジューデのすぐ脇でドヤ顔を決める3匹。

その顔は何に対してのドヤ顔ですか?…ん?何でそこに?


「……何やってるんですか!?サウス、黄助!回収お願いします!」

「がるぅ…」

「ガウ…」

「……うほーい」


あのチビ共は…。とでも言いたげな呆れ顔で回収に向かう2匹とサウスの背に張り付くパー子ちゃんを見送ってから気付きました。

…しまった、現状送り出してはいけない仔達じゃないですか!

僕、動揺しすぎですよ…。


「…これ、収集つかなくなるんじゃないかの?ま、咄嗟の事じゃが英断じゃ、チビ共だけではあそこにおる奴等がなにするか分かったもんではない」

「…これじゃ隠れてても意味無いし、僕様達も出ようか?というより白達が危ない」

「……すいません」


僕が謝るとファルナークさんとカートスさんは気にするなと言いながらギルド裏から出ていきます。

無理です、気にしますよ。

もっと僕が白達に気を配っていれば未然に防げたんですから。

深いため息をついて、お二人の後を追いました。

光樹くんとアンナさんも後に続きます。


お二人を追って、噴水の近くまで来てみれば、僕達は冒険者や魔族から最大限の警戒を持って対峙されました。

サウスと黄助はすでにチビ達を回収していて、黄助は背にチビスラを。

サウスは……というか、サウスの背に乗ったパー子ちゃんが白とテンを両手で無造作に掴んでいました。

パー子ちゃん…、もうちょっとこう、何とか出来たでしょう?

そんなパー子ちゃんに冒険者や魔族達の恨めしそうな視線が突き刺さります。


「……見られてる。…これは芸で、…おひねりちゃんす」

「み!?」

「ぴ!?」


止める間もなく、右手で白の胴体をがっちりと掴み、左手ではテンの足だけを持つというアンバランスな状態でサウスに跨り(いつもの事)両手を高く上げ一言。


「……けるべろす」

「みー…」

「ぴー…」


恐らくケルベロスのモノマネ…、なのでしょうか?

似ている似ていない以前の問題です。

そもそも首が4つありますよ?似せる気無いですよね、確実に。

白達もすでになにかを諦めているような表情でした。


「……おかしい、…渾身なのに、…おひねりがない」


渾身だったんですか…、そもそもそれを芸として見ている人が居ませんよ…。

ただ白達を掲げただけです。

恨めしげな視線を送っていた冒険者や魔族達も困惑してるじゃないですか。

…中には拝み始める人もいますから、御布施はあるかもしれませんが、精神衛生上よろしくないので視界には入れません。


そんな何とも言えない空気の中、僕達は広場へと出ます。

冒険者たちがこちらに気付き、一斉に振り向いて警戒の色が濃くなります……あれ?ちょっと尋常じゃない警戒の仕方じゃないですか?


「うわぉ。ソルファちゃん、何でこんなに警戒されてるのさ?うちら神敵じゃないよね?」

「ふぁっ!?認定されちゃったんですかぁ!?無理ですよぅ、鬼さんみたいに務まりませんよぅ…」

「分かりませんが、イチナさん関連ですきっと。光樹くん。知らないところで認定されている可能性は否定できませんけど、神敵は務めるものじゃないと思いますよ?」


イチナさんは生き方と流派が神敵だっただけです。

…あれ?結構致命的ですね。


「…あの、なぜ冒険者の皆さんはあんなにきょろきょろされているのでしょう?」

「姫様~、きっと守護者を探してるのだと~、思いますよ~?白ちゃん達に近づく許可が欲しいんじゃ~ないですか~?」


確かにここの冒険者にとっては白達が居る=イチナさんも居る。ですからね。

と、その時、背後のギルドから声がしました。


「どうも、皆さんご無沙汰ですね「なんじゃ、筋肉ハゲか。その猫耳を外せ不快じゃ」…筋肉は否定しませんよ、喜んで受け取りましょう。ですが、ハゲは否定します!これは剃ってるんですよ、ファルナーク様。アマサカさんはいないのですか?」

「なにかイチナ君に用でもあったのかい?ギルドマスター」


カートスさんが警戒したようにギルドマスターであるハフロス・コーンに問いかけます。

…何で猫耳をしているんでしょうか?ハフロスさんはあまあり無意味にギャグに走る人では無いと思うのですが、理由があるのですかね?


「いえ、単なる疑問ですよカートス君。今日この王都で行われるザルナク王と白亜教の盟主、そして『元魔王』の会談。それを潰しにきたのかなと」


…え?なんですかそれ?聞いてませんよ?初耳です。

そして、ハフロスさんの言葉を聞いた後ろのギャラリーからの警戒が痛いほど高まりました。

冒険者も魔族も会談の事を知っていたからこその警戒だったのですか。

…しかし、ここまで変わるものですかね?これでは洗脳と一緒ですが…。


「お父様が、元魔王と会談を?…それでは魔王討伐の旅の意味はなんだったのでしょうか…」


そう呟くアイリン様は複雑な表情です…。

…確かにアルスが魔王だった時に魔王討伐の旅に送り出された訳ですし、ザルナク王と元魔王であるアルスの会談に思うところもあるでしょう。


「いませんね?いませんよね?バルマストさんから依頼されているので、いたなら本気でここで迷宮結界を使って王城以外を迷宮かさせないといけないかと思っていたのですが……いませんね?」


その言葉は静かに、だが広場にいる冒険者達の顔を顰めさせるには十分な威力を持って響き渡った。

そしてその場にいるイチナさんが居ない事を確認した冒険者から安堵のため息が漏れる。

何回念押しするんですか、…その思いは分かりますがイチナさんが思った通りに動いてくれると思ったら大間違いですよギルドマスター。


あなたが思っている以上の被害がこの王都を襲う事になるのが決まりました。

ええ、もう考えていて悲しくなりますが、今回ばかりはどうしようもないです…。

なんといってもこっちに来るのは、邪神の使徒付きのイチナさんですからね!

邪神の使徒と一緒になってアルスと戦うにしろ、邪神の使徒を止めるにしろ被害が想像できません…。

それにバルマストといったら老将の一人じゃないですか…。

それと繋がってるなんて…。

ああ、もうこれどうしましょう…。


「というより、なんでこっちにいるんですかあの元魔王!?大人しくツァイネン領に引き籠ってて下さいよ!…ああ、シェルパの皆さん、僕が無力でごめんなさい」

「あー、ソルファおぬしのせいではない。悪いのはこっちに出てきたアルスじゃ。それに、まだ慌てる時間じゃないはずじゃ………いや、無理か」

「これはまずいね…、せっかく被害を抑えようと動いてたのに……いや本当にまいったね」

「…どうするよ光樹タソ」

「…どうしようも無い気がしますアンナさん。あと、たそってなんですか…」

「あ、あわ、私のお家無くなっちゃう…」

「だ、大丈夫ですよ~、姫様~……多分」


「え?え?どういうことですか?」

ギルドマスターが僕達の様子を見て困惑した声を上げる。

どんな冒険者よりも、どんな魔族よりも激しく動揺していたのは僕達だった。


「………どしよー」

「み?」

「ぴ?」

「…!?」

白とテンを掴んだまま、サウスの背に顔をうずめるパー子ちゃんに、サウスと黄助、そしてクロハは諦めたようにゆっくりと首を横に振るのでした。


「えーと…、そうだ!皆さん新しい通行手形を発行していますので、後で受け取って下さいね」

「新しい手形?」


手形とかそんな状況じゃないんですけど今は。

そう口に出そうとする前に、はいコレです。とハフロスさんは自分の頭の上に乗る猫耳を指差します。

…ハフロスさんは結界王という二つ名ですが、神気障壁より硬いのでしょうか?

いえ、どうでもいいですね。

もう心が疲れました…、宿屋に行って休みたいです…。

そういえば父さんは元気でしょうか?色々と染まりやすい人ですから、もうがっつり白亜教かもしれませんけど…。


……はぁ、どうにでもなれです。


sideout





最近になってアレと手を組んだ事を後悔し始めているアルスside



俺様は王都に入った瞬間頭を抱えた。

何で王都に来たかって?呼ばれたのだよあの馬鹿に。

連れてきたのはワクバランとチャンターの二人だけ。

いや、それは割とどうでもいいとして、この様はなんだ…!?


なんで魔族の受け入れが拒否反応も無くすんなりいったのだ?

これはバルマストのせいか?しかし受け入れが早すぎないか?

俺様が言うのもなんだが、拒否感とかないの?ここの住人…。


なんで猫耳標準装備なのだ?シェルパの住民馬鹿なの?

なんでうちの魔族もそれを受け入れちゃったの?

アリーナンが行って4日しか経ってないんだぞ!?

ここには転移を使って来た訳ではないから、合計で7日ほどだ。

それなのにシェルパがしぇるぱになっているとはどういうことだ…?!

……バルマスト先生か。アイツがやっていた工作が実を結んだということか?

やっぱ放置しとくんじゃなかったよあのババア!!


しかし、王都がキャラ崩壊起こしてどうするんだ。需要がないぞ、国だろ貴様、頑張れよ。

もしかして、元々そういう素養があったのかこの地には…。

……アリーナンの地元だから、仕方ないとでも思えばいいのか?


いかん、大分混乱している…、手のひらに猫の字を書くんだ。

…違う!これはアリーナンがやる方法だ!深呼吸、深呼吸だ俺様。

取り合えず、一言で纏めると…。


「なにこのカオス。カエリタイ」


俺様、これからここの王城に向かうんだけど不安しかない件について。

と言うか、馬鹿なの?馬鹿しかいいないのかこの国…。

こんな国のトップに会いたくないのだが…。

シェルパの王は、武辺者のパレサートの王と違い話の通じる相手だ。

元々軽い挨拶だけして、アリーナンの要件を聞いて帰ろうと思っていたが、これでは王に会わずに帰るという事も視野に入れねばならん。


「…坊ちゃん、落ち着きなされ。まだ慌てる時間じゃないですぞ」

「この国に踏み込んだ瞬間から慌てる時間だ!そしてチャンター。貴様はその禿げ頭から猫耳を外してからモノを言え!!」


老将達は何処からか入手したのか、自分達の騎獣の模様の猫耳を懐から取り出し、装着していた。

究極なほど似合わない…!そうか、ワクバラン作か!余計な事を…!

気色悪いぞ爺共……はっ!?老害とはこのことか…!


「おや、坊ちゃんはバルマストのババアから聞いておりませんか?この猫耳、シェルパの通行手形に決定されたものですぞ。まあ、坊ちゃんは神ですから付けなくともよろしいかと。一応用意はしてありますが、付けますかな?」

「嫌だ!!!なんで俺様に報告上がってないんだ!?そもそも貴様はそれを付ける事に何故躊躇がないのだ!?そもそも手形ですらないだろうそれ!何故常時付ける必要がある、見せるだけでいいだろうが!!」


不思議そうにこっちを見るな、ポンコツ!誰が付けるか!

しかし、一番まともだったチャンターですらコレか…、恐ろしいなアリーナン。

そして馬鹿か!通行手形が猫耳って……馬鹿か!!

誰が決めたそんな物!…いや、王しかいないな。

シェルパの王は比較的にまともで、愚王では無かったはずだがな…。

アリーナンに毒されたか、バルマストに脅されたかのどちらかだろうが、せめて後者であって欲しい。切実に。

これから王城だぞ俺様、本当に嫌なんだが…。

まじで会わずに帰るか。

いや、帰ろう。俺様、おうちかえる。


「何を考えているか分かりませんが、早く登城した方がいいでしょう。…懐かしい気配も感じますので、もしやすると邪魔が入るかも知れません」

「そうだよ、はかせー。呼ばれたらいかなきゃだめだよ」

「…そうだな。呼ばれたからなあの馬鹿に。何の用事かも聞いてないがな!!何アイツ俺様神だよ?普通呼び出すものじゃないよね?俺様間違ってないよね?あとワクバラン、貴様も猫耳を外して物を言え……ん?はかせ?」


ワクバランからの進言に、仕方なく、本当に仕方なく頷くが疑問が湧いて出た。

ワクバランが何故かニッコニコの少女を肩車している。

当然この少女も猫耳をしているが、これは問題ない似合っているからな。

だが、爺共、貴様等は駄目だ。目が腐る。

いやしかし少女よ、白、虎柄、犬耳と三種類同時にするものではないだろう?

……いや、そうではない。なにしてるワクバラン。拉致したのではないだろうな?


「なんかこのおじいちゃん泣き虫おじちゃんと同じ感じがするの!ねー?」

「ねーって…。ワクバラン、貴様泣き虫だったのか…?あと、俺様の部下に幼子をたぶらかす者はいらんぞ」

「いや、私には覚えがないのですがな、何故かこの子が近づいて来て笑顔で登ってくるものですからつい…」


ついって…。

いやいやいや、まさかこの子供そんな曖昧な感覚だけで老将に登ったのか!?しかも笑顔で!?

普通なら近づく事も躊躇される代名詞だぞこいつら老将は…!


「これが、アリーナンの地元か…!」


改めてしぇるぱという土地に戦慄を禁じ得ない。

魔国から一番離れた国という事もあるが、情報収集が一番少なかった国でもある。

そして、間者が他の国に対してもっとも帰ってこなかった国。

フルクスが言うには、『宿屋』付近を通った密偵は確実に帰ってこないらしい。

何が住んでるんだこの王都は…。


「青いはかせはアリーの友達なの?ならつたえておいてー。つけのしはらいまだですかー?って。お母さんが言ってたよ」

「あ、青い博士?…青は肌の色だとして、この白衣のせいか。博士、博士か…、うん、悪くないな。しかし、あの馬鹿そんな事したのか。…よし、ワクバラン。この子を送っていくついでに払って来てくれ」


そう言いながら俺様の財布を丸ごとワクバランに渡す。

この少女のネーミングセンスには褒美をやらねばならん。

アルス博士、良い響きだ…、こんど部下にそう呼ばせよう。


「分かった。が、これは多いのでは?」

「菓子でも買ってやれ。ついでだ懐かしい気配とやらの顔でも拝んで来い。ああ、護衛はチャンターだけでいい。人族の土地で使徒になったお前等を害する事が出来る相手なぞ、奴くらいだ」


言外に見つけて必要なら始末しろと言い含める。

まあ、なんの邪魔になるかは知らんがな、ワクバランが判断するなら間違いは無いだろう。

ワクバランはその言葉にしっかりと頷き、チャンターの肩を叩いて歩き出した。

さて、俺様も行くか。そう腹を決めたが、口からは大きなため息が漏れた。

…カエリタイ。



この時はまだ、行った先でシェルパ国王と白亜教の盟主、そして俺様神を含めた会談が待っていようとは思いもしなかったのである。

こういう事は事前に伝え置け馬鹿!こっちにだって準備があるんだ!と本気で嘆くのはしばらく後の事だ。


sideout

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