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猫守紀行  作者: ミスター
136/141

撤収と出発

イチナside


あんだけ悩んでたのが嘘のように消し飛ばされた。

もちろんドッペルゲンガー達の事だ。正式名称は控えさせえて貰う。


「…『フリューゲル』だ。溜めが大きく直線でしか進まない。『ターゲットロック』が使えない制約を持つ魔法だ。標準も自力でやるしかない以上、貴様相手では使えない。撃てたとしても貴様の剣に食われて終わりだろうがな」

「まあ、あのスピードなら擦れ違い様に一匁のおやつくらいには出来るな」


俺は移動しながらさっきエギュニートが使った魔法の事を聞いていた。

エギュニートは笑みを浮かべ…、とは言い難い引きつった顔で答えている。

あれだな、笑いたくも無いのに無理矢理笑顔を作って失敗した時の顔だ。

目だけは笑ってねぇから余計に怖い。


「だろうな。貴様がダークレーザーを避けられる時点でフリューゲルは対甘坂用の魔法から省いた。曲射も出来るダークレーザーの方が遥かに使い勝手が良い」

「対甘坂用ってなんだ…。そこは対人魔法とかでいいだろうがよ。それと、その顔を止めろクソ野郎。まだ真顔の方が信用できるわ」


俺がそう言うと、エギュニートはすぐに真顔に戻り、頬を揉んでいた。

…そうまでして協力が欲しいかね?

まあ、コイツからしてみりゃ、俺と組んでまで殺したいんだろうねぇ。

厄介なのに目を付けられたな、あのアホウ(アルス)も。


しかし、省いたって事は、他にも何種類もあるんだろうねぇ。

割と聞けば教えてくれるのが意外だ…。これも信用を得るためか?

まあ、知られても問題のない魔法だけに限るだろうがな。

共闘の申し出をしたからある程度は仕方ないってところかねぇ。


本当の手札は絶対に明かさないだろうし、そもそもブラフの可能性もある。

…こいつも俺と戦う事を想定してねぇ訳がねぇからな。

いやぁ、次仕留める時が実に楽しみだ。

俺が思わず笑みを浮かべると、エギュニートの唇の端が吊りあがった。


「…クハハハッ」

「…フフフフフ」


どうやらある程度似たような事を考えていたらしい。

まあ、嬉しくもなんともないが。


「…なんか、仲良さそうだねあの二人」

「違いますよ王真。あれは互いに踏み込んだふりをしているんです。特に邪神の使徒は、協力を得たいでしょうからね。健気な事です」


ずばっと言い過ぎじゃねぇか?ばあさん。


「ええ本当に。邪神ちゃんの使徒は良い子ね……折りたくなっちゃうわ」

[…自由だな。貴様等、いつもそうなのか?]

「…いや、むしろこのメンツだし大人しいほうじゃねぇか?」


四本角の竜バルドカールは、俺の言葉に呆れながらも警戒の色を残して俺達の上をゆっくりと飛んでいる。

まあ、警戒を解いてないのは王真君やばあさんも同じだからねぇ。

俺だって当然してる。こいつ等の前で本当に警戒を解くって事はないだろう。

あっちも同じだろうしねぇ?

…おっと、そろそろか。

くっちゃべってる間に、創世神の体のすぐ近くまで来ていたようだ。


「……なんだここは、神気の濃度がすさまじいな。何をしたらこんな更地が出来る?まさかあの光の柱、神具を暴発させたのか?しかもこれだけの神気、一つどころではない、十や二十でも済まん。…なんと言う暴挙か」

「みたいだねぇ。俺は関わってねぇから知らねぇが、この地下都市にあった神具のほとんどを巻き込んで爆破したらしいぜ?流石、治癒の神とその使徒やる事がちげぇ」

「甘坂さんの中で私とフレアリア様がどういう位置づけなのか、小一時間ほど問い詰めたいわね…」

「フフフ、治す事が生き甲斐の淑女を捕まえて酷い言い草です事」


ぜってぇ嘘だ。少なくとも治すの前に壊してが入るだろお前等は。

拷問のスペシャリストが何をいまさら。


「鬼いさん。話はそこまでにしよう。着いたよ。…これがアイツの体か」


王真君の言うとおり、もう目の前まで来ている。無駄話は終わりにしとこうか。

さあ、殴ってみよう。鬼も蛇も出ず、神が来い。そう願いを込めて。

…取りあえず軽く顔面整形程度でいいか。

そう思って拳を握り、氣を回し、一歩近づく。

いや、近づこうとしたが、嫌な感じがして半歩で足を止める。


「…もう一歩進もうとしたら拘束術式を放つところだったぞ、甘坂一南。忌々しい程の危機察知能力だ」


エギュニートのその言葉に、バルドカール以外は疑問符を浮かべる。

どういうことかと聞こうとする前に、エギュニートは足元の石を拾い創世神の体に向かって放り投げた。

放られた石は創世神の体から1メートルは離れた空中で一瞬止まり、そのまま弾け飛んだ。


「ドッペルを抜かして来た時用の妨害工作ってとこか……おい、クソ野郎。これもテメェの時代の魔法か?」

「いや、これは創世神の放つ、高濃度の神気が壁となったものだ。…少し違和感があるがな。どうやら敵対意識を持つ貴様が近づいたせいで、創世神はこの体とリンクして神気を送り込んでいるようだな」


思わず舌打ちをする。

神気を体に纏っているだけなら天鎚をぶち込んでもいいと思ったが、その距離3メートル。

あって無いような距離だが、どうも面倒くさい感じがする。

一匁があればサクッとやれるんだがねぇ…。


「私としては創世神の体の状態を把握できただけで十分だ。私の対天神魔法ならば、この神気壁も破壊できるだろうが、貴様も得物が無い以上、ここで復活されても困るだろう?私もここで天神が降りて来るとこの体が使えなくなる。現状我が神にもっとも適した体と言えるからな」

「諦めてねぇんだな…、もう一回召喚する気かテメェ。まあ、無手じゃちいと破壊は無理……いや、やれるだけやってみるか。蹴りで神気障壁砕けるならある程度はやれんだろ」


治癒要員も居る事だし。と、俺は右手で氣を纏わせた手刀を造り、左手で右手首を掴む。

そもそも俺は、藪をつついて神を出すためにいるんだし。


「…おい、待て貴様。それでどうするつもりだ」

「ちょっと鬼いさん!無茶は止めよう?というより手刀で神気を斬らないで、お願いだから!」


そんな意見を無視して俺は抜刀の構えから、神気の壁に向かって一気に手刀を振り抜く。

振り抜く瞬間に鞘としていた左手に魔力を纏わせ、氣と魔力の反発で速度を一気に上げる。

まあ、空居合の手刀バージョンだ。


「っらあ!!」


…斬った感触はない。

むしろ手がいてぇ。

手刀が当たったにも関わらず、神気の壁は無傷。

いや、罅は入ったんだがね。

罅が入るならどうとでもなる、が。

手刀を振り切る、と言うかめり込む前に修復されちまった…。


「……あー、これは一匁持ってこねぇと無理だわ」


俺は痺れる右手をさすりながらそう呟いた。

俺の手刀が当たった部分は非常に硬かった。

まあ、修復速度を上回る乱打をぶち込んで、削りきればいいだけなんだが…。

これは修復速度が速すぎる。

それに、この神気の壁、衝撃を完全に吸収して俺の手刀に跳ね返してきやがる…。

おかげで十全の衝撃を打ち込めなかった。

期待はしてなかったが氣も入った。しかしだ、流石に途中で散ってしまった。


それにだ、こりゃこの壁は創世神の体に直接くっついてねぇな。だから氣も体まで通らねぇ。

爆発させても壁の中で修復されるのがオチだ。

創世神の体から出る神気と言うより、とんでも無くごつい障壁と考えた方がいいか。

この厚みといい、氣の対策までしてやがる。

つうかどんだけ俺を警戒してんだよこの駄神。

どんだけ大事なんだよこの体。


「…違和感はこれか。ここまで機能を持たせるとなると、やはり神気障壁の亜種か。天神の甘坂対策の障壁と言ったところか。魔方陣が無いのは私やあの元魔王にコピーされるのを警戒してか。恐らく魔方陣自体は神域だろうな、随分と無駄な力を使う」


お前も警戒されてんじゃねぇか。

つうかテメェのせいで余計面倒くせぇ事になってんじゃねぇの?

魔方陣を消せないとなると、やっぱ一匁の腹ん中に収めるしかねぇなこの障壁。


「…よし、撤収!!これは後回しだ。取りあえずうちの連中と合流して、一匁を回収してから考える。クソ野郎(エギュニート)はアルスの場所が分かったら連絡しろ。連絡手段は……まあ、そっちでなんとかしてくれ」

「撤収って、鬼いさんはそれでいいの!?こんなチャンスもう無いかもしれないよ?」


確かに、駄神の事だ、次ここに来る時は相応の対策をとってんだろうねぇ。

だが、良い、悪い。じゃねぇんだよなぁ。出来る事がねぇんだから。

まあ、殴り続けりゃ体には届くかもしれねぇが、そこまでだ。

そもそも殴った処で駄神が降りて来る可能性も微妙。

それに、信用出来ねぇ奴もいる。


創世神とは敵対関係だろうが、ここで創世神に喧嘩を売ると、アルス絶対殺すマンのこいつはどうするのか分からん。

待てよ?コイツ、現状では創世神の体に旨味が無いと分かってるから俺等に付き合ってたのか?

じゃないと、もしこのまま創世神と戦闘になった時のメリットがねぇ。

…いや、そうなると邪神の封印が解けるからこいつ等にとってもそう悪い話でもねぇのか。

ああ、もうなんか面倒くせぇなぁ…。


本来なら撤収して顔合わせくらいはするんだが、いくら共闘するとは言っても、コイツをホームに連れていくのは御免だわ。


「…まあ、妥当だな。私もホームとやらに案内されるとは思っていない。それと、奴の場所はもう分かっている」

「………は?場所分かってんのかよ。じゃあなんで行かねぇ、って一回負けてるもんな。まあ、万全にはしときたいか」

「ああ、こちらも失った力を取り戻すのに少々時間が掛かる。ここの魔脈を利用すればそう時間も掛からないだろうが、万全で取り組みたい。時期が来れば連絡しよう。私としては奴を殺すのを手伝ってさえくれればいい」


俺の物言いに嫌そうに顔を顰めるも、反論はしてこない。

むしろ首を縦に振り肯定してきた。

これは相当負けが効いてんな。アルスは油断の欠片も無いコイツと戦わなきゃならん訳だ。


「で?どこにいるんだあのアホウは」

「我が神のために各地に使い魔を各地に放っていてな。奴が逃げた後そのまま探させていた。そのうちの一つが奴の神気を特定した。奴が居るのはシェルパ大陸、ツァイネン領だ」

「……えぇー、マジか…」


ツァイネンってアリーナンの実家だよね?

なに?アリーナンってば元魔王を堕としたの?親御さんにご報告にでも行ってんの?

…外顔を投げ捨てたアリーナンに引っかかるとは、あのアホウは意外と剛の者だったのか。


「ちょっと待って!それってシェルパを戦場にするって事!?駄目だ!鬼いさんも何とか言って!僕より鬼いさんの方が縁は深いでしょ!?」

「あー…。まあ、あそこの冒険者は殺しても死なないような白好きの集まりだから大丈夫じゃねぇか?王族も変態しかいねぇし。まあ、王都を巻き込むのは最悪だが、用があるのはツァイネン領だ。アリーナンの実家だぜ?きっと変態の集まりだ。問題ねぇだろ」


俺の言葉を聞いて王真君はがっくりと項垂れた。

そんな王真君を見てクスクス笑う治癒の神と使徒、実にたちが悪い。


しかし、流石に王都を巻きこむのは気が引ける。それに、アイリンにも悪い。

…そうだなぁ、王様に戦場にするなら王都かツァイネン領のどちらが良いかを選ばせよう。

アリーナンは領土が無くなるが…。

…この絶対アルス殺すマンが王都に乗り込むよかマシだと思ってもらうしかない。


「……ホームに戻る前に一報いれとくか。ハチカファはまだ通信役やってんのかね?果てしなく不安だ。王真君頼む、内容はそのまま伝えていいから」


通信機能付きの戻り石、大分前に砕けちゃったんだよねぇ。

目の前の使徒様との戦いでだが。

僕が伝えるの!?と叫ぶ王真君にイイ笑顔で促し、俺達は創世神の体の前から踵を返し、転移陣のある入口まで戻るのだった。


「あ、鬼いさん。浚われたサリューナさん、まだいるかも…。ここより地下があるんだよね?」

「…あー…。流石に死んでるだろうよ」

「……そうね、地下があっても流石に上がこうなっていては、ね」


ハァ、王真君のアホウが…。

この勇者野郎め。

このクソ野郎の前では言わないようにしてたのに…。

ばあさんはなんか気付いたな。睨みながらもこっちに話を合わせてくれるのはありがたい。


あの教会の野郎の言ってた通りだとすると、実に胸糞悪い状況だろう。

俺だって怒りもあれば殺意だって沸く。

だが、質を数で補おうとしただけで短角種である事に変わりはない。

見つけたなら使おうとするだろう。この男は。

目の前でやられれば止めるしかない。

逆にいえば目の前でなければ止めはしない。


我ながら外道だとは思うが、生きているなら見捨ててそのまま帰ろうと思っていた。

もしアルスを狩り終わって、短角種が見つからなかった場合は、以前のようにルナに矛先が向くだろう。

その時は神を呼ぶ手段が無くなるとか言ってられん。

一切の躊躇なく全力を持って殺す。


教会本部すら無くなった。

ここにいる邪神の使徒も土壇場でしでかした。

だが、やらかしてもコイツが一番可能性が高いのには変わりはない。


もし条件がそろって召喚できたとしても、即時に召喚とはいかんだろうなぁ。

不確定要素(アルスと俺)は潰しておきたいだろうしねぇ。


「…教会に浚われた人間か。私達はしばらくここの魔脈で力をためる。機会があれば保護してやろう」

[……ふむ。…そうだな。いいだろう。貴様等はさっさと行け」


バルドカールの方は気配に気付いたか?

クソ野郎の口元が良く見ないと分からない程度に弧を描いた。

…これは、居るな。

しかも結構な数が。クソ野郎いわく死体でも使えるらしいから、この反応かもな。

この世界、神は多いが気兼ねなく全力で倒しに行ける奴が少なすぎる。

だからこそ邪神と創世神には出張って貰いたい。

まあ、そのために俺がやる事と言えば鬼畜外道と言われても反論出来ねぇ訳だが…。


「な!?そんな事「ああ、頼むわ。ほれ、帰るぞー」鬼いさん!?」


悪いな王真君。

俺は一度会ったエセ芸者より、自分の家族優先なんだわ。

……ルナになんて言って謝るかねぇ。

…自分の欲望を優先しましたってか?

いやはや、俺もクソ野郎だな。


「大剣の錆びになるくらいの覚悟はしとかなきゃいけねぇな…」

俺は歩きながらそう一人呟いた。


sideout




カートスside


イチナ君が居なくなってすぐにジャファン王を開放し、神様達が威圧して僕様達が撤退を迫った。

撤退は了承してくれたが、大量の怪我人の治療と動かせない怪我人と死体の処理(主にイチナ君が犯人)のための転移陣の構築のために少数の軍は残っている。

今はマキサックと黄助が監視に出ている状況だ。

僕様達はホームの中で、軽く食事を取って何があっても動けるように準戦闘態勢を維持している。



「……え?それ本当?分かったすぐ伝えるよ。…ファルナーク、ストップ」


別室でウォルガイで保護した巫女様達の世話をしているアイリン様のそばで、

何時イチナ君達から通信が入ってもいいように通信用の神具の親機を出して待機しているハチカファから連絡が入った。


部屋の中心で正座する次元の神に神気を纏わせた大剣でピタピタと軽く頬を叩きながら話をするファルナークがいぶかしげにこちらを向いた。

次元の神に絶対零度の視線を向けていたソルファさんもこちらに顔を向ける。


「なんじゃカートス。我は今このチャラ男に選ばせとるんじゃ。我が誇張して一南に報告するか、自分で報告するかをな。次元の扉で自分の視界だけ風呂場に繋ぎよって…。クロノフール様が教えてくれなんだら、危うくこ奴に我とソルファは裸体を晒すところじゃった!!先のイチナの件も反省が足り取らんのじゃろ?ん?」

「スンマセン…。マジスンマセン…。偶然だったんです!どうか、どうか!誇張して報告するのだけはご勘弁を…!」


神の威厳とかをかなぐり捨てた犯罪に手を染めた田中さん。

強制的に正座させられ半泣き状態だ。もうすでに何度か土下座も披露している。

さっきから話を聞いてたけど、彼はどうやら創造の神の力をトレースして見せたアンナちゃんに感化され、自分の能力で出来る事を広げようとしたらしい。

ランダムでやっていたため風呂場に繋がったのも偶然だったそうだ。

相手が悪かったと諦めて貰うしかない。だから僕様に助けを求める視線を送らないで。


「…うん、分かってるけどね。覗き神の田中さんを罰するのは後にして。僕様はアイナクリン王女を連れてシェルパに行くよ。ソルファさんも行こう。あと、イチナ君が戻ってくるらしいから、ここに何人か残しておきたい」

ゼプリバン様がお前も結構容赦ないな。と言っているが何の事か分からない。

まあ、あの転移の一件から次元の神様の扱いが悪くなったのは事実だ。


「僕も、ですか?」

「うん。アリーナン嬢をさらった魔族連中が王都のシェルパじゃなく、態々ツァイネン領に逃げ込んだんだ。確実に居ると思うよ」

「……そう、ですね。確かにアリーならツァイネン領に戻っている可能性は高いです。白亜教もまずはそこから広めようとするかもしれません」


…なんでアリーナン嬢が魔族に捕らわれているって思わないんだろう?


「ふむ、イチナと合流する前に王都で戦闘許可を取ってからツァイネン領に向かうと言う事じゃな?イチナは高額賞金首で神敵じゃから王都に入れんからの。軍や冒険者をイチナ討伐に出されても困る。残していく人員は田中でいいじゃろ。田中なればここの転移陣を使わんでも移動できよう。田中はイチナが来るまで正座じゃ」

「オレっちの足が死んじゃう!?そしてオレっちの意思は!?」

「イチナさんに次元袋も返しておいて下さいね。僕、皆に伝えて来ます。ガトゥーネ様達も置いていく事になります。…すいません」

《構わない。私としても早々に一南と合流したいからな。気にするな》

《拙者共の事もお気になさらぬよう、ソルファ殿。振るう者が居らねば意味をなさない鉄の塊ですからな拙者と一匁は》


「…じゃあ僕はサウスと白達を起こして来るよ」

あんまりな次元の神の扱いに目を反らしながら、この場を後にする。





確かサウス達はクロハの厩で一塊になって寝てたはず。

……起こすのは忍びないなぁ。

そう思いながら僕様が近づいているとサウスは起きてしまったようだった。

厩へ向かう通路からサウスの鼻がヒクヒクと動き覗いているのが分かる。

クロハだって気付いて身を乗り出し、こちらに顔を向けていた。

僕様の気配ってそんなに分かりやすいかな?

足音もなるべくたてないようにしていたんだけど…。と思いながらも厩へと近づき中を覗き込む。


何故サウスが鼻だけ覗かせていたのかが分かった。

白達チビーズは、サウスの背をベッドにしていたみたいだ。

ご飯を食べたばかりでぽっこりと膨らんだお腹を上に向け、少し寝苦しそうにしている白。

うーん、ちょっと食事のメニューを考えた方が良いかもしれない。

白は出したら出した分だけ食べるから、少し量を減らそう。

…テンは少し肥ったかな?

最近マキサックと練習してないからかもしれない。マキサックに言っておこう。

チビスラは、あれだけ食べても大きくならないな…。魔力が根本的に足りないのか。

少し心配だ…。確かイチナ君が神気配合のキャットフードを出せたはず、それ少し調理して食べさせて見るのも手かもしれない。


…そうだ、この仔達はイチナ君と一緒にいる方がいいかもしれない。

意見を聞くにも一度アイリンちゃんに通訳を頼まないといけないな。


「取り合えず広間まで行こうか。クロハもね。皆そこに集まってると思うから」

《分かりました。では(白亜教の)夜明けですね》

「え?夜明けってなに…?」


突然響いたノーディス様の声に戸惑いながらも聞き返すが、返事はない。

心なしかノーディス様の声はうきうきと弾んでいるようだった。

腰にある砂塵神剣に宿るゼプリバン様も無言を通している。

白達を起こさないためか、結局それ以上は一切喋らなかった。

あれ?サウスもクロハもなんかイライラしてないかい?


運命の神のノーディス様が言った事が気になったが、サウスが白達を起こさないように音も無く立ち上がるのを見て、僕様もクロハの手綱を引いて歩きだす。


…夜明けってなにがだ?

運命が見えたという事なのだろうけど。

それを教えてくれる気はなさそうだし、僕様達に害はない…のか?

夜が明ける…、そんなに暗いイメージはシェルパには無い。

だとしたら魔族関連だろうけど、内容を言わないと言う事はそこまで重要じゃない…?

ゼプリバン様の突っ込みも入らなかったし、あまり深く考えなくてもいいのだろうか?

どれだけ考えても答えは出ないまま、僕様は広間についてしまった。




そして、僕様達はシェルパ組と出迎え組を決め、転移陣へと向かう。

残るのはマキサックと田中さん(正座で)。そしてガトゥーネ様と波平、一匁コンビだ。

そう、起きた白達は自分でシェルパに向かう事を選んだ。

アイリンちゃん曰く、野望を止めて見せると意気込んでいたそうだ……野望?誰の?

ノーディス様が言っていた夜明けって言葉と関係してるのか…?


止めれるのか?白達で……いや、僕様がフォローすればいいか。

フンスと鼻息荒く先頭を進む白とけたたましく鳴くテンを見ながらそう決めた。


僕様達はマキサック達を置いて、シェルパの転移陣でシェルパのギルド裏へと転移したのだった。


そこで僕様達は見る事になる。



変わり果てた王都の姿を。

……止めなきゃ(使命感)


sideout

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