人選ミス
花粉がきついんじゃー・・・
イチナside
カートスに説明を受けていたら突然廃墟にいた。
犯人はもう分かっている。次元の神、田中の一択だ。
次に会ったら次元袋に死なない程度に氣を流し込んでやろう。
「…つか、来たの俺だけかよ!?…!?刻波と一匁がねぇ!?」
周りを見ると先ほどまで一緒にカートスの話を聞いていた面々の姿がない。
それどころか帯刀していた二本の愛刀までなかった。
「…鬼いさん、大丈夫?」
「あら、速かったのね……単身で来たの?」
俺の様子を見て心配する王真君と、廃墟の中でくつろぐばあさん。
そして…。
「あなたが甘坂ね、会いたかったわ。でもおかしいわね?皆さんを送り届けるように言ったのに…。あのこの力なら問題ないはずなのだけれど、なにか妨害でも入ったかしら?」
あんたが元凶か…。しかし確かに田中の力なら全員送ることも出来たはずだ。
本当に妨害?だとしたら俺だけ送られた意味が分からん。
いや、刻波と一匁がないからその可能性もありか?
「そもそも、誰だあんた」
「あら、ごめんなさい。私はフレアリア・ギルス。治癒の神よ、よろしくね。そしてここは教会本部ね」
「ご丁寧にどうも、甘坂一南だ」
はあ、こいつがばあさんの神様か。
…なるほど関わりたくない空気を出してんな。納得だ。
ここが教会本部……か?
ここが本当に教会本部なのか疑問だ。何この廃墟。
本部って言うくらいならそれなりに人がいてもおかしくねぇんだが、周辺には見当たらねぇ。
一番被害の酷そうな場所から結構な数の怒号が響いてくるくらいだ。
しっかし、地下から岩盤をぶち抜くような事したのか?このばあさん。
教会本部は、もうちょい豪華なところだと思ってたが…。
いや、破片やらなにやらに多少豪華だった跡が見られるからそうだったのかもしれんがね。
「で、何で呼んだ?もうやる事ねぇじゃねぇか」
「あら、やる事ならありますよ?創世神の体を叩いて欲しいのです。ここにあった神具の詰め合わせと雷神石の親石では駄目でしたので…」
本当になにしてんのあんた。
後でばあさんは、めちゃくちゃ気をもんでたカートスに謝れ。
取りあえず創世神の体を屠ろうとしたが、強固な障壁があって神具だけじゃ無理と。
それで俺を呼ぶってどういう事よ?
というより、それだけの神具より俺って…、ばあさんにどういう認識されてんの?人間だよ俺。
そもそも王真君でも氣は使える……ああ、使徒だったな創世神の。
そりゃ無理だなぁ。
「王真君しっかり止めろよ。うちの連中で暴走したらやばい奴の筆頭だぞこのばあさん」
「無茶言わないでよ…。昔も今もディニアを完全に制御しきった事なんてないよ僕。あと、鬼いさんはディニアの事言えないと思う絶対」
王真君の一言をスルーして、俺はため息を一つ吐くとばあさんに詳細を求める。
…どうも腰が軽いと落ち着かねぇな。
「で、やってくださる?」
「そんなもん、聞かなくったって分かってんだろ?」
俺の答えは、決まってる。
王真君が頭を抱えるのを横に、ばあさんがホッとしたような顔をした……あ、分かってねぇな。
「だが断る」
復活させようぜあの駄神。
その言葉を聞いて口元に手をやって肩を震わすフレアリアがうざかったが、置いておく。
取りあえず、直接殴りてぇ。
泣いた後は嫌になるほど磨り潰す。
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王真君side
ああ、やっぱり。
鬼いさんの言葉を聞いて思ったのはそんな事だった。
それはそうだ、この世界に鬼いさんの本当に焦がれる『神』は実質居ないと言える。
ガトゥーネさんは鬼いさんと長く居た事で甘坂の気質を持ち始めているから別だが、それ以外の神はどうも人間を基準にしすぎている。
力の差は勿論大きい。だけど、人の倫理観を持っているというか…。
これは僕達の感情的な事だから説明しにくいけど、
僕達、いや、甘坂が望む理不尽には程遠いんだ。
甘坂は理不尽に人のままで挑む事を良しとしていた。
そんな鬼いさんが、精神世界で本物の神の欠片と戦ったんだ。
それで済む訳がない、と思っていた。
「…そうですか。いえ、そうですよね甘坂さんなら。私も駄目なのではと思っていましたが、期待もしたのですよ。間違いでしたが…」
ふふふと自嘲的な笑みを浮かべるディニアだった。
ディニア…、目が死んでるよ?大丈夫?
そもそも甘坂の人間にその問いは駄目だよ。
やらせるならこれが創世神の封印ですとか言って砕かせないと。
…鬼いさんなら直感で気付きそうだけども。
「はぁ~♪素晴らしいですね。まさかディニアの心が折れる瞬間を見られるとは思いませんでした。ありがとう甘坂」
「いや、礼を言われてもねぇ…?」
頬に手をやりそんな事をのたまうフレアリア様に流石の鬼いさんも困惑しているようだった。
「まあ、取りあえず復活させる事に決まてったんだが…「決まってたの!?」決まってたんだよ王真君。俺ん中で前から」
ディニアの決意とか行動とか完全に無視した言葉に、思わず突っ込みを入れてしまった。
「ほら、よくじいさんが笑顔で言ってたろ?『元凶は叩いて潰して生ゴミだ』って」
「それって面倒事持ってくる米軍とか日本のお偉いさん達に向けての言葉じゃないかー!!」
そのセリフを言って五一のお爺さんが家を出ようとするたびに、御三家が招集されて大変な騒ぎになったのを覚えている。
本気で渡米しようとした時は、おトヨばあさんが叩いて止めてくれていたっけ。
身内に手を出された訳でもないのに国を潰そうとするとは何事ですか!って。
今考えるとおトヨばあさんの中では身内に手を出されれば国を相手取っても問題なかったみたいだ。…甘坂怖い。
……誰か叩いて止めてくれる人いないかなぁ…。
…一人で来ちゃったもん、居ないよねぇ。
せめて白が居ればなぁ…。
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カートスside
今もパレサート軍に囲まれてるし、兵士たちはいつ動けばいいかの命令を待っている状況だ。
まあ、勇者も王様もゼプリバン様が押さえているからどうしようもないんだけどね。
説明があらかた終わった処でそれは起きた。
何の予告もなしに次元の神様が力を行使し、僕様達全員がそれに飲まれたと思ったが…。
「…あれ?同じ場所だ。どういう事ですか次元の神様」
「カートス!イチナがおらん!!」
《イチナだけ飛ばされた!何をした田中!!》
《これは…》
《アレ、ヌシハー?》
「み!?みーみーみー!!」
「ぴぴぴぴぴー!!?」
「……!?!?」
ファルナークとガトゥーネ様の言葉に全員が耳を疑った。
そして白達大混乱。何時もなら止めに入る黄助もこの時ばかりは動揺しているようだった。
イチナ君の居た場所には二振りの刀。本当にイチナ君だけ飛ばされた?
白達は鳴きながらイチナ君が消えた場所の地面をホジホジと掘り返している…。
その光景をみて、神様達の神気が殺気を含み膨らんでいくのが分かった…。
そして、ソルファさんの腰についた次元袋に視線が集中する。
付けていたソルファさん自身も酷く冷たい目で次元袋を見下ろし、無言ではずし地面に置いた。
「次元の神…。イチナ君をどこ飛ばした?答え次第では例え神様でも…」
《タヌァーカ、まさか創世神に下ったのか?それなら俺等白亜教の敵だ。核を打ち抜くこともやぶさかじゃない》
僕様は黒剣を抜き、ゼプリバン様の神気で砂塵神剣レプリカが、サラサラと砂を落としながら僕様の体の周りを回る。
ファルナークやソルファさん達も同じような反応だった。
周囲ではジャファン王やパレサートの勇者達そして兵士が神達の威圧に反応して顔を蒼白にし、今にも気を失いそうだ。
あ、兵士が何人も崩れ落ちた。
「ちょぉ、まっ!?まって!オレっちも白亜教ですよー!?これは予想外だったんですよ!流石に無断で次元回廊を開いたのはまずかったけどさ、治癒の神から教会本部の座標が送られてきて、連れて来いって言うもんだからサプライズの気持ちでやったんだけど、なんかに妨害されたみたいなんだよ…。創世神の体が安置してある場所だから多分創世神だろうけど…」
次元の神は、本気で焦りながらも次元袋から飛び出し、空中で二回転土下座しながらも自分もなんでイチナ君だけ飛んだのか分からないと説明した。
「じゃが、妨害されたのならイチナもここに残っていなくてはおかしいではないか」
《…いえ、イチナさんならあり得ます。思い出して下さい次元の神。白様を呼び出したときの事を》
至極まっとうな反論をするファルナークに対し、反論したのは時の神クロノフールだった。
《我々が、かの世界を覗き見熱狂し、呼び出すに至った白様はこの世界も認めている子猫。白様のみを対象にした次元召喚術式は本来対象のみが通れるもの。イチナさんはそこを通って来たからこそのイレギュラーではありませんか》
そんな限定的な無効化能力ってあるだろうか?
その疑問を口に出す前に、次元の神が土下座の姿勢から顔だけ上げて真剣な顔で話し出す。
「確かに…。あの時は考えてなかったけど、世界に妨害されて当然な訳だ。まあ、兄貴の場合、無効化より無意識で妨害を破壊してきたって言った方がしっくりくるけど納得できないよねー…。そこんとこどうよ波平さん」
そこで何で波平が出て来るの?
「刀を呼び寄せるくらいなら問題ないんだよね、異物にもならないし。ただ、それが歳の若い物体なのに意思を持つ、ましてや神を宿すなんて事はあり得ない。お前、世界に監視役として目覚めさせられたんだろ?…ちょ、痛いですつつかないで、それに登らないで」
テンが土下座中の次元の神のふくらはぎをつつき、チビスラは頭まで上り彼の髪形を崩しに掛かっていた…。
何しているの君達…。
えっと、波平が、イチナ君の監視役…?
…そうだとしても監視しかしてないねきっと。
だってイチナ君による神気での破壊活動はほぼ波平によるものだし。
あれ?監視すら怪しいんだけど…?
《さよう。その通りです。ですが勘違いなされては困る。拙者と一匁は甘坂お抱えの職人が甘坂のために打った実戦刀。目覚めさせられたとはいえ、甘坂に使われるためのこの身、この世界の命に従う道理はありませぬ。拙者、一度なりとも監視としての任を果たした事はない!…一匁は味についての報告のみはしていたようですがな。何を食べたかではなく美味いか不味いかを突然送られてくる世界の事を考えると多少不憫に思えますが》
うん、自信満々に言う事じゃないよね。
でもさすがイチナ君の刀かな。
あれ?一匁も監視役なんだ。しかもそれ、嫌がらせに近いよ…。
まあ、どちらにしても完全に選んだ相手が間違ってるね。
こういう事も含めてイレギュラーなのかなイチナ君は。
でもこれじゃ結局イチナ君だけ飛ばされた原因は分からないままか…。
「それよりも、これからどうするかじゃろう。田中の力で一足飛びにイチナの元へいけんと言うのなら、すぐに移動すべきじゃ。どこかはわかっとるんじゃろ?」
「そうですね、その近くにでも飛ばしてもらって足で探しましょう。イチナさんの事はイチナさんだからで納得して、僕たちは動きましょう」
「それもそうだけどアイポン達どうする?ホームに置きっぱだけど。あとパレサートがこうなってるとシェルパもちょっと気になるんだけど…」
うーん、イチナ君だから、か。ソルファさんが言うと説得力あるなぁ…。
でも確かに今は原因うんぬんよりも動くべきだね。
シェルパか…。マルニちゃん元気かな?あそこも教会に乗っ取られてたらイチナ君怒るだろうな。
部隊を分けてみるのもありかもしれない。
パレサート軍も、イチナ君が居なくなった時点で戦う理由はなくなったし損害も馬鹿にならないからこのまま引いていくだろうけどね。
引かないならファスト・ザンバーを最大出力で打ち込むだけだ。
「みー…」
「大丈夫だよ、だってイチナ君だよ?」
僕様はイチナ君の消えた場所で、寂しそうに鳴く白を抱き上げ撫でる。
でも、僕様達が行くまで大人しくしている訳がないんだよねイチナ君。
「ワフ?」
……サウス、おかえり。
血濡れのサウスの帰還だが、肝心のイチナ君の姿がないと悟ると首をかしげる。
…あー、嫌な予感がするなー。
おもに創世神の処に一人で行ったって処が…。
無事でいてよイチナ君。
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アルスside
人族領であるシェルパ大陸のツァイネン領へと民と残った兵を連れての転移は負担が大きかった。
我々の被害も大きい、双将ジャマカダを亡くし兵もかなりの数を失った。
リリスの事はアルケイドに任せておけばいいだろう、俺様がやるよりも立ち直りは速いはずだ。
魔国の民には、これからシェルパと交渉して住処を提供しなければならない。
使徒のたくらみは潰せたが、魔都を取り返すには至らず、結局魔都を捨てさせる事になってしまった…。
これからの民の事を思うと心苦しいが、ツァイネン領は不本意だが白亜教の布教で魔族への差別が薄い。ここほど一時避難に適した地も無いだろう。
もしも不満が出た場合はマリーナンの言葉で諫めて貰う。
いざとなれば神気でも放ってひれ伏せさせる。
シェルパとの交渉も同時に行っていかなければな…。
まずは暗将に親書でも持たせて王の寝所にでももぐりこませるか…。
そんな事を考えながらツァイネン領に近づいていると、見知った顔が出迎えに来た。
「魔族が師団規模で現れたというので来てみましたら、アルス様でしたか。…なにやらあったようですな」
連れているのが戦闘要員では無いと知ると、態度を軟化させながらも、困った顔でそう言う戦騎兵。
ガトウ・カンバス。ツァイネン領の戦騎兵隊の隊長だ。
娘が一人いて、勇者と『魔王』討伐の旅に出ていると誇らしげに語っていた。この俺様に。
まあ、どうせそいつは今もアマサカと居るんだろう。死んでいる可能性はほぼない。
闘技都市で死んでいたら何とも言えんが、俺様には関係のない事だ。
「マリーナンは屋敷か?」
「いえ、マリーナン様は盟sy…、アリーナン様のお付きで登城なされています。バルマスト殿も付いて行かれました」
まさか魔族を匿っている事で物理的な制裁ではなく、政治的な制裁でも受けたか?
まあ、居ないのであれば仕方ない。
領主か領主代行の言葉があれば手早く済むと思ったのだがな…。
…一応聞いておくか。責任の一端は俺様にもあるかもしれん。
「…登城?何のためにだ?」
「異な事を仰いますな。マリーナン様は白亜教の教会を手に入れる事ために。アリーナン様はシェルパ王族に布教……交渉するために。バルマスト様は、魔国以外の大陸における白亜教信者の魔族達の人権を奪うために行かれましたぞ?アルス様の命だと言われておりましたが…?」
言ってない。そんな命令一言も出してない。出すはずがない。
そんなもの魔族が関わっているだけで邪教扱いされて終わりな事は目に見えている。
命令を出すとすれば、まずは武力で固め、勝てない事を理解させながらも、裏から手を回し王都での地盤を固めてからの話だ。
……まて、アリーナン達は今出て行ったのか?
「何時王都に向かった?交渉はすでに始まっているのか?」
「はい。交渉が始まってすでに4日目です。最初の3日間は盟sy…アリーナン様が白様の素晴らしさを語る講義の場となったそうです」
こちらが交渉のために急きょ作られた『聖書』の写しです。そう言ってカンバスは一冊の何の装飾もしていない本を手渡してきた。
ちょいちょい盟主と言いかける当たり、カンバスも大分毒されているな…。
そう思いながら聖書らしき本を受け取る。
嫌な予感がしながらも、なんとなしに開く。
長々と書かれていたがふとこの一文が目に止まった。
『白たんの前に立つ者は、全てを兼ね備え、理性的に理性をソォイ出来るものである』
俺様はそっと本を閉じ、遠くへソォイした。
「ああっ!?聖書が…!!戦騎兵隊、追うぞ!!」
「「「「「「「「「オウ!!」」」」」」」」
俺様は遠くに飛ばされるそれを眺めながら思った。
………ついに国を一つ堕としやがった。と。
そして、アレの護衛として残さずにバルマストも戦場に連れていくべきだった、と。
sideout
次回は間に合いそうになかったら本編から切り替えて、おじいちゃんの外伝の二話目を放つかもしれません(何時ぶりだよ)
まにあいそうならそのまま本編いきます。
byミスター