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猫守紀行  作者: ミスター
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根から潰す

ディニアside


教会本部、教会都市カナターマと同規模と言われながら各国の王や治癒の巫女である私すらも位置を把握していない幻の教会…。


私は王真に抱きかかえられながらあたりを見回す。

ここは都市全体が見渡せる高台にある魔方陣のようだ。


魔族に襲われ滅んだ教会都市も栄華を極めましたが、ここも中々に凄まじい。

ここに至るまでは幾つかの町や村を中継し、かなりの数の転移をこなしてきました。

教会本部…、その場所を知られないために徹底しているようです。


そして、この場所は空が見えず『天井』に巨大な魔方陣が刻まれていた。

グランソル、疑似的に光を作りだす大型の魔方陣…。

ここが外のように明るいのはそのせいですか。


「……まさか地下都市とは思いませんでしたね、見つからないはずです」

そう地下都市。

天井、壁面も白く舗装されているが、ここは大地の中だ。

何故か分かるか?それは本来大地の中にあるはずの『魔脈』がこの地の中腹を蠢くように走っているのだ。

しかも、これほど大きなものは一度しか感じた事は無い。


「ようこそ、教会本部(神の地)へ。ディニア・クライスカラー様。お待ちしていましたよ。王真殿も任務ご苦労様でした」

王真が私を降ろすと同時に声をかけて来た一団があった。

その一団の先頭、教会騎士を引き連れ現れた男の王真への任務完了を告げる言葉に、王真は苦しみ、膝をつきながらも自分を取り戻す。


「…くっはぁ!?はぁ、はぁ、はぁ…ディニアごめん僕のせいで…」

これは、強制的に体を動かされた反動ね…。

しかも命令権で常に全力を振り絞らされているようなものでしたからね…。

更にアマサカさんとも戦ったのですダメージは無かったとはいえ、身体的、精神的にボロボロなはずです。


「…私の事はいいのよ、王真。良かったわ正気に戻って。…ウーノ、だったかしら?私があったのはスキルニルだったのだけれど。まさか教会本部が魔国大陸の中にあるとは思いませんでしたよ」

膝をつく王真の背を撫で、治癒の神気を流しながら、一団の先頭の男ウーノに声をかける。

…この男への意趣返し、どうしてやろうかしら。


「…なるほど、この大魔脈で気付かれましたか。はっきりと何処とは申せませんが、私共はこの地の魔族共の監視の役目も担っております。今は魔国が慌ただしいようですが、それも全て創世神様がこの世に降臨なされば、小さな事ですので復活に心血を注いでおります。治癒の使徒様にもご助力をお願いしたい」


魔国が慌ただしい?

…邪神の使徒の事もあるし、このウーノと同じく復活目的かしらね。

もしそうなら、邪神の方は時間が掛かるとウーノは踏んでるみたいね。

創世神の復活の方が早いとみていいのかしら。


「…それで、創世神の体の場所までの案内に来たのかしら?」

「はい。ですが、まずは身を清めてから洗礼を受けて頂きます。お二方とも洗礼は必要ないかと存じますが、教会本部へと入られた方への決まり事ですのでご容赦ください。それを全てこなした後に御前にご案内します…。さあ、こちらへ」


戦場での返り血やら汚れやらがあるまま神の前には出したくないのね。

ここは特に信仰が深い方達が集まっていそうですし、当然かしら。


「…ええ。王真、立てるかしら?」

「ああ、なんと、っか!?」

王真は立とうとするも、膝が折れ私の方へと倒れて来る。

…思った以上に体に負担が掛かっていたのね。


「おや?大丈夫ですか?私どもで運びましょうか」

「結構よ」

王真がこうなった元凶が薄く笑いながら話しかけて来る。

…いえ、私があの時すんなりここに来ていれば王真につらい思いをさせなくとも良かったのです…。


「私が運びますので」

「ちょ、デ、ディニア?なんでお姫様だっこ!?止めて、本当に止めてください!」

これは私の償いです。ですのでことさらゆっくり運ぶとしましょう。

決して、王真が羞恥で顔を隠すしぐさがかわいいからという理由ではありません。

そして、ここに来るまで多少ですが、恥ずかしかったという理由でもありません。

もう一度言います。これは償いです。

これは泣こうが喚こうが止めません。だってたのし……償いですから。


私は顔を隠し悶える王真に頬笑みを向け、ウーノの後について行くのでした。





私と王真は身を清めた後、教会本部の中心にある大聖堂らしき建物に連れて行かれそこで儀礼的な洗礼を受けました。

いよいよ創世神の体の処に案内される事となり、

大聖堂のさらに奥、普通の教会でいえば神託の間に当たるであろう扉の前へ促される。


「ここです」

そう言ってウーノが扉を開けると、神託の間のような術式の刻んである部屋では無いものの、真っ白な部屋に荘厳な装飾が施された空間の中心にそれはあった。


「…これが、創世神ですか」

「間違いないよ。あとディニア、そろそろ降ろして…」


空間の中央になんの補助のなく浮くそれは、風が当たるだけでもうっすらと障壁が発生し、虹色に輝いている。

障壁によって守られてはいるが経年劣化によってか、全身くまなく罅が入っている。

神気を練り上げ構成した体、いや器。

核だけは神気で構成されている訳ではないようですね。

その核が何なのかは、この際あまり関係ないでしょう。


それよりも、創世神の体を巡る治癒の神気…。

それも、切り傷を治す程度の神気を流してどういうつもりでしょうか?

まあ、それはこの空間にいるもう一人に聞きましょう、気が進みませんけどね。


そのもう一人に視線を向け、挨拶をする。


「お久しぶりです、フレアリア様」

「ええ、久しぶりね私の使徒。元気そうで何よりだわ。あなたにもお茶をお出しするわね。すぐに椅子を『来させる』わ」


治癒の神フレアリア・ギルス。

白い長い髪と純白のローブを纏い、素顔はヴェールで隠されている。

彼女には椅子と机が用意されており、この場所でお茶を楽しんでいるようだった。

その動作は気品高く、美しい。

彼女がいて、創世神の体が治されている気配は無い…?

いえ、一応神気は流していらっしゃるのだから治してはいるのかしら…?

その神気もちょっとした切り傷を治す時に使う程度のものですし、…本当に何を考えていらっしゃるのかしらね。


「……ねえ、ディニア?女神さまが座っているのここの信者みたいだけど、それに机も人に天板持たせてるだけだよね?見間違いじゃないよね?」

「王真、見間違いではないわ。フレアリア様、ご相伴に預からせてもらいます。ウーノさん普通の椅子をお願いします」


フレアリア様はプライドの高い殿方を折るのが趣味なのよ?

彼女が座っているのはウーノと同レベルの高官かしら?

机をやっているのは鍛え上げたれた肉体を持つ武人のような神官。

椅子は髭の長い初老の神官です。

フレアリア様が机役や椅子にするなんてよほどプライドが高かったのでしょう。

その眼には歓喜の色が浮かんでいますね…。すでに後戻りできないレベルまで調教済みですか…。

神のお相手として選ばれたのか自分から来たのかは分かりませんが、相手が悪かったとしか言えませんね…。


「私の使徒は勿論この『椅子』に座るわよね?ウーノ用意をお願い」

「……あなたも御苦労が多そうですね。分かりましたご用意しますが、少々お待ち下さい」


同情したような顔で椅子を用意するためにこの場から去っていくウーノ。

私は彼女の使徒なのですから、断る事は出来ないのです…。

それに、私だって座りたくはありませんよ。

ですが、下手に機嫌を損ねれば私が椅子になりかねません。

彼女の使徒ですから命令だけで、ならざる負えませんからね。

王真にそんなみっともない処を見せられませんよ。


「ディニア。あなたも聞きたい事があるでしょうし、私もあなたに聞いて欲しい事があるの。少し近くに寄りなさい。大丈夫よ、そこの勇者を折ろうとは考えていないから」

その言葉に私と王真は、フレアリア様のお近くへと歩みを進める。


「フレアリア様、何故未だにこの体を治しておられないのですか?あなた様がここに居られるのに私が呼ばれる理由が分かりませんが…」

「あなたを呼ばなければ治癒は進めないと私が言ったのよ。本当ならイレギュラーも連れてきて欲しかったのだけれど…。どんな方なのかしら?精神世界で神と戦い、心が折れない殿方とは。会ってみたかったわぁ、あなたを呼べば一緒に来ると思っていたのだけれど、少し当てが外れたわね。ふふ、残念」


創世神の体の元に甘坂さんを呼び寄せるとか、どんな嫌がらせでしょうか…。

それとも甘坂さんの心を折ってみたかったのかしら…。

どちらにしてもろくでもないわね、フレアリア様は。


「でも、私がここにいる事は分かっていたでしょう?ディニア、あなたは何をしにここに来たのかしら?勇者の事は置いておいて、ね?」


フレアリア様の気配が変わった…。答えなければどうなるか分かった物ではありませんね…。

王真が操られていた、なんた答えを聞きたい訳じゃないのでしょう。

私は無言でメイデンメイスをフレアリア様の前に置き、考えていた内容を神気通信で伝える。


「……それは素敵ね!流石私の使徒だわ!ならこの部屋にこの教会本部にある全ての神具を集めさせましょう。そこで聞き耳立ててるウーノさん、手配をお願いしますね。私達はこの地下都市を見回ってきますので、終わったら連絡を下さい」

「お、お待ちください!未だ創世神様の御神体に治療らしき治療を施してはいらっしゃらないではないですか!!だと言うのにこの場を離れると?」


声を掛けられ、慌てて部屋に入ってくるウーノ。

その後ろには虚ろな瞳の廃人と化した信者が一人連れられていた。

…あれが私の椅子になる予定の人?禁呪で記憶どころか人格ごと消去しているじゃないですか…!

あれではファルナークさん達の時のようには戻らない…。

何て事をしてくれてるのですか教会…!!

そんな事を考えていると突如として声が響いた。


「貴様、ウーノ!!トーレのように椅子になると言う名誉をそのような廃人に与えると言うのか!!!ならば私が椅子になろう!その者は机にするがいい!!」

「机が勝手に喋らないで頂戴」

フレアリア様の一言で激昂していた声は止まり、御声を頂いた事により感涙していた。

…良く調教されていますね。創世神の神官とは思えませんよ。


「ドゥーエ、トーレ…。同じ幹部のあなた達のそんな姿は見たくなかった…」

ウーノは思わず天を仰いでいました。


「これだけの損傷、私だけの神気で賄えるものではありません。故に神具に込められた神気を変換して使います」

フレアリア様は何事も無かったかのように話を進めます。

そして、さらっと嘘をつきましたねフレアリア様。


「…では何故最初からそう仰らないのですか!」

ウーノも諦めが付いたのでしょう、机と椅子を見ないように真直ぐにフレアリア様を見ています。


「治せない訳ではありません。慈悲深い創世神の事ですから、私が消えてまで蘇る事を良しとしないでしょう。ですからディニアに来てもらい、代案を出してもらったのですよ」


さきほどの通信で創世神の傷を治すのに自分の神気を使いたくないからなんとかなさいと言われた時はどうしたものかと思いましたけど。

結局私の案に賛同して頂きましたが。


「そこまで我等の神の事を…。分かりました早急に用意いたします。地下都市の見回りはご自由に、ただし申し訳ありませんが、転移陣のある高台への侵入だけは禁じさせていただきます。神具が集まり次第ご連絡いたします。護衛は…」


ウーノは一枚の紙を取り出し「…高平王真に任ずる」と命令を下す。

命令を下した瞬間、その紙は燃え落ちた。

…あれが命令権のギアスペーパーですか。

燃え尽きたという事は使用回数が無くなったという事ですね…。

護衛程度で大事な命令権を手放した事を後悔しますよ?


「っ!……あれ?何ともないよ?」

「当然です。今命じたのは護衛。あり得ないとは思いますが、そのお二方に危険が迫るような事があれば、あなたは命の危険という概念をなくし、助けるように動くでしょう」


創世神の使徒に命を掛けさせるような事をしてもいいのかしら?

まあ、いいのでしょうね。そうでなければ命令権なんて渡さないでしょう。


「私のメイデンメイスはここに置いていきますね。これの中にも『神具』が一つ入っていますので」

私の言葉にうなずくウーノ。


「ウーノ。ディニアのメイデンメイスの周りにこの陣を書いておいてください。この陣は創世神が効率よく神気を吸収できるようにするものです、抜かりは無いように。ああ、それと雷神石があるならそれも持ってきてちょうだい。あれはエネルギーの塊だから他の神具より変換しやすいのよ」

「わかりました」


そう言って神具を集めに部屋をでるウーノを見送ったあと、

その場に机と椅子を置き去りにし、私達も地下都市へと繰り出した。





地下都市の外れ、一番壁に近い場所で王真とフレアリア様とでお茶をしていると、

伝令が神具の収集が終わった事を伝えに来た。


「そう、ありがとう。すぐに向かうと伝えて頂戴」

フレアリア様が伝令兵の多少の神気で疲れを取ってやりながら、踵を返すように命じていた。


「……ねぇ、ディニア。本当にやるの?」

「何を言っているのですか王真。やらなければ活躍の場がないではないですか。それではあまりにも可哀想というものです」

私だってやりたくは無いですよ?メイデンメイスは気にいっているのですから。


「さあ、私の使徒。見せて頂戴。多くの人の心を折るそのために来たのでしょう?」

違います。根から潰すために来たのです。


「あなたの最後の勇士(強制)この眼に焼き付けておきます…。さようなら『バルクボム』発動」

私はバルクへの神気供給を断った。

それと同時に目を瞑る。

私はまだこの眼で見たいものがあるので、心の目に焼き付けておきますね。


極大の雷光。

地下都市のシンボルでもある大聖堂を中心に集めさせた神具を巻き込み、他の雷神石と共鳴誘爆を繰り返し、地下都市の半分を更地にして更には天井の岩盤ををも貫き大穴を開けた。


「随分と風の通りが良くなりましたね。…これで創世神の体ごと葬れればいいのだけれど」

「まあ、ウーノは巻き込まれて死んでいるでしょう。威力増幅と神気共鳴の魔方陣を書かせてみたけど、少し足りなかったかしら?ああ、魔脈の力も利用する陣も書かせておけばよかったわ。でも流石ね、5000年もの間あの体を守り続けて来た障壁なだけあるわ」

「平然としてるけど、どうするのこれ…」


廃墟、そう呼ぶのもおこがましい様になっている地下都市を見て私はフレアリア様に提案をする。


「フレアリア様。次元の神に連絡を取ってください。すぐ来てください、甘坂さん達を連れて。と」

「ここで鬼いさん呼んじゃうの!?」

「あら、素敵。すぐに呼ぶわね♪」

フレアリア様はすぐに了承して下さいました。きっとヴェールの下は笑顔だったと思います。

根から潰す。教会の根とは創世神の事。

あの雷撃でも傷つかなかったあの体を無造作に叩けるのは甘坂さんくらいしか思いつきません。

しかし、あの甘坂さんが素直に創世神の体を壊してくれるかどうか…。


…………駄目でしょうね。


sideout

バルク・ガンズィーナ

広範囲粉砕用人型爆弾。

自身で心臓に埋め込んだ雷神石の親石が原因。

描写すらなくただの爆弾として人生を終えた。


うん、捕まった相手が悪かった。

というより白を狙ったのが悪かった、暗躍だけならもうチョイ長生きできたでしょう。

そうしたのは作者ですが。


byミスター

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