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猫守紀行  作者: ミスター
130/141

捕縛して、帰れと諭す、武神かな

イチナside


王真君と戦闘開始してから、大分本陣側に移動してきた。

丁度ホームと敵本陣の中間地点くらいか?周りの兵士たちは俺達を避けるように場を作ってくれている。

まあ、ホームから引き離す事は出来たから結果的にはOKだ。

道すがら結構な数の兵士を轢いてきたが、まあ死んじゃいねぇだろう。


「しかし、流石だねぇ。クロハの神気障壁がなかったら結構いいの貰ってたかもしれねぇな。これで王真君に意識があったらどうなってたか…」

空を駆け、機動力が増した上、緩急をつけながら放たれる剣技は神薙流のそれではなく、この世界で得た王真君の剣技だった。

でもこれは王真君の本気じゃない。それは確信している。

意識がないせいか、どうも動きがぎこちない。

体に覚えこませたものをそのまま使っているといった印象だ。

…たまに六銭とか抜刀技が入るから気が抜けない。さっきもそれでヒヤリとさせられた。


しかし、だ。

敵を倒す方法を考える頭が足りない。

敵を害なすための覚悟と意思が足りない。

それで、コレなんだから、たまらないよなぁ?

この動きを見て俺は改めて思う。

本気の、そして全力の王真君と戦いたいと。

…まあ、同族殺しはやりたかねぇがな。


「…ククッ、楽しいねぇ」

思わず呟いた一言に、王真君の動きが止まる。


《イチナ、殺気が漏れている。斬る事はないと分かっていても、不安にさせるレベルの殺気だ。ディニアに知られたら後が怖いぞ》

おっと、そりゃまずい。

周りの兵士達もどん引きしていらっしゃるようだ。

…どん引きで済むか、パレサートは中々の精兵を持ってんだねぇ。


《殺さずの戦いは、やはり苦手か?相手は王真だ、多少無茶をしても良いのではないか?》

「すさまじく苦手だねぇ。王真君がこの状態じゃ無けりゃそれでもいいんだが、いかんせん俺の体が絶好調すぎる。この状態の王真君をうっかり斬っちまうくらいに調子が良い。クロハも王真君の剣閃に慣れて来たみたいだし、このまま凌ぐさ」


ばあさんに怒られるのは簡便だからなぁ。

そんな事を思いながら、王真君の攻撃を凌ぐ。

厄介なのは、高速機動と、魔法を絡めた剣技の数々。

まあ、魔法の方は一匁で受ければ神気だろうがなんだろうが一切合財食い散らしちまって意味をなしてねぇんだが。


しかし、どんだけの流派を物にしたのやら…。

技の一つ一つが繋がっている訳じゃないから読みやすいっちゃ読みやすいんだが、一回一回初見の技を繰り出してくるから面倒くせぇのなんの。


《メシメーシメシー、ウッウーウーマウマー》

一匁が調子はずれな鼻歌を歌いながら、何度目かの魔法の乗った斬撃を食い散らす。

打ち合うたびに、一匁の頑強さと神気と魔法を喰って上がり続ける切れ味に、王真君のシャムシールは、すでに何時『斬れても』おかしくないありさまだった。


「得物を壊した方がやりやすいか…?」

思いたったが吉日……ちと使いかた違ぇか。

取りあえず武器破壊に狙いを定め、一匁を振るう。

クロハは俺の意思をくみ取ったのか、神気で王真君の猛攻を防いでくれる。

一閃。ただそれだけで王真君のシャムシールは音も無く斬れた。

10cmmほど残ったシャムシールの刃を見た王真君は弾かれるように後ろへと跳び下がる。

次どう動くべきか決めかねているようだった。


なので、追い詰めてみようと思います。


「…さあて、ちと童心に帰って、追いかけっこでもしてみるか?」

多少の殺気と笑顔を添えて、子供に言い聞かせるように優しくそう言ってみた。

その言葉に王真君は俺を警戒しながらじりじりと後ずさる。


昔はよくこうやって爺さんと鬼ごっこしたもんだ。

最初に与えられる30分でどこまで逃げられるかと爺さんの殺気をどれだけ受け流せるかがミソだったな。

ガキの頃はまともに受けると体が硬直してたからねぇ…。

ガキの足だったとはいえ、30分ぶっ通しで走っても振りきれない殺気は恐怖だったなぁ。

捕まったが最後、人生が終わると子供ながらに思ったもんだ。実に懐かしい。


そんないらない事を考えていると、ガトゥーネから声が上がった。


《…これは!波平!鎧だ急げ!》

《これは、時の!?御意!》

俺が説明を求める間もなく神気の鎧が装着される。

次の瞬間、舞い上がった土煙りが、空を行く雲の動きが、俺の放った殺気から逃げようとする兵士たちの動きが……止まった。


《どうやらクロノフールが動いたようですね。クロハ殿は対象に含まれていないようですが、イチナ殿は大丈夫ですか?》

ノーディスの言葉に返事を返そうとすると口が動かない事に気付く。

どうやら動いているのは思考だけのようだ。いや、波平の鎧のおかげで思考出来るのか?

まあ、おかげで意識を集中させれば手足は動きそうだ。

手を動かしてみただけでかなりの負荷がかかるのが分かる。

半分固まったコンクリートの中で動いているようなもんだ。

グッパグッパと手を開いたり閉じたりして感触を確かめ、思わず笑みを浮かべる。

…良い鍛錬だ、集中して手足を動かす事に慣れりゃ戦闘もいけるな。


《神気の鎧で思考停止を防いだとはいえ、クロノフールの時止めの中をそうも動けるとは流石ですね》

《あの時に散々時止めを受けていたからな。イチナならそのうち効かなくなるだろう》

《まあ、主殿ですからな》


お前らは俺をなんだと思ってるんだ。と言いたくなったが口が思うように動かず諦める。

しかし、とため息を吐くように口から息が漏れる。

せっかくテンション上がって来たなのになぁ…。


そう、王真君までもが止まっているのだ。

動いているのはカオスの根源たるアニキーズとグルミーズ……グルミーズ!?

猫耳アニキに飽きたらずアレまで出したのか!

止まった時間の中で、とりあえずフルぼっこと言わんばかりに、静止した兵士を囲んではぼこって離脱を繰り返すカオス軍団が視界の隅に映った。

竜型のグルミーズが他の種類のグルミーズを方々に運んでいる事から考えて、この時止めの間に戦場にいる兵士全員ぼこる積りだろう…。


《あっちでも似たような事をやっているようだな。…神獣相手には被害を抑えられて実に効率が良いが、面白くは無いな》

不満げなガトゥーネの言葉にそちらに首を無理矢理回す。

するとどうでしょう。ルナとチビ助で一体。ソルファと腐敗は別の一体、ソルファ達に合流した形で黄助とマキサック、パー子が混じって神獣のフルぼっこタイムだった。


(…あいつらの中ではフルぼっこがブームなのか?俺も波に乗って王真君をフルぼっこにするしかないのか…?)

一瞬そんな事が頭をよぎってしまうような、そんな戦場になってしまっていた。無残である。


《いや、イチナ。波とか無いからな。単純に死ぬぞ王真が》

どうやら心の声はだだ漏れていたようで、ガトゥーネにたしなめられた。


《これが神を敵に回すという事ですな。やはり、人相手に時止めは反則ですね。久しぶりに地上で力を振るえるのではしゃいでいる部分もあるのでしょうが……これは酷いとしか言えません》

ノーディス。白亜教に入ってる奴らだぞ?神じゃなく猫を崇めてるアホウ共だぞ?

酷くない訳がないだろうよ。

あと、もっともらしい理由は付けていたが、喜んでクロハに入ったお前も相当だと思う。


時が止まった中、俺達だけが動けるという反則、そんな中だからこそ緊張感のない会話が出来る……あれ?敵がいても変わらん気がする。



「……おーい…」

ん?この声、カートスか?


「おーい!イチナくーん」

ああ、やっぱカートスだ。ばあさんを乗せたサウス…とチビーズも居るな。

無事治癒は完了したようで、一安心だねぇ。

笑顔で手を振るカートスに右手を上げるだけで応える。


…ん?おかしい、カートスの肩になんか乗ってる。

白サイズの軍服を着たエセカイゼルヒゲを付けた猫のヌイグルミだ…。

ヌイグルミを凝視していたら、カートスが説明してくれた。


「この仔、上から落ちて来たんだ。今戦場で頑張ってるあの仔達の指揮官みたいなんだけどね、竜型に乗って指揮をしてたみたいなんだけど…。落ちたのがテンの上でね、怒ったテンがつついて中の綿を出しちゃって、こっちに来ながら応急で直してたんだ」

上手く出来たと思うよ。との言葉に肩の上でカートスに向かい敬礼をする軍服猫。

流石カートス、戦場だろうと裁縫道具は忘れない。


俺が何ともいえない視線を軍服猫に送っていると、ばあさんがサウスから降りて時止めにより固まった王真君へと近づいていく。


「私は時が戻り次第拉致されますので、後の事はお願いしますね」

確かに王真君を元に戻すにはそれしかないんだが…。

嫌な感じが濃くなってんだがねぇ?それに、拉致される。が殴りこみに行くと聞こえたのは俺だけだろうか…。


「僕様も話を聞いたけど…。本当にやるの?王真君を戻すために必要とはいえ、創世神のお膝元だよ?そう簡単に…」

「カートスさん」

おい、ばあさん。本当に単身殴りこみに行くんじゃねぇだろうな?

カートスはなんか知ってる風だが、位置を知らせて俺達を呼ぶんだよね?言うなれば斥候だよね?

俺の懐疑の視線に気付いたばあさんは、薄く微笑む。

…やべぇ、考えててすげぇ不安になって来た。本当に何やらかす気だこのババア。


「でも…!」

「心配いりいません。ほら、皆さん戦っていらっしゃるのですから、あなた達も向かいなさいな。私としては時止めが終わった瞬間にジャファン王の首元に剣を突き付けているのが見たいですね」

心配するカートスにチビーズを預け、実にろくでもない事をぬかしながら俺達にこの場を離れるように促す。


《問答していても治癒の使徒の気は変わらないだろう。行くぞ、カートス、イチナ》

ガトゥーネの言葉に、仕方なく従うカートス。

俺は行く前に無理矢理口を動かしてばあさんに最終確認をする。


「…大丈夫なんだろうな?」

いろんな意味で。


「大丈夫ですよ。…私は一人ではありませんから」

その返事は、王真君の不幸は、これから先も加速していくのだと確信を得られるありがたいものだった。

この時、ばあさんの事は王真君に丸投げだと心に決めたのだった。


sideout





ジャファン王side


神獣が動きだし、兵の士気も若干ではあるが戻りつつあった。

ただ、甘坂の近くの兵士の士気は現在進行形で下がっている。

これはもう仕方のない事だ、諦めるほかない。


教会が高平王真を手ゴマとした事で結果的に甘坂の足止めにはなっているものの、本陣正面で人外の戦いをしないでほしいと切に願う。

そう、士気が下がっているのは本陣を固めている兵士なのだ勘弁してほしい。

本来あれだけ突出してくれば兵数で押し切ることも考えるんのだが、駄目だ。

今あの戦いに手を出してはならん。この士気では命令を下した瞬間武器を捨てて逃げる兵士が続出する事だろう。

そうでなくとも甘坂はあの殺気を放ってはおらんのだ…。正直俺はもうカエリタイ。


いっそのこと全軍に撤退命令を下そうか。そう思った瞬間、件の甘坂と小さな動物達を抱え軍服軍帽をかぶった何かを肩に乗せたランクA冒険者カートス・マリゲーラ、そして魔力刀を展開した見た事のないウルフ系のモンスターがが俺に剣を突き付けていた……はぁっ!?

瞬きなどしていない、突如としてそこに出たぞこいつ等…!


「まて、待て待て待て待てっ!?何があった!?何が起こった!?」


甘坂は今まで高平王真と戦っていたはずだ!?

カートスとモンスターに至ってはどこから湧いた!!


「えっ!?イッチー!?」

聖人の勇者田中雛子も驚愕の声を上げる。


「何であなたがここに!?さっきまであの人と戦っていたはずじゃ!?」

そう叫ぶのは逆星の勇者、間中日和。


「まいったね、いきなり王手をかけられてるよ…」

そうでなくても勝てそうにないけど。と呟くのは聖人の勇者の実の妹田中巴。


「あ、うあ、ど、どうやって…」

勇者の中で一番怖がりで臆病な娘、十坂一恵も戦慄を隠せない。


「あー、ようやく普通に話せるわ…。久しぶりですね社長。あと学生諸君、それと、やかましいぞ王様。声のボリュームを下げろアホウが。なあカートス、二人でやる意味なくねぇか?俺ちいとクロハとサウスと一緒に教会にかちこんでくるわ……あとでばあさんが何やらかそうとしてんのか聞かせて貰うぞ?」

すさまじく扱いが悪い、いや、敵なのだから斬られないだけましなのだが…。

そもそも教会にかちこみとは…、もっと早くやってくれ、そうすれば撤退できたんだ。


「ハ、ハハハ…、分かったよ、後で説明する。使徒様からは拉致された後なら話てもいいって言われてるしね…ハァ…。もう軍隊として機能しないだろうし、神獣だって『終わってる』から大丈夫だろうけど、ほどほどにね?教会の皆さんに『よろしく』」

「おう、『よろしく』してくるわ」

「ちょっ!?イッチー!?」

雛子殿が必死に甘坂を止めようとしている。

しかし、何を言っているのかは耳に入ってこなかった。

軍隊として機能しない?神獣が終わっている?

言われて恐る恐る我が軍の方を見やってみる。


…全滅していた。

否、近衛兵は無事のようだが、他の兵士は戦闘不能に追い込まれている。

つい先ほどまでは精悍な顔つきだった兵士たちが、次々と膝から崩れ落ちていく。

やった犯人はおのずと分かる。犯人は間違いなくアレ等だ。

空から猿のヌイグルミを絶え間なく落とす竜のヌイグルミ。

その他のヌイグルミ、そして筋肉。カオス軍団が猛威を振るったのだろう。


神獣に至っては、もうなんだろうか…。

たった今あの不格好な異形共は崩れ落ちながら肉塊と化した。

原形を留められないとでもいおうか。

あれは神気の通った化け物だったはず…、本当に何が起こった…?

だが、その方法が分からない。

ファルナーク様の時の加護、か?いや、アレはこれほど多くの人を留めておけるものではない、ましてや神獣など…。


これではまるで…、神の力…。

いや、神が我々に干渉出来るのは教会の中だけと神自らが定めている。

それは無い……無いはずだ。


ふと気付いた時には甘坂の姿は無く、カートス一人が剣を向けていた。


「…えーと、取りあえずどうしましょうか?勢いで王様に剣を向けたのは申し訳ないと思いますが、僕様的にはこれからどう行動すればいいのか、分からなくなっていまして…」

それを俺に聞くのか?と思っていたら『声』が聞こえた。


《斬っちまってもいいんじゃね?人間の王なんて斬っても次が居るだろう?》

「ハハハ…、イチナ君なら同意したかもしれませんが、僕様は流石に王様と勇者様を殺す度胸は無いですよ。でも、敵ですから、せめて両足の腱を斬るくらいにしませんか?手だと政務に支障が出ますし…、勇者様達は女の子だからあんまりやりたくないですけど」

《…斬れって言った俺が言うのもなんだが、斬るなのが嫌なら捕縛にしようぜ?お前、結構あいつに似てるんだな。だが、似合わないぞ?》


念話でもない、魔力波でもない、この声からはあの神獣と同じ性質を感じる…。

カートスは…、ナニと会話をしているのだ…?

いや、分かっているのだ。これは教会の言室や神託の間で感じた神の神気だと…。


分かってますよと苦笑するカートスはお願いできるでしょうか?と『声』に頼む。

うーんとそれを渋る声の主。

だが、鶴の一声がそれを一変させた。


「みー!」「ぴぴー!」「……!」

《了解だ、白にゃん。ゼプリバン、捕縛を開始する!》

ゼプリバン!?砂の神だと!?


「アハハ…、流石白達だな。僕様に出来ない事を平然とやってのけるんだから」

一瞬だった。カートスの苦笑と共に、俺と勇者達の足元から砂のようなものが湧きあがり、首元まで固めてしまう。

周りを見ていると、近衛兵達もすでに首から下は砂人形と化していた。


「カートス・マリゲーラ、神をその身に堕としたか…!!」

これでは勝てるわけがない…!


「いやぁ、僕様がやった訳じゃないんだけどね。神様達を連れて来たのはイチナ君だし。まあ、イチナ君が教会の方々に挨拶し終わったら軍を引いてくくれれば良いですから、少し我慢してください王様。…僕様達の仲間も悪のりが過ぎましたし、神様の力で捕らえられていたと言えばあなたの国の教会にも良い訳がたつでしょう」

《お前、敵に情けを掛けるなんて良い事無いぞ?》

「みー」

「ぴぴー」

「……」

《は、禿げてない!剃っているんだ!白にゃんまでそんな事言わないでくれ!!》


俺と我が国の勇者達は諦めにもにた境地でそのやり取りを眺めている事しか出来なかったのだった。


sideout

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