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猫守紀行  作者: ミスター
129/141

カオスに染める

カートスside


相変わらず僕様はベッドから動けないでいた。


「み~…………み!?」


そして相変わらず僕様の上で見張りをしている白は、眠そうに舟を漕ぎカクンと頭を揺らして、跳ね起きるのをすでに3回ほど繰り返している。

というよりなんどかコロンと僕様の上で転んでいたりと危なっかしい。

ちなみに、テンとチビスラは遊び疲れたのか部屋の隅ですでに爆睡している。


「ねえ白、寝てもいいよ?ほら、僕様の上で寝れば僕様が動いた時分かるでしょ?というか、寝てください。僕様のせいでこうなってるのは流石にいたたまれないよ…」

何度も眠たそうな白の説得を試みてはいるのだけれど、一向に聞いてくれない。


《今、白にゃんは自分の限界と戦っているんだ。止めてやるなカートス》

僕様の黒剣に宿った砂の神ゼプリバン様がそんな事を言っているが、それは今やる事じゃないし、意味も無いと思うんだ。

白は眠いなら寝ればいいと思う。それが一番の癒しになると僕様は思うよ。

そして、砂の神様。あなたが白を白にゃんと呼ぶのはないと思う。


「そう言えば、ゼプリバン様なら僕様の体の中の神気を回収できるのでは?」

《俺みたいに神気を砂に変えたり、変質させる神は体内に入った神気の回収が得意じゃないんだよ。創造の神は想像力で補うから問題ないんだけどな。…体の中の神気、砂に変えてもいいなら出来るとだけ言っておこう》

「…謹んで、遠慮します」

死んでしまう、確実に。

やっぱり、ディニア様を待った方がよさそうだね。

そして思ったより使い勝手が悪い神気かもしれないと心の中で思ったのは内緒だ。


《ん?この神気、治癒だなそれにしても移動が速い、何かに乗ってるな》

と、そんな事を思っていたらゼプリバン様がそんな事を呟いた。

どうやら僕様はようやく動けるようになるようだ。


「サウス、ありがとう。しばらくそこで待っていてください。お待たせしたわね。あら?」

「…み」

そう言いながら部屋に入ってくるディニア様を見て、白は安心したようにぽてんと眠りについた。


「あらあら、私の半端な治療のせいで白ちゃんにまで迷惑をかけちゃったわね。カートスさんもごめんなさいね。すぐ動けるようにしますからね」

「お願いします」


背中に担いだメイデンメイスをそっと床に置き……うん、置いた振動で白達が起きちゃったね。

「みー…」

「ぴ!?」

「……!?」

起きた白はもそもそと動き、ディニア様を一瞥し、テン達のいる部屋の隅へと移動していった。


《おい行き遅れ!白にゃんを起こすとはどういう……あ、はい。すいません。ゴメンナサイ》

宿った黒剣に、殺気は微塵も感じさせないがディニア様の絶対零度の視線が突き刺さり、萎縮してしまうゼプリバン様。

駄目だよゼプリバン様、女性にそんな事言っちゃ。

というか殺気も言葉も使わずに神様を黙らせるのってディニア様にしか出来ないんじゃないだろうか…。


「言葉で『折る』と、不敬ですからね」

…ディニア様、心を読まないでいただきたい。

というか折るってなんですか!?


《…おい、カートス。気をつけろ。このババア怖いぞ》

わざわざ僕様にだけ神気で通信してくるほど怖かったらしい。

そんな神様に苦笑を浮かべていると、ディニア様が僕様の腕に触れた。


「なるべく早く終わらせます。集中したいので、オチビちゃん達も大人しくしていてね?」

「み!」

「ぴ!」

「……!」

白達が仲良く部屋の隅にピシリと整列するのをみて、良い仔ね。と優しい笑顔を見せたディニア様は、僕様の腕に触れたままその目を瞑る。


《お前の中の自分の神気を把握してるんだろう。治癒の神気は変質じゃなく変換タイプだからな。治癒の神気の場合、一度全部把握してそのまま抜きとるか、ただの神気から治癒の神気に変換した方が早い。今やってるのはそういう作業だ、そう時間もかからないだろう》


ディニア様の邪魔にならないよう僕様に直接説明してくるゼプリバン様。

変質と変換…、ならば、僕様の加護神だった戦の神ガトゥーネ様はどうなんだろうと、聞いてみた。


《戦の神は、変質でも変換でもない。神気を神気のまま使ってるんだよ。俺達みたいに神気がないと戦えないんじゃなくて、自分の武術、戦術の延長線として使いやがる。ガトゥーネは長い事やってたから結構神気だよりになってたから力を奪われたんだろうがな。己の研鑽を忘れない戦の神程怖いものはないぞ?なにせ、創世神も特例で『負けたら嫁に出来る』ってのを認めてたんだからよ。負けて神の座から落おとせば都合の良い次代の戦の神を据えれるからな》


自分の武術の延長戦で神気を使い、創世神が特例を認める程恐れる…?

ああ、そっか。今のイチナ君がまさにそれだった。

神気の扱いは戦の神に及ぶべくもないだろうけど、イチナ君は研鑽を怠った事はない。

ただひたすらに神薙流拳刀術(神と戦うすべ)を磨いている。

異世界人で異物扱い、狙われない方がおかしいよね。

しかし、都合の良い戦の神候補か…。少なくともイチナ君では無い事は確かだ。


「…ふう、終わりましたよ。もう動いても大丈夫です」

ゼプリバン様との会話で逸れに逸れていた思考が引き戻される。


「うん。確かに動けるようになったみたいだ。ありがとうございます」

試しに腕を動かし、痛みがない事を確認してからベッドから起き上がる。

大きく伸びをすると体からバキバキと音が鳴った。

白も見張っていたし、無理して動かなかったから体が緊張しているみたいだ。


「お礼はいいの。私の集中力が切れなければ、こうはならなかったのだから。やはり歳ね…。外も大変な事になっていますし、甘坂さんが我慢できなくなる(王真を斬る)前に行きましょう。サウスも、もう行きたそうですしね」

ディニア様の視線に釣られて扉の方を見てみると、少しだけ開いた扉からサウスの鼻がフンフンと遠慮がちにのぞいていた。


ディニア様は思い切り扉を開ける。

扉の先ではサウスが何かをくわえて待っていた。


《あれは、砂塵神剣!…のレプリカか。なるほど回収してたのか。…使えるな》

「それは良かったですわ、甘坂さんもカートスさんにとのことでしたので受け取ってくださいな」

「えっと、ありがとう」

多少戸惑いながらも、サウスから砂塵神剣レプリカを受け取り、黒剣とは反対側に帯剣する。


ディニア様は白達を抱き上げ、出て行こうとするのだが…。

抱きあげられた白が、何かを感じ取ったのか心配そうな目でディニア様を見つめているのが印象に残った。


そして、外に出た僕様達を待っていたのは、見事なまでにカオスに染まりきった戦場だった。


sideout





ファルナークside


今し方、最高速度でサウスがホームに向かって突っ込んでいった処じゃ。

使徒殿はようサウスの背から落ちんものじゃ。あれも神気の応用というやつかの?

しっかし、どうするかのう…。


「好きにせいと言われてものう…」


このまま筋肉共が消えるまで、漏れ出て来た兵を相手にまったりやっとってもいいんじゃが…。


「はいはい!僕もカートスさんの治療のお手伝いをしてきます!」

「却下じゃチビ助。せっかくイチナが殺さずの場を用意したんじゃから、おぬしは働け。実践回数が少ないお主のための場でもあろうしな」


後は、オウマに本気を出させ、宿した神々を味方につけるためのものであろうが。

そのせいでイチナが著しく弱体化しとる気がするんじゃが、どっちがいいのやら…。

チビ助の意見を却下し、我はソルファに意見を求める。


「ソルファ、どうする?このまま持久戦をしとってもいいんじゃが」

「…そうですね。それも一つではありますが、あの異形の獣達もこちらに向かって来ていますし。アンナさんの魔法で壁を作っていると動きづらいかもしれません。ですからここは、攻めましょう」


いつになくやる気なソルファの意見。

確かにあの異形の獣達の能力も分かっとらんのにあまり接近されるのは良策とはいえんの。

それに…。


《おや、攻め込まれるのですか?ならば微力ながら力をお貸しいたしましょう。どれぐらい時を止めましょうか?一時間ですか?二時間ですか?それとも速めます?…あ、巻き戻すのはお勧め出来ませんよ。巻き戻しには特殊な儀式が必要なので。それに私の回復上限を超えますし、使ったら10年は目覚めないと思ってください》


…時の神様もえらく協力的じゃしな。

というか、流石に反則すぎて使う気せんのじゃが…。

我は加護だけでも十分じゃったんに…。

そんなんでいいんか神様。


「アハハ…。時の神様は随分とアグレッシブなんですね…。こちらはさっきから愚痴ばっかりですよ」

そう言うソルファは、腰に付けた『イチナの次元袋』を軽く撫でた。


《ちくしょう…。酷過ぎだろイチナの兄貴は…。自分で「お前コレな」ってぶっこんでおいて忘れていくなんてさ…。扱い雑すぎね?袋に器作って、どうやって神気の回収するんだよ。袋で殴り殺すのか?それとも死体でも中に入れてくれんの?俺が嫌なんだけどそれ。というか袋の中に入ってるの煙草の吸殻ばっかりなんだけど!?携帯灰皿代わりにしてたのかよコレ!!俺が買って来た煙草にはほとんど手を付けてないし!…いいけどさ》


確かに、雑じゃったな。

ある意味人族に一番貢献しておられる次元の神が首根っこ掴まれ頭から次元袋に詰められるのを見るのは忍びなかったわい…。

じゃが、同情はせん。

そもそも、次元の神が、器にするなら我のショートパンツがいい。などとぬかすからそこに放り込まれたんじゃからな。

イチナが雑に扱う理由が分かった気がしたわい。


「タ、タヌァーカ様は、じご……そう!遊撃なんですよ。ほ、ほら、誰でも扱える次元袋に入れたのはイチナさんの仲間が皆扱えるようにする為で、皆さんを守ってほしいからだと思います!信用の証ですよ!」


《……マジで?そっか…、そっかー!や、俺もそうだと思ってたんだぜ?ま、それなら無理をしてでも信用に応えなきゃなるまい!神として、そう神として!ほら、俺って出来る男だし?手始めにソルファちゃんを守っちゃおうかなー……惚れるなよ?》


うむ、ソルファが何ともいえん顔をしておる。

ソルファも言いかけておったが、自業自得じゃよな。

まあ、次元の神様の気分も盛り上がった事だし言わぬが花じゃろう。


「では、ソルファはアンナと共にじゃな。我は光樹と行こう。何かあっても時の加護でフォローがしやすいしのう」

「そうですね。オウマさんはイチナさんに任せて、僕たちの目標はパレサート軍と冒険者たちの無力化と教会の殲滅といった処ですね。…どうしましょう、出来る気がしません」

弱気じゃのう。まあ、我もじゃが。


「だいじょーぶ!アニキーズの量産と同時に、アリョーシャちゃん直伝の戦闘要員(グルミーズ)も投入するから、軍隊の足止めはお茶の子さいさいだよ!問題はあのキメラだよねー。2匹しかいないし、神様の初陣ってことで各個撃破してみる?」


まだ出すんかアニキーズを…、もういいんじゃないかのう?

それにグルミーズのう…、動くヌイグルミという事じゃが創造の神の直伝というのが不安しか残らん。戦場のカオス度が深まる事待ったなしじゃな。

しかし、各個撃破をアンナから言い出すとは少しは成長したのかの。


《フフフ、あなた達は私達を宿したというのに、あの軍勢とまともに戦おうと言うのですね。私達を使えば一瞬で終わるというのに面白い人たちだ。私の力で戦場の時間を止める事もでしますし、タヌァーカの力で軍勢やあのキメラごと次元の狭間に落とす事も出来る。運命の神に至ってはそもそも戦う事になるという運命を書き換えてしまう事も出来るでしょう》


「…それほどの力があって何故イチナを恐れるんじゃ?」

《純粋に怖いのですよ。あの余波だけで神に死という感覚を思い出させる殺気は勿論ですが、イチナ殿は異常だ。この世界とは違う理というだけでは説明がつかないほどに。それに、この世界の理、そのあらゆるのモノへの耐性と言いましょうか…、それを戦いの中で身につけています。神気とて例外ではないのです。戦えば自分の力が通用しなくなる可能性がある化け物に挑むほど蛮勇ではないのです我々は。…例外はいますがね》

イチナ殿の場合は、その理不尽な力のベクトルが破壊に向いているから余計に怖いのですよ。トラウマというやつですね。と言葉を締めくくるクロノフール様。

例外とはガトゥーネ様のことじゃろうなぁ。


そう言えば、イチナのおじい様は時の加護を一瞬で破っておったな…。

加護と神の力は別モノじゃろうが、ああなるのかイチナも。

…うむ、当然の帰結じゃの。

っと、いかんいかん。大分話がずれたわい。


ひっそりと我に背を向けて逃げようとするチビ助を捕らえながら、アンナに声をかける。

チビ助が何やらわめいておるが、無視じゃ無視。


「アンナ。魔法を使うなら、はようせい。終わり次第、あのデカ物を狩りに行くぞ」

「りょうかーい」

そう返事をしながら、アンナは詠唱に入る。


この時思いもしなかった。

筋肉が跋扈し、ヌイグルミが乱舞する混乱極まる戦場に足を踏み入れる事になるとは…!


「と、敵からすればこんな感じかの」

「何言ってるんですかファルナークさん…」

「うぅ、帰りましょうよぅ」

「気にするでないソルファ。別に帰ってもよいが、防衛で頑張って貰うがよいのか?守りは攻めの倍きついぞ?まさか、か弱き乙女を置いて勇者だけが引っ込むということではあるまい?」

「……頑張ります」


神様の力を使えばなんとでもなるんじゃが、こっちから命令する訳にもいかんしのう…。

イチナは、よう雑に扱えるもんじゃ。


「終わったよー」

そんなアンナの声に振りかえれば、もう笑うしかない光景が広がっていた。


猿のヌイグルミが棍を振り回す第一部隊。

不釣り合いな爪を持つベアー種のヌイグルミで構成された第二部隊。

軽快なステップを踏む兎のヌイグルミ達の第三部隊。

デフォルメされどうやって飛んでいるかもわからない竜種で構成された飛行部隊。

新しく生み出され、スクラムを組むアニキーズ。

全てが神気混じりで構成されている。


その全ての指揮を執るのは、軍帽をかぶり、紙を黒く塗って作ったようなカイゼルひげを付けた二足歩行のティガー柄の猫のヌイグルミだった。

軍服を肩からマントのようにはおり、腕を組んでおる。

大きさは、他のヌイグルミが40㎝~50㎝なのに対し、猫のヌイグルミは白とほぼ同等の大きさしかなかった。


「………」

「………」

「…ワア、スゴイ」

上から順に我、ソルファ、チビ助じゃ。

…うむ、言葉もないわ。


「これ、大丈夫なんか?」

我は全員を代表してアンナに聞いてみた。


「ぬこ将軍(ジェネラル)に指揮は任せてあるから、だいじょーぶ!」

あの猫のヌイグルミはぬこ将軍と言うらしい。

ぬこ将軍に目をやると、どこから取りだしたのか、紙を丸めた筒を茶色く塗った偽葉巻をくわえていた。

心なしかダンディにさえ見える。

…いかんな、毒されておる気がするわい。


「さ、行こっか!」

「…そうですね」

「…お、おー」

「不安じゃ…」

下手に突っ込まずにアンナを守って、この軍勢で戦った方がいいのかもしれんのう…。


《えーと…、それで俺たちの出番は?》

《まあ、私は無理矢理作りますけどもね。お仲間達はイチナさん以外動けるようにしときましょうか……時よ!》

カオスな状況に気を取られておったら、クロノフール様が独断で時止めしてしまわれた。


戦場の時間が凍る。


sideout

意味のない設定


ぬこ将軍

創造の神により指揮能力を与えられたぬこグルミ。

能力名は『ぬいぐるみ大行進(カオスオーダー)』である。

カイゼルひげ(紙)と葉巻(紙)は将軍にのみ与え得られる名誉装備。

次回の登場は不明だが、作り手(腐敗・アリョーシャ)の気分で虎柄から別の猫に変更される可能性もある可哀想な仔。


四天王

ぬこ将軍を頭置き、ぬこ大佐(茶ぶち雑種モデル・たたき上げ)、ぬこ中佐(黒白のぶちストラップ仕様・頭にひもが付いている)、ぬこ少佐(ロシアンブルーモデル)、ぬこ三等兵(マンチカンモデル)の4匹。

階級に差があるのは気にしてはいけない。

基本、四天王は腰に割り箸鉄砲を装備しているが、将軍の命がなければ発砲は許されない安全仕様である(割り箸鉄砲のなので発砲してもダメージ皆無)

戦闘力はテン以上。…ようは白なみである。

戦乱の世では、日の目を見る事は恐らくない可哀想な仔達である。



久しぶりにあとがき書いた気がします。

まさに無駄設定ですが、ここに書かないと四天王が知られずに逝ってしまうので…。

また死に設定があったら書くかもしれませんが、御容赦ください。


byミスター

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