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猫守紀行  作者: ミスター
128/141

ロボットとは強制労働という意味である(モヤット知識)

イチナside


筋肉に囲まれ、精神ががりがり削られて逝くのが分かる。

無駄に固いので良い壁ではあるのだが、もう、なんか嫌になる。

筋肉の壁に果敢に突撃していく兵達を見て、いっそ初撃神気一閃の方が良かったんじゃね?と改めて思う。

取りあえず気合で抜けて来た奴等の手や腕、膝先などを斬り飛ばす。


「鬼いさん。自分で加減しろって言ってたよね…?」

「加減してるだろ。ちゃんと見ろ。………あ」

「あ、ってなに!?今、すごい間が空いたよね?」

いかん、これは心臓が止まりかけてる……フンっ!


「…ああ、うん。大丈夫だった。ほーら、死んでねぇ」

「…何で心臓殴りつけて蘇生させてるのさ!?死なせてやろうよ!?」

おいおい、王真君。死んだら終わりだぞ?この兵士はこの状態から起死回生の一手を考えているんだ。そっとしておいてやろうな。


「イチナよ。ここまでやると死体判定じゃ。もう少し加減せい…全く。ん?なんぞ言うとるぞこの兵士。どれ遺言か、聞いてやろう」

そう言ってルナは兵士に近づき、耳を傾ける。


「…ろ、ろーあんぐるからの…ホットパンツ…御褒美、です」

「……そうか介錯が欲しいか承った」

ルナは慈愛の表情で、敵陣まで届けと兵士を蹴り飛ばしたのだった。

「ありがとうございまっ…!」

…介錯にしちゃ雑すぎねぇか?いいけどよ。

つうかあの兵士、見事な錐揉み回転だったな…。

あ、筋肉の一人に捕まった。…止めだな、精神的にも。


「ハハハ…。ま、まあ、イチナさんは取りあえず殴るだけで良いと思います」

「むしろ、鬼さんは動かないでくださぃぃ!」

「うーん…。右翼に突出したアニキ達の動きが鈍いかな?あんまり離れるとアリョーシャちゃんの影響下から出ちゃうのかな…。要検証だね!」


壁を抜けて突出してくる兵達は少ない。

それこそ、あっという間に片が付く。

だからこそ俺達も若干一名を除いて余裕があるのだ。

まあ、スクラムを組む筋肉共を相手に抜けて来る奴等の気概は中々に凄まじいものではあるが。


「はいはい、了解だよ。さて、ばあさんは王様殺してねぇだろうな?…ん?」

そう口に出し、ばあさん達の居る場所へと視線を向ける。

……サウスに跨り、今にも駆けだしそうなばあさんと目があった。つうか駆けだした。

敵陣ど真ん中の一番兵力的にも厚い場所から一直線に速度を緩めずこちらに向かって来ている。

何故分かるかって?だって、走っている場所の血飛沫がひでぇから。

恐らくサウスは肩に魔力刀を形成して、それをもって血路を切り開きながら走っている。


誰よりも自重していないサウスの姿がそこにはあった。

そして、その上で微かに笑う老婆が不気味だった。

その後ろから黄助とマキサックがなだれ込む敵兵を上手くあしらいながら追走しているのが見える。

黄助はパー子にしがみついているので動きが鈍るかと思ったが、パー子への配慮もしながら余裕を持って戦っている。

問題なさそうだな、ありゃ。

しっかし…。


「サウスめ。あんなに暴れやがって羨ましい…。速くて一瞬しか認識できなかったな。ばあさんも動いたから教会も動きだしたか?」

「そのようじゃの。教会騎士もあの不格好な獣も動きだしたわ。…羨ましいというが、決めたのはイチナじゃからな?今からでも暴れるかの?」

そりゃ駄目だな。


「…まあ、あれだな。俺はともかく、腐敗やチビ助が精神的に耐えられんし。王真君も戦力にならなくなっちまうしねぇ」

勝てないとは言わない。

神気やら神様やら、兵力差を覆すものはかなりオーバー気味に揃ってる。

だが、これから殺戮するんで力を貸してくれと言って本当に貸してくれるのはガトゥーネや波平、あと一匁くらいだろう。

なかば脅してるようなもんだからなぁ、あの駄神達は。


でもまあ、教会は殺っても良いよねぇ?あの獣とか相手の士気を落とすにゃ恰好の的だし。

さあ、王真君スナイプの時間だ。


「王真君。砲撃準備……聞いてっか、王真君?」

「イチナさん!オウマさんが!」

え?なに?流れ矢にでも当たったの?そう思って王真君に振りかえると…。


「……!……!?」

声も出せず、頭を抱えて蹲る王真君の姿があった。

おい、本当にどうした。


まさか…!


「……筋肉達に精神を持ってかれたか!?なんて兵器だよあの筋肉共…!」

《馬鹿な事を行っている場合か!》

うん、すまんガトゥーネ。

あんまりにも予想外な王真君の姿にちと動転したんだ。


《あれは、どこかから干渉されているぞ。創世神が命令権でも行使したのだろうが、それだとここまで抵抗できないはずだ…。恐らくは教会側に一部譲渡したのだろう。…構えろ一南、命令に抵抗できなくなったようだぞ》

ガトゥーネがそう言った直後に立ち上がった王真君の表情は、いつか見た心を殺した無表情。

…いや、それよりも性質がわりぃな。


「………」

「くはっ感情の揺らぎどころか目に光りすらねぇ。ロボットかよ。状態異常ロボ化とかあんのかこの世界……あん?」

いきなり抜刀されても反応できるようにクロハの手綱を握り構えてはいたが、どうもおかしい。

王真君の空っぽになった瞳には俺が映ってはいない。

その眼が追っているのは、サウス……いや、ばあさんか?

しかし、捕捉しきれていないのか視線はふらふらと彷徨っている。


棒立ちだし、今の内に沈めておくか。


「敵意を感知。任務遂行の障害と判断。排除行動を開始する」

その言葉には見事なまでに抑揚がなく、素敵な棒読み。まさに王真ロボだった。

敵意を感知ってお前…、王真君こんなのばっかりだなぁ…。

そんな事を思いながら、クロハの手綱を引き、ロボ化した王真君の一刀目をかわす。…もう王真ロボでいいや。

俺は手綱を緩めながら声をかけた。


「ルナ!ソルファ!そっちは頼んだ!取りあえず好きにやってくれ。俺は王真君を何とかするわ」

そして、ルナ達の返事を待たずに、次を放つために王真ロボが構えを取る。


「さて、『ノーディス』クロハの剣角に居を構えたんだ王真君の斬撃を防ぐくらいやってのけろよ」

《もちろんです》


次の瞬間放たれた王真ロボのクロハの首を狙った斬撃は、ピンポイントで張られた神気障壁によって止められるのだった。


sideout




運命の神side


私、運命を司る神ノーディスは、バトルホースであるクロハ殿の刀に似た剣角に宿された。

剣角は武具ではなく骨である。本来、体の一部であり、憑代にはならないはずでした。

しかし、一南と共に戦場を駆け、数多の敵を魔力をその剣角で吸収し不可侵竜をも喰らってきたクロハ殿の『器』は、自前の魔力では満たしきれないほど大きなものとなっていました。

私はそこに目を付け、自ら志願し空いた器に入りさらに拡張、そこを神気で満たしたのです。

体に直接神気を入れると毒になるが、器から滲み出る神気は己が力となる。

今のクロハはバトルホースのクロハ殿では無い。

『神馬クロハ』なのです。



《もちろんです。斬られる運命があるのならば、それを覆すもの容易いものです。それにクロハ殿にも力に慣れて貰わないといけませんからね》

…いや、すこし大きく出すぎましたか。


私の運命を操る力は、高平殿がイチナ殿に近しいせいか、それとも私がイチナ殿の近くにいるせいか、ほぼ役に立ちません。

先ほどの高平殿の剣閃は、放たれた刹那に運命を読み取る力を集中させ、クロハ殿に伝達。神気障壁の張り方は事前に教えてあったため、それを小規模にするための補助を行い防ぎきったに過ぎません。

…本来ならば攻撃が当たるという運命を書き換えてしまう事も出来たのですが…。

何とも上手くいかないものですね。

これから、色々と神気の応用も教えながら共に歩みたいものです。


キリキリとピンポイント障壁と高平殿のシャムシールが鎬を削る。

神気障壁の強度は十分ですね。クロハ殿は中々に筋が良い。


均衡していた状況を破ったのは、いつの間にか一匁を抜き放っていたイチナ殿だった。


「ほったらかしは寂しいねぇ」

そう笑いながら心にもない事を言い放ち、馬上より刃を返したカタナを振り下ろす。

いわゆる、みね打ちというやつですな。それにしてはシャレにならない風切り音がしたのですが…?

それに気付いた高平殿は、弾かれたように後方へと飛び下がる。


「どんな事情があるかは知らねぇが、どうせまた面倒事だろうなぁ。まあ、操られちまったもんは仕方ねぇ……取りあえずボコりゃ大人しくなんだろ。追撃だクロハ」

「ヒヒーンッ!」

イチナ殿から発せられたのは、耳を疑うような一言だった。

そしてそれに同意するように嘶くクロハ殿…。

いくら命令権で従うしかないとはいえ、高平殿に同情したくなりますね…。



クロハ殿が神気を使えるようになり、さらに上がった機動性と防御力。

そして、イチナ殿の剣技の合わさった馬上戦術は見事なものだった。

終始、機動力に長けた高平殿を押しています。

イチナ殿いわく、普段の高平殿であれば、馬上でこうも上手くは立ちまわれないとのことだ。

恐らく命令権の強度を強くする事を考えて、命令は単純なものなのでしょう。

だからこそ、その命令を遂行することが一番と考えて、柔軟な発想というものが生まれない。


元々、命令権は使徒に強制的に命令を効かせるもの。

思考や精神を眠らせ、命令完遂まで強制的に一時的なマインドコントロールを行う馬鹿げたものです…。

それではクロハ殿とイチナ殿の相手は無理でしょう。


「甘坂さん。王真で遊ぶのはほどほどにしてくださいね?それと、くれぐれも斬らないようにお願いしますわ。もし斬ったら……ね?」

突如として風が吹き、イチナ殿の背後に銀色二尾のサウス殿に乗った治癒の使徒が現れた。

私は高平殿に動きに注視していたため、気付けなかったようだ…。


「ね?じゃねぇよ。怖ぇんだよ、ばあさん「目標捕捉」…サウスじゃねぇな。やっぱ、ばあさん狙いか」

治癒の使徒を視界に収めた瞬間、高平殿はクロハ殿とイチナ殿を飛び越えるように跳躍。

神気を使っての爆発的な機動力で治癒の使徒殿に迫る。

シャムシールを持っていない方の手を伸ばし、治癒の使徒殿を捕まえようとしている。


「…そりゃ通らんよ。波平!」

《御意》

イチナ殿は刹那で一匁を左手に持ち替え、もう一方の神剣を抜き放つ。

それを振るうと同時に、その切先からは鞭のように伸び空中で高平殿を捕らえ、更には治癒の使徒殿とは正反対の場所へと引きずり降ろしながら地面へと叩きつけた。


「あらあら、流石ですね甘坂さん。普通は反応出来ませんわよ」

「波平。しばらく拘束しとけ。まあ、別にほっといても良かったんだけどねぇ。サウスが避けれねぇ訳がけねぇし。…つうか老婆にダイブする王真君とか、筋肉以上に俺の精神によくねぇんだよ」

なんの精神攻撃だよこれ。と呟くイチナ殿。


そういう事ではないというのは彼にも分かっているのでしょうが、どうにも我慢できない事柄のようですね。

しかし、拘束しただけでは命令権は消えない…。

命令を完遂しなければ、死ぬまでその命令に縛られる。

イチナ殿はどうするつもりだろうか?


「まあ、拘束してくれたのなら助かります。私は一度カートスを治しに戻ります。そのあとは、王真に捕まり教会本部へと向かおうと思います。そうしないと命令権も解けませんしね。あちらに着いたら神気で座標を送りますわ。……腐った教会は根から潰さねばなりません」

「…正直、その決断に嫌な予感しかしねぇんだがね。まあ、ばあさんがそう決めたなら止めねぇよ。つか、やっぱりこの状況は教会のせいなんだな。あ、そうだカートスにコレ渡しといてくれ。ゼプリバンを宿すならこいつも使えんだろ」

そういってイチナ殿は次元袋から『砂塵神剣レプリカ』を取り出し、使徒殿に投げ渡した。

確かに承りましたわ。と返事を返し、サウス殿に乗ったままホームへと消える使徒殿。


使徒殿が視界から消えると同時に、高平殿が暴れだした。

…神気での拘束に罅が入り始めている。やはり高平殿もイチナ殿と同類のようですね。


「目標ロスト。敵性対象からの逃亡、不可。敵性対象を撃破後、捜索、確保に移る」

ふむ、イチナ殿からは逃げられないというやつですね。分かります。


「いや、逃げようと思えば逃げれるだろ。そもそも誰に報告してんだよ王真くんよ」

《高平王真…。もはや正常な判断が出来なくなっているか。いや、一南に挑んでくるという事は、介錯を求めているのか?確かに死ねば命令権は消えるか…、潔し》

…えっ!?

介錯?潔し?…ガトゥーネ、絶対に違います。

むしろ高平殿は敵として見ていても、イチナ殿とは認識していないでしょう。

単純な命令の命令権は、そういうものです。


拘束され地面に転がっていた高平殿は、罅の入った神気の拘束に己の神気を込めて砕く。

そのまま跳ね上がるように飛び退き、シャムシールを鞘に収め構えを取った。


「抜刀」

高平殿がそう呟いた瞬間、神気の砲撃が視界を塞ぐ。


「飯だぞ、喰い斬れ一匁!」

《メシ?メシー!》

神気の砲撃に、一匁の中にいる神が歓喜しながら喰らいつく。

ズゾゾゾゾとなるはずのない音を出しながら、神気の砲撃をすすっていく一匁。


「……どっから出てんだよこの音。前から思ってたが、変な方向に育ってきななぁコイツ…」

どこか遠い目をしながらそう呟くイチナ殿。

どうやらイチナ殿も予想外の食欲だったようですね…。

高平殿も諦めたのか、砲撃が途切れる。


いつでも踏み込めるように構えを取った高平殿がそこにいた。


「ま、こっからが本番だよなぁ?さて、斬らずにどう倒すかねぇ…。ばあさんも無茶を言うわ」

《ケプッ》

《一匁、食べすぎは体に良くないぞ。波平も何か言ってやれ》

《むしろこっちにも回して欲しかったですな》

「ブルルッ!」

…そうですな、ガトゥーネと波平殿はクロハ殿の言う通りもう少し緊張感というものを維持して欲しいものです。


「…ククッ、ま何とかするかね」

皆さんの掛けあいに余計な力が抜けたのか、笑みすら浮かべるイチナ殿。

そして、高平殿の踏み込みと同時にクロハ殿を走らせるのだった。


sideout

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