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猫守紀行  作者: ミスター
118/141

一南、ガトゥーネの選ばせる選択

一南side


「あん?ここは……ここ何処だよ。なあ、ガトゥーネ…」

腰にあるはずの刻波と一匁時貞がない…。


むしろ、俺の装備はこっちに来た当初の姿だった。

Yシャツにジーンズ、靴はごつい作業靴。見事に一般人だ。



空は何処までも高く、雲一つない透き通った青さ。

それに対して足元には、血のような色の水が…、鉄臭ぇし血だろうけどな。

それが見渡す限り何処までも続いていて、歩くたびにピチャピチャと不快な音をたてる。


見える範囲に建造物はなにも無く、ただそんな光景だけが眼前に広がっていた。


なにより歩きにくい。

なんか地面に、球体がごろごろしてるようだ。

赤い水のせいで全く見えねぇが。

…あえて血とは言わんぞ。


「…訳分かんねぇな」

《ここは牢獄だ異物よ》

声?…ざっと見渡したが姿が見えねぇ。

ガトゥーネや波平と同じ思念波ってやつか?

ちと違うか、空から響いて来たようだったしねぇ…。


俺は空を見上げ、問いかける。


「誰だ、テメェ…」

《我は創世神。その分霊体。そしてここは貴様にとっての牢獄だ。足元を見るがいい》


創世神……偉い奴的な覚え方しかしてねぇな。

確か、邪神に対を成す神だったか。


そういや、王真くんの上司(?)だったな。

イイねぇ、そんなのに目を付けられてたのか俺。

しかし、足元?赤い水でさっぱり見えねぇが?


《赤き水は、貴様の闘争で流れた血。踏み締めているのは貴様が関わり命を落とした骸達だ》

やっぱり血なのか、あれか日本の地獄をリスペクトでもしてんのか?


「血の池かよ…。地獄の模倣か?それならもうちょいクオリティ上げようぜ。地獄の鬼くらい用意しとけ。しかし、骸骨だったか。道理で歩きにくい訳だねぇ……砕きながら歩くか」

足に氣を集め……られねぇ?いや、俺の体から氣自体を感じられねぇ!?


《異物よ。貴様の脅威である命の力。それは肉体に宿るものだ。今の貴様は精神のみで構成された精神体。命の力を扱える道理は存在しない》


「…神が道理を説くんじゃねぇよ、アホウが。道理なんぞ欠片も無いのが神だろうが、ぶっ飛ばすぞテメェ」


とは言ったものの、見えない相手に殺気飛ばすのも虚しいものがあるな…。

さて、そろそろ姿の見えないコイツとの掛け合いも飽きてきたし、出口はどこかねぇ…。


《……やはり異物。この世界には不必要な存在だ》

「へぇ、そいつはまた、面白れぇなぁ…。不必要なら俺を消すか?それなら是非とも姿を見せて欲しいねぇ。どんな姿だったか覚えておいてやるからよ」


氣も使えず、刀も無い。

精神体って言ってたし、服を着てるだけでも儲けもんか?

まあ、体は動くし、感覚も変わらねぇ。

それに棺桶じゃなく牢獄だ。

どっかに出口はあるんだろう。やれるだけやりましょうかねぇ…。


《人の精神を消すのに神は不要。牢獄と骸の力があればよし》

「骸の力だ?なんの事だよそりゃ。…ああ、なるほどねぇ」


足元、いや、血の池全体から灰色の靄が立ち上り…、灰色だけじゃねぇな黒いのも混じってるか。

その靄のそれぞれが人の形を作り始める。

1000や2000じゃ済まない。

ざっと見た感じ、1万くらいは有りそうだ……俺、こんなにやったかねぇ?



「…幽霊ってやつか。悪霊かね?明らかに覚えがない奴等まで混じってる気がするんだが?」

半裸の軍隊なんぞ見た覚えはねぇぞ俺。

まるでローマの剣闘士の軍団だ。

それ以外は、まあ、見たことのある鎧だし、斬ったんだろうな俺が。


《今、貴様の体には疑似人格が入れてある。本来ただ狂うためだけに用意した、シンプルで強固な疑似人格だ。それが貴様の体に振り回され、疑似人格であるに係わらず精神が砕け散った。有りえない事だ》


聞いてねぇし。

そもそも、人の体に何してやがる。


《見覚えのない骸は、この世界で強靭な精神力を誇った『人間』たちの物だ。信仰深く、戦士として優秀な者を選んだ。彼等には、いや、全ての霊には貴様の精神を消すか乗っ取れば、体は違えどもう一度人生を送ることが出来ると言ってある。色が濃いもの程、絶望、悲しみ、怒りなどの感情が強い。肉体という盾無き貴様に、死者の妄念は堪えられぬ》



《異物よ。貴様は己の犯した罪に砕かれるのだ》

反論しようとした矢先、背後から左肩に触れる何かがあった。


「ぐっ、がぁっ!?」

斬りおとされたかのような激痛。

クソ、気配がねぇ!


{…左腕、貰った}

そう頭の中に響く。

左腕の感覚がないのに目の前でピースサインをする俺の腕…。

へし折りたくなった。


それを皮切りに殺到してくる悪霊共。

取り敢えず、蹴りを放って薙ぎ払う……なんだ通じるじゃねぇか。


{これは俺の体だ…。俺の、体だ!}

いや、普通に俺のだろうアホウかコイツ。

だが、俺の左腕を使って他の霊を近づけまいと暴れる中の人。


「ぐおっ!?テメェ勝手に動くな!…やっべ!?」

勝手に動く左腕のせいで、体勢が崩れ体全体に大量の霊がぶつかって来た。


「ぐがぁあああああっ!?…テメェはくんなボケェ!禿げるだろうが!」

最後に頭に憑りつこうとした頭の天辺が薄い霊にはヘッドバットで退場願い、なんとか頭だけは守った。

髪の毛が有るか無いかで、狙って来る箇所が違うとかマジヤメロ。


各々が勝手にしゃべるから相当喧しい。

だが、今度は自分の主権を守ろうと他の霊から逃げてくれるのは有難い。


…クッソイテェ!しかし、この感覚あの時に似てんな。

魔剣の魔力に体が操られた時と…、いけるか?

氣は無いが、代わりのものが体に充満してるし。

まあ、意志はあるけど磨り潰せば問題ねぇよなぁ?


「さあ…。やってみようか。まずは体からいってみようねぇ?」

氣を廻す要領で胴体に憑りついた、アホウを廻す。

よし、圧縮もかけてみよう。


{あ?ああ、なんだ?回る、廻る、捻じれる!つ、つぶれ…!や、ヤメローーーーー!!}

体に憑りついた霊から叫び声が聞こえる。

おう、成功か。俺に憑りついたのがわりぃんだ、色々と諦めろ。


さ、この調子でどんどん行こうか!





最初に体に入って来た奴等は一か所に一纏めにした。

霊達の阿鼻叫喚にはもう慣れた。

だが、切りがない!入ってきては、また潰しをさっきからずっと繰り返している。

憑りつかれる痛みは慣れればどうってことなくなっていた。


いい加減外に出さねぇと拙い気がする…。

…俺も精神体らしいし、悪霊まで存在出来るこの空間。

もしかして、氣と違って外に放出しても消えねぇんじゃねぇだろうか?


その間にも向かって来る悪霊達を迎撃しつつ、右手のひらに体の中で回し圧縮した霊の塊を出してみる。


「おお、ボーリングの球みてぇだな…」

その光景を見て、こちらに向かって来ていた霊達が足を止めた。

主に俺に戦場であった奴等が。



《精神体の身で、霊の残った意識さえも磨り潰しただの塊に変えるとは、死者への冒涜が過ぎるぞ。異物よ》

「なに言ってやがる。死者が生者に勝てる訳ねぇだろ。そもそも、テメェが俺をここから出せば、テメェの言う死者への冒涜ってのも終わるんですがねぇ?」


…返答は無しか。

なら、どうやってここから出るか考えつくまで、ちいと遊ぼうかねぇ?


霊共が密集している地帯に手に持った悪霊玉1号を血の池の水面を滑らせるように投げる。

悪霊玉1号の直線状にいた霊共は絶叫を上げながら粉砕していった。


「さて、幽霊共。俺が思いつくまで的当てでもしようか。…選べ。的になるかボールになるかを」


イイ笑顔でそういう俺を恐怖の表情で見る霊共。

おかしいねぇ?霊達の色が今の一瞬でほぼ黒に染まったんだが、なんでだろうねぇ?


俺に憑りつくイコール今持っている自我を失い他の霊と一緒くたにされ、塊にされる。

こいつ等が自我を失う。それは二度目の死を迎える事になると同じだと気づいた様だ。

姿は見えないが、創世神の分霊体も若干引いたのを感じた。


「…選べっつったろうが。じゃあお前等がボールな。そこら一帯が的で行こうか…」

俺が一歩踏み出すと大量の霊が後ずさる。


取り敢えず、コイツ等を全て粉砕すれば創世神の分霊体を引っ張り出せるかねぇ?

まずはそこを目指してみようか。


「さあ、遊ぼうか、悪霊ども。怖くない、怖くないからねぇ?クハハハハッ!」

ちいとばかし痛みを伴うが、その程度で壊れるようなら神になんぞ挑めやしねぇんだよ!


漆黒(絶望)に染まる霊達には悪いが、ちいとテンション上がって来たぜ?


Sideout





王真くんside


僕はあの後、すぐに皆と合流して事情を説明。

鬼いさんを横抱の状態で教会に向かっていた。


「あの…。高平さん。その…」

僕の後ろを走るソルファさんから声を掛けられる。


「イチナさんの体から黒い靄のようなものが、出てきているのですが!?」

「なんじゃこれは!?だ、大丈夫なのかイチナは!?」

「あわ、あわわ…。鬼さんから黒いオーラが…!これが狂化の力でしゅか!?」

「……やーい、…噛んでんの。…恥ずかしー」


「……え?」

その言葉に思わず立ち止まり、首だけ回して鬼いさんを見ると、黒い靄が僕の頭を掠めた。


{…助けて!鬼が…、鬼が…!}

{成仏する!だから塊はいやだぁ!}

{二回も死ぬなんていやだぁ!}

{無理だ!アレに勝つなんて!死にたくない!}


流れ込んでくる、ひたすらな恐怖。

僕を掠めた靄は、そのまま空へと消えて行った。


「ちょっ!?ヘタレ王子、大丈夫!?」

「安奈さん、その呼び方止めて…。なんかさ、凄く恐怖している事だけは伝わってきたんだけど…」


《霊魂だな。しかし、霊が憑くような予兆は無かった。それなのに何故、一南の中から逃げるように霊が飛び出してくる?一南の中で一体なにが?……!これは!》

……霊、なんだよね?死にたくないってどういう事さ。


ガトゥーネさんは何かに気づいたのか?

この思念波、皆にも聞こえるようにしてくれるとありがたいな。

僕が通訳しないと駄目なのか…。


鬼いさんは面倒臭くてやらなかったみたいだけどさ。


《一南の中から創世神の気配がする!だが、力が小さい。高平殿の神気が近すぎて今まで気づかなかったが…。本体ではないだろうが、この霊は創世神が一南の中に呼び出したものか、精神体を攻撃しているとしたら拙い!狂化が治っても精神が壊されてしまっては…!》


創世神…!

使徒である僕に一言もなしに、か。

僕がいつまでもやらないから業を煮やしたかな?


言われれば止めたのに。


鬼いさんの精神を壊すなんて、絶対無理だって。


鬼いさんは、すぐ心が折れる僕とは違う。

間違いなく五一お爺さんの孫で、正しく理不尽(アマサカ)なんだから。


「心配しないで。鬼いさんはそんなに軟じゃない。それに…」

黒い靄の出て来る量が時間を重ねる程に増えていく。

…うん、理不尽は精神体でも理不尽なんだよ。

きっとこの霊たちは鬼いさんの被害者に違いない。


「…鬼いさんは、甘坂なんだよ。僕達は僕達の出来る事をしよう」


《しかし…。…いや、分かった、早急に神託の間へ。狂化は必ず解いて見せる。一南にもそう言ったのだからな》


「…あの、もしかしてガトゥーネ様と会話しているのですか?もしかして重要な事では?その黒い靄は一体…?」

そう問いかけて来たのはソルファさん。

そうか、ガトゥーネさんとの会話が聞こえていたのが僕だけなら心配だよね。


「教会に向かいながら話すよ。少し急ごう」


僕は皆を促し教会へと足を速めるのだった。





僕達が教会の前につくと、そこには誰もいなかった。

でも、教会の中からは気配がする。

神との交信が可能な教会。すがる者にとっては最上の避難場所なんだ。


「…思ったより気配の数が多いのう。一般人も居るかもしれんな。じゃが…」

「はい、でもイチナさんを治すためです。行くしかないです」


ファルナークさんの言う通り、その可能性は高い。

でもソルファさんの言う通り、行くしかない。

…駄目だな、僕はまだ嫌われることを怖がっている。

これだから利用されるんだろうね…。


「それ、なんか問題あるの?なんだったらアニキーズでも出そうか?虎の子の触手でもいいよ!」


「止めてください。お願いします」

僕は安奈さんの提案に、即答でお断りを入れる。


それ、なんか問題あるの?か。

この子、実はものすごくメンタル強いんじゃないだろうか?

でも、アニキーズや触手って発想は、ヤバいです。


「あ、あの!僕が先に入ります!僕なら、教会騎士さんもいきなり襲いかかってくる事は無いと思います…。僕、シーバンガの勇者ですから!」


ああ、確か、にっ!?


「アァァアアアアァァ!!」

拙い、鬼いさんが、起きた!?

鬼いさんを縛っている神気の縄がバキバキと音を立てて壊れていく。

もう少しなのに…!


すぐに神気の縄を治していく波平さんとガトゥーネさん。

これは、時間が無い!


ここで暴れられると僕だけじゃなく皆にも被害が及ぶ!


《…拙いか。高平殿!》

「分かってる!皆、先に行く!神託の間で会おう!」

そう言って、僕は駆け出そうとした瞬間、横抱きにしていた鬼いさんの体が消えていた。

…何処に!?


「み!」

「ぴ!」

「…!」

「グルガァ!」

「……あーれー」


チビーズとパー子ちゃんを背中に乗せた黄助が、横から鬼いさんの体を刻波ごと絡め取り、氣を使った移動術を連発し、門を爪で引き裂きそのまま教会の中へと走り去る。


「……え?」

お、驚いた…。凄い技量だよ、黄助。

鬼いさんと契約ラインが繋がってるせいか、氣の運用もスムーズだし。

確かに、あれは短距離なら僕よりも速い。

ちゃっかり白やガトゥーネさんも連れて行っているから神気の縄も心配はない。

それに、神の呼び出しも可能だ。


「高平、何を呆けておる!急いで追うぞ!邪魔者は蹴散らして進む!続け!」

「黄助は神託の間に向かったはずです!行きます!」

黄助に続かんと鬼いさんの嫁二人は、引き裂かれた門を更に蹴破り瓦礫にしながら中へと消えていく。


「ちょっ!?…無茶が過ぎる!……安奈さん、魔法の準備を。一般人が向かって来たら申し訳ないけど魔法で抑えて」

「え?いいの?リョーカイ!」

「僕の出番が…」


《メシー?》

まだだよ…。

僕達は急いで神託の間に向かって、砕け散った教会の門を潜った。





ガトゥーネside


私は黄助に一南ごと教会に連れ込まれたわけだが…。


こうやって見ると教会も中々厳かな造りをしている。

だが、私はどちらかというと戦場の天蓋の方が好みだ。

…そう言えば、神の時も中々感性の合う奴がいなかったな。


「うわああ!モンスターが入り込んだぞー!」

「騎士様ー!」

一般人が多いな。

見事に大混乱だ。蜘蛛の子を散らすように扉から一般人が離れていく。


「魔導師はいないのか!」

「ここには最低限の護衛しか残ってないぞ…!」

ふむ、小声で一般人にまでは届いていないだろうが、迂闊だな。

もし聞こえていたら収拾がつかなくなっていたところだ。


「迂闊に手を出すな!人質を「アァァアアアアァアア!」…。…くっそウイップティガーか!気を引き締めろ!」

騎士は、一南の咆哮を聞いて、無かったことにしたようだった。

気持ちは分からないでもない。


《主殿が人質ですかな?解放したらそっちの方が拙いのですが…》

「……私、…人質?」


人質とはパークファの事……ではないだろうな。

どちらかというと敵性テイマー扱いかもしれんな。

どちらも、人質とは程遠い存在ではあるが。


しかし、教会騎士は10人ほどか。

高平殿との戦闘を見る限り、一南を解放した場合この程度の戦力では時間稼ぎすら出来ん。

もっとも、治すまで拘束を解く気は無いがな。


《黄助、聞こえているな?》

「ガウ」

《今は、こいつ等に構っている暇はない。すぐにファルナーク達も来る、行け!》


教会は大体同じ作りになっている。

大きかろうと小さかろうと、言室と神託の間の位置はそう変わらない。

そう人の間での決まりごとが出来ている。

神には関係は無いのだが、今はその決まりごとが助かる。


「…グルガァアアアアッ!」

私の言葉に咆哮し、四肢に力を込める黄助。


「ほ、吼えた!コイツ凶暴だ!騎士様!」

怯える民の声を聴き、騎士たちが動き出す。

ガチャガチャと鎧を鳴らし、たった10人で民を守ろうとする気概は良し。


「…防護陣形を取れ!民に被害を出すな!……見ろ、奴の背中を!あの小さな白いフワフワを!あの仔をティガーの餌にする訳にはいかん!!!」

「「「「「「「「「……おうっ!!!!」」」」」」」」」

「み?」

「……私は、…無視?…よよよ」


異様に士気が上がったな、馬鹿しかいないのか?

背にはパークファもいるだろうに、全く…。

だが、お前等の相手は黄助では無い。


「イチナ!!」

「イチナさん!」

教会の扉を粉砕して、突撃して来る二人。

その後ろには高平殿や、他の面々も確認できた…。

…安奈が詠唱している、だと?…終わった。また見たくも無い絡み合いか。


《これ以上ここにいる事は精神的に許容できん!行け、黄助!》

騎士達の視線がそちらに向いた一瞬で、黄助は全ての騎士を置き去りにして神託の間へと突撃した。





神託の間の扉が見える。

一南には、神気で猿轡を作り噛ませてある。

流石に一南に叫ばれていては、神も出てこないだろうしな……ん?


…何故、扉が開いている?

いや、この流れてくる神気は…。

まさか、呼んでもいないのにすでに、(バカ)が来ているというのか!


黄助が神託の間に入った瞬間、扉が閉まり、(バカ)が姿を現した。


「ようこそ、我等が白たん。…ずっと見ていました」

お前か、見識の神(覗き魔)

どうせ、白を覗いていて我先にと無理やり降りて来たのだろう。


いつも付けているローブを着ずに神官服に近い服を身に纏う神。

紫の髪に、同色の瞳。

髪は肩口ほどまでだが、キッチリと切り揃えられている。

自分で造りだした補助神具『天里眼』という名の眼鏡をかけたその整った顔立ちは、私から見ても知的で美しいと思える。


白が関わらなければ神達も有能なのだがな…。


…そういえば、コイツは一南の監視役もしていたな。

白ばかり見て、監視はほぼしていなかったが。


《久方ぶりだな、見識。早速だが、教えて欲しい事がある》

「フフフッ矢張り先回りして正解でした。生白たんは良い…」

《おい聞け、マイガート。切望していたものが目の前にあり、我を失うのは分かるが、こちらも火急だ》


ようやく私の思念波が届いたのか、こちらを見る見識の神マイガート。


「分かっています。『見て』いましたから。その蛮族の事ですね?放置でいいのでは?神に立てつく愚か者に創世神が下した神罰じゃないですか。それより出てきたらどうですか?ここなら体を形作る事も出来るでしょう。ああ、足りないのは魔力でしたか、これでどうです?」


マイガートが指を鳴らすと神託の間に充満していた神気が高濃度の魔力へと変換される。

私はその魔力を使い、久方ぶりに刻波の外へ出た。


「…すまんな。「み!?」そう驚かないでくれお前達。…それと、マイガート。ただの神気で傷を埋め、それが一体化した場合、人を止め、半神として狂気に狂う。そのはずだったな?」

突然刻波から出て来た私に驚くチビ達を一撫でし、マイガートに問うた。


「本当にガトゥーネは、神から精霊に堕ちても相変わらず偉そうですね…。しかし、驚いた白たんもいい…」

いいから早く話せ。


「確かにその通りです。ですが、確かにこの症状はおかしいですね…。まるで蛮族の意識を感じない。それに何故、止めどなく絶望した霊魂が溢れてきているんですか?…この蛮族の中の創世神の分霊体が原因ですか?もしそうなら私達に頼るのはお門違いなんですが。世界の意志だと諦めてはどうでしょうか」


そう言うと、マイガートの目が虹色に輝き、一南を『見る』


「ひっ!?」

おい、何を見た。


「ほ、放って置いてもいいんではないでしょうか?というより放って置くのがベストだと思います。神々の為に」

…本当に何を見た?顔色が今まで見た中で最低だぞ。


「諦めるという選択肢は、私には無い」

「…私には見る事しか出来ません。もう見たくないですし、知識の神を呼んだ方が良いでしょう」

確かに、知識の神は呼ぶ必要が有るな。

一南を治すために必要な神をピックアップしてもらわねばならん。


「そういえば白たんに報告をしていませんでしたね。白たんは、白亜教の信仰対象となりました。信仰をひたすら集めて創世神に認定してもらえば、客人として神域に入ることも可能になります。お勧めです。…白たん。名残惜しいですが、私はこれで…」


「まあ、待て。パークファ・パニャック、黄助から降りろ「……えー」頼む。「…うい」黄助、一南をそこに置いてチビ達とコイツを包囲しろ」

しかし、白亜教か…。

一体誰が、白を信仰対象なんかにした?

新興?だが教会がある、新しい宗教とは考えにくいが…。


「ガウ!」

「み?……み!」

「ぴ!」

「……!」

白がマイガートの足元にすり寄り、テンが周りを駆け回る。

チビスラは何もしないでただボーっとマイガートの正面に居座り続ける。

ひっそりと背後から忍び寄った黄助が柔らかく膝の裏を押して自分の上へと座らせた。




パークファは、ピコピコと足音を鳴らしながら私の横に歩いて来ていた。


「ああっ!ガトゥーネこれはご褒美ですか!?まさか逃がさないための策略!?私を殺す気ですか!?鼻血がっ…!」

「…いや、私は包囲しろと言っただけなのだが」


元より逃がすつもりは無い。そのための包囲だったのだが…。

効果は抜群だ。といったところか。


「選べマイガート。ここで帰って二度と白達と触れあえなくなるか、一南を助けて白達に感謝されるかを、な。…まずは、扉を開けて貰おう。外に一南の大事な者達がいるのでな」


私の言葉に絶句するマイガート。

そして、すぐに神託の間の扉が開く。


ふむ、一南を真似てみたんだが、効果は有ったようだな。

「……イチナほど、…理不尽じゃない。…大丈夫」

…そうか?


Sideout

今月最後の話なります。


次回は…、未定だよ!


byミスター

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