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猫守紀行  作者: ミスター
104/141

シーバンガ入り

遅くなりました。


byミスター

一南side


心を壊され廃人と化したウォルガイの巫女達の元に集まった俺達にハチカファから報告が入って来た。


《…という事で~、コウキちゃん達はそのままお城に向かうそうですけど~。その事をファルナークさん達に伝えようと~何度連絡を入れても反応がないんです~。もしかしたら~、結界か何かで神具の機能が防がれてる可能性があります~》


ルナから最後に連絡があったのは、ハチカファ経由でパー子にメッセージを届けた時が最後らしい…。


「…ルナを教会のお偉いさんに会わせるのは拙いかもしれんな」

今更だがな。


「何が拙いのですか?『賞金首』になった訳でもないですし」

そういって首を傾げるソルファ。

その程度だったら別に心配しねぇ……いや、するか?

でも、カートスも一緒だし、そこは心配してねぇと思いたい。


「ルナは教会垂涎の『短角種』だ。神の召喚に必要なピースだからなぁ…。ルナを行かせたのは拙かったか?」

召喚してくれるのなら有難いが、ルナ以外でやってくれ。


「み~?」

「ぴ?」

「……?」

ウォルガイの巫女達にアニマルセラピーをしているチビーズに目を向ける。

心が壊れ、座り込んでいるウォルガイの巫女の膝の上にお座りし巫女の顔を見上げている。

巫女が少し微笑んだ気がした。


「…コイツ等も『ホーム』に連れて行けるか?」

俺の問いに答えたのは王真くんだった。


「何度か行き来すれば、大丈夫だと思うけど…」

「よし。巫女は王真くんが担当な。巫女達の護衛はばあさんとマキサックでよろしく。後はホームに戻ってから着いて来るか決めてくれ。ソルファ、悪いな。アリーナンは後回しだ。速攻でホームに戻ってシーバンガに入る」

なんで皆そんな顔してんですかねぇ?

何処に諦める要素があった?



「ねぇ、ソルファちゃん。私には教会潰す!としか聞こえなかったんだけど」

腐敗よ、そんな事は一言も言ってない。


「大丈夫です、アンナさん。教皇様がファルナークさんに余計な事をしていなければ、きっと、多分、恐らくは…」

どうやら、ソルファから信用されてないようである。


「余生な事?あの色ボケがしない訳ないでしょうに…。まあ、甘坂さんは神敵ですし、良いんではないかしら?殺っても」

色ボケ、か。そっち方面も考えられるか…。

…殺意しか沸かんな。


「いや、良くないよ!?ディニア…、鬼いさんだよ?この人を送り込んだら駄目だよ、絶対」

残念だな王真くん。

時間があれば、みっちりと氣の上手な使い方をその身に叩き込んであげたのに。


「俺、巫女達の護衛でよかったっす」

心底安心してんじゃねぇよ。


「…さて、教皇とやらの顔を拝みに行こうか」

「み!」

「ぴ!」

「…!」

「ガウッ!」

「ガオ」

その言葉にチビーズとアニマル年長組が反応し近くに寄って来る。

そうだ、クロハも連れて行こう。

甘坂ファミリー総出でお出かけだ。

歓迎してくれると嬉しいねぇ……なぁ教皇様よぉ。


ま、シーバンガの王女陛下には悪いが、色々諦めて貰いたい。

民間人には手は出さないが、向かって来る兵士に容赦するような心境でもない。

こちとら賞金首で神敵だしねぇ、襲われない方がおかしいしな。


取り敢えず、教皇はルナに手ぇ出してたら…。



一切合財磨り潰す。


Sideout





カートスside


「…まさか、謁見の間の見張りすら居らんとはの」

「女王陛下の計らいかな?罠という線は薄くなった、かな?」

驚きだった。

まさかここに来るまで城の兵士に一人も会わずに来れるとは思わなかったから。


「逆に怪しかろう。我等は賞金首になっておるらしいし、いくら友だといっても無警戒に会うようなバカでは無いぞフリーナは。むしろ国の為に会わぬ選択をするのがあ奴じゃからの。我もチビ勇者の事が無ければ無理には会わんかった……と思う」

あ、そこは自信ないんだ。


「謁見の間に兵士がすし詰め状態で待機してるかもね」

そんな気配はないんだけどね?

謁見の間の中から感じる気配は11人といった処だし。

王女陛下と近衛の護衛といった処かな。


「クフッ、それはそれで面白いがの…」

そんな軽口を叩きながら、僕様は謁見の間の扉を開けた。




謁見の間に入ると、女王陛下と近衛が10人。

近衛は僕様達に気づくと手に持つ槍を向けてきた。


「ファルナーク様?…兵達はどうしたのですか?いえ、そもそもなぜ…?」

女王陛下の驚きの表情が目に入ってくる。

演技をする意味もない。

兵がいない事を本当に知らない?


「兵はおらなんだよ。見張りの兵ものう。本当なら、イチナの討伐部隊を編成しとるかと思って止めるよう進言に来ようと思とったんじゃがな、雲行きが怪しくての……チビ助はここにはおらんようじゃの」

罠、だよね。

誰がどうやってとかは分からないけれど。

女王陛下に気づかれずに事を成すなんて……さっさと引き上げた方が良いかもしれない。


「ファルナー…!誰かくる!」

ファルナークに引き上げようと伝える前に、人の気配を感じた。

僕様達は扉から離れ、警戒する。


そして、謁見の間の扉が重々しく開いた。

そこにいたのは…。


「おや?顔を見せに来ただけだったのですが……これはどういう事でしょうか?女王陛下ともあろうお方が、『教会が定めた』賞金首と会談とは…」

バルク・ガンズィーナ…!

そして、バルクの言動を遮ってもう一人の男が声を上げる。


「……おお!あれはファルナーク・サリスだな!?素晴らしい、これが時姫!噂に違わぬ、ピッチリスタイルのショートパンツ!…イイ。動きやすさを重視した冒険者の健康的なエロスを感じつつ、美しいヒップラインを強調し男を惑わす魔性も感じる!バルク。アレを献上しろ、時姫を女にするのはわしの役目だ。……いや待てよ?生足で踏まれるのも有りだな。ぐふふ」

あ、あれが教皇なのか…。

立派な法衣を着ているが、俗物。いや言動を見るにただの変態だった。

ファルナークをいやらしい視線で舐めるように見る肥えた禿げ頭。


「なんじゃ!噂に違わぬとは!?どんな噂じゃ!?尻……ジャファンか、ジャファンから流れた噂じゃろ!それに我はイチナの嫁じゃ、豚に用は無い!」

思わず体を抱いて後ずさるファルナーク。

そんなファルナークに落ち着いて、と声を掛ける。


イチナくんがこの場にいなくて良かった…。

僕様ですら、一瞬斬ってしまいたいと思ったくらいだ。

イチナくんなら教皇が喋っている途中でやりかねない。


「ふん、豚か…。肥えるというのは権力者のステータスだ!教会の長ともあろうものが肥えなくてどうする!」

それはもう威厳たっぷりにそう言い放つ教皇。

いや、それは違うと思うよ教皇。


「……教皇様。あなた様のお言葉は彼等下々の者には理解できないでしょう。私が話しますので」

(うはぁ。この豚、用意した台本通りに演技も出来ないかー…。

最初は威厳ある教皇を演じてやろう。とか言ってたのに、何その台詞。

短角種とかの事も含めてゆさぶりを教皇からかけてもらう手はずだったのに…。

これじゃ自分でやった方がよかったよ、連れて来た意味がない!プラン変更するしかないなー…。ファルナーク・サリスとカートス・マリゲーラ、この二人がいる処で力技は使いたくなかったなー)


「…女王陛下、残念です。教会で定めた犯罪者をこの国に引き入れるとは…。すでに貴族から負傷者も出ています。教会の騎士からも。それにあなたが引き入れた事はすでに市民に広がっています。まさか、賞金首が『友』だとは言いませんよね?『教皇』様の前で」

バルクはなにを言っているんだ?


「……ふざけているのですか?」

女王陛下の言葉もご最もだよ、まるで意味が分からない。

引き入れたと言っているが、そんなものは女王陛下が突っぱねれば、そこでお仕舞いの策ともいえないものだ。

この状況を作り上げたのがバルクなら、本人も分かっているはずだ。


しかし、僕様達の事は完全に無視だね。

教皇はファルナークに熱視線を送っているけど。


距離的には一足飛びで間合いを詰めれる距離にバルクはいる…。

僕様、賞金首だし、バルクはイチナくんの敵だしやってもいいかな?

気になるのは、バルクが教皇と二人でこの謁見の間に入って来た事。


自分の腕で教皇を守るつもりだった?

有りえない、と断定できるほどバルクの事を知っている訳じゃないからなんとも言えないね。


それとも、実は教皇は物凄く強いとか?

うーん、ないか。例え5つもの加護を持っていようとあの体格じゃ近接戦闘は無理がある。

魔法戦なら分からないけど、王城の中は対魔法術式結界が張り巡らされていて強力な魔法は唱えてもファンブルするように作られているからね。


「…ぬ?なんじゃ、やるんか?なら我は教皇じゃな!踏んでほしいらしいからの、二度と使えぬように踏み砕いてやろうぞ!」

「誰もやると言って無いよ?」

何を使えないようにするのかは聞かないでおくけどさ。


…でも、ここでバルクを叩いておいた方が幸せに過ごせるかもしれないね。

それに、やるなら教皇も殺さないといけない。


くどくどと自分の優位性を喋り続けるバルク。


「…要はですね。あなたが起こした王への『クーデター』がもう一度起きようとしているのですよ。教会ならば止められます。

我々をより深く政治に係わらせていただけるのならね。あ、勿論断って貰っても結構ですよ?」

一息でそれだけ言い切り、チラッチラッと女王陛下の反応を楽しむバルク。

女王陛下が口を開こうとした時、またしてもバルクが捲し立てた。


「そこに腕利きが二人もいますから、口封じでもしますか?…おっと、目撃者は僕だけじゃなく『教皇様』もでしたね、これは大変だ!生まれながらに『5つの加護』を持つ教皇様を殺させる訳にはいかないなー。

おや?そう言えば、ファルナーク・サリスはあなたと共にクーデターを企てた共犯者でしたね?」

性格が悪い!


「……クーデターはすでに起きているでは有りませんか。あなたの手によって!城の兵達を何処にやったのですか!」


「人聞きの悪い。僕は武力なんて使ってませんよ?ああ、兵隊さんですか?僕の『知りあい』の貴族さんに『上』の人がいましてね、『お願い』しただけですよ。ちょっと持ち場を離れるように命令して欲しいとね?」

(あーあ。教皇様がもっと使えたらこんな事しなくて済んだのに…。エロ特化の豚にちょとでも期待した僕が馬鹿だったよ。この手を使うなら短角種云々は置いとこう。アイツも多分そうだし、これから先アイツが使えなくなるのは拙いからねー。そうだろ?ミアガット)


バルクが何となしに手を上げる。

まるで挨拶でもするような気軽さだった。

次の瞬間…。


ヒャッホーイと奇声をあげながら女が長剣を振りかざし僕様目掛けて落ちて来た。

奇襲は声を上げるものじゃないと思うんだ、僕様。

女の剣を難なく躱し、拳を放ち、そこから蹴りに移すが…。


「おほっ!やるぅ!」

宙に浮いた状態の女に剣で止められ……僕様の鎧が欠けた?

ランクSレイドモンスターのレッドキャンサードラゴンの爪で作ったこの鎧が?

…あの剣、拙いな。


見た目は腰まである赤髪とドブのように濁った濃い灰色の瞳。

ファルナークと同じ角が生えた筋肉質な女。

防具は黒装束で窺い知れない、ただ手に持つ長剣は禍々しい気配を放っていた。


「やばっ、『彼』程じゃないけど良い男だわー…、ジュンと来る!」

そう言いながら、僕様の蹴りで弾き飛ばされ謁見の間の中央へと着地する女。

天井から次々と黒装束の男たちが降りて来る。

女王陛下の御前で剣を抜くのは憚られたけど、そうも言っていられないよね。


「これはいったいなんの真似ですか!」

女王陛下の周りを固めるように10人の近衛が槍を構えて集まる。


「え?なんの真似って。もちろんクーデターだよ?ああ、そうそう。あなたの大事な愛玩勇者を教会で『保護』してるからねー。動かないで…「おりゃ!」っ!あっぶな!ファルナーク・サリス!聞こえてたよね!?動くな「ウダウダうるさいんじゃよお主は」……は?」

ファルナークの投げた首のひしゃげた黒装束を間一髪で避けるバルク…。


「ファルナーク、ここ謁見の間だよ?なに躊躇なく殺してるの!?それに勇者君が!」

あの子がどうなってもいいの!?


「チビ助なら自力で何とかするじゃろう。我が教えとるんじゃからな!それよりもフリーナ、すまんの」

勇者君の事をそんなに信じているのか…。

僕が無粋だったな……あれ?でも教えてるっていっても、ボコボコにしてるだけだよね?

うわ、凄く心配になって来たよ…。


「恐らく、すでに仲間から連絡がいっておると思う……本当にすまんのう」

「なんの話ですか、ファルナーク様?何に対して謝っておられるので…?」

ああー…、そっか、そうだよね…。


「イチナが来る」

その一言は、謁見の間に静かに響き渡った。


Sideout




光樹side


ガナさんのおかげで僕の聖剣はあっさり見つかり、教会の裏門から脱出しました。

ガナさんとは教会を出た処で別れて、僕とパー子ちゃんは今裏通りをお城に向かって歩いています。


「ねぇ、パー子ちゃん………自分で歩こうよ!!」

「……ほわい?」

ほわい?じゃないよ!


僕は聖剣を抱えて、パー子ちゃんをおんぶしている…。

この状態で戦いになったら、あっという間にやられてしまうのは間違いない!


「……敵に足音で、…気取られる。…慎重に行けば、…もーまんたい」

うん、そうだね。

でもね?


「僕にしがみ付くのは違うんじゃないかなぁ!?ほら、せっかく取り返した聖剣も引きずっちゃってるしさ、足音よりよっぽど大きい音しちゃってるから!」

「……大丈夫。…コウキのほうが、…うるさい」

取り返した聖剣『グラクニス』をしがみ付くのに邪魔だからと抱える事になったのは誰のせいなのさぁ…。

その一言でがっくりと肩を落とす僕。


ただでさえ僕の身長じゃ、背中に背負ってる状態ですら引きずりかねない大剣なのだ。

パー子ちゃんを背負って不安定な僕じゃ引きずるしかないのだ。


ガリガリと地面を削りながらトボトボ歩く僕だった。

『グラクニス』が泣いている気がしないでもない。



「それにしても、なんだか広場の方が騒がしいね。それに教会の方も…」

教会は僕達の事がばれたんだろうけど、表通りはなんでだろ?兵隊さんにも会わないし。


「……お祭り?」

「なんでお祭り!?このタイミングでそれは無いよ!ほら、例えば……!」

まさか、イチナさんが……来ちゃった?


「…ちょっとだけ、広場を覗いてみよう」

「……うぃ」

僕達はそろりと路地を抜け広場へと足を向けた。



路地から顔半分を覗かせるように様子を窺う。

そこには、城の兵が集まっていた、全部がいる訳じゃないきっと民間人の避難とかに人手を割いているんだ。

兵士の顔は一様に青ざめ、にやけていた。



オイルを塗ったかのような黒光りする屈強な体でポージングをする無数の『兄貴』

それに埋もれる女性勇者と疲れた顔の女性騎士さん。


そして、周りに気迫に満ちた狼、虎、馬を侍らせ。

頭にチビーズトーテムポールを王冠のように乗せ、全てを終わらせるかのような殺気を放つ『鬼』がいた。

癒しと死を同時に感じられる稀有な状況かも知れないなぁ……。


「……これで、…勝つる」

「シ、シーバンガが…終わる」

パッと見凄まじいカオスなのに、僕の口から出たのはその一言だった。


「駄目だ!このままじゃ!悪いのはバルクだけだし、兵隊さんは悪くない!止めないと!」

全滅しちゃう!


「……逝くの?」

あれ?なんかニュアンスが違う?…気のせいだよね。


「だって僕は勇者だから、絶対的な相手でも引いちゃいけないんだ!」

……この台詞は、魔王を相手にしたときに使いたかったかも知れないなぁ。


僕は止めるために走り出す。

聖剣を抱え、パー子ちゃんを背負ったまま。


Sideout

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