真魔王宣言から40分後
ソルファside
「女の子に酷い事する奴は、蹂躙されても文句は言えない!言わせない!ソルファちゃん、魔法使うからガードお願い!」
「はい!……あの、あんまりはっちゃけないで下さいね?」
同情の余地は無い筈なのに、可哀想になってきますから。
「今回は敵だけに絞る!」
聞いてないですね…。
僕は魔量斧槍を構えこちらに向かって来る大軍を見据える。
イチナさん達が消し飛ばした者たちの他に、ウォルガイ中の敵が異常を察して集まって来ている。
多分ウォルガイの外にもいる筈だ。
「ははっ…。これは無茶が過ぎたかもしれませんね。使徒様、下がっていてください」
いつの間にか僕の隣に並んでいた使徒様に声を掛ける。
「王真も覚悟を決めたのです。私だけのんびりはしていられません。それに…、この程度の軍勢、問題ありませんよ。50年前の決戦と比べれば兵もモンスターも質が落ちましたから。では、先制頂きますよ?」
そう言うと愛用のメイデンメイスを傍らに置き、地面に片膝を着き祈るように両手を組んで合わせた。
お祈り?こんな時に?
「治癒の神の名のもとに……逝きなさい!」
大量の神気を込めた両手を地面に振り下ろす、使徒様。
瞬間、地面が割れそこから白い触手が伸び軍勢を飲み込み、閉じた。
「ふぅ…。疲弊した土地を治癒する神技で『グランドヒール』って言うんですよ。しばらくすればここは肥沃な大地になるでしょう『栄養分』も沢山入れましたからね。ホホホホホ」
「えぇー」
……うわぁ、閉じた亀裂から魔族兵の手とか、モンスターの尻尾とか、がはみ出しいてる。
まるで、天へ助けを求めるように…。
使徒様、イイ笑顔ですね…。
もう、この人だけでいいのではないでしょうか?
「この技は同じ場所で二度は使えませんし、乱戦では使えません。それに過度な栄養はその地を腐らせます。滅んだ故郷ですから、せめて命の芽吹く地にしたいですからね…。さあ、次が来ますよ。準備はよろしいかしら?」
その栄養の中に魔族やモンスターを入れて大丈夫なのかなんて、僕にはとてもつっこめない…!
そうだ、今あった事は、…グランドヒールは無かったことにしよう。
「…はい。いつでも!」
自分自身に身体強化の魔法を掛けて戦いに備える。
まだ使徒様に掛ける程の腕前が無いのが悔やまれる。
敵はモンスターばかりです。
いえ、多少は魔族兵も混じっているのですが…。
おかしい…、テイマーの数が合わない?
真っ先に突っ込んで来たのは、突進力に優れたボア系。
特に編隊を組むでもなく、獲物を見つけたから飛び付いたといった感じに、違和感を覚ます。
全部が魔石を埋め込まれて、魔獣化している訳では無い?
まるで野生のモンスターを相手にしているようです。
遠くの方ではモンスター同士が戦っているのも見えます。
もしかして、統率用の魔獣か、上位のモンスターがイチナさん達の奇襲で?
……あり得る。
真っ先に突っ込んできた突進中のアーマードボアの装甲をメイデンメイスで叩き割り、吹きとばす使徒様。
…使徒様、後衛職ですよね?本当に68歳ですか?
僕は、しばらく無心で魔量斧槍を振るっていた。
アンナさんの詠唱がいつもより長い…。
どんなものが飛び出すのか正直怖いです。
創造魔法の詠唱は基本的に、魔力を乗せた声を放つことで成り立つ。
極端な話、魔力を乗せて叫んでもそれをキーとすれば発動する曖昧な魔法だ。
それをこんなにに長い時間、魔力を込めて詠唱…、というか小話を続けるアンナさんはなにを創造しようと言うのでしょうか。
本当に怖いのですけど…?
あ、詠唱が止んだ…!
く、来る!
「…対軍創造魔法!『マイ・プリンス・リッパーズ』!…斬り散らせー!!」
アンナさんが魔法名を告げると同時に、銀色の魔法陣が広がる。
大きい…!
そして魔法陣から一本、また一本と出てくる『イチナさんの刀』
二刀一対の形で魔法陣から出てくるのだが、その数50を超える。
宙を浮き、自在に動くその様は、なにかしらのパターンが有るようでしたが…。
ああ…、これは駄目だ。
目が合った魔族兵の顔にそんな事が書いてあった気がした。
魔法陣はまだ健在ですから、きっとまだ増えるんだろうなぁ…。
一斉に、銀色の斬撃を飛ばす刀達。
斬撃を一発撃ったら一つ消えるという燃費の悪さでした。
ですが、消えるたびに魔法陣から補充される刀。
数の多さと、減らない刀。パターンが分かっても対処できませんね、これ。
そして、近くの敵が粗方片付くと接近戦に切り替わり、次々と斬り散らしていきます。
その様はまさに蹂躙。
アンナさんの魔法はどのようなものであろうと、見ていて可哀想になるのは変わらないのですね…。
というか。
「まともな物も出せるんですね、アンナさん…」
「失礼な!…こういうのはあんまり使いたくないんだけどさ、許せないからね。怒りのままにやってみた!」
…勇者としては正しいのかも知れないけど、なにかが違う気がしますよ?
殺戮魔法はアンナさんらしくないです。
「さて、大分楽には成りましたが…」
魔量斧槍を振るい、アンナさんの魔法から逃れたモンスターを片付ける。
…本物のイチナさんが向かった方からまるで、なにかから逃げるようにモンスターが流れてきます。
そして、良く知る殺気がビシビシと感じられます…。
きっと統率されてないから、本能的に逃げて来たんですね?
…モンスターが道を開けた!?
それはもう、一斉に。こっちくんなと言わんばかりの素早さで。
絶対に有りえない事ですが、その先にいるのがイイ笑顔のあの人だから納得してしまいました。
「くはは、追い回しても逃げるだけか?もう少し剣速を確かめたかったんだがねぇ…。なんだこりゃ?刻波と一匁か?よく出来てんな」
そう言いながら、かなりの速度で敵へと向かう刀の一本を平然と掴み取り観察しています。
イチナさんが振った瞬間、アンナさんの創った刀は砕け散りました…。
「…使えねぇな」とか言わないでください。
アンナさんにも聞こえてますからね?
「って、酷い怪我じゃないですか!?…使徒様!」
イチナさんがあんなに怪我をしているなんて、初めてみますよ!?
どんな相手だったんですか!?
僕は慌てて振り返り使徒様を呼ぶ。
「ホホホホホホ。神技『クロスブレイク・ヒール』…ソルファさん呼んだかしら?」
イイ笑顔ですね、使徒様。生き生きしていますよ…。
アンナさんの魔法から命からがら逃げ延びたモンスター達が神気の十字架によって磔にされ、頭以外は十字架から飛び出した杭によって串刺しにされていた…。
それでも『死ねず』に蠢くモンスター達が、酷く哀れだった…。
「……俺、一回帰ってアイリンに治してもらおうかなぁ」
「そんな遠い目しないでくださいよ。気持ちは凄く分かりますけど……大丈夫、きっと普通に治してくれるはずです!」
というか早く治した方がよさそうですね。
「使徒様、イチナさんに治癒をお願いします!」
「…あらあら、王真とでもやり合ったのかしら?…本当に王真の切口に似てるわね、王真は無事?」
そう言いながら使徒様は、イチナさんに治癒の神気を当てていく。
「良かった、普通の治癒だ…。ん?ああ、無事だと思うぞ?ガイナスを追って空に駆け上がっていったが」
そうですよね、イチナさんが仲間を斬るなんて想像……敵対したらやりそうですね。
「皆!上!なんか来る!!」
アンナさんの言葉に全員が上を向いた瞬間。
ズドンと人が落ちて来た。
それは、四肢を切り落とされたガイナスだった。
気を失っているのか、呻き声一つ上げない。
「…なんだ、王真くんまだ殺せねぇのか?」
ぼそっと呟いたイチナさんが呟いた。
「イチナさん、ここまでやっておいて流石に無いですよ。それは」
「まあ、そうだよなぁ。だがなんで王真くんは戻って来ねぇんだ?ん?」
その時、四肢が斬られたガイナスの体が白い光となって消えていく!?
イチナさんは刀を抜いて、躊躇なくガイナスの体に突き刺し。
「神気のダミーか、儲けたな。もっと落とせ王真くん」と言っていた。
空を見上げると、沢山のガイナスと戦うオウマさんがいた。
……見なかった事にして、モンスターを狩ろうと思います。
Sideout
王真side
空を駆けながらガイナスを斬り裂く。
…またダミーか。
これで10は斬り伏せた。
ガイナスを追って空に上がる間に、ダミーを放っていたのか対峙するころにはかなりの数のガイナスダミーが出来上がっていた。
神気で出来ているのは言うまでもなく、それぞれが単調ながら攻撃手段を持っているし、本体が喋るのに合わせて声を発する。
ガイナス自体の攻撃が単調だから見分けがつきにくい。
「「「「くっ…!バカな!?なぜこちらの攻撃が当らないのですか!?」」」」
神気を込めたレイピアの刺突が弾丸となって空を飛びかう。
《ウマウマー、モットヨコセ》
「……」
その弾丸をダミーをお兄さんの刀『一匁時貞』で切り落とすたび、次を寄越せと頭に響く。
意志を持った魔剣の類なら破滅を願うものだが…。
流石、理不尽の刀といった処か。
ただ…。
《メシー!》
少しうるさい。
「「「「これならどうですか!」」」」
ダミーの全てを神気に変えて、身にまとい神々しい鎧と剣を造りだした。
僕の神気の砲撃も軽く弾くだろう強度と見ただけで分かるほどの神気を含んだ剣。
しかし、僕の感想は。
「ああ、そこにいたのか…」
これだけだ。
今の僕はガイナスを殺すと決めている。
幸い、心を殺しているおかげで怯えは無い。
倒せない、殺せない、そんな弱音も封じている。
僕は一匁時貞を振り、神気の砲撃を放つ。
しかし、思った通り弾かれる。
「フフ…、無駄ですよ!この鎧にはあなたの剣技も神気も通りはしません!」
剣技も、か。
僕じゃなく、お兄さんに聞かせてほしいな。
ああ、それだと僕の獲物を取られてしまうか。
《アー…、モッタイナイ…》
「大丈夫、あの鎧は凝縮した神気のようだから、きっと美味しい」
《オー、ガンバル!》
一匁の声を聴きながら、今度は神気を使い空を舞う。
「神薙流拳刀術。高平家嫡男、高平王真。…討たせてもらう」
高速でガイナスに向かいながら、鞘に納めた一匁に手をかける。
ザッカイスさんを斬ったのも、ガイナスに邪魔な魔族を斬ったのも僕の責任。
帰りたいと願った僕の弱さ。
だからこれは約束を果たすための、ただの魔王討伐だ。
「来なさいタカヒラ!」
《メシー!》
欠食児童が叫ぶ。
ガイナスは剣を振り上げ……激突。
よほど防御に自信があるのかノーガードで剣を振り下ろすガイナス。
振り下ろすだけの行為だが、先行して弱い衝撃波が伝わってくる。
「『四交』」
まずは四連抜刀で剣を狙い、振り下ろすという行為そのものを止める。
「『二奥』」
威力の高い二連抜刀で、剣を振り下ろす前まで戻してやる。
「っ!バカな!?」
「ガイナス、お前の鎧はどれほどの斬撃に耐えられる?……『天空疾走・塵走り』」
下がって体勢を整えようとするガイナスに空中で高機動塵走りをしかける。
この世界に来たばかりの僕は塵走りなんてできなかった。
いや、この技だって塵走りモドキだ。
ザッカイスさんに鍛えて貰って、こっちの武術を仕込んでもらったからできる技。
甘坂が神薙流1000年の歴史の集大成ならば他の御三家はその歴史とやった事を表から消す事を……尻拭いをしてきた。
いつからそうなったのかは分からない。
剣の腕も武術の腕も、甘坂と比べると見劣りする。
創世神の加護が無ければお兄さんと同じ剣速なんて出せはしない。
でも、だからこそ。
昔の僕に勝てなかったお前は、
お兄さんが…『理不尽の後継』がこの世界に来た時点で詰んでいる。
戦う程強くなる。
甘坂はそういう理不尽だから。
「ひいぁああぁぁああっ!?」
《ウッウーウマウマ》
情けない悲鳴と共に、逃げる先、飛ばされる先で剣撃の嵐にあうガイナス。
剣の神気も鎧に回してはいるが、その自慢の鎧が一匁に食い荒らされる。
与えられた神気も底が見え始めた。
神気を纏っていない一匁で殴打し続け、アルスから奪った魔角にひびが入る。
塵走りを止め、ガイナスの正面で居合抜刀の構えに戻す。
「…嫌よ。私はまだ何も成していない!やっと…、やっと魔王になれたのに…!お前が、お前さえいなければ!タカヒラァ!!」
呪いの言葉と共に、レイピアを持って突撃して来るガイナス。
「…霞と消えろ」
レイピアが当る寸前で、一匁に神気を宿し突撃して来るガイナスに対し『限無』を放った。
「あ…」
それがガイナスの最後の言葉。
魔角共々、原型を止めない肉片となって地に落ちた。
「あとは、モンスター達をどうにかすれば……」
そう思い、視線を下に降ろすと。
封じた恐怖の感情が蘇る。
鬼いさんの周りには殺気に当てられ、逃げ出すモンスターや魔族兵。
死体に身を隠して難を逃れようとする者までいる。
ああ、仮面が剥がれる。
暗示が解ける。
「……ウォルガイの巫女の様子を見に行こうと思います。決してあの場に近寄りたくないという訳じゃないです、はい」
自分に言い訳をしてから、微妙に震える体を巫女のいる方へと向けるのだった。
《ゲプッ》
…剣のゲップって初めて聞いたよ。
Sideend
元農耕夫の魔族新兵side
新たな魔王ガイナス様が派兵なさる事になり、徴兵された俺。
実戦も今回が初めてだった。
経験はこの派兵で積めばいい、魔王直属軍が守ってくれる。
そう言われて、幼馴染と相棒の魔獣とで徴兵に応じた。
だが、その結果がこれか!
「おい。逃げんじゃねぇよ。流石に悲しくなるだろうが」
「あ、うあぁ、あ」
死が形を成して近寄ってくる。
その殺気に当てられた者たちは我先にとモンスターですら逃げ出した。
なんだコレは?
なんだコイツは!?
気力を振り絞って立ち向かった幼馴染が死んだ。
足止めのために自ら壁になる事を選んだ相棒が死んだ。
触れる事すら叶わずに。
止める事すら出来ないままに…!
近寄るだけで、全て血風と消えた。
見えないなにか、まるで死の結界だ!
こんなモノが人族の筈がない。
ましてや勇者である筈もない!
コレは、なんだ!?
「へぇ…。お前さんは逃げねぇのか……怖いなら、そのままでいな。向かって来なきゃ斬りはしねぇ」
気づけは殿、ただの新兵に過ぎない俺がこの『死』と向き合っていた。
動けない。
口が渇く。
歯の根が鳴る。
息が出来ない。
だが、コレは仇だ。
兄弟同然の幼馴染と…。
初めて作った魔石で作り、体を張ってまで俺を生かそうとしてくれた俺の相棒の…。
仇だ!
「…ぅ、うわあああ!!」
俺は自分を奮い立たせて剣を構えて突撃する。
そして聞こえる甲高い『死の音』
最後に見たのは自分の背中、最後に聞いたのは『死』の呟き。
「……アホウが。向かってくんじゃねぇよ」の一言だった。
Sideout
一南side
「……戻るか」
気が削がれた、そんな処だ。
俺の前から逃げるように撤退していく奴等を見ながらそう呟いて、踵を返す。
「…俺ってそんなに怖いのか?」
《一南、気にするな。私は好感が持てるぞ?神としての体があれば、すぐにでも戦いたいほどにな》
…早くアルス潰さないとねぇ。
《ぬし殿は、人外ゆえ。当然かと》
波平、当然ってなんだ。
人外ってなんだ。
俺は人間だぞ?生物学上は。
…人間だと言い切れない処が神薙一族である証拠だが。
ガトゥーネと波平に慰められながら皆の処に戻る俺だった。
一部、文字通りの血の雨が降っている場所を避けながら。
Sideout




