表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫守紀行  作者: ミスター
1/141

プロローグ

ミスターの二作目になります。よろしくお願いしますね。

・ミスター修正-8/29

・おねん大幅改正-11/6

・ミスター修正-5/27

そこは、草原。

一人の男が紫煙をくゆらせ、地面を背に空を見上げていた。

見上げる先には青い空とゆっくりとのぼる煙。

そして燦々と輝く3つの太陽…。

男が居た世界では無い事を痛いほどに教えてくれる光景だった。


「なんだかなぁ…」

俺は甘坂(アマサカ) 一南(イチナ)

髪型は、短く、良くいえば無造作系、悪く言えばボサボサ。

目つきは鋭く、眉は細め。

…人殺しの目と言われたこともある。

身長は175cmで、筋肉質だが絞った筋肉のためゴツク見えないらしい。


座右の銘は『一刀両断』。

武家の爺さんに教わった『神薙流拳刀術(バカ流派)』を修めている。


バイトで煙草代と生活費を稼ぎながら、暮らしていたいわばフリーターってやつだ。

今までの生活、気に入っていたんだがなぁ…。

自由度が高くて。


自分の手のひらをジッと見つめ、ぐっと握る。


「しっかし、何だったのかねあれ?…なぁ、どう思う?」


足元の子猫に問いかけるが俺の靴紐に戯れていて聞いていない。

溜息をついて少し前の事を思い出してみる。





「おつかれ~イッチー!ハイ、これバイト代」

まずはバイト先である引っ越し会社での仕事終わりの一服を思い出す…。


「ありがとうございます。社長」

「もう!雛でいいって言ってるのに!」

いつもニコニコしていて、発言のほとんどが冗談か本気かわからないこの人は、田中雛子(たなかひなこ)(32)。

整った顔立ちにショートボブ。

都会の大きな会社に勤めていたらしいが父の会社を継ぐために退社し、この引越し会社の女若社長をしている。


「いやいや、俺なんぞしがないバイトですから流石に……あ、そろそろ失礼します」

「ちぇ~、仕方ないなぁ。バイトじゃなければ良・い・の・か・な?」

後半は聞こえなかった事にしてドアへ向かう。

たぶん、バチコーンッと音がする勢いのウインクもかましていただろう。

後ろ向きで良かった…、いつものように引き止められそうだし。

「つれない~、でもそこが良い!また明日!」


俺はこの引越し会社でバイト生活を送っていた。

爺さんと剣術の鍛錬中に左目の横に斜めに傷が出来てしまってからは、面接に行くも落とされてばかりだった。

そんな俺の何を気に入ったのか、快くどころが即決で雇ってくれた社長。

なんだかんだで感謝しているのだが…。

少々面倒くせぇと思うのは仕方ない。




その後は…。

次の日は爺さんとの鍛錬だ、新聞紙を丸めた棒で鉄を斬るような爺さんだ。

鍛練といえども気は抜けないのだ。

そう思いながら、爺さんから一本取るためにイメージとレーニングをしながら、俺の住処である古倉荘へと向かった。


外壁を見上れば、しっかりと「古倉荘(こくらそう)」という看板が掲げてあるというのに、大家の口から出る時にはなぜか「古倉ハイツ」と変換されるボロボ…。

なんとも味のある建築物だ。


学生街にあるというのにこの木造の建物に学生は一人も入っておらず、住人はほとんど入れ替わる事なく満室だった。


途中、いつものコンビニに寄り煙草を2カートンを買い、いつものようにビニール袋にアパートの鍵とついでに財布も突っ込っこんだはずだ。



うむ、これは今も横にあるビニール袋に入っている。



「…て、おい。こら、破くな!」

少し前の事を思い出していると子猫がカッサカッサと袋に飛びかかっていた。

このままでは中身が危ない!

いや、子猫にも良くないのはもちろんだがな?


「ったく。…あ~、分かったから。ほれ、これで遊んどけ」

もう使う事はないであろう、鍵をころがす。

いつから付けているかも覚えていない、彫りが削れて謎の人型の塊と化したモノと鍵とがぶつかてチャリチャリと音が鳴る。


「…ま、お気に召したようで何よりだ」

子猫はみーみー言いながら大いにはしゃいでいる。

猫パンチ、初めて見たな…。

短い尻尾がパタパタと揺れている。


子猫のマイペースな小さく揺れる尻を眺めながら、改めて数時間、いや数分前であろう出会いを思い出す。





思い出した記憶の中の目の前は間違いなくいつもの帰り道で、違ったのはコイツが視界に飛び込んで来たってとこか。


「み~♪」

鼻歌のようなお気楽な声に視線をやると、道路の反対側にコイツの姿があって…。

真っ白でふわふわ。

小倉荘はペットOKだっただろうか?と思わず考えてしまったほどだ。


「み!」

そんな子猫に心奪われていると道路に降りようとして転がる子猫。

走る車。

どう考えても危ないだろ?

案の定、子猫は立ち上がり、何事もなかったかのように尻尾をピンッ!と立ててご機嫌に道路に向かい歩き出した。


「ああ!アホウ!コッチくんな!」

こちらに向かう大型のトラックが見えて叫んだ。


「くそっ!なんつータイミングだよ!」

出せる全力をもって子猫に走り寄り、抱きかかえて歩道へと走り込んだ。

あれはギリギリだったな。


「み~?」

「ったく、み~じゃねぇよ」

野良の癖に大した抵抗も無く、腕に収まる子猫。

取り敢えず、ここで放すと同じことを繰り返しそうなので、お持ち帰りしようかと思った訳だが…。

そこで第二波が来たんだよねぇ……俺が居たのは歩道だ、ここ重要な。

そう突っ込んで来たんだ、トラックが。


「……ん?…マジか!?」

一日で二回もトラックに轢かれそうになるのは中々ないと思う。

俺に向かって『真っ直ぐ』突っ込んでくるトラック。

トラックを躱すために踏み込みを開始した処で動きがなにかに阻害され、視界に意味不明な光が溢れて、俺の意識は途絶えた。




という事があって今に至る訳だが…。

…我ながらアホだな、子猫をお持ち帰りとか思わなけりゃ一緒に連れて来る事も無かっただろうに。


「嘘みてぇな本当の話って奴かねぇ……そういや、あんときゃ夜だったはずだが、今は太陽?が昇ってんな」

変な光のせいかは分からんが、一瞬動きが止められたから、明らかに躱しきれなかった筈なんだが。

何故か無傷で、しかも明らかに『今まで居た世界』じゃない場所だった。

…死後の世界ってやつか?

それに最後に見たあの光、車のライトとは違うもっとこう、生暖かくも痛々しい……うん、意味が分からねぇ。


「…何だろうな、納得いかねぇ」


爺さんは母方の親で代々『神薙流拳刀術』を継承してきた。

『神薙流拳刀術』は1000年以上も昔、居もしない『神』と戦うためだけに創られ、一族の中で能力と技法を高めてきたバカみたいな流派だ。

それを修めた俺も、それこそ煙草でも吸って体力を落とさないと普通に暮らすのにも支障が出るほどには高い身体能力を持っていると自負している。


まぁ、煙草を吸うための言い訳だが。

煙草、大好きです。


「しっかし、ここは何処なのかねぇ。地獄なら鬼でもいねぇもんかね?」

まあ、心臓も動いてるし、脈もある…。

死んではいないと思いたい。

もし、死んでたら爺さん辺りは盛大に笑いそうだな。


寝ころがしていた体を起こし、あぐらをかいて座り込む。

「さて、これからどうするかねぇ…」

もう一本取り出し火をつける。

紫煙が空に上がる様子を見てから、子猫に視線を落とす。


生えてる草を千切り『猫じゃらし』代わりにして子猫と戯れながら考える。が、

やべぇ、可愛すぎて考えに集中できん…。


「くくっ…」

自分の口角が自然と上がるのが分かった。


複雑に回転させていた思考がほどかれていく。

まぁ、コイツが助かった(仮)ってことで満足だ。

うん、十分な理由だな。


「ぅしッ!」

心と体に気合いを入れ、紫煙と共に大きく空気を吸い込み『ココ』の空気でゆっくりと満たす。

細胞の一つ一つでこの訳の分からん世界を受け入れる。

深呼吸を繰り返し、覚悟を持って目を開く。


体が有る。

煙草もまだ有る。

守るべき命もいる。

まぁ、どうとでも出来るだろう。




「くくっ、元気だねぇお前さんは」

てふてふと自分のまわりをご機嫌で歩き回りながらポテポテ転がり回る子猫に話しかける。

しかし、コイツの飯だ何だを確保せにゃならんな。


「…流石にアレは食えんよ、なぁ」

視界の端にはファンタジーの定番『ゴブリン』のような生き物。

向こうもコチラの様子を窺っている。


(小鬼…、じゃねぇな角がねぇ。ゲームとかで見る『ゴブリン』って奴か?やっぱ死後の世界じゃなく、別の世界と考えた方がいいのかもなぁ。しかし…、ココに来ての初コンタクトがアレか。俺一人だけならどうとでもなるが、コイツを守りながら戦うのは…。まあ、問題ねぇか)

俺は頭を戦闘用に切り替える。


「あの、すいません…」

「は?」

コキコキと準備運動がてら鳴らしていた首を傾げたまま思わず固まってしまった。

なんか話しかけてきた…、つうか喋れんのかよ!?


「え、あ、おう。…なんだ?」

流石に想定外で、頭が戦闘用に変わっていたため口が回ってない。

なかなかにハズイ…。


「わたくし、ゴブ族の戦士バ・ゴブと申します。冒険者協会ギルドに依頼を出した者ですが。…失礼ですが、冒険者様でしょうか?」

すごく丁寧だ、すまん餌にしようとして…。


モンスターに見えるが共存してるのか?

俺を見ても驚いたりしないってことは、俺のような『人』も居るってことか…。


「俺は甘坂 一南。あいにく冒険者じゃねぇんだ、すまないな。その冒険者ってのに、すっぽかされでもしたか?」

しかし、冒険者とかあるんだなここ。

…いいねぇ冒険者、惹かれる響きだねぇ。


「我々ゴブ族は軽視されていますから仕方のない事かと…。いえ、確かに冒険者様にしては軽装すぎるとは思っていたので…」

軽視ねぇ?まあ、少なくとも俺みたいな『人』はいるってのは分かった。


考え込んでいると子猫が足下で「み~み~」と鳴いている。

可愛いねぇ…。


「そうだ、コイツの食べられそうな物を持ってないか?」

バ・ゴブに視線を移すと既に子猫をガン見している。


「これは…、なんと愛くるしい。そうですね以前、町で買った自動回復の効果付きの携帯食がありますから、水で柔らかくして与えてみましょう」

いそいそと皿と携帯食を取り出し準備を始めたバ・ゴブは、一瞬にして子猫の魔力に取り付かれたようだ。

冷静を装ってはいるが、行動はそわそわと空回りしていて、数秒と空けずにチラチラと子猫を見ているものだから何せ準備が遅い。


そしてこぼした…。

子猫よ、そんなに嬉しそうにメシ……いや、ヤツを見てやるな。

一生飯にありつけねぇぞ?


しかし、自動回復の効果付きの携帯食とはますます異世界だな。


「み~、みぃ~」

子猫はようやく置かれた皿に夢中になっている。

腹減ってたんだな、…すまん。

おそるおそる子猫の背を撫でながら笑みを浮かべるバ・ゴブ。

優しい笑みなのだろうが、その笑顔は凶悪なことこのうえない。


「処でよ、冒険者に依頼したと言ってたが、急ぎじゃねぇのか?」

バ・ゴブはハッとこちらを振り向き、撫でる手はそのままに慌てて喋りだす。


「そ、そうでした!わたくし共の村の近の森に『鎧熊(よろいぐま)』が巣を作ったんです!このまま縄張りを広げられてしまうと我々ゴブ族では太刀打ちできません。ですから討伐依頼を出したのですが…あぁ!わたくしを信頼して送り出してくれた、長になんと言えば!?」


『鎧熊』ねぇ。

文字通りに鎧を付けた熊なのか、それとも鎧のように毛が固いのか…。

まあ、無手でなんとかなるか?


「冒険者になる予定の男ならここに居るが?どうだ、俺を連れて行ってくれねぇか?これでも腕には自信があるんだが」

なにせ金がない。

それ潰せば報奨くらい出るよな?


「しかし、そのような軽装では……胸当てすら付けていないではないですか。武器も持っていないようですし」


渋るバ・ゴブ。

まぁ当然か。


しかし武器、武器ねぇ。

俺の使ってた脇差、といっても普通は本差の刀なんだがな?

その脇差の『一匁時貞(いちもんめときさだ)』か居合刀の『刻波(こくなみ)』がありゃ問題なかったんだが…。

そんな物をバイト先に持っていく訳もねぇし。

そんな事を思っていると突然背後からデカい気配がして振り向く。


「…は?」

俺の刀が落ちていた。

しかも手紙付きで。


「これは……爺さんの字だな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


一南よ、天国か地獄かわからんがそっちに『神』はおるか?


まさかワシより先に戦いに行くとは思わんかったわい。

死体が無いのでお前が消えたのと同じ方法で刀を送る。

警察を黙らせ同じ車、同じ運転手を使ったんじゃ。

きっと届いておろう、ワシも鍛錬を続け何れはそっちに行くじゃろう。

ワシの分も残しておくようにの。 


五一より


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「………くははっ!警察黙らすって何やったんだよ!」


家の一族は1000年続くアホ流派で、死ぬことを『戦いに行った』と言うのだ。

そして死んだらその先で『神』と戦えるように棺に各々の『得物(ブキ)』を入れる習慣がある。

以前おじさんが死んだときは大変だったな。あの人の何でも武器にするから。

一族が持ち寄って棺が金属で一杯に…。

顔も埋まってたもんな。

葬儀会社の人が、一番哭いていた。

ちなみに、納骨は金属の塊を男衆で文字通り無理やり墓に押し込んだからな…。


バ・ゴブは唖然と固まっている。

「さて、武器も来たし行こうか?」

取り敢えず、得物は来た。なんでかは爺さんのせいにしておこう。

「いやいやいや、おかしいですから!今空間が歪んでソレが出て来ましたよ!?」


「うん、大丈夫、大丈夫。きっと、よくある事だろうよ」

「なにがですか!?無いですよ!」

そんなやり取りをしながらバ・ゴブの村へと向かうのだった。






「ほっ!本当に消えよったわ!…こりゃどっかで生きとるかもしれんの。しかし、羨ましいのぅ。…ワシも轢かれてみようかのう?」

回収されていくトラックを見ながらそんなことを呟く老人。

この老人、トラックに轢かれた程度では腰を痛める位のダメージしか受けないのだが。

※サイトには修正前の物をのせています。前モノのほうが良いですか...?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ