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ひとりにしてくれ

 「違ぇーよ、Fがうずまき管でHが半規管!どう考えたって逆はあり得ないだろ、バカかお前」

 「中脳と小脳の区別つかん奴に言われたくないな」

 「あんたらねぇソコ中学レベルでしょ。神経系の仕組みとか覚えないでどーするわけ?」

 「あー、生物じゃなくて地学にすればよかった」


 やかましい。


 俺は顔を上げ、騒いでる一団を見た。

 日浦と土屋が言い争っていて、油を注ぐ風香に勉強投げ出しモードの泉……口閉じて手を動かせば、生物の試験範囲なんざ1時間で終わるだろうに。いずれにせよ、図書室でこの騒ぎはないわ。さっさと道具まとめてコイツ等から離れよう。


 「光崎どこ行くの」

 泉が目ざとく声をかけてきた。


 「うるさいから別のトコ行く」

 「それじゃ私も移動しようかな」


 いいーって!しなくていいって!!


 「じゃお~れも。ここバカしかいねーし」

 「うわ、バカにバカ言われたし」

 「ちょっとー、置いてかないでよ。一緒に勉強するんでしょー?」


 ……ほら、こうなった。


 奴らが勉強道具をまとめているのを横目に、いそいで図書室を出た。まったく移動は今日3回目だ。そしてどこに行っても芋づる式にズルズルついてくる。


 泉・風香・土屋に日浦の4人組は、俺のクラス(学級)でも上位クラス(階級)にいるグループで結構仲がいい。そして下位クラスで、本来こいつらとは親しいほどじゃない俺……何の因果か、一人真面目に勉強しているのに目をつけられて、ここ一週間4人組とお勉強会をする羽目になっている。


 といっても会話に加わることも教えることもなく、ただただ一緒にいるだけだけどな!!




 「おー、穴場じゃんー」

 会議室に隠れて10分後……案の定、4人組は当たり前のように部屋へ現れた。


 「広くていいなー。静かだし、誰も来ないし」

 土屋は威勢よく長机にノートをぶちまける。勢いが付きすぎて滑り落ちたそれを拾ってやりながら、風香がちょっと口をへの字にした。

 「でも怒られないの?勝手に使って」

 「じゃ戻れば」

 「光崎っち、最近言うねー」

 「最初と違って遠慮ないよな。ところで、筋収縮のコレ、意味わからん」

 「……ただの選択問題だろ、めんどくさがらずに読めよ」

 不服そうな日浦を捨て置いて、俺は参考書に戻った。


 なぜ今までプライベートで勉強会していたと思われる4人が、わざわざ学校に居残っているのか?


 早い話、泉→日浦→風香→土屋→泉(無限ループ)というわけ。おそらくお互いに気が付いている。クラスの噂に疎い俺が知っているくらいだし。

 素知らぬ顔でいつも通り過ごすのも嘘くさいけど、うかつな言動で関係が崩れるのは恐ろしい。だけど好きな奴とは一緒にいたい。


 恋愛脳の考えることはこんなもんだ。

恋に友情に、どっちもオッケーなんて今時マンガでもありゃしないのに。


 さて、4人だけなら緊張感がある。第3者がいる場なら?それほど絡んだこともない俺みたいな奴が近くにいるんなら、なんら「事件」が起こることもなく平和に理性的に集えるんじゃないか?


 とまぁ、これが俺の推理である。


 俺に執着する理由もこれなら完璧だ。成績良いから勉強会に加えるのにはうってつけなのだ。嬉しくないけど。でも恋愛ドロドロの渦中に投げ込まれるよりは、まだグループの潤滑油やってたほうが楽だ。


 上位クラスは他の奴を上手に使う……人間関係円滑のコツかもしれん。



 「試験終わったらさー、皆で打ち上げやろっか」


 めずらしく続いていた沈黙を破り、風香がのんきなことを口にした。後3日で試験期間突入だっていうのに、もう終わった話かよ。


 「あ、いいかも。楽しみあると頑張れるよね」

 泉の声に土屋が手帳を取り出して睨めっこをする。

 「んー来週だろ?土曜バイトなんだよなー。日曜とか予定ある?」

 「ない」

 「ないねー」

 「ヒマ」


 ふーん、リア充うらやましいこって。カラオケかな?それともファミレスですか?


 「お前は?」

 「お、俺?!」急に話を振られて、一瞬真っ白になる。日曜?予定?


 「ない、けど」

 「決定ー!じゃ日曜ね、行きたい場所考えといて。後で決めよ」

 泉が華やいだ声でまとめ、連中は再び教科書やらノートやらに目を落とす。しかし、こっちはそれどころじゃなかった。



 俺、人数に入っていたのか。


 急いで4人の表情を窺ったけど、どの顔にも嫌そうな色は見えなかったのでちょっと安心する。これで誰かに睨まれようものなら、どうすればよいかわからない。


 そっか、仲間で見ててくれたのかな?それなら……。


 いやまて。もし、仮に、俺がこいつらの事を「友人」と思ったとしても、やっぱり向こうは「仮のメンバー」としか見ていなかったら?いつまでメンバーに数えてくれるのか、なんて思いながら過ごすのは結構きつい。


 いやいや何考えてんだ、俺。動揺しすぎだろう。一週間も(強制的に)一緒に勉強してんだ、気の利いた奴なら俺にだって誘うだろうさ。仲良し関係なくな。 


 ああくそっ、面倒くさい!


 人間関係はほんとうに嫌だ。だから一人が楽なのに。



 「光崎、悪いけどここわかる?」

 「……あ?ああ」


 とはいえ、仲間に入れてくれたという嬉しさもあって、あまり奴らにのめり込まないよう注意を払いながら、ちょっとだけ親身に説明してあげるのであった。





お読みくださりありがとうございます。


多分、主人公は思い違いをしています。無限ループではない。

恋愛脳と、思い違いが怖くて最初から一人を選ぶのと、どっちが平和だろう?

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