画面外の恋人
「なー、聞いてた?」
「聞いてる聞いてる」
うそつけよ……
座ってから、いや、店に入ってからかれこれ30分。ずっとスマホいじってるじゃねーか。
俺も取り出そうかと思ったが、なんのためのデートかわからないので止める。
そう、デート!デートなんだよコレ!
今日のために仕入れた話題はその頭上を越えて消えていき、残されるのは生返事だけ。彼女のトレイからポテトを2本引き抜いてみたけどなんの反応もない。いつもなら奪い返すのに。
2週間ぶりに合えたというのに、これはあんまりではなかろうか?醒めちゃったのかな……確かにここんとこ模試やバイトで忙しかったさ、十分会話が足りてた、とは言えない。『寂しかった』は浮気の定番文句だ。彼女はそういうタイプじゃないけど、でもひょっとして「いいな」とちょっと思う相手ができたんじゃないだろうか。
「なー、俺といても……つまらん?」
「え、なんで?」
ようやく彼女がこちらを見た。お、しばらくぶり。コンニチワ。
「ずっとソレ見てんじゃん。何?ラインしてんの?」
「真野ちゃんがさぁ、ほらサッカー部の3年と付き合ってたじゃない?今もめてるみたいなんだよねー。別れる別れないの実況中継」
「へ↑え↓」
現在進行形の修羅場ね。原因が「心変わり」じゃないことに安堵しつつ、あまりのくだらさにイラっとする。そんなのに負けてんの?俺。
ちらりと見えた画面には2~3個の異なる画像と吹き出しが入り乱れている。彼女の他にも相談に参加している子がいるらしい。一部の女はこういう話が大好きだ。つーか、真野ちゃんもリアルタイムで相談しながら別れ話するなよ…やりにくくないのかソレ。
実際サッカー部の先輩も大変だよな。対決する女の手には見えない援軍がいるんだから。けど同情する気にはならん。そういう話は俺に迷惑がかからない日にしてくれ。
こんな調子じゃデート続行は不可能だろ。つまらん。撤収撤収。
「じゃ、今日はもう解散するべ。家でゆっくり……」
「え、なんで。来たばっかじゃん」
もう1時間は経ってるよ!!
あー、そうか。まだ食べてないってか。忙しかったもんな、目とか指とか。知るか。
「俺食い終わったし」
「私終わるまで待っててよ。そだ、さっきの話の続き。どうなったか聞きたいなー?」
さすがに俺に悪いと思ったのか(悪いに決まってる!)、彼女は笑顔を浮かべてスマホをテーブルに置き、ハンバーカーを掴む。ちょっとシナシナになってるだろう、なんせ包も開けていない状態だったのだから。俺に責任はない。けど、なんだろう。見てると今日のデートを切り上げるの悪い気がしてきた。
今頃向き直られてもなぁ……意地を張っても仕方ねーか。
2週間ぶりに2人でいるんだ、結構楽しみにしてたしケンカで終わるなんてそれこそ馬鹿らしい。右から左に抜けたであろう『面白い話』をもう一度話してやろう。
「この前――」
ピロリン♪
「あ、ひっど!!何ソレ!」
「……」
たちまち彼女の頭が下を向いて、せわしなく指を動かし始める。
再び正面を拝めるのは何時間後かね……。よくある「私と仕事、どっちが大事?」っていうセリフ、ウゼエなって思ってたけど今なら気持ちわかるわ。あれは「どっちが大切か」じゃなく「優先順位」の話なんだ。
目の前の俺と画面のトモダチ、どっちが大事なの?
口には出せないけどな。重い奴って思われたくないから。もし言うとしたら相当気持ちが覚めた後だ。どんな答えが返ってきても傷つかない程度の。
……仕方ない、もうしばらく付き合うか。修羅場もじきに終わるだろ。
俺は彼女のトレイを引き寄せて、ポテトを食い尽くしてやった。
お読みくださりありがとうございます
苦手な恋愛話の練習したのが生きてたので、そのままのせました。
以後、ヤマオチなしの短編が4~5話続きます。
機械上の無視よりも、対面でないがしろにされる方がダメージはでかい。