第4章の2
――― 時間はハバタキにヘルメットを装着される3日前にさかのぼる。
「テカぴょん、おはよう!」
いつものようにマタタキが通学中に声をかけてくる。
「こら、今日はテカッてないだろ。せめて確認してから言え」
「まあまあ、これは最上級の褒め言葉なのですよ、殿」
「誰が、殿だ!」
と毎度のボケ突っ込みがあり、今日も平和だなあと感じる。
学校での1日も何も変わらない。退屈な授業を窓の外の景色を見ながらぼんやりとやり過ごす。何かいろいろと妄想しているうちに6時間目のチャイムが鳴り、放課後となる。
「ふあああ。終わった終わった。さ。帰るかな。」
『ガラガラッ』
教室の戸が勢いよく開くと同時に、背の高い、イケメンメガネが教室に入ってきた。手にはいつものように怪しい装置が抱えられている。
女子どもの熱い視線が集まる中、脇目も振らず俺の席にやってきたメガネはいつもと違って神妙な面持ちで話し始めた。
「ミズサキ、僕は未来を見てきた。いや、正確には情報を認識したという方が妥当であろうか。」
「はあ、また意味不明なことを。それで、お前は未来で何かすごいものでも見てきたのか?」
そう言うと、ハバタキは持っている装置をぎゅっと握り締め、黙り込んだ。
・・・・
どれくらい沈黙が続いただろうか。教室も異様な雰囲気に包まれていた。
その様子を察知したのか、ハバタキはすうっと息を吸い込み、何かを決心したような口調でこう言った。
「人は定まった未来を変えることはできない。どんなに変えようと努力してもだ。結局、同じ結果に収束されてしまう。僕の発明など、この普遍的原理の中ではまったくの無意味だった・・・ミズサキ、僕は自分がこんなに無力だと思ったことはないよ」
「はあ、よく意味がわからんが、お前が見てきた未来はあんまりよくないものだったのか?」
「そう・・・最悪のものだった。それは僕たち幼馴染にとって最悪のことだ」
ハバタキは下を向いて、無念な態度を押さえ込むかのように握りこぶしを作り、唇をかみ締めていた。
『さすがに、これはおかしいな・・・』
俺は何かを感じ、ハバタキを教室の外に連れ出した。
こいつがこんなに感情をあらわにすることなど今まであっただろうか。俺は歩きながら、このハバタキの不自然な態度について色々と推し量った。
だが・・・いくら考えたところで、俺程度の頭の人間が、科学者並みに頭のいいやつの考えなどわかるはずもない。
俺は、もうちまちま考えるのをやめた。
もう全力で話を聞くだけだわ。よほどのことでない限りうけとめてやるわい!
俺はハバタキに言葉を投げかけた。
「なあ、ハバタキ。答えたくないときはそう言ってくれ。それ以上は聞かん。」
ハバタキは力なくうなづいた。
「お前の見てきた未来はいつなんだ?」
ハバタキは遠くを見つめながらこう言った。
「3日後だ・・・」
近いな。だとすれば危機はもう目の前に迫っているということか・・・。
「悪いがもう単刀直入に聞くぞ。お前が見てきたものは何だ。俺たち幼馴染にとって最悪とはどういうことなんだ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらくの沈黙の後、ハバタキは唇を噛み締めて、言葉を絞り出すようにつぶやいた。
「マタタキが・・・死んだ。」