第4章の1
午後3時30分
『キーンコーンカーンコーン』
ああ、今日の授業もやっと終わったわ。大体、1日の大半を学校で過ごすってどうなんだ。どうせなら、もう少し未来に生まれたかったなあ。
『ガラガラッ』
教室の戸が勢いよく開くと同時に、背の高い、イケメンメガネが教室に入ってきた。手にはいつものように怪しい装置が抱えられている。
女子どもの熱い視線が集まる中、脇目も振らず俺の席にやってきたメガネは笑顔で話し始めた。
「テカリン、待望の未来を体験できるマシンができたよ。さあ、はやくこのヘルメットをかぶってくれたまえ」
「待て、ハバタキ。毎度変な実験に付き合ってやっているが、今回は何の解説もなしか。」
「はっはっは、テカリンは弱虫さんだなあ。大丈夫、うちのジョンは今でも元気にしているから」
「おい、ジョンはおまえのとこの犬だろ。動物実験の後、すぐ俺とはどういうことだ」
「誰しも新しいものには恐怖を覚えるものなのだよ。だが恐怖というタガが外れた時、人は新世界へ踏み出せるのです」
「最後だけ何で丁寧口調なんだ。まあそれはおいといて・・・まずはお前がかぶれ、話はそれからだ。」
「はっはっは。僕がかぶってもしょうがないんだよ。だって僕は未来のことは何でもお見通しなんだからさ。」
さ、帰るか。今日はあたらしい携帯でも物色してこよう。おれは席を立ち教室の外に向かおうとした。するとハバタキが後ろから俺のすそをつかんで
「待ってくれたまえ。どうやら僕の説明が足りなかったようだね。特別に教えてあげよう。この装置は相対性体験マシンといってね、かぶると3分先の未来を見ることができるのだよ」
「3分・・・ああ、3分後か・・・」
俺は普段しない腕時計をチラッと見た。
「そう、未来が見えるのだよ。想像してくれたまえ、TVを見ていて良い場面になった瞬間にCMに突入したときの喪失感。このメットをかぶったものだけが、その喪失感から解放され、物語の続きに没頭できるのだよ」
うーん、実用的といえば実用的だな。ほんとにこいつの作るものはいつも使えるものばかりだわ。じゃんけんとかもこれ使うと絶対に勝つしな。あみだくじの当たりの場所だってわかってしまう・・・。
でも、相変わらず小さい発明だなあ。もっと1年後とかに行ける機械はないのかよ。しかもこれCM飛ばすって大々的に言ってるんだから、発売してもスポンサー付かないんじゃないか。
午後3時35分
そんなことを考えているうちに、ハバタキが俺の頭にそっと変な装置をかぶせているではないか。
しまった、こいつの気配を消す能力は半端ではなかったんだ。くそっ、ご丁寧にあごにベルトまでしやがって。
「ふん、ふーん、ふうぅん♪」
変な鼻歌交じりにハバタキは装置を取り付けている。気持ち悪いからやめてくれ。しかもそれを見ていた周りの女子は
「仲いいよね、あいつら。どうみても夫婦じゃん。」
「どっちが『受け』・・・なんだろう。私は『ハバタキ-ミズサキ』だと思うんだけど・・・」
「いや、案外『ミズサキ-ハバタキ』かもしれないよ、ミズサキ時折ものすごいこわい顔するしさ」
などと、下種な話題で盛り上がり、奇声をあげていた。
まあ、庶民などこんなもんだろう。どうせ2-3日したら忘れるんだ。ここは我慢して・・・・俺はいつものようにそう割り切ることにした。すると・・・
「わたしは『ミズサキ-ハバタキ』だと思います!!」
背後から自信に満ちあふれた声が聞こえてきた。振り返るとティタさんが納得した表情でうんうんとうなずいている。
おい、そこかよ、お前。真剣に考えるポイントが違うだろ。自分の守護すべき人間が頭に変なものかぶせられてるんだぞ。どうしてBLの話題のほうに全力で頭を使ってるんだ。
「よし、装着完了。少しくらっとくるけど、視線をそらさないで前だけに集中してくれたまえ。」
そして最後にこう付け加えた。
「ミズサキ、僕は君のことを信じてるよ・・・」
「おい、何だその言い草、不吉すぎるだろ。もし失敗したら化けて出てやるからな」
午後3時37分
ふふっ、とハバタキは笑みを見せると、おもむろに手元のスイッチに指をかけた。