【7】 探偵様、ソレ言葉の圧力ですよね?
無事(?)羽昇梅宅に着いた私たち3人。これからまたバカらしい事件に巻き込まれていきそうな予感。
やっと第7コマ目、ラッキーセブン。どうぞご堪能あれ!
案内されたのは、小さな庭園付きの大きなお屋敷。連れてきてくれた少女は、鉄柵の端についたベルを連打した。何も、そんなに押さなくても通じると思う……。
「ナダ様ァ! “レールウ”と名のる探偵の一味がいらしましたっ!!」
「あの。レールウではなく、レイリュウなのですが」
「そうなん? どうでもいいじゃんそんなのォ」
あの、キミねぇ。容姿清楚な割に、何気にお客様に失礼だな。ご主人様にどんなしつけをされているのだ。一味とは、悪党の付属品ではないか。
そうこうしているうちに、インターホンから柔らかい声が返ってきた。
『はーァイ、こちらシンネだよ~っ。お客様には申し訳ないけど、難駄は今、ユキ君とお出かけ中でェす。伝言があったら、おっしゃってくださいって伝えてもらえるかな?』
「あ、ハイッ。わかりましたァ。そう伝えておきますねェ」
まだ名のってすらもいない少女は、通話ボタンを押そうとして……ウチの所長に遮られた。お坊ちゃまの口は既にマイクのすぐ手前にあって。これが当然の結果であったかのように、自然に話し始めた。
「シンネー? ボクだよ。この声きいて、誰だかわかんない?」
『えっと……突然のことで、よく聞き取れなかったですー。スミマセン、もう一度お願いできますかァ?』
「わかったよ、じゃあ言うね。ボクが誰か忘れたわけじゃないよね? シンネ?」
『その声は……まさか、馬央位師匠ですかァ~!?』
「そうだよ。驚いた?」
少なくとも私は驚いたよ、うん。この今会話している人を弟子にしていたなんて。ん? 探偵の弟子……助手とかじゃなくて?この今会話しているシンネという人は、このお屋敷の召使か何かだろうか。さっきの使用人(少女)にかけていた言葉よりも、やけに丁寧な口調だ。
『いえ多少は驚きましたが……師匠が最近いらっしゃらないものですので、てっきり忙しいのではないかと思っておりました』
「まあ、忙しかったのは事実だけどね?」
嘘つけィ。その証人はココにいますよ?私のただならぬオーラを察知したのか、所長の言葉にも若干の焦りが浮かぶ。
「とっ、とにかく! ボクは忙しかったのだ!」
『す、すみません。しかし、ユキ君が『まーくんに会いたい』って騒がれてたものでして……いつ頃ご連絡差し上げたらよろしいかと思っておりましたら思わぬことに、こうしてご足労くださるなんてワタクシどうしたらいいか……』
きこえる声は、震えていた。馬央位様を慕っているんだな。感激で言葉がでないってとこか。
「でもそっか~心配かけちゃったねェ。たしかユキオミ君は今お出かけ中なんだよね?」
『そうですね。確か朝市に行くとだけ伺っていたものですから、そろそろお帰りになる頃合いだと』
馬央位様の表情がパアッと輝きだした。コレは、嫌なコトが起こる前触れでもある。どうか、この予感が当たりませんように……!
しかし、こんな時でさえ予想を裏切らないのが本場のおぼっちゃま。予想を裏切るどころか、二、三割上乗せした威圧感を振り撒き、絶望を与えてくれる。
「じゃあ、ユキ君と依頼人……難駄様? 今から呼び出ししてくれない?」
『……ハイ??』
「だーかーら。今すぐここに連れてきてって言ってるんだよ、ボクは」
『あの、こんなこと言いたくありませんけど、それはさすがに……』
「キミってさぁ、彼とすっごく仲いいんだよね? ここにいる女の子がそう言ってる」
「は? 何言ってんのっ! ウチは!」
「てことで、2人には『ボクたちあがって待ってる』って伝えてもらえるかな?」
『しかし……』
「もう! そうと決めたらそうなの!」
『そんな無茶な』
同感……。そんな無茶な。
「キミは昔っからそうやって上下関係にとらわれてばっかでさ」
『は、はい……』
「考えてみなよ、君とボクとじゃそんなに年離れてないじゃん。だから、そういうのどうだっていいの! みんな友達なんだからっ」
みんな友達なんて、どこぞのお偉いさん方だよ。まったく。
「じゃ、キミ。門を開けてくれるかな? 伝言しといたし、君に拒否権はないよね?」
にこっと笑う馬央位様にやや引きつり気味な笑みをかえした少女は、皮肉たっぷりに門を開けた。
「ど――ぞ。お入りくーださいッ」
「ありがと。キミは将来良いお嫁さんになれるよ?」
「ウチの心配はしなくてけっこうですっ」
『馬央位師匠。どうしてもですか……?』
いざ家の扉に手をかけようとしたとき、か細い声がきこえた。馬央位探偵は、すうっと大きく息を吸い込み、木々が震えるような声音で叫んだ。
「もっちろォオオオん!!!」
ふつり。それっきり、インターホンからは何も聞こえなくなった。
なんか、なんかわかったような気がする。馬央位探偵に知り合いが多いって言うのは……実は言いかえると、奴隷を作っているだけなのだということに。本人が気づいていないのが恐ろしいところではあるが……。
「さ、いこ?浮受にナギ」
馬央位探偵。助手の私から一つ忠告です。気をつけないとそろそろマジで友達なくしますよ?
馬央位探偵って、意外にアレなのかも。
つづきますよー。