【5】 探偵様、お仕事ですか?
私たちのオフィスを突然訪ねてきた、浮受さん。でも、それにはワケがあって……。
怒涛の第5コマ目!!
「実は、今回ここに来たのは、ちょっと依頼したいことがあってなのだが」
塩カステイラを食べ終えた浮受さんは、フォークを持ったままの状態で口をひらいた。キリッと整いまくった目が、どうしても持っている小物に合わなくて、私は含んだレモンティーを吹き出しそうになるのを堪えることで精一杯だった。
「うん。何?」
「その……なんだ。こないだ俺が所用で不在中に、助手が伝言を預かっていてな」
「うん。それで?」
「お前“ハショウバイ ナダ様”って知らないか?」
「はしょうばいなだ? 聞いたことあるような」
「何っ! 知っているのか」
「ないような?」
あらまあ、所長ったら楽しんでる。
「馬央位……てめェ、マジで息の根止めるぞ」
「ごめんごめんご」
「……まあいい。話を聞く気がないなら他をあたるからな。言っておくが、お前よりは知名度がわずかに低いからといっても、全く知り合いがいないわけではない。お前に協力を要請するのは滅多に無いことだ。手柄が減るのは御免だしな。いつもみたいにおフザケが通ると思ったら、大間違いだからな! いいか」
「だーいじょうぶさ! その人、たぶんボクの知り合い」
「ハショウバイなんとか様の?」
私は思わす口を挟んでしまった。浮受さんの視線が怖いよー。おびえるリアクションをする私に、馬央位様はあの笑顔を向けた。
「うん、そうだと思ったけど。漢字にすると……」
ペンをメモスタンドに滑らせていく。ここでまた一つ発見が。
はやの発見手帳③
“馬央位探偵は、字が恐ろしく美しい”
「ハイ、できた☆」
そう言ってビリッとメモをはがすと、テーブルの上に指で押さえ置いた。え――――と、純・楷書体を読み上げます。
【羽昇梅難駄】
これで、『ハショウバイ ナダ』と読むのだそうです。
「羽昇梅……名字ですよね。一体どんな知り合いなんですか?」
「えっとねぇ、ものすんごい大富豪」
大富豪……。なんだか名前からあらかた予測はつく。でもどうして、そんな滅相もないお方と知り合いなんだろ。
「ボクの最近のお友達のお家の、主人ってトコかな。あ、よかったら遊びにいかない? 浮受もさ、って……なんでそんなにボクのこと、にらむの? 恐怖心を抱いちゃうんだけど」
「……お前、話聞いてた? 今からその家に調査に行くならまだしも、『遊びに行く』って何だそれ。その家のご主人……羽昇梅様が折り入ってファクシミリをくださったんだ。きっと深刻な事態に悩まされているに違いない!!」
「違いないって……あなた、用件知ってるんでしょ? 知らないの?」
「凪原、お前はそんなにせっかちじゃ無かったハズだ。それがどうしてこんな様に……ああ、すまない神よ!! 凪原を責めないでくれェ!」
……ぶちぶちっ。
「お前は私の何を知ってるんだ。あァン?」
「すいません凪原さん。あの、なんてゆーか俺、いきすぎました」
「で、実のところどうなの? 浮受」
いき過ぎた私を押さえつけるようなノリで、馬央位様が程良く口をはさんだ。
「ファクシミリには住所と名前、それから『早く来い』しか書かれていなかった」
「じゃあ、今から“調査”に行かない?」
「今から……ですか」
私は荒くなった息を少しととのえ、時計の針を見た。もうすぐ、魔のお昼時。都会での移動はかなりの困難を伴う……。できれば行きたくないんですが。ね、浮受さんも嫌ですよね?まともな答えを信じて、私は彼のカオを見た。なんだかイヤな予感がしたと思ったら、的中した。超真顔で「イエッ・サァア!」ですってよ。
なんじゃこりゃ。浮受さん、キャラおかしくなってません? 女性ファン、確実に減りますよ。いいんですか。
「さあ、そうときまればさっさと動こう! 食後の体操にはちょうどいい!」
はやの発見手帳➊
“浮受さんは、自分の中に異常なポジティブキャラを飼っている”
クールな人に限ってこうですもんね。お約束です。さっきの「さあ」から始まるセリフはもう一人の浮受さんの発言。馬央位探偵と肩を組んで歩くサマは、ちょっと非公開映像にしたいくらいレアモノ。あの浮受さんがどうしたらこんな……。
もう、どうにでもなれってカンジです。マジで泣きたい。
浮「やっほー!俺・浮受だよww」
馬「ごめん、浮受スイッチ入っちゃったみたい」
は「どうしてくれんですか!ツッコミがまわりませんよっ!」
浮「じゃー続くぜィっ☆」