【2】 探偵様は、やっぱりすごかった。
馬央位探偵と近所のスーパーに買い物に来た私。
そこで、ハシャギまくる探偵様が何も起こさないワケがない!
……え――――
というわけで、今のこの状況を説明してもらいましょうか。馬央位さん。
私は食品売り場でお菓子の箱を、次から次へとショッピングカートのカゴの中に放ってゆく上司を、半ばあきらめにも似たカオで見つめた。
「あの――――馬央位様。そちらの品物は誰が精算するんですか?」
『るるんるんるんるん……♪』
ふ~……
当の本人はまだ夢の世界に入り浸っている。だめだこりゃ。まったく聞えてやしない。目がキラッキラしまくってるもん。デカいビーダマより粒々粉々なビーズです! ってカンジだもん。
「ナギはどれが食べたい? ボクのおススメはね~、この『トロケルジュレモンキーモンダイワンコニアルゼコノヤロォオ!!』っていうグミなんだけど」
「……なんですか、そのウザったらしい商品名は」
「ボクの学生時代の友達が開発したらしいんだ。試しに買ってみようと思って!」
はやの発見手帳①
“馬央位探偵は、カオが広い”
結局、私がお会計をすることになるハメに。でもおかげで気づいたことがもう一つ。今までに私自身彼と買い物なんてしたことがなかったし……っていうか働き出してけっこう経ってるから、なにを今更って気がするけど、これは意外な新発見だ……。
はやの発見手帳②
“馬央位探偵は、買い物に来るときは財布を持ち合わせていない=所持金0円”
それはレジ前でのこと。どっしりという効果音がつくほど上乗せした買い物かごをレジ台に置いた私は、客の目につきやすい場所に置かれたガムに見入っている上司をじろじろ見た。
(この様子じゃ、まんまと私に五千円相当の物品の支払いを受け流すつもりだ……。まあ、日ごろの扱いで慣れてはいるが、レジ待ちの間にちょっとばかし探りを入れてみよう)
「馬央位さーん。アナタ、たまにココ来るんでしたよね。そのときは支払い、アナタがするんですよネ。フツーに考えてそうでしょ」
「うん、一人のときはボクがなんとかするよ」
私はなぜかイラッとした。その口調がまるで、『一人のときは仕方ないからお金出すけど、二人以上で来ているときは、たとえ自分の私用に関するモノであっても頼めばどうにかしてくれる』と言っているようで。
どこのお坊ちゃんよ、アンタ!!
「え、じゃあ今日は何円持ってきてるの?」←うっかりタメ口。
訊かなきゃよかった。おぼっちゃま、笑顔でベストアンサー。
「ううん、お金持ってきてないよ。だってナギが払ってくれると思ってたからさ」
え、なんだって? 馬央位様、いえ、お坊ちゃん。お金、ないのオォ!?
「ちょ、ちょっとタンマ。何? 今の幻聴?」
「ほら、ナギ! レジ、会計済ませておいて☆ボクは先に行ってるから」
はなしをそらされた。
「お会計、合計六千二百三円になります」「……ハイ」
会計終了後、私はマッハで無銭坊主をとっ捕まえた。
「馬――央――――位―――さ――ん――……」
「ひいい――――」
「どういうことか説明していただこうかしら」
「……一応確認したいんだけど、ボク上司……「いいから、ね?」「ハイ。」
その後の事情聴取で得た結論は変わらず1つ。彼は、1人で来た時もお金を持ち合わせていなかった。
「だって、さっきは1人できた時はちゃんと支払いを……」
「そんなこと言ってないよ? 一言も。ボクが言ったのは、“なんとかする”ってことだけ」
なんとかする……??
「も~仕方ないなあ。これは誰にも教えたくなかったんだけど……ナギにだけは教えるね。実はね、ボク、ここの店長さんと知り合いなんだよねー。だから、顔パス出来るってワケ! 『このお菓子は新作?』なんて聞くと、『あげましょうか?』だってさ。もうボクってば最強じゃーん!」
ああ、この話は発見手帳①にリンクしている。やっぱり彼はフツーじゃない。
「さあ、ナギ。次はどのお店いこっか?心配しなくてもいいんだよ、このボクがいる限り、このデパート内の品物全てが、なんと無償に……」
「いまさら何言ってんですか! 多く見積もって五千円だったくせに、いざ精算してみたらなんかフツーに六千円超えでしたよ? その駄金返してくださいね、給料で」
「ええ~許してよ、ねぇ。ナギってばぁー!」
私は、大きく膨らんだエコバッグ両手にぴょこぴょこ後をついてくる少年を溜息をつきながら振り返って、「遅いですよ、やっぱり一個持ちます」とつぶやいた。
なんだかんだいって、私本気でこの人に腹を立てたことはない……と思う。根っこは純粋で素直で天然なままだから、私は彼のキャラクターに惹かれていったし。
だけど、やっぱりイライラするな。いいかげんそのふわっとした笑顔向けるのやめてくんないかな。
私、笑うの苦手だからさ。
馬央位様は、攻略が難しい人物のひとりかもしれません。