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地球が滅んだ日にトランシーバーを

作者: 菊地飛助

滅亡した地球を舞台にしたSFの短編小説です。


そこゆくお暇な方、どうぞよろしくお願いします。

 僕が目を覚ますと、見渡す限りの何もかもが消滅していた。

 ついに地球が滅亡したのだ。

 予測されていた事とはいえ、いざこうして目にすると驚きを隠せない。

 生き残った人間は世界全体で三桁にも満たないだろう。僕がその中の一人に選ばれた事には奇跡を感じてしまう。

 横に目をやると、そこには朔郎と弓代が苦しげな表情で目を閉じていた。顔の筋肉は上下しているし、体のどこにも損傷はみられない。二人は生きている。奇跡は同じく、僕の友人達にも訪れたようだ。

 どうやら、前もって県内最大級の洞窟の奥深くまで避難していた事が功を奏したらしい。洞窟の形など跡形も残ってはいないが、それが盾となり僕らを守ったとしか考えられない。地球滅亡の原因である他惑星の侵略から身を守りきるのに、僕らは有効な手段を選べていたのだ。

「朔郎。弓代。起きてくれ」

 僕は二人の体を揺すり無理矢理に覚醒させる。僅かに呻き声をあげる二人であったが、しばらくすると共に目を覚ました。首を左右に動かして目を見開いている。

「……こりゃあ見事にやられたもんだ。もしかして日本にはもう俺らしか残ってないんじゃねえのか? やれやれ。これからは大人しく三人で自給自足生活だな」

「待ってくれ朔郎。それは早計すぎる。他に生存者がいないか捜すべきだ」

「ええ。私も同意。希望を捨てちゃ駄目よ。そもそも三人で出来る事なんて限られてるわ」

 そうして議論が展開された。

 捜すだけ無駄だとの主張を繰り返す朔郎に対して、僕と弓代が説得にかかる。「こんなに何もない状態でどう自給自足を?」「地を耕すんだよ」「道具も種も水もないのにできるはずがない」「足りない物は捜せば良い」「ならば同時に人間を捜しても構わないだろう」ものの十数分で朔郎が折れた。

「わかった。わかったよ。人を捜そう。全く、いつ宇宙人が襲ってくるかわからないってのに」

「だからこそよ。さて、出来るだけ効率良く進めたいから、ここで三人は一旦別れる事にしましょう。分担作業ね。収穫が無かったとしても、二十四時間後には再びこの場に集合。避難する時に持ってきたトランシーバーがあるから、離れている間はこれで連絡を取り合いましょう」

「トランシーバーって。それ程遠いと使えないんじゃ?」

「大丈夫。輸入物の、最大50kmまで使えるタイプだから。真逆の方向へ進んでも25kmまでは通じるわ」

 弓代の提案により、今後の予定が次々に決まっていく。

 進む方角は僕が北、朔郎が南、弓代が東。西を外したのは、そちらはかつて森林であり人が住んでいる形跡が全く無かったからだ。めぼしい物や人を発見したら、直ちに他の二人へトランシーバーで知らせる事。集合は出発地点に二十四時間後である。

「それじゃあ二人とも。頑張りましょう。くれぐれも無茶はしない事。おーけい?」

「ああ。わかってるっての」

「必ずまた生きて会おう」

 そんな言葉を残して僕らは別れ、それぞれの道程を歩き始めた。




 歩けども歩けども景色は変わらない。

 朔郎と弓代の姿はとうの昔に見えなくなっている。

 砂埃以外、視界に入る物はない。他惑星の侵略者達がどのような方法を使ったのかは知らないが、建物の残骸すら残されていないのだ。核爆発が発生したのだとしても、さすがにこうはならない。

 これじゃ、どれだけ捜しても人っ子一人見つからないように感じてしまう。

 ――――――――突然に、心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に陥った。

 なんだ、これは。体が震える。無意識にきょろきょろと辺りを見渡してしまう。ざわざわと心臓が揺れ動く。恐怖? 確かにそうかもしれない。だが、単なる恐怖じゃない。

 これは、孤独だ。何もない世界で、僕は一人きりになってしまった。

「う、ううううぅ」

 トランシーバーに手を伸ばし、僕は辛うじて口を開く。

「弓代。弓代」

「…………ん、どうしたの? ねえ? 何かあったの?」

「助けてくれ。怖い。怖いんだ。何もないのが怖い。もうこの世界には誰も生き残ってなんかいない。僕には君たちしかいないんだ」

「そんなはずない。世界には私たちの他にも多くの人が生き残ってるわ。それを証明するために私たちは歩いているんでしょう。まだ出発から一時間しか経ってない。さあ、頑張りましょう」

 弓代の言葉を耳にした瞬間、心臓にしがみついていた憑き物が取れた気がした。

 僕は一人じゃない。弓代も、朔郎だっているんだ。

 僕は弓代に感謝の意を伝え、通信を取りやめた。

 再び、僕は歩を進める。一歩、十歩、百歩、千歩。数えたところで、やはり目に映るものはない。

 宇宙からの侵略者は何故これ程までに酷い事をしたんだ。みんな殺されてしまったのか。僕の家族は、友人達はどうなってしまったんだ。考えないようにしていたが、僕らにはもう何も残されてはいないのだ。仲間は二人だけ。一時的な命を得たからといって、縋る助けはない。

「ううぅぅう。弓代。弓代。声を聴かせてくれ。恐怖に殺されてしまいそうだ」

「ふふ。落ち着いて。私がついてるから。それに朔郎だっているでしょ。どうしても耐えられなくなったら言ってね。探索はそこで終了。すぐに出発地点で落ち合いましょう」

「あ、ありがとう。ありがとう」

 無の世界で得られる弓代の声は僕にとって天使の囁きにも聞こえた。

 千歩進んでは弓代と会話をし、千歩進んではまた弓代と会話をし、それを数時間ほど僕は繰り返した。

 限界が訪れた。声だけでは我慢できない。弓代。弓代に会わなければ僕はもう生きられない。

「弓代。弓代。もう駄目だ。君の姿を見て、直接会って話をしなければ心臓が止まってしまう。助けてくれ弓代」

「え? ちょっと待って」

 聞こえた声を気力へ変換し、僕はこれまで歩いてきた道程を駆け出す。走って走って走って走って走って。

 それからどれほど経過したのか、ついに僕は人影を見つけた。




「ぷ。あは。あはははは!」

 自然と、弓代の口からは笑い声が零れた。その隣には、朔郎の姿もある。

「笑いすぎだろ。そんな場合じゃねえんだぞ。とっとと歩いて何かしら見つけねえと、あいつを犠牲にした意味がねえ。食料があるっつったって二人分なんだしな」

「ふう。『弓代、弓代』ってさ。おかしいわよね。……ま、確かに朔郎の言う通り、全然、安全圏になんかいないんだから。歩かないとね。でも二人っきりになれて良かったわ。邪魔だったし彼」

 苦笑を浮かべる朔郎は、弓代が手に持つトランシーバーに目をやった。

「それ。もういらねえんだろ。捨てちまったらどうだ? 荷物になるだろ」

「あ。それもそうね。よっと」

 朔郎の言葉に応じて弓代はトランシーバーを遙か彼方へ投げ捨てた。

 トランシーバーから流れる声には聞く耳など持たぬかのように。




 僕が目にしたのは、弓代ではない、全身を防護服で包む異様な姿の集団だった。

 出会い頭、先頭に立つ男がすぐさま呟いた。この男がリーダーなのだろう。

「まさか……地上に生き残りがいるなんて。君はどうやってここに辿り着いたんだ?」

「え、あ、近くの洞窟で仲間達と身を丸めていたのですが。あ、あなた方はどうやって?」

「知らないのか? 数日前、政府が用意した地下シェルターへ潜るよう全国民への通達があったはずなのだが…………いや、君たちはそれ程に前から周囲との連絡を閉ざしていたのだな。ともかく、我々は生存者の捜索のため地上へ出向いたのだ。じきに第二の爆発が起こる。あまり時間もない。私たちと共に地下へ潜ろう」

「ちょ、ちょっと待って下さい。爆発? ただの爆発でこんな事になりますか?」

「奴らが極小のブラックホールを発生させたんだとだけ聞いている。詳しい事は私も知らない。さぁ、奇跡は二度起きないぞ。今度こそ跡形もなく消し去られる」

 集団の中の一人が身を屈め、地面へ握り拳をかざす―――――いや、遠くて見えていないだけで、あれは地下へ潜る扉を開いているのだ。拳は取っ手を握りしめている。それと同時に、僕は右腕をリーダー格の男に掴まれた。移動を促しているのだ。

 そこでふと気付く。そうだ。弓代。僕は弓代に会うために走っていたのだ。

 めぼしい物どころじゃない。窮地を抜け出す術が見つかったのである。早く連絡を取らないと。そのためのトランシーバーだ。

「弓代。弓代。聞こえるか? 僕らは助かるぞ。生存者が僕らの他にもたくさんいたんだ」

 トランシーバーに向け、ありったけの大声で僕は叫んだ。しかし、

『よっと―――――――――――ブツッ』

 僅かな音声を残して通信は途絶えてしまった。弓代に会う術はなくなってしまった。

「さあ行こう」

 僕は男と共に地下へ潜る決意をした。

 ――――不思議と、悲しみはさほど感じなかった。


読みづらく申し訳ありませんでした。


読了感謝致します。


感想頂けましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が好きです。 個人的な好みですが。 [一言] やはり悪いことをしたら返ってくるんですね。 因果応報、という言葉を実感しました。 お体にはお気をつけてお過ごしください。 それでは。
2011/03/21 12:36 退会済み
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