Tの独白
わたしの話を聞いてもらえます?
いえね、そうでもしないとうかばれないやって言うかね、愚痴になっちまうんですがね。
わたし、こう見えてもたまねぎなんです、見えないって、そりゃそうですよ。
わたしも生まれたてのときはこんなに荒んでませんでしたよ。
希望にあふれてて、まあ若かったんでしょうな。
生産者の田中さんっていう五十絡みのおじさんがね、手塩にかけて育ててくれて、真っ直ぐな性格の立派なたまねぎになりましてね、青果市場に運ばれまして、袋に詰められましてね、そう、あの赤茶色い網目のネットですよ。
スーパーマーケットのたまねぎ売り場に並んでね、誰が買ってくれるんだろう、わたしらは何に使ってもらえるんだろう、なんて緊張したり、ワクワクしたりと気持ちがせわしなかったですね。
見切り品売り場には並びたくない、廃棄されたくないなんて悲観的なこと言ってるやつもいましたね。
そうこうしているうちに、ちょっと太めのおばさんがわたしを選んでカゴに入れてくれてね。
わたしはその時ラッキーだと思ったんです。カゴには他にカレー用の肉と、人参と、じゃがいも、がいましてね。その日は金曜日でした。
何でも金曜日にカレーを作る人は多いみたいですね、海軍のカレーが発端だとか?いけねえ、すぐ脱線しちゃいますね。
これは今日のカレーに使ってもらえる、わたしはおいしく食べてもらえると嬉しくってね。
子どももいる家庭だと嬉しいなあ、なんて浮かれてました。
ところが、です。そのおばさん家に帰るなり「あらやだ、たまねぎあるじゃない」とこうですよ。
バラ売りのたまねぎが3つ、で我々も3つ。あわせて6つのたまねぎですわ。先住たまねぎたちに聞くと、かれこれ1週間待ちぼうけだという話でね。
この辺から、嫌な感じが、こう、ね。
加えてその家庭、夫婦2人で、カレーに使うたまねぎも2つくらいなんですね。
せめて、冷蔵庫に入れてくれたらまだ良かった。
秋の初めでね、朝晩は涼しくなってきたけど、昼間はまだ暑いんですわ。
3日経ち、1週間経ち、仲間も一つ、また一つと使われてはいくんです。親子丼、野菜炒め、味噌汁、オニオンフライ、なんてのもありましたね。
10日も経って、一つポツンと取り残されて、わたしもそろそろやばいなあ、なんて焦りが出てきましたよ。
だんだんお尻の辺りやら切り口の辺りやらが、調子が悪い、古くなった感じでね。
最近ハエが増えてきたなあ、なんて思ってましたね。
そうして、買われてから2週間目の金曜日でした、わたしが手に取ってもらえたのは。
まあ、お察しですね。お尻の辺りが真っ黒になって。手に取るなり「いやだ、腐ってるじゃない」とこうですよ。
お前が冷蔵庫にも入れずに放置したからじゃろうが?ああん?何が「いやだ」じゃあ!!
すみません、すっかりその頃はやさぐれててね。
そのまま、ゴミ箱にポイですよ。
恨みましたね。
ええ、こうして愚痴を聞いてもらえて少しはスッキリしました。次は生まれ変わるなら、高級たまねぎが良いですねえ、おのおばさんは一生手に取らないようなね。レストランのシェフにオニオングラタンスープにしてもらうのが密かな夢でね。
ええ、じゃあ来世でもし会ったらよろしくお願いしますや。
ありがとうございやした。




