お父さんの過去
ある春の夕方の事だ。山村史郎はリトルリーグで練習をしていた。史郎は子供の頃から野球が好きで、野球観戦をする事が多いし、テレビで中継を見る事も多い。成績は普通だが、それ以上に野球が好きで、将来はプロ野球選手になりたいと思っているぐらいだ。
史郎は4歳の時に父、博之をがんで失い、それから、母、雅恵と一緒に暮らしている。雅恵は、野球を頑張り、プロ野球選手になりたいと思っている史郎を応援していた。
「もっと強く振れよー!」
「はーい!」
監督の声に、史郎はますます気合が入った。もっと頑張らなければ、強くなれないだろう。高校野球で活躍して、プロにはなれないだろう。今を頑張らなければ。
「さて、今日はこれで終わり!」
その声とともに、部員は練習をやめ、後片付けをした。そろそろ終わる時間だからだ。
「疲れた・・・」
史郎は肩を落としている。とても疲れたようだ。だけど、明日も練習だ。頑張らないと。
突然、誰かが肩を叩いた。誰だろう。史郎は横を向いた。そこには同級生の宮村がいる。
「史郎くんも疲れたでしょ?」
「うん。今夜はゆっくりとしたいわ」
今日はもう疲れた。明日はゆっくりとしたいと思っている。相当疲れているようだな。
「そっか・・・。じゃあね、バイバイ」
「バイバイ」
史郎は練習場を後にした。目の前には、雅恵の乗っている軽自動車が停まっている。遅くまでやっているので、安全のために迎えに来たようだ。史郎は助手席に座り、ドアを閉めた。
「史郎、疲れたでしょ?」
「うん」
雅恵は家に向かって車を走らせていく。雅恵は笑みを浮かべている。夢に向かって頑張っている史郎を応援しているようだ。
「今日はゆっくり休もうね」
「いつもありがとう」
史郎は、夢のために支えてくれている母に感謝していた。母子家庭で、収入はそんなに良くないのに支えてくれる。これぞ本当の母だなと思っている。
「なーに。頑張ってるんだから、自分も頑張らなくっちゃと思ってね」
2人は家に着いた。史郎の家は2階建ての普通の一軒家だ。家は電気が消えている。雅恵と史郎以外に誰もいないからだ。博之がいれば、この時間でも明るいのに。
2人は家に帰宅した。雅恵は電気をつけた。
「ごはんできてるからね」
「はーい!」
史郎は洗面所に向かい、手を洗った。まずは手を洗ってから、食べないと。雅恵はそんな史郎の後ろ姿を見て、何かを感じていた。だが、史郎には何も話そうとしない。
史郎はダイニングにやって来た。今日の晩ごはんはカレーライスだ。迎えに行く前にすでに作っていて、少し冷めていたが、再び温め直した。
史郎は椅子に座った。
「いただきまーす!」
史郎はカレーライスを食べ始めた。とてもおいしい。やっぱり母の作るカレーライスはおいしいな。
「おいしい!」
「そう・・・」
と、史郎は雅恵の様子が気になった。何か気になる事があるんだろうか?
「どうしたの?」
「いや、何でもないの」
だが、雅恵は何も話そうとしない。ここ最近、何かを気にしていることが多い。主に、自分が野球の練習をしている時にそう思う事が多いのだ。
「ふーん・・・、変なの」
史郎は再び食べ始めた。だが、とても気になる。何を気にしているんだろうか?
その夜の事だ。史郎は夢を見た。真っ白な場所だ。ここは一体どこだろうか?史郎は首をかしげた。
「あれっ!?」
と、目の前に博之が現れた。博之はバットを持っている。どうしてバットを持っているんだろう。博之も野球の経験があるんだろうか?
「もしかして、父さん?」
「ああ」
史郎は博之が来ているものが気になった。それは、プロ野球のユニフォームだ。背中の背番号の上には、『YAMAMURA』と書かれている。これは、どういう事だろうか? まさか、博之はプロ野球選手だったんだろうか?
「父さん、何これ? ユニフォーム?」
「うん」
やはり、それはユニフォームのようだ。ところで、博之はプロ野球選手だったんだろうか?
「史郎、お前、野球頑張ってるらしいな」
「そう、だけど・・・」
史郎は戸惑っている。プロ野球選手になりたくて、やっているのに、どうしてだろう。
「父さん、昔プロ野球選手だったって、知ってるか?」
「知らなかった」
史郎は驚いた。まさか、プロ野球選手だったとは。だからユニフォームを着ているんだな。
「母さんから聞いた事ないのか?」
「うん」
どうやら、聞いた事がないようだ。自分はたった2年で戦力外になった。そして、大学を経て、教員になった。そして、雅恵と知り合った。子供が生まれたが、その幸せは長続きせず、がんで若くして亡くなった。
「そうだよな。全く活躍できなかったもんな」
「そうだったんだ」
全く活躍できなかったのか。だから、話そうとしなかったんだな。雅恵が言わなかったのも、その理由だったんだろうな。
「父さん以上に活躍できる事を願ってるよ」
博之は期待していた。史郎は自分以上にプロ野球で活躍できるだろうと。
「父さん、僕、頑張るよ」
史郎は目を覚ました。夢だったんだな。史郎は夢の内容が気になった。博之は本当にプロ野球選手だったんだろうか?
「夢か・・・」
史郎は博之と雅恵の写真を見た。大学で知り合った頃の写真だという。2人は喜んでいる。
「父さん、本当に元プロ野球選手だったのかな?」
史郎は1階に向かった。この後、雅恵に聞いてみよう。
史郎はいつものようにダイニングにやって来た。ダイニングでは雅恵が朝食を作っていた。
「おはよう」
「おはよう」
「母さん、父さんって、プロ野球選手だったの?」
それを聞いて、雅恵はハッとなった。どうしてそれを知ったんだろうか? まさか、夢の中で博之に出会ったんだろうか?
「うん。あんまり活躍できなかったけどね」
雅恵は残念そうな表情だ。高校の頃から応援していたのに、プロで活躍できなかった。活躍できたら、結婚しようと思っていたのに、活躍できなかった。だが、同じ大学に入ってくれた。
「そうなんだ」
「引退した後、私は結婚したの。母さん、史郎がこうして頑張ってる姿を見てると、まるで博ちゃんの生き写しのような気がしてるのよ。そして、思ってるの。博ちゃん以上に頑張ってほしいなって」
母は空を見上げた。今頃、博之は天国から史郎を見ているんだろうか? プロ野球選手になりたいという夢を持つ史郎を、どう思っているんだろうか? 自分以上に頑張ってほしいと思っているんだろうか?




