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椿の花に粉雪積もる

あの時の私は日常に刺激がなくてうんざりしていた。

楽しくなかったの、本当に。

私の人生は順風満帆で幸せだったし、楽しかったけど“すごく”楽しくはなかった。

いつも同じような日々を過ごして、似たような季節の過ごし方をした。

案外小説のような刺激なんて日常にはないものよね、だってあれは御伽噺だもの。


でも、あの冬だけは忘れらない年だった。あの時以上に運命を感じたことはなかった。

 


寒い、冬の始まりのような日のことだったの。私が狐耳の生えた神様と出会ったのは。

 

 貴方は自分の中の神様、って見たこととか思ったことはあるかしら。

あたしは多分見たことがあって、私の神様はあの人だった。

 始めてみたとき、目を奪われてしまった。

 周りの全部がゆっくり動いて、降ってきた雪の結晶が見えて、とても綺麗な群青の目をした神様と目があったの。彼の双眸は、まるで宝石のようだった。冬の透き通った夜空のような目の色だった。

 目があって、目を奪われてしまって、私は動けなくなってしまった。

それは、きっと、彼に見惚れてしまったから。

 ドキドキと聞いたことがないくらい胸が高鳴っていたら、彼は私に名を尋ねてきた。

「御前、名は」

 とても深い声だった。山を流れる澄んだ川のような優しい声で、……聞き惚れてしまいそうになりながら私は心臓を高鳴らせながら彼にこう返した。

 「お、かあ様に知らない方へは教えてはダメと言われているから無理、よ。そもそも私に名前を聞く前に貴方が名乗ったらどう、なの」

 このときの私は相当頭が硬かったと思う。ここでこんなふうに答えたりしなければ、名前さえ教えていれば、きっと私は彼に本当の名前を呼んでもらえたというのに。

 彼はキャメル色の狐の耳をピクピクさせながら私の全身を頭から、爪の先まで見た。そのあと彼が行ったのは次の一言だけだ。

 「そうか」

 拍子抜けしたわ。彼は怒ってなんていなくて、唯単に名前を聞いただけだったの。じゃあなんで聞いたのかしらね、まぁ今になって理由はわからないけれど。

 こっちを見もせず歩き出す彼の後姿は一等美しかった。きっと妖艶は彼のために在る言葉だとさえ思った。揺れる尾もきれいだった、肩に乗る雪を落とすときの所作も、ちらりとだけ見えた双眸が、とてもきれいで、美しかった。胸が高鳴った、夢中で彼を追いかけて着物の裾をつかんで

「少し、だけでいいから話しましょうよ」

 なんて、彼を誘ったのも甘酸っぱい思い出だ。その後断られたり、私が駄々をこねたりでひと悶着あったのだけれど彼は優しいからなんだかんだ私の話を聞いてくれた。それが嬉しかった。


それだけで満たされていれたらよかったのに、彼にやさしくされると欲が出てきて止まらなくなる。何も望まないようにしていたのに不意な何かを与えられると欲深くなる。




止まらない思いと、理性が脳を揺らした。

彼を見ると胸が高鳴ってうるさかった。寒さなんて忘れて頬が熱かった。



日常に色を与えてくれた神様だった。

なんだか世界がキラキラして見えて、椿の花の赤色にドキドキしてた。







シェイクスピアのロミオとジュリエットという本を読んだ。


"結ばれない"というところが、まるで……私とあの神様みたいで。

好きなお話だと思った。すぐにいやな気持ちを思い出すものになったけれど。














「貴方には関係のない話ですもの、私の結納もロミオとジュリエットも」

「貴方が聞いてくれているだけで私は感謝しないといけないことは私だってわかっているのよ」


虚しかった。


私ずっと一人で、空回りして喜んでただけみたい。

 


「いっそ、このまま貴方が私を奪ってくれたらいいのに」



言ってから後悔した。いうつもりすらなかったのにぽろり、ともう出てしまっている。

いわないほうがいいことを飲み込むのが得意なほうだった。






でもなんだか、彼ならいいよ、といってくれるんじゃないかって、思って




 「は、無理な話だ」



 そう言って彼は苦笑した。

私を見る目は子供をあやすような、まるで私のお父様のような伯父様のような、



私ってバカみたい!

ずっと空回りして一人で手をとって、喜んで踊っていたんだわ。


「えぇ、知っているわ」


頭の中でお皿が割れる音がしたけど、聞こえないふりをした。







雪が降っているのに、雲の隙間から太陽がキツネさん照らした。



すごく腹が立った。そんな彼をやっぱり、美しい。と思ってしまう自分が。












冬なんて嫌いよ、だって彼がいることを思い出すから。









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