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崩れる時空

階段は螺旋を描きながら、闇とも光とも言えぬ空間へと伸びていた。

 八人となった渡航者たちは、言葉少なに足を進める。

 誰も失われた者の名を思い出せない。ただ、「最初から八人だった」と思い込むことで均衡を保っていた。


 やがて階段の先に、巨大な振り子時計が現れた。

 針は動いているようで止まり、止まっているようで進んでいる。

 時は「過去・現在・未来」という概念を失い、ひとつの渦となってそこに凝縮されていた。


 鏡を覗き込んでいた男がふと呟く。

「俺は、ここに来る前……誰だった?」

 その言葉に誰も答えない。答えられない。思い出そうとすれば、その瞬間に頭痛が走る。


 ペストマスクの男が振り返る。

「“時”というのは本来、連続ではなく断層だ。ここでは、その断層が露わになっている」


 突然、少女の足元にヒビが走った。

 螺旋階段の段差に、蜘蛛の巣状の亀裂が広がる。

 次の瞬間、彼女の影だけが階段からずり落ちていく。

 影は落下しながら、別の時間へ分離するように裂けていった。


 ガブリエルが叫ぶ。

「影が……時間軸に引き裂かれている!?」


 黄金色の光を宿したジャックナイフが宙に浮かび、影の断片を切り離す。

 すると影は階段に戻ったが、ほんの少しだけ形が違っていた。

 少女自身もそれに気づくが、なにも言わなかった。


 その時、振り子時計の真下にあった扉が音もなく開いた。

 そこには「昨日」「今日」「明日」という文字が刻まれた三本の道が広がっている。


 男(カプチーノを持っていたはずの)が戸惑いながら言う。

「どれを選んでも、“今”ではないという事か……?」


 ペストマスクの男は静かに言った。

「選ばなければ、時は我々を選ぶ」


 その瞬間――

 三つの道のうち一本、「昨日」と刻まれた道だけが唐突に崩れ落ちた。

 轟音とともに、時間軸そのものが瓦解していく。


 少女は思った。

「壊れているのは“時間”じゃない。私たちの存在のほうだ」


 残された道は二つ。「今日」と「明日」。

 だが、そのどちらも、同じ場所へ繋がっている気配があった。




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