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14人目と“視られる”記憶

男が、コーヒーの残りを飲み干しながら問い返す。


「14人目のことか?」


「いや……14人目で“終わり”じゃない可能性さえある」


 その瞬間、街の奥――廃墟化したビルの壁が“裏返る”ように捻じれ、そこから誰かがこちらを覗いた。


 目を持たない顔。

 表情を刻む肉もない。

 代わりに、頭部全体が“鏡面”でできていた。


 塔で見た観測者と似ていながら、違う。

 観測者が“案内する鏡”だとすれば、こいつは――


 “記録する鏡”だ。


 足元でガブリエルがダイヤモンド片を強く握る。手の中の光が痛みの代わりに震え出す。


「嫌だ……こいつ、知ってる……見られたことがある……!」


 彼の声には、記憶と恐怖が混ざっていた。



 そのとき、塔から離れていた少女――黄色いカッパの彼女が、くるりと振り向いた。


 ただし彼女は13人のほうを見ていない。

 視線の先は“空”だった。


 空の鏡面にいた“14人目”の影。

 それと目が合った瞬間、少女は小さく笑った。


「やっと来たんだ」


 誰も、その言葉の意味を理解できなかった。


 少女はナスビを放り投げ、その影から再びカマキリを呼び出す。虫とは思えない眼光を持つそれを指先に乗せ、彼女は小さく尋ねた。


「この世界、もう食べちゃっていい?」


 カマキリは、顎をゆっくり鳴らした。



 一方、塔の入口に留まっていたペストマスクの男はひとり、静かに歩み出す。街の中央へ向かいながら、彼は懐から紙片を取り出した。


 そこには、滲んだ文字でこう記されている。


 ――「終わりがない」旅の目的

 ――“あのとき”に戻る権利

 ――忘却の代価と選定される魂

 ――“誰?”と問われたときの回答者枠


 紙を収めると同時に、ペストマスクの男は懐中時計を持つ別の男とすれ違った。すれ違いざま、どちらともなく呟く。


「この層は長くもたない」


「“14人目”が侵入した層だからな」


 その言葉にガブリエルが反応する。


「14人目って……誰? さっき空にいた人?」


ここは“旅の途中”じゃない。おまえたちはずっと――」


 言葉の続きは、世界全体の“巻き戻し”によってかき消された。


 空が逆流し、建物が再構成され、人影が影に戻る。


 そして一瞬だけ、“時間軸そのもの”が固有名詞を失った。


 ――誰が“いつ”ここにいたのか。

 ――誰が“最初の渡航者”だったのか。

 ――誰が“消された記録”なのか。


 全てが混ざる。


 そしてただ一つだけ、揺るがず残る問いがある。


 ――誰?



 雨は止まない。

 だが、止まない雨を“最初に経験した記憶”が、全員からそっと抜け落ちていった。


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