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塔の出口にて
長い階段を上った末にたどり着いたのは、空虚な部屋だった。
何もない。時計もなければ光もない。ただ扉だけがある。
その扉の向こうが“外”なのかどうかも分からない。
少女は迷わず扉へ手を伸ばした。
すると、不思議なことが起こった。
扉が開く前に、彼女の頭に声が届いた。
――「あなたの本当の名前は」
それは“観測者の声”だった。
だがこれまでの機械的で無感情な声ではなく――
優しさを帯びた、どこか懐かしい響きだった。
少女はその続きを聞くことなく扉を押した。
外へ出た瞬間、世界が光に包まれる。
扉の向こうには――何もなかった。
ただ一本の石畳の道が続いていた。果てしなく。
少女はその道をひとり歩いていく。
いつの間にか鏡の男もマスクの男もいなくなっていた。
けれど怖くなかった。
「名前は、自分で探せばいい」
彼女は自分の靴音を聞きながら進む。
歩幅は迷いなく。一歩ごとに“誰かになりかけていた記憶”が背後に沈んでいく。
そして――その記憶が塔の最上階で再生されているとも知らずに。
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