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還らない旅路

円盤の空間がゆっくりと崩れていく。

時計盤の文字盤が剥がれ落ちるように欠片となって舞い、星々の海へと消えていった。


少女たちの足元も徐々に薄れていき、彼らはまた新たな階層へと吸い寄せられる。


ペストマスクの男は最後まで少女のそばにいた。

「お前が名前を選ばなくてよかった」

そう言って歩み去っていく。

「だが“次”は違う。“名付け”は塔の仕事になる」


少女が振り返ると、彼のマントが闇に溶け込んでいた。

背中越しに聞こえた声はひどく静かだった。


「記憶に縛られるな。記憶を選ぶな」

「記憶を越えろ」


その言葉を残して――彼の姿は完全に消えた。


鏡の男が肩をすくめる。

「厳しいけど正しいね。名前っていうのは、“役割”を強要する鎖なんだ」


マスクの男は無言で少女に手を差し出した。

「次へ行くぞ。この塔は“問い”を増やしていくだけだ」


少女は頷き、鏡の男とマスクの男ともに歩み出す。

傘はもう不要だった。


階層が切り替わる際の揺らぎに包まれながら、少女は心の中で誓う。


「私は私の名前で還る」

「誰かに名付けられた影じゃなくて――私が選びとった“私”で」



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