【一万字ラノベ】 岡田ん家は、ウチら完璧女子大生の、帰る場所
ウチらは可愛いし、スタイルもいい、人並み以上におしゃれにも気を使ってる。
なのになんで!
「なんで、男子ってぇぇぇ!!!」
「マジでそれ...」
唯一分かり合える戦友、レイカと雄叫ぶ。
「今日の奴もちょっとばかり顔がいいだけで調子乗っちゃってさ」
「そ、あんたの中学のサッカーの話はどうでもいいんだわボケ」
「それなw 高校なにしてたって感じw」
「なのに一丁前に誘ってきて、流石に悪寒」
「まぁ...いつものことだし」
「そーね」
いい?
ウチらは決して負けたわけじゃない、負かしてやったのよ。
男子ってのはどいつもこいつもロクじゃないんだから。
「はぁ...もうこんな時間か...。今日こそは持ち帰られてやろうと思ったのに」
「ふはw マリンそんなこと言って、まだ処女でしょ」
「あ゛? んな簡単にあげないわよ」
「あっそ。で、どうする」
「どうするって、行くしかないでしょ。電車もないし、お金もかけたくないし」
「岡田ん家?」
「以外どこよ」
「ま、それもそっか」
そうして、ウチらは向かう。慣れた足取りで。大学から徒歩30秒とかいう神立地のそこに。
男にうるさいウチらが、深夜に男の家に行く。イケメンじゃない。賢くもない。面白くもない。
ただ、無料で飯が出てくるし、朝ゆっくり寝てられるし、なんのリスクも、ないから。
*****
――ピンポーン
「......」
反応はない。
でもこれは、いつものこと。
「アイツまたイヤホンしてんな」
「一人暮らしなのにね」
「ったく、レイカ電話して...!」
「はいよ」
――プル...
『あっ...はい』
「開けて~~」
『あっ...はい』
それから、トストスとゆっくり足音が聞こえて、カギが開く。
「はいはいウチらですよ~」
ウチがドアの隙間から顔を覗かせてやっと、ドアチェーンが外される。
「そんなに信じらんない?」
「いえ、不審者かもなので」
「あっそ、お邪魔しま~す」
「失礼~」
相変わらず、変な家だ。
ある意味ではミニマリストって呼ぶのかもしれない。
棚がなく、引き出しがなく、ハンガーラックもない。
とにかく、収納家具がない。
「やっぱ変な部屋だね~」
「便利ですよ」
「どこにあるか忘れちゃわない?」
「引き出し使っても同じことです」
「う~ん...? そうかな~?」
壁中に、廊下も、リビングも、キッチンも。
パンチングボード、パンチングボード。
そこになにもかもがぶら下がっている。
スーパーみたいだって、いつも思う。
「ご飯なんかある~?」
「魚が無限にありますよ」
ウチらと話してるときは滅多に笑わない岡田が、少々呆れたそうにフッと息を吐く。
きっと、自分自身に向けたものだ。
「うわ、これまた」
先に冷蔵庫を開けたレイカが呟く。
「あはー......。あんた、ちょっとは計画性持って釣りしなさいよ」
「釣れるだけ釣っちゃいますよね」
スマホに目を落としたままの岡田が言う。
こいつは、オタクってほどではないけど、アニメ、マンガ、ゲーム。
ウチらにってよりは、ネットの方に興味がありそう。
「好きに食べていいの?」
「三親等まで裾分けしてください」
「はぁ...タチウオなんて食べ方知らないっての」
「塩焼きとか、唐揚げじゃない」
「そんなん、どの魚でも一緒でしょ」
とりあえずウチらは、卸されてた切り身をフライパンで焼いて食べる。
それからお刺身は、ブリにイカにキジハタ...?
「なんか、豪華だね」
「それな」
「全部1000円のルアーで釣ったから、実質無料だって言ってたよ、アイツが」
「手間と時間と考えたらマイナスだろうけどね」
「趣味ってそんなもんでしょ」
「それもそうだ」
アイツはすぐに自分の部屋へと戻ってしまった。
アニメを観ているのか、ショート動画でも観ているのか、抑えるような笑い声が度々漏れてくる。
「楽しそうだね」
「いつものことでしょ」
「だからいいんだけどね」
「まあね」
とっくに日を跨いでいるし、アイツが起きてるのは、ウチらを気遣ってのことなのか。単に生活リズムが終わってるだけなのか、それともなにかエッチな企みでもしてるのか......。
「寝るか」
「お風呂入んないの?」
「朝シャワーでいっかな」
「えぇぇ......」
「夜更かしは肌に悪い」
「風呂入んないのも不衛生でしょ」
「どっちもは...得られないん...だっ...」
ソファーに倒れこんだレイカを数秒見つめてから、風呂場に向かった。
当然、着替え中にアイツがドアを開けて来て、「あっ...! す、すみません...!!」「えっ...ちょっ...//」なんてことは起きずに(そもそもウチはそんな反応しないし)。
換気扇をつけて、電気は消して。そして、レイカの足元、人をダメにするソファーで目を閉じた。
「あのっ...! マリンさん、先日の飲み会では失礼しました...」
朝、一限前の構内、申し訳なさそうに謝ってくるこの人が誰だかなんて、いちいち覚えちゃいない。
めちゃくちゃ律儀って可能性もあるだろうけど、どーせまたいつものでしょ。
「あはは~。全然~、またなにかあったら誘ってね~」
「...! はいっ! もちろんです!」
もちろん、違うメンツで、ハイスぺ君を連れて来てよね。
「おっ、マリンじゃないか」
「あっ! シュウジ!」
シュウジは今ウチがちょっとアリかもって思ってる人。
若干のナルシスト感が気になるかもだけど...。
まっ、それはお試し期間ってことでっ。
「シュウジ今日空いてる??」
「う~ん、そうだな...」
ったく、なに悩んでんのよ!
このウチが誘ってやってんだから即答しなさいよ。
「まあ、いいよ」
「そう?? ありがと~~」
いいよ、じゃねえよ。お願いしますだろ。
ウチの評判下がってもバカらしいから大人しくてるけどさ。
「んで、どこ行くんだ?」
「え、あ、うん。どこにしよ~」
「はははっw まだ決めてなかったのか」
「え、あ、ごめ~ん」
ふぅ...。落ち着けウチ。
「んじゃ、俺から提案~!」
「なに~?」
「ホテルとか行っちゃうってのは? パンパンパンってね」
こんなに人がいる所で、んな動きしないで。
流石に笑えないって。
「ごめん、やっぱりなしで」
「うぇ? そう? あっ! もしかして今日生理!??
大丈夫よ、俺。そーゆーのぜんっぜん気にしないから」
抑えろウチ。
人がいっぱい見てるんや。
「ちょ、マリン? どこ行くの?」
「ごめん、ウチ行くとこあったから」
「今日の夜の話は??」
「んなもんナシよ! とっくに!」
朝、まだ皆は、のほほんとした空気でいる。多くの人からは喧嘩中のカップルか、それかナンパに見られてる。
情けない。そして憎い。あんな、真面目だけが取り柄の眼鏡イモ女が爽やか君と手繋いでるのが。大した外見でも、金持ちでもない男子どもが、好奇の目でも、憧れの目でも見てくるのが。
なんで! ウチはこんなに完璧だってのに!
「はぁ...アンタはなんの授業なの」
「~♪~~♪」
「おい!」
「...…! あ、すみません。なんですか」
ぐぬぬぅ…。
陰キャのくせにぃぃ。
ダメよ、イライラしてたらイイ男もよって来なくなっちゃうでしょ。
「なんでもない」
「…そうですか」
そしてまた、スマホを見始める岡田。
さっきあんな風にヤリ〇ンを振ってから一人でいると、なんだか惨めじゃない。
だから、とりあえず近くにいたコイツに構ってやってるってのに。
「なんのゲーム? それっ」
「え……TD…」
「ぬぅ……。あんた会話続ける気ある?」
「貴方も興味ないでしょ」
「そうだけど」
「…?」
?じゃねぇよ。
思えばコイツがウチらのことそういう目で見てこないのもなんかムカつく。
いや、分かってるよ。それは暴論だってことは。
でもさ……。いや、違うな。これはきっと照れ隠しだ!
ウチらのこと直視できないし、ロクに女の子とも話したことないから、緊張でもしてるんだ!
いや~。それなら納得納得。
「あ、僕こっちなので…」
「あ…いやっ! ウチ空きコマだからついてくよ」
「……そうですか」
なんか、これじゃウチがコイツの気を引こうとしてるみたいじゃない?
「やっぱりなし~」
「…そうですか」
「そうよ! ナシ。残念でした~」
ウチが言い終わる前に、イヤホンをポケットから取り出し、慣れたように片手ではめる。
「おい!」なんて言うツッコミはきっと聞こえてない。
でも別に、わざわざ伝えるほどのことでもない。
コイツにそういう、構って欲しいみたいな感情は皆無だから。
「マリン、時は来た」
昼、学食でレイカが言う。
「学園祭ね…」
「ついてはミスコン」
「まぁ? ウチらなら余裕なんだろうけど?」
「もちろん」
「でもその優勝者に彼氏の1人もいないってのは…恥ずい!」
「そうか…?」
「なんとしてもそれまでに優良株を捕らえねば!」
「そう…ガンバ」
「まぁ? ウチに男が堕とせないはずないんだから、イイ男に出会えた時点でウチの勝ちなんだけどね」
「ちょっと不安、マリン、男見る目ないかもだから」
「あぁ゛?」
「ふふっ」
レイカと別れて1人、学園祭のポスターを眺める。
「ミスコン、マリンちゃんも出るの?」
「えっ…あ、うん。一応その予定だけど」
「そうだったの…! お互い頑張りましょうね」
「え、ええ…」
話しかけてきたのは、たったの数回しか話したことのない女子。
黒髪ロングに、清楚系のワンピース。
分かったよ。あんたが、自慢の彼氏を見せつけたいのは分かったから。
失せてくれ。
「ふふふっ」
屈託のない笑顔には悪意があったのか、それともなかったのか。
どっちにしてもブルっと、寒気がした。
高身長のイケメン彼氏と、見せつけるように腕を組みながら離れていく2人を睨みつけるウチに、間髪入れずに男が話しかけてくる。
「君、マリンちゃんだよね」
「あ゛? えっ…! 先輩!?」
正直、嬉しかったんだと思う。珍しく。
「あははっ、やっぱり! なんか垢抜けたね。こっちもすっごく可愛いよ。でもやっぱり雰囲気は変わってないな~」
「え、そ、そう?」
この人はハルト先輩。
一緒の高校で、そのとき、いや、ウチの人生で唯一……ウチを振った人。
あの時の感情は吹っ切ったつもりだったけど、可愛いって言われてついドキっとしちゃう。
「は、ハルト……先輩。
ここの大学だったんですね」
「うん、そうだよ~。一年にすっごい可愛い子がいるってのは聞いてたんだけど、まさかマリンちゃんがこの大学とは驚いたな~。あははっ」
なんだろう、この感じ。
一つ一つの言葉で、心が揺れる感じがする。
ウチを覚えててくれてたこともだし、今こうして話しかけてくれたことも。
「先輩はその…彼女とか…」
「僕? 今は彼女、いないかな~。ははっ、それにしてもマリンちゃんがそんなこと聞いてくるなんて意外だな~」
「そ、そそ…そうですか?」
あははは、と控えめに笑う先輩は、ヘラヘラしてるわけでもチャラいわけでもない。
そういう、なんだろうな、つい目を奪ってくるような笑みなんだよ。
「そういうマリンちゃんはどうなの?
1人で学食いたら、よく声かけられちゃうんじゃない?」
「え、いや、ウチは今、付き合ってる人とかいなくて…」
「へ~、これまたびっくりだな。興味ないの?」
「いや…そういうわけじゃないんですけど」
「ふ~ん……じゃあさ、僕と付き合ってみる…? なんて、最低だよね、僕」
「ほんとですかっ!」
みっともなくも、勢いよく立ち上がってしまった。
周囲の引き立て役どもが、チラチラとバレないように見てきている。
でも、そんなウザったい奴らもどうでもよくなるくらいに、舞い上がってた。
「~~♪~♪」
「マリンどうした」
「え~、聞きたい~?」
「……なんかいい」
「おい~。そこは聞けよ~。えへへ~」
「ちょっと、キモイ」
自覚はある。
だけど、そんな理性が飛ぶくらい嬉しいというか、これからが楽しみというか。
ああ、恋ってのはこういうことを言っていたんだなって、知る。
「そんじゃ~ね~。レイカも彼氏作りなね~」
・・・・・
浮足立ったマリンを見送った私は特に行くところもやることもなく、岡田ん家に向かった。
マリンと彼氏がなんだって話してたけど、1人で合コンってのもノらない。
元々ゲームとか、好きだったし、アイツといるのは意外と面白い。
気まずくならないし、間違いも起きないし。
――プルル…ッ
『はい…』
「ドア開けて~」
『はい…』
岡田ん家にたどり着く数歩前でこうすれば、効率よく入れる。
「あ…一人ですか」
「うん、残念?」
「いえ…」
「じゃ、お邪魔します」
岡田はゲームをしていたみたいで、机の上に、女の子の立ち絵が大きく映った画面と、2つのイヤホンが投げられていた。
「そう! このゲーム! 私も始めたの!」
「えっ……マジですか」
目を輝かせてくれたように感じる。
私もつい、勢いよく話しちゃう。
「そう! 120連分溜めたんだけど…!」
「…回しましょう…!」
「マジ…!?」
「はい…!」
なんだろう。
別にコイツに気があるわけじゃないんだけど。
なんかコイツがようやく素で接してくれたような気がして…ちょっぴり嬉しい。
会話に"!"が付くのも初めて。
「お風呂ありがと~」
「はいはい~」
マリンがいないからか、それとも私と趣味が似ているからか、コイツとは普段よりも近い距離感でいてくれた。
何回も言うけどそれが恋愛感情に発展することはないと思う。
だけど、なんか、弱いんだけど仲間にするのが難しいレアモンスターをゲットしたみたいな。
それがほんのりと、温かい感情であることに違いはない。
「このアニメ、2期やるんだね」
「みたいですね」
「興味はあるんだけど、なかなかね~」
「…観ます?」
「へ?」
それは…一緒にってことなのかな。
この家にテレビはないし、観ます?って訊き方はそういうことだよね。
「僕のスマホでですけど」
「え、あ、うん」
なんか、コイツが全く動揺せずに言って来るのがちょっとウザかった。
私が考えすぎてるみたいで。
「んじゃ、よろしくっ」
柄にもなく、距離を詰めてみる。
合コンとかでも基本受け身の、クールキャラってのを演じてたはずなのに。
特になにもなく、朝を迎えたのはいつものことなんだけど。
「アンタって、私らに興味ないわけ?」
毎回毎回、私らよりも遅くまで起きてるくせに、どれだけ私らが早く目覚めてもコイツは起きてる。
でも別に、寝てる間に体のどこかを触られてるわけでもないし。ってか、元々コイツの家なんだし。
「興味か……そりゃあ、あるでしょうね」
「そう…? チキンってこと?」
「かもですね」
どこか他人行儀なコイツは、もちろんスマホから目線を外さない。
――ガチャッ…!!
ドアの鍵が開く音がする。
「え…!」
珍しく、岡田が焦る。
まあ、いつも戸締りを徹底するし、らしいといえばらしい。
「お兄ちゃ~ん??」
聞こえて来た可愛らしい声と、妙にひんやりとした風が流れてくる。
「うじぇっ!!? お兄ちゃん!?」
「別になんでもねぇから」
「いやいや! えっ!?」
きっと岡田の妹さんなんだろう。
朝から家にいる私を見て、驚いてる。
そりゃ、そうか。言われてみればこの状況は確かに…(苦笑)。
「こんにちは。妹さん? レイカだよ」
「え…はい…。カナって言います…ってそれよりも大丈夫ですか!?」
「あははっ(笑) 別になにもないから大丈夫だよ~」
「なにもってその格好…。もしお兄ちゃんになにか弱みとか――……」
「大丈夫大丈夫。私たちが好きでやってることだから」
「好きで……?」
「そ」
「お兄ちゃんのことが…?」
「うーん。そういうことじゃないんだけど」
「…??」
「まあ、分かったろ。別になにも怪しかねぇから。それよりなにしに来たんだ?」
「あっ、それはね…」
鞄を漁るカナさん。
岡田も、妹の前では一丁前の思春期男子って感じの反応で少し安心する。
「このパソコン返したくて」
「別に大学ででよかっただろ」
「いやいや、お兄ちゃんと知り合いって思われたくないし」
「ひどいな」
大学ってことは…双子…?
「あ、そういえばカナ、ミスコンに出てみたいって言ってたよな」
「え、そんなんいちいち覚えてたの? 高校生の時の話でしょ?」
「いやほら、なんかずっと憧れてたみたいだったし」
「でももういいよ。大学には私より可愛い子なんていっぱいいるって分かったし。
ほら……レイカさんとか…」
俯かせたままの顔で、恐る恐る私を見る。
そんなに怖がらないでも(笑)。
「まあまあ、エントリーしてやったから、せっかくなら出てみろよ」
「えっ!? なに勝手にやってんのよ! バカ! 別に私出ないからね!」
「そしたら、俺が出ちゃうぞ」
「は?」
「岡田カナの兄だぞ~~って、パンツ一丁で」
「んな、それは私も終わるじゃない」
「そうだ、だから出てみよう。
やっとけばな~って後悔より、やんなければな~の後悔の方が、ランクが高いんだぞ」
「そう……なの?」
「ま、考えといてな」
「…う…ん」
そして、私に気を遣うようにしてそそくさと後にしたカナさん。
「アンタ、妹いたの」
「そ、僕、留年したからね」
「留年ねぇ」
「浪人、なのかな?」
「そうでしょ」
大学までは歩いて1分もかからないし、せっかくだから岡田と一緒に来た。
なんか、マリンは彼氏探しに必死になってたけど、正直私はどっちでもって感じ。
確かにイイ男がいればそれに越したことはないけど、正直、合コンにポンポン出現するような奴が運命の相手だとは思いたくない。
「んっふっふ~~♪」
「ご機嫌だね」
「いや~、なんていうのかな、登っちゃいましたよね。大人の階段」
マリンが下腹部をさすりながら言う。
「避妊はしたんでしょうね」
「避妊? まあ、多分?」
「多分ってなによ、多分って」
「ハルト先輩が、大丈夫だから~って」
「……はぁ…アフターピル、一応飲んどきなさいね」
「うんっ♪」
本当に分かってんだか。
ま、幸せそうでよかった。
「それでそれで、聞いて欲しいんだけど昨日の話っ!」
「はいはい。そのうちね」
「え~、今すぐでしょ~!」
マリンと並んで、歩く。
そりゃあ、目立つ。
新入生の2大美人だなんだって、半年前は騒がれてたくらいなんだから。
マリンが彼氏といるようになったら、私はどうするんだろ。
このまま岡田ん家に居候するのかな。
アイツはどう思ってるのかな。
私も、どう思ってるのかな。アイツのこと。少なくとも嫌い、ではないけど……。
・・・・・
私、岡田カナには兄がいる。
モサくて、キモくて、スマホばっか見てる変人で、正直兄だと紹介するのが恥ずかしい。
「でも、なんだかんだ、カナのこと心配してくれるじゃん。お兄さん」
「そうなのかな~。ちょっとやりすぎなんじゃない?って思うけど」
「大学生にもなって仲いいって素敵なことだと思うよ」
「そう~?」
仲のいいマリちゃんと歩く。
「あっ、それで言うとさ~、今日お兄ちゃんが家に女の人連れ込んでたんだよ。しかも………」
「えぇっ? あのお兄さんに…って言ったら失礼ね。しかも?」
「…ううん。なんでもない」
「そう?」
「そう、それで、お兄ちゃんさ、私のこと勝手にエントリーしやがったんだよ」
「もしかしてミスコン?」
「よく分かったね」
「そりゃあ、もう半年も一緒にいるからね。
カナ、学園祭の冊子とかポスターを貰っては、ミスコンのページ、見てたよね」
「え~?? 私そんなことしてたかな~?」
「してるよ~(笑) きっとお兄さんもそれに気づいてくれたんだと思うよ」
「だったら尚更キモいんだけど」
「も~、カナったら素直じゃないんだから(笑)」
私たちの家庭はちょっぴり複雑で、両親が離婚した後、お兄ちゃんを引き取ったお母さんが死んだ。
私はお父さんとおばあちゃんおじいちゃんと一軒家で暮らしてるんだけど、お兄ちゃんはいつも一人。
だから、女の人といるのを見た時、最初はびっくりもしたけど、嬉しかった。
でも、いくらあの人、レイカさんがあれでいいって言ってても…流石に…だよね。
夕方、お兄ちゃんの家に行くことにした。
まだお兄ちゃんは帰ってないみたいだから、こっそり隠れて様子を見てやろうって思ってる。
――ガッチャ……
静かに扉が開く。金属製の重いものだったからか、内装が一層不気味に見える。
「朝はあんまり目に入らなかったけど……」
昔からお兄ちゃんはちょっと感性が変わってた。
と言っても、よくいえば倹約家?
「どうせ次使うんだし、片づけなくてよくない?」「車いないんだし、信号無視していいでしょ」みたいな。
効率重視、理屈的、自分の信念をある意味では強く持ってたから。こういった部屋が出来たんだろう。
――ガシャッ…
パンチングボードにぶら下がる、ドライバーに肩がぶつかる。
――チャリッ…
今度はハサミ。パンチングボードが揺れて、並ぶ小道具が一斉に揺れる。
「なにこれ。ルアー? 危なすぎでしょ」
―――カサッ…
床には、壁に沿うようにゴミ箱が並んでる
「お堀かっての(苦笑)」
確かに、面倒臭がりなお兄ちゃんらしい。
私はリビングの押し入れ(もちろん、中は空っぽ)に身を潜めて、張り込みの友、カロリーメイトを頬張る。
「はあぁぁぁぁぁああ!!!!! マッジであり得ないんだけど!!」
喧騒と共に、帰宅したのは、やっぱりお兄ちゃんではない。
正確にはお兄ちゃんだけじゃない。
「まあ、落ち着きな」
「落ち着いてられるかってんだ!!!」
片方の声は分かる。
朝のレイカさんだ。
そしてもう一人は……。
「あのハルトとかいうヤリ〇ンが!! なにが『マリン、君を愛してる』だよ!!
どこの少女漫画のセリフだってんだ!」
「ははっ。マリン、都合よく遊ばれて、捨てられたね(嘲笑)」
「はあああぁぁぁぁ!!! もう!!」
興味もなさげに、さっさとシャワーを浴びに行ったお兄ちゃんを確認してから、ひっそりと顔を覗かせる。
「カナちゃん!!? どしたの? そんな所で!」
「あ…いえ…ちょっと覗き見を」
「覗き見? ってか、どちら? はっ! まさかアイツの彼女とか!??」
「あっ、すみません、私、岡田カナって言います。一応はアイツの妹でして…」
「へ~、妹ねぇ」
「はい……それで…ちょっとお話聞いちゃったんですが…」
「ああ!! あのクソ男の話ね、ぜんっぜん構わないから、学校中に広めちゃっていいから!」
短く聞いた感じだと、このマリンさんはハルトさんという彼氏に浮気されたみたい。
だけどきっと、マリンさんが、浮気女側なんだと思う。
こんなに綺麗な女性なのに、なんだか勿体ない。
そして、また、疑問。
「それで……マリンさんはどうして…」
「え? ああ、ここにいるかって?」
「そうです…アイツも男ですし…」
「うーん…大学から近いし? なんでも食べさせてくれるし? まあ、基本魚ばっかだけど(笑)」
「それだけで…こんなこと…」
「別に大したことじゃないでしょ、お互い困ってないんだし」
「そう…なんですか…」
「そうそう」
「なら…いいんですけど……。では…私はもう帰りますので…」
「そ、また気軽にいらっしゃいね~」
「あ、ははっ……」
どうしよう。
先輩たち、気づいてないのかな。
……相談、誰かにした方がいいのかな…。
でも、好きでやってるからって言ってたわけだし…。
――「*+::,,.::!!::」
――「….,,***;;!""」
アパートの廊下に面する、お兄ちゃんの部屋の窓が、珍しく開いていて、つい帰らずに、盗み聞きをしてしまう。
なんでって言われたら、返答に困るけど…。あの先輩たちを救いたい…からかな。
余計なお世話だって、それで終わるならいいんだけど。
「もうすぐ学園祭ね」
「もう当分は、彼氏とかいいかな~」
「…じゃあマリンあんた、なんで岡田にそんなくっついてるわけ?」
「寒いからよ。悪い?」
「そう。じゃあ私も寒い」
お兄ちゃんたちが出てくる。私は咄嗟に隠れる。
そして、あのお兄ちゃんが、両手に華。
こんなの天地がひっくり返っても想像も出来なかったよ。
それも、右に氷雪原に聳えるバラとでも。左に陽だまりに揺れる向日葵とでも。そう言えようか。
なんかカッコつけて言っちゃったけど、どっちも美人さんってこと…!
これからどこに行くんだろうか。聞けない。レイカさんとマリンさんの2人を、それと悔しいけどお兄ちゃんを、邪魔しちゃうのかもって。
10月、台風と、なんとか前線が重なってだとかで、妙に肌寒くて、頭痛の予兆を感じる日。
学園祭を、ミスコンを、明後日に控える日。
――ガチャッ…
「お兄ちゃん?」
朝、珍しく話声が聞こえなくて、私はミスコンについての相談と銘打って合鍵を差す。
「おぉ、カナか」
「え…? お兄ちゃん?」
「ん? ああ、これか? 学園祭も近いしな」
「え……それで…なんで…?」
「なんでって……」
ちょっと困ったような顔をしてから、お兄ちゃんは、澄み切った笑顔をニカッと見せてから、続けた。
「これでカナも、ミスコン優勝だなっ」
言葉の意味を理解したくない脳みそと、直観的に震える足。
そんな私をよそに、お兄ちゃんはボロボロになったカロリーメイトを紙皿に入れ、部屋に向かっている。
「カロリーメイトと水だけで、一ヶ月以上生きられるんだって。凄いよな~」
金属のぶつかり合う音と、甘い匂いと、刺激臭とが漂う、お兄ちゃんの部屋に。
ガタンと偶に、パンチングボードの工具を揺らしながら。
(終わり)




