学園の始まり
会長にしごかれた次の日、目覚めはもちろん最悪だった。背中痛いし、眠いし。心証も最悪だ。
・・・・・・あのー。これからどうすれば・・・・・・?
ポカンとしていると、生徒会室の扉がガラガラと開いた。
「おはよう。月路」
「・・・・・・おはようございます、会長」
「本当にすまない・・・・・・。廊下に寝かせて・・・・・・」
・・・・・・あ、やっぱり気にしてくれてたんですねー。良かったわ。人の心とか無いんか?って思っちゃったもん。
「本当に申し訳ない・・・・・・」
「いや全然・・・・・・」
「実は、生徒会室にもう一つ部屋があったらしくてな?」
・・・・・・それは謝ってください。
「ベッドもあって・・・・・・」
・・・・・・はい許しません。
「だから、本当に申し訳ない・・・・・・」
「べ、別にッ気にしてないので大丈夫です...」
「・・・・・・流石に嘘じゃないか?」
・・・・・・俺ってなんで昔から嘘下手なんだろ・・・・・・。
「ところで、もうすぐ授業が始まるぞ。君の教室は、1-Fだ」
・・・・・・1-Fって言われてもね・・・・・・
この学校は前も言った通り、東京ドーム20個分なので、アホ広い。そのせいか、教室の並び方とかが不規則なのだ。
「・・・・・・1-Fってどこですか?」
「ここを真っ直ぐだ。わからなかったらそこら辺の人・・・・・・いや、私が案内しよう」
「いいんですか?」
「廊下で寝かしてしまったからな・・・・・・」
・・・・・・まだ引きずってる。そろそろ申し訳ないな。
でも、本当に教室がどこにあるかわからなかったため、案内してもらうことにした。高校は、AからLまであって、A,C,E・・・・・・が内部生のクラス、B,D,F・・・・・・が外部生のクラスらしい。そこはまぁ、納得したが、一つだけ謎なところがある。
・・・・・・なんでFが端っこにあるんだよ!
なんか分かんないこともあったけれど、会長が案内してくれたから、無事にたどり着くことができた。
「じゃあ、私はこれで失礼するよ」
「・・・・・・なんか申し訳ないです」
「いいんだ。また何かあったら言ってくれ。・・・・・・頼ってもらうと嬉しいからな」
・・・・・・本人が頼ってほしいって言うなら・・・・・・
「わかりました。いっぱい頼ります」
そう言うと、会長は何も言わずに早足で、でもたまに歩きながら、その場を去っていった。
・・・・・・なんか、気に障るようなこと言った?
「し、失礼します」
「あぁ、月路。遅かったな」
先生と思われる人物が俺の名前を読んだ途端、それまで騒然としていた教室が、静まり返った。
・・・・・・うぅ、視線がぁあ痛ぁあい。
俺は縮こまって教室に入った。
「あの・・・・・・席どこですか?」
「一番後ろの開いている席だ」
・・・・・・窓際キタアアアアアアアアアア!
学生あるある。窓際の席で喜びがち。
「はいじゃあ、『最後の新入生』も来たことだし、授業始めるか」
・・・・・・その呼び方やめてください。本当にごめんなさあああああい許してえええええ
その授業の間、ずっと誰かに笑われている気がした。
「キーンコーンカーンコーン」
「はい、4時間目の授業終わりー。食堂でご飯食べてこーい」
・・・・・・はぁあああああああああああああ!やっと終わったZE。
さすが、エリートの周園学園。そこらの高校とは違うぜ。色んな意味で疲れる。というか、そんな問題よりも重大な問題に気付いた。
・・・・・・食堂ってドコ?
人に聞けばいいじゃん、とかいうやつ。俺は人見知りだ。無理に決まってるだろ。諦めていた俺に一筋の光が指した。
「あれ、もしかして、地球?」
・・・・・・その声は・・・・・・誰だ?
本当に見覚えのない声が聞こえた。だが、振り返ると、そこには昔の友人が居た。
「お前は・・・・・・隕氣か?」
「そうだ!久しぶりだなぁー、地球」
彗星隕氣。こいつは俺の幼稚園からの親友だ。小学校まで一緒だったけれど、中学校に行く前に別れた。
「お前・・・・・・周園学園にいたのか」
「こっちの台詞だよ。お前、頭悪かったしな」
どうやら、隕氣は中学でここを受験し、内部生として高等部に来たらしい。
「いやー。お前に会えるとは思わなかったわー。嬉しいわ」
「俺も嬉しいぜ」
少し談笑したあと、俺は、本題に入った。
「実は・・・・・・」
「何だそんな難しい顔して」
「食堂ってドコ?」
「えっ」
そこから、俺はここに来るまでのことを全て話した。
「お前・・・・・・『最後の新入生』だったのかー」
「マジでお前・・・・・・その呼び方はもう勘弁だ・・・・・・」
「分かったって。・・・・・・で、食堂か。一緒行くぞ」
「マジありがと」
・・・・・・助かったぁぁぁぁぁ。
こうして俺は、親友兼案内役兼強力な助っ人を手に入れ、胸をなでおろした。
「はぁー。美味かったな」
「ホントにな。吉◯家があるとは思わなかったもん」
なんと、うちの学園の寮には、色々なチェーン店が立ち並んでいた。すげぇ。お陰で、一日ぶりに吉◯家を食べることができた。だって、吉◯家好きだもん。
「あ、やべ」
「ん?どうしたんだ?」
「大事な用事思い出した・・・・・・。わりぃ、地球。ここまでだ。帰れるよな?」
「あぁ。もう大丈夫だ。ありがとな」
「じゃあな」
そう言うと、隕氣はすぐさま俺の知らない方向に行ってしまった。
隕氣と別れた俺は、さっき覚えたばかりの道を歩いて、自分の教室に戻って行った。ちなみに、隕氣は1-Fの隣の1-Eらしい。
・・・・・・ってか、あいつ隣の教室だったのかよ。
そんな事を考えていると、教室の前に到着した。ら、なんかいじめられている人を見かけた。気の弱そうな女の子を大男3人がいじめている。
「・・・・・・やめてください!」
「は?知るか。金よこせ」
「おい、やめろ」
俺は考えるよりも先に体が動いた。女の子を見捨てるなんて許さない。
「何だおめぇ?内部生じゃないな。何者だ」
「俺は私立悪戯中学校出身だ」
「は?なんて?あくぎこうこう?」
「親分、悪戯中学校って、ヤンキーが集まる有名な中学校じゃ・・・・・・」
連れの1人は気づいたようだ。
「高校に上がった卒業生は各地で暴れているとか・・・・・・」
「・・・・・・ズラかるぞ」
そう言うと、ヤンキーたちは逃げていった。
・・・・・・こんなエリート学園でもヤンキーっているんだなぁ。
「あの・・・・・・」
ぼーっとしていると、いじめられていた女の子が声をかけてきた。
「ありがとうございます」
「いや、俺は出身の中学校しか言ってないし・・・・・・」
「それでも、助けてくれようとしたじゃないですか」
「・・・・・・そうですね」
「だから・・・・・・ありがとうございます。私・・・・・・椿胡春といいます。1-Fです」
・・・・・・あぁ。前の方の席に居た人だな。
俺は自分の記憶を蘇らせる。すると、椿さんは俺に向かって言った。
「・・・・・・まさかあなたが『最後の新入生』だったとは・・・・・・」
・・・・・・うわあああああああああああああああああ!
俺は発狂した。心の中で。
「はぁ・・・・・・疲れたな」
今日は一日大変だった。授業についていけなかったり、「最後の新入生」呼ばわりされて発狂したり・・・・・・。だが、やっと一日が終わり、寮に来ることができた。隕氣といっしょに。
「良かった・・・・・・隕氣と一緒の寮で」
「そうだな。・・・・・・だけど、お前寮長に認められなければ寮に入れないぞ。大体、お前は遅れてきたからめっちゃ減点されそうだな」
「?」
なんのこっちゃわからない。これも周園学園の伝統なのだろうか。すると、寮に着いたようで、隕氣は一度立ち止まり、ドアノブに手をかけた。
「・・・・・・寮に入れるように頑張れよ」
次の瞬間、俺は一人だけドアの先に素早い動作で閉じ込められた。
・・・・・・え?ちょっと・・・・・・。
「やぁ。随分と遅かったじゃないか。月路地球君」
「・・・・・・誰ですか?」
「あれ?僕のことを知らないのかい?僕はこの寮を仕切る寮長、軽鎧輪組だ。ちなみにお前より二つ上だから敬語を使えよ?」
・・・・・・いや、知らん!こんなやばいやつ知らんて!
寮に入る前にこの人のことがちょっと怖くなった。いや、普通に怖いわ。