学園へ
私立周園学園。そこは、全国のエリートが集まる学園である。中高大一貫の学園で、主に内部生と外部生に分かれる。起業家の周園典雄が設立した学園であり、優秀な人材を輩出している。
時は令和、場所は日本のある県。平和な国のある孤児院に月路地球はいた。世界では戦争が当たり前なのに、なぜこの国は普通で居られるのか、彼には理解できなかった。
・・・・・・はぁ。
彼は、孤児院育ちであった。両親の存在は不明である。だが、孤児院のみんなが優しかったため、幼稚園、小学校、中学校まで生きてこれたのだ。
・・・・・・みんなには感謝してもしきれないな。
彼は、孤児院を見回してそう思った。
「地球君がもう高校生だなんて・・・・・・信じられないわ」
「本当よねぇ」
ふと、声がする方を見ると、彼を育ててくれた孤児院の職員達が居た。きっと、彼が来ている制服を見てそう言ったのだろう。
「俺だって信じられませんよ」
彼は近づいて言った。
「本当に、大きくなったわねぇ」
「有難う御座います。・・・・・・皆さんのおかげです」
「そんなことないわ。頑張ったのは地球君自身だもの。自分を誇りなさい」
・・・・・・そうか。俺も頑張ったんだな。確かに受験勉強は・・・・・・戦争を止めるぐらい頑張った気がする。もともと頭悪かったからな。
思い返せば、とてつもない苦労だった。あれは、中一だったか。確かその日、塾の模試のテストが帰ってきたのだが・・・・・・。
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」
模試の判定が、地元の偏差値低い高校でもE判定だったな〜(笑)。そこから、死に物狂いで勉強して、頭が良くなった時・・・・・・。
「お前なら、周園学園を目指せる。行く気はないか?」って塾の先生に言われた。
・・・・・・あの周園学園に、俺が行けるのか・・・・・・?
周園学園は誰しも憧れる学園だ。憧れの分、入試が難しすぎて行けない人が多く、本当に「夢」という感じなのである。
「行けるなら行きたいです」
俺はそう答えた。そう答える以外なかったのだ。
果たして、彼の選択は、吉と出るのか凶と出るのか。
「ほしお兄ちゃん、行っちゃうの?」
そう聞いてきたのは、地球が一番可愛がっていた五歳の星野悠だ。
「あぁ。すまんな」
「前言ってた、コーコーってやつ?」
「そうだな。寮に入るから・・・・・・しばらく戻らないな」
「うえーんかなしいよぉー」
やれやれ、と地球は悠をガシガシと撫でてやった。
「もう・・・・・・行っちゃうのね」
「そうですね。9時からなので・・・・・・」
周園学園は東京にある。ここから、飛行機で移動する諸々含めて大体3〜4時間かかる。つまり、5時位にはここを出ないと・・・・・・ん?
「え・・・・・・?9時出発じゃないの?今、9時よ?」
・・・・・・あ、終わった。
「・・・・・・行ってきます」
「遅れないようにね〜」
・・・・・・遅刻確定だけどね。
地球は孤児院を全速力で飛び出した。
「ふぅ・・・・・・」
孤児院が空港の近くで良かった。近くと言っても、走って5分くらいだが。
・・・・・・運動が得意で良かったよ。本当に。
中学校の体力テストは、もちろんA判定であり、全国でも上位に入っている。
・・・・・・ま、それのお陰でギリ受かった感じだがな。
体力テストに感謝しつつ、地球は空港に足を踏み入れた。意外と空きが多く、直近のチケットは簡単に取れた。
・・・・・・戦争の影響かもな。
昔は、この温かい春には、人の行き来が激しく、チケットも争奪戦だったと孤児院の職員たちから聞いたことがある。しかし、それも戦争が世界で始まったことにより、家に籠もるものが増えた。そのため、空港もスカスカだ。
飛行機の離陸時間が迫り、地球は飛行機に乗り込んだ。
・・・・・・飛行機って久しぶりだな。
昔・・・・・・おぼろげだが、飛行機を見たことある気がする。だが、中学校の修学旅行では、飛行機に乗ったので、初めてではない。
・・・・・・今回は、ソ◯シドエアか・・・・・・。
ソラ◯ドエアって、スープとかついていていいよな、と思う地球であった。
「ん・・・・・・」
飛行機が離陸する前から寝ていた地球だが、途中で目が覚めた。内海が見えるから、恐らく中国地方くらいだろう。
・・・・・・瀬戸内海は綺麗だな。
そのことは、太平洋を見ればわかる。地球は、飛行機の左の窓際に座っていたので、瀬戸内海がよく見えるが、少し遠い右側の窓の外を見ると、濁った太平洋が見える。これは、ロシアやアメリカなどが戦争を始めて、ゴミなどを太平洋に捨てているからだ。
・・・・・・俺達は、綺麗だった太平洋を知らない。
世界中で戦争が始まったのは20年前。すぐに政治も人も海も駄目になった。地球が生まれたのは、その4年後。戦争のない世の中を地球は知らない。
・・・・・・いつか、戦争がない世の中が生まれるのかなぁ・・・・・・。
地球は、一瞬考えたが、自分が考える規模の大きさではないとすぐ考え直し、また眠りに落ちた。飛行機が着陸するまで、地球が目覚めることはなかった。
「あー。やっと着いた」
結局、地球が羽田空港についたのは、11時過ぎだった。
・・・・・・遅刻ってレベルじゃなくね?ってか、お腹空いてきたなぁ。
羽田空港は、初めて来たが昼食が取れそうなところがたくさんある。
・・・・・・とりあえず、寮から出られないらしいから、吉◯家でも食べるか。
ちなみに、所持金は、111万円である。学費で100万円、普段遣い(食事代は学費込みだからあんま使わない)が10万円、予備1万円である。絶対に人には言えないね。
俺は恐らく成人しても食べられないであろう◯野家をたくさん頬張って食べた。
「ふぅー」
どれくらい時間が経ったか分からないが、俺は吉野◯を食べ終わった。
・・・・・・やっぱ美味いわ。うん。
俺は、一息ついて、腕時計を見た。ら、絶望。もう12時を過ぎていたのであった。
・・・・・・やばい、やばい。でも、あんま変わんない気がする・・・・・・。
いや、駄目だ。すぐ行け、月路地球よ。思い出せ、走れメ◯スを。・・・・・・いや、あいつ途中で諦めなかったっけ?まぁ、いいや。
俺は、セ◯ヌンティウスに会いに行くつもりで、江戸川区に向けて歩みを進めた。
気づけば日が落ちそうになっていた。時刻はもう18時である。
・・・・・・なんか色々間違えたっぽい。所持金をケチんないで、ちゃんと電車やタクシー使ってれば・・・・・・。
追記、少年は、ケチであった。
「やっと着いたぁ〜!」
ついに、終焉学園のキャンパスが見えた。
・・・・・・広ッ!東京ドーム20個分らしいけど、どんぐらいデケェか分かん無ぇ!
東京に住んでいない人あるある。東京ドームってどんぐらい大きいん?
・・・・・・まぁまぁまぁ。とりあえず入りますか。謝罪しよ。
俺は、憧れの周園学園へ一歩を踏み入れた。
「起きろ」
「・・・・・・はい?」
なぜかわからないが、ベッドの上で寝ていた。
「はぁ・・・・・・遅すぎる」
どこからか、女性の声が聞こえてきた。部屋の中を見回すと、黒髪の女性が居た。
「・・・・・・誰ですか?」
「えっ」
・・・・・・えっ。「えっ」って言われてもね。
「お前、私を知らないのか?」
「・・・・・・すみません知りませんんんん」
「周園雪。生徒会長だ」
・・・・・・生徒会長だった。
「そして、この学園を創立した周園典雄の娘だ」
・・・・・・えっ。
思ったよりすごい人でした。ごめんなさい。
「もう一回言う。遅い」
「その節は誠に申し訳ありませんでした」
その後、5分くらい説教された。
「お前が来なかったせいで、入学式はとても混乱していた」
「すみませんすみません」
・・・・・・さっきからずっと謝ってばっかだよ。嫌だよ。
「プルルルルルルル」
急な電話にビクッとした。
「すまない。少し電話する。・・・・・・もしもし。はい。『最後の新入生』が来ました。今日は・・・・・・。分かりました。本人に伝えておきます」
ポカーンと俺が口を開けていると、会長が電話を切り、口を開いた。
「月路、お前は今日廊下で寝ろ」
「はぁ!?」
急すぎて俺は声を荒げた。
「安心しろ。布団くらいは準備してやる」
「いやいやいや。これじゃだ駄目ですか!?」
俺は今寝ているベッドを指さして言った。
「私は寮に部屋がないのでな。そして、お前の部屋もまだ用意できていないからな。そして、それは私のだ。早くどけ」
・・・・・・えぇ〜。
そう言って、俺は会長に部屋から出された。上の方に書いてあったが、その部屋は生徒会室だった。
・・・・・・マジで嫌なんですけど。
胸高まる俺の高校生活のスタートは、廊下であった。
・・・・・・うぅ。
次の日、俺は背中が痛くなった。