ルームメートの ―― さん
第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作です。
ふわっとした気持ちでお読みください。
わたしはこの春、高校生となった。
自宅とは少し離れた高校で、大好きなバレーを頑張るために寮へと入寮する。
「 ―― さん、これから1年間、よろしくね!」
「こちらこそ」
部屋の窓から爽やかな風が吹き、ルームメートとなる ―― さんと挨拶を交わす……
えーと、誰と?
わたしは今、誰と挨拶を交わしたのだろう?
わたしは入寮した人数の関係からひとりでこの部屋を使うはずだ……
当然のごとく部屋を見渡しても誰もいない。
わたしはいつの間にか開いていた窓を閉め、入学式に参加するため体育館に移動した。
6月×日
わたしは授業を終え部屋のシャワーを浴びた。
今日は久しぶりに部活が無いので、たまにはゆっくり惰眠をむさぼろうかな?
そう思って身綺麗にしてバスルームを出る。
「あ、タオル置いとくね」
「ありがとう!」
用意し忘れていたタオルを ―― さんが用意してくれた。
ありがたやー。
さすが ―― さん、さすが……誰が?
8月〇日
「暑い!暑すぎる!」
部活で汗だくになった私は、部屋に飛び込むなりタオルで頭をガシガシと擦り汗を拭きとっていた。
「冷蔵庫にアイスあるよ」
「やったー! ―― さん大好き!」
わたしはボーっとする頭を冷凍庫の冷気で冷やし、少し冷静になってアイスをとる。
わたしは口の中が冷え冷えの中、独り鼻歌を奏でながらベッドに寝そべり部活終わりの幸せをかみしめた。
12月◇日
「今年ももう終わりか」
部屋の中で独りつぶやいた。
「部活も慣れてきたし、来年こそはレギュラーを目指さなきゃ!」
「うんうん!頑張って!」
―― さんが私を励ましてくれる。
―― さんの笑顔がわたしの背中を押す。
そしてわたしは、眠気を堪え、除夜の鐘を聞くことも叶わず、ベッドに入り眠りについた。
3月△日
「今日でこの部屋ともお別れか」
独り寂しくつぶやいた。
新入生が新たに入り、人数調整のために部屋を移動することになった。
前日の夜には片付けに終えた。
わたしは手荷物を持って新たな部屋へ移動する為、使い慣れた部屋を出る。
「じゃあ、またね」
「うん。またね」
わたしは、 ―― さんにお別れの挨拶をすると、少し悲しくなった。
―― さん、―― さん?
―― さんって誰だっけ?
わたしはボーっとする気持ちのまま、新しい部屋のドアをノックした。
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