第9話 真の正体
神々の戦い、それに参戦する悪魔――案内人の真の正体を知った時、悟志は衝撃を受けた。
「悪魔が神々の戦いを邪魔するために存在する??そして、言霊の書を燃やすことで、悪魔は神々に立ち向かう……」悟志は五十嵐の言葉に胸騒ぎを覚えながら、路地で繰り広げられる戦いに再び集中した。
五十嵐の氷の力は文子を封じ込めるかに見えたが、それは一瞬の出来事に過ぎなかった。文子の全身を覆っていた氷は音を立てて崩れ去り、再び彼女は自由の身となった。氷を打ち破ったその姿は、まるで闇そのものが形を持ったかのように冷酷だった。
「私を封じるには、もっと強力な力が必要よ」と文子は冷ややかに笑いながら二人を見下ろした。その背後に渦巻く黒い闇はさらに力を増し、彼女の存在感がますます圧倒的になっていく。
悟志は恐怖に押し潰されそうになりながらも、ふと五十嵐の言葉を思い出す。
「文子の狙いは、宇宙完全王神……神と悪魔が合体し、最強の存在になることだ。そして、その存在が現れた時、全ての生命は消される……」五十嵐はかつてこう語っていた。文子は、まさにその最強の悪魔となろうとしているのだろうか。悟志はその考えに戦慄を覚えた。
五十嵐は立ち上がり、文子に向けて冷たい視線を送った。「たとえお前がその力を持っていたとしても、俺たちは諦めない。文子、お前はもう人間じゃない。お前を止めることが俺たちの使命だ」と、彼は静かに言葉を紡ぎ、再び氷の力を解放しようとした。
しかし、文子はそれを嘲笑うかのように手を振り上げた。「そんな薄っぺらな決意で、私を止められるわけがないわ。五十嵐、悟志、お前たちは弱いのよ。神々の戦いにすら関われない存在が、私に勝てるとでも思っているの?」文子の声は、絶対的な力に満ちていた。
その瞬間、闇が一気に広がり、二人を包み込むように押し寄せてきた。悟志は身動きが取れず、圧倒的な力の前で心が折れそうになる。だが、五十嵐はその闇に一歩も引くことなく立ち向かった。
「氷の力は、お前の闇を止める唯一の術だ。俺はそれを信じている」と、五十嵐は言い放ち、両手を大きく広げると、今までとは比べ物にならないほどの冷気が放たれた。氷の結晶が闇を切り裂き、その瞬間、文子の動きが一瞬止まった。
「いける!」悟志は希望を抱いた。しかし、文子は再び冷たい笑みを浮かべた。
「無駄よ、五十嵐。私の力はそんなもので止まるわけがない。見せてあげるわ……本当の力を」と彼女が言うと、闇は再び渦巻き、今度は二人の周囲だけでなく、周囲の空間そのものを飲み込み始めた。
「これは……!」悟志は息を呑んだ。文子が闇を使って何をしようとしているのか、理解するのに時間はかからなかった。彼女はこの場所全体を次元ごと切り離そうとしているのだ。
「次元の崩壊……」悟志は足元の大地が揺れ始めるのを感じた。地面が裂け、建物が歪み、まるでこの場所が消失しようとしているかのような光景が広がっていく。
「俺たちを次元ごと消し去ろうとしているのか……!」五十嵐は歯を食いしばりながら、さらなる力を引き出そうとした。しかし、文子の力はあまりにも強大で、彼の氷の力がそれに対抗するのは限界に近づいていた。
「悟志……」五十嵐が悟志に視線を向けた。「今しかない……」
悟志はその言葉に戸惑いながらも、彼の決意を感じ取った。「五十嵐……お前まさか……!」
「俺はここで時間を稼ぐ」と、五十嵐は冷静に言い放った。
悟志は叫ぼうとしたが、五十嵐の目には既に覚悟が宿っていた。
「文子を止めるためなら……俺の命なんて惜しくない」と、五十嵐は微笑んだ。そして、最後の力を振り絞り、再び文子に向けて冷気を解放した。
その言葉とともに、五十嵐は決意を固め、言霊の書を開いた。「これで終わりにする……!」
彼は深呼吸をし、言葉を紡ぎ始めた。「言霊よ、今ここに封じられた存在を消し去り、闇を破壊せよ……!」五十嵐の声が響き渡ると、周囲の空間が震え、次元の崩壊が一瞬止まった。
文子は驚いた表情を浮かべた。「そんな……この力は……!」
「終わりだ、文子……!」悟志は最後の一言を力強く唱え、言霊の力が解放された。その瞬間、文子の体が崩れ始め、闇が消えていった。五十嵐はこう叫んだ。
「絶対零度」
辺り一面、氷の景色に変わった。文子の体全身も凍った。