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弱小言霊(ヴェルブム)の覚醒–言葉を紡ぐ者–  作者: メロンクリームソーダ姫
第二章 邂逅編
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第8話 五十嵐の能力

五十嵐の氷の力が路地の中で漂い始めるのを、悟志は感じ取っていた。彼が手に持つ魔術書のページが風に舞うようにめくられ、五十嵐の両手が宙に浮かび上がる。冷気が彼の周囲に集まり始め、その温度差からか、路地には一瞬の静寂が訪れた。悟志は背筋を凍らせるような冷気に包まれながら、目の前の状況をじっと見守っていた。


「文子を止める……それが俺の使命だ」と、五十嵐は冷静に言い放つ。彼の声には冷たさとともに確信があった。氷の力――それが彼の能力であり、文子のような存在に対抗する唯一の手段だった。


しかし、文子はその圧倒的な冷気にも怯むことなく、悠然と彼に向かって歩み寄った。彼女の目は、かつての恋人であった悟志への情を感じさせることなく、冷酷そのものだった。その背後には黒い闇がうごめいており、かつての彼女の面影を完全に消し去っていた。


「そんな力で、私を止められると思っているの?」文子は口元に冷たい微笑を浮かべながら、五十嵐を見つめた。彼女の声は冷たく、そして刺々しい。


「お前を止める!」五十嵐は歯を食いしばり、さらに氷の力を解き放った。空気中の水分が瞬く間に凍り付き、彼の周囲に氷の結晶が舞い上がる。まるで時間が止まったかのような静寂が路地全体を包み込んだ。しかし、文子はその冷気を物ともせず、さらなる力を蓄えていた。


「そんなもの……」文子は一瞬のうちに五十嵐に飛びかかり、その鋭い牙を彼の肩に食い込ませた。五十嵐の顔が苦痛に歪む。文子はそのまま彼の血を吸い始め、五十嵐の力を徐々に奪い取っていく。


「くっ……離れろ……!」五十嵐は必死に抵抗しようとするが、文子の力はあまりにも強力だった。彼の力は見る見るうちに失われ、氷の結晶も徐々に溶けていった。


悟志はその光景に驚愕し、目の前で繰り広げられる惨劇を直視できなかった。しかし、彼は五十嵐が命を懸けて戦っているのを理解していた。「くそっ、なんて奴だ……!」


文子は五十嵐の血を吸い尽くし、やがて彼を地面に投げ捨てた。彼の体は力を失い、ぐったりと動かなくなった。


「五十嵐……!」悟志は叫びながら駆け寄ろうとしたが、その瞬間、文子の冷たい瞳が彼に向けられた。


「美味しかったわ……次は……あなたね、悟志君」文子の声が冷たく響き渡る。


悟志は恐怖に駆られながらも、言霊を唱えようとした。「錯乱デリリウム!」彼の声は震え、言葉が空気に溶けていく。しかし、その言霊は文子に全く効果を及ぼさなかった。文子は何の変化も見せず、冷笑を浮かべた。


「そんなもの、私には通じないわ」文子は冷ややかに言い放つと、一歩一歩悟志に近づいてきた。


悟志の体は震えていた。何もできない、文子を止める力が自分にはないことを悟り、彼は絶望に打ちひしがれた。「どうすれば……」彼は弱々しく呟いた。


その時だった――五十嵐が倒れている場所から冷気が再び放たれた。悟志が驚いて振り返ると、気絶していたはずの五十嵐がゆっくりと立ち上がっていた。彼の瞳には強い決意が宿っており、その手は再び氷の魔力を操っていた。


冷凍レフリゲラーティオ!」五十嵐の声が路地に響き渡ると、彼の手から放たれた冷気が瞬く間に文子を包み込んだ。文子は驚愕した表情を見せたが、その瞬間、彼女の全身が氷に覆われ、完全に動きを封じられた。


「これで……少しは時間が稼げるだろう……」五十嵐は息を切らしながら言った。


文子の動きが完全に止まり、氷の中で彼女の姿はまるで彫刻のように凍りついていた。悟志はその光景に言葉を失い、五十嵐の背中に目を向けた。彼の全力を尽くしての攻撃が成功したのだ。


「五十嵐……すまない……」悟志はかすれた声で謝罪した。しかし、五十嵐はそれに対してただ軽く笑みを浮かべ、「気にするな、これでまだ終わりじゃない」と呟いた。


「まだ終わっていない?」悟志はその言葉に驚きつつも、何かがまだ足りないことを感じ取っていた。


五十嵐はゆっくりと歩み寄り、凍りついた文子を見つめた。「彼女を完全に封じるには、もう一つ必要なものがある。それは……」彼は言葉を続けようとしたが、突然、文子の氷の中で何かが動き出した。


「そんな……!」五十嵐が驚愕の表情を浮かべたその瞬間、氷が突然音を立てて砕け散り、文子の姿が再び現れた。彼女の力は予想以上に強大で、封じ込めるにはまだ足りなかったのだ。


「私を……甘く見ないで」文子は冷酷な笑みを浮かべながら、再び二人に向けて手を伸ばした。彼女の力が溢れ出し、闇が渦巻く。悟志は絶望に打ちひしがれたが、同時に心の奥底にある決意を固めた。


「俺たちには……まだやるべきことがある」五十嵐は悟志を見つめ、再び立ち上がる準備を整えた。


文子との戦いはまだ終わっていなかった――彼らは最後の力を振り絞り、この闘いに決着をつける覚悟を固めた。

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