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弱小言霊(ヴェルブム)の覚醒–言葉を紡ぐ者–  作者: メロンクリームソーダ姫
第二章 邂逅編
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第7話 新宿の男

文子の冷たい瞳が鋭く光り、次の瞬間、彼女は翔太と悟志に襲いかかった。空間が揺れるほどの衝撃波が彼女の手から放たれ、二人は避ける間もなく吹き飛ばされた。


「くっ……なんて力だ……!」


翔太は壁に叩きつけられ、息を詰まらせながらも立ち上がった。文子の攻撃は、以前とは比べものにならないほど強力で、悪魔としての本性を完全に取り戻した彼女の前に、彼らはただ逃げることしかできなかった。


「私から逃げられると思うわないで!!!!あなたのことが大好きよ!!!!!悟志君!!!!!」


「悟志君!ここから離れるぞ!」翔太は必死に悟志の体を引き起こし、二人で文子の猛攻から逃げる道を探した。だが、彼女は不死身だった。いくら攻撃しても傷つくことはなく、逆にその体力は増すばかり。彼らは絶望的な状況に追い込まれていた。


「もう……無理だ、翔太……あいつを止めることなんて……」


悟志が弱音を吐いた瞬間、翔太の瞳に決意が宿った。


「諦めるな、悟志君。まだ俺たちには希望がある……俺の能力を使うんだ!」

異空間(スパティウム・アリエーヌム)!!」


翔太の能力――異空間への転移。それこそが唯一の脱出手段だった。翔太は集中し、異空間の書を手に掲げた。すると、周囲の空間がねじれ、異次元の裂け目が広がり始めた。


「行くぞ、悟志君!」


翔太はその裂け目へと悟志を引き入れ、二人は瞬く間に異空間へと飛ばされた。文子の攻撃がすんでのところで彼らに届かず、彼女の怒りの叫びが虚しく響く中、彼らは異次元の中へと逃げ延びた。


「このクソ野郎!!!!!絶対!!!悟志を捕まえてやるからな!!!!!」


二人が辿り着いた先は、まるで宇宙のような広がりを持つ異空間だった。無数の星々が輝き、銀河が渦巻くその空間は、現実離れした美しさを持ちながらも、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。


「ここは……」


悟志は目を見張りながら周囲を見渡すが、言葉が出ない。だが、翔太はその光景を冷静に見つめていた。翔太も「神々の戦い」に巻き込まれていることを理解していた。


「悟志君、この空間にいる限り、文子の力は届かない。安心しろ」

「君とゆっくり話したかったんだ」


翔太は手に持つ「異空間の書」をじっと見つめた。それは、この空間を自在に操ることができる神秘の書であり、彼がこの異世界に関与している理由でもあった。


「喜楽翔太……」


そして、悟志は「神々の戦い」の真実を知ることになった。悟志と翔太は「神々の戦い」は悪魔たちによって仕組まれたものであった。悪魔は、永遠の命が手に入るが、人間を食べないと死ぬ運命に陥ることが分かった。


「俺の案内人も人間を食べさせないで監禁し、餓死させた。だから、俺の案内人はもう、この世には居ない」

「文子は最初から悟志を騙そうとしていたんだ。彼女は悟志の信頼を利用し、自分の目的を果たすために悟志を上手く使われていたんだよ」


悟志は、突然何を言っているのか分からなかった。文子のことが好きだったのに。騙されるなんて信じられなかった。悟志は、次のようなことを聞いた。


「文子を人間に戻すことはできるのか?」


翔太は黙って横に首を振った。


一瞬、悟志の体全体が血の気が引いた。


「悟志君、君はこの闘いでなんとか勝ち抜いてくれ!」

「そう、君はずっと、闘い続けるしかないんだ、、、文子を殺すんだ、、、、」


もはや、悟志は絶望しか頭に無かった。


悟志は、翔太の言葉を反芻しながら、異空間の中で立ち尽くしていた。文子を倒すという決断を下すには、悟志の心はまだ動揺していた。文子への愛情と、彼女が悪魔として変わり果てた現実の間で、彼は苦悩していた。しかし、翔太の言葉には確信があった。文子を倒さなければ、自分自身が滅び、そして多くの人々が危険にさらされるという事実を悟志は感じ取っていた。


「……わかった、翔太。俺は文子を止めて見せる。でも、俺だけじゃ無理だ」


翔太は、ふと思い出したように口を開いた。


「そうだ、アイツがいる。文子を倒すためには……新宿の公園にいる男に会って行ってくれ」

「アイツの能力は文子を倒すためにきっと役に立つ」


悟志は頷いた。「ああ、分かった」


二人は、異空間から現実世界に戻り、一旦それぞれの自宅に帰宅することにした。


翌日、、、


公園に到着した悟志は、目を凝らして例の男を探し始めた。

翔太から聞いたその男の特徴は「ボロボロのジーンズに無精髭を生やし、右の頬にホクロがある20代後半の男だ」。公園内は、若者や高校生たちで賑わっており、平日の午後にもかかわらず多くの人が行き交っていた。悟志はしばらく公園を歩き回り、鳩に餌をやっている人々に注目してみるが、特徴に一致する人物は見当たらなかった。


時間が経つにつれ、悟志は疲れを感じ始め、途方に暮れてベンチに腰掛けた。スマホを弄りながら、何度も周囲を見渡したが、探し求める男の姿は一向に現れなかった。


「本当にこんな場所にいるのか……」


彼がそう呟いた瞬間、隣のベンチから低い声が聞こえてきた。


「最近の景気は良くないなぁ……」


悟志はその声に反応し、隣をちらりと見た。そこには、30代くらいの男がチューハイを片手に新聞を広げていた。マスクをしており、黒いサングラスで顔の半分が隠れている。なんとも異様な雰囲気だったが、さらに奇妙だったのはその膝に載っている本だった。


それは、古びた表紙の魔術書のようなものだった。悟志は一瞬、男の持つその本に視線を奪われた。


「おい……あんた、「神々の闘い」に巻き込まれたのか?もしかして、悪魔を倒す方法を知っているの

 か?」


悟志は意を決してその男に問いかけた。男は新聞から顔を上げ、サングラス越しに悟志を見つめた。沈黙が流れ、しばらくの間、二人の間に緊張感が漂った。


「いきなり、色々聞くなよ……知ってるさ。だが、それがどうした?」


男は冷ややかに言い放ち、チューハイを口に運んだ。悟志は苛立ちを隠せなかったが、さらに食い下がった。


「俺はあの女を止めなきゃならないんだ!あいつを倒すためには、お前の力が必要だと翔太が言っていた。頼む、協力してくれ!」


その言葉に男は微かに笑みを浮かべ、新聞のページを一枚めくった。


「悪魔を倒す?ふん、お前たちのような若造が悪魔に勝てるとは思えないが……だが、面白い。俺は久しぶりに楽しませてもらうとするか」


悟志はその言葉に驚いたが、同時に一縷の希望を感じた。この男は、文子に対抗できる力を持っている。少なくとも、彼を味方につけることができれば、戦いに勝つ可能性が出てくる。


「俺の名前は五十嵐(いがらし)雅也(まさや)だ。これからどうするかはお前次第だが、覚悟を決めておけ」


五十嵐は新聞を畳み、立ち上がった。そして彼は、魔術書をしっかりと手に持ち、静かに歩き出した。


「どこに行くんだ?」


悟志が慌てて追いかけると、五十嵐は軽く振り返り、薄い笑みを浮かべた。


「文子をおびき寄せる。それが最初のステップだ」


彼の言葉は簡潔だったが、そこに漂う重圧は尋常ではなかった。悟志は思わず喉を鳴らし、その後に続いた。


その日の夕方、、、


渋谷の暗がりに潜む狭い路地に、五十嵐は悟志を導いた。彼が何をするのか、悟志には分からなかったが、ただ五十嵐の動きを注視していた。


突然、五十嵐は手にした魔術書を開き、何かを呟き始めた。その瞬間、空気が張り詰め、異様な気配が路地を覆った。まるで異空間に引き込まれるかのような感覚が悟志を包み込んだ。


「来るぞ……準備はいいな?」


五十嵐の声が響くと、彼の目の前にゆっくりと闇が渦を巻き、やがてそこから文子の姿が現れた。彼女の冷酷な瞳は、悟志をまっすぐに射抜いた。


「見つけたわよ、悟志君……」


文子の声が冷たく響き、彼女の背後には闇がうごめいていた。彼女の力は以前よりもさらに増しているように感じられた。悟志は息を飲み、戦いが始まるのを予感した。


「覚悟しろ、悟志」


五十嵐は魔術書を手に、前に進み出た。その背中には、揺るぎない決意が感じられた。




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