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弱小言霊(ヴェルブム)の覚醒–言葉を紡ぐ者–  作者: メロンクリームソーダ姫
第二章 邂逅編
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第6話 誘拐

1週間後のある夜、新たに始まった。悟志は部屋で一人考え込んでいた。それは、文子との最近の会話が頭から離れなかったからだ。


その夜、突然部屋の窓が大きな音を立てて破壊された音がした。


「ドカン!!!」(爆音)


悟志が驚いて振り向いた瞬間、部屋に異様な男が現れた。黒いローブを身にまとった魔術師の男の姿だった。彼は何も言わず、すぐに煙幕玉を投げつけた。


「何だ!?」


悟志はとっさに身を守るために背後へと飛び退いたが、すぐに視界が真っ白な煙に覆われた。煙は息苦しく、目にしみる。部屋全体が不気味な霧に包まれ、何も見えなくなった。


「文子!?」


彼は声を上げて彼女を呼んだ。だが、煙の向こうから返事はない。焦りが一気に込み上げ、手探りで文子の姿を探し始めた。


「文子!どこにいるんだ!?」


だが、その時、悟志は感じ取った。煙の向こう側で、確かに文子がいる。そして、その傍には、あの男が立っているのだ。悟志は声の方に向かって突進しようとしたが、突然何かが体を絡め取るように動き、彼を押し留めた。


「さぁ、俺と来てもらおうか」


低い男の声が部屋に響き、悟志が反応する間もなく、煙の中から文子の悲鳴が聞こえた。その声は短く、痛々しいものだった。


「やめろ!文子を放せ!」


悟志は必死で立ち上がろうとしたが、視界はまだ煙に覆われており、方向も分からない。だが、その時、突然煙が風に吹き飛ばされるように散り、視界がクリアになった。しかし、文子の姿はどこにもなかった。


「文子!!!」悟志は咆哮し、駆け出した。「くそ...!」唇を噛みしめ、彼は追いかけるしかなかった。


怒りが悟志の全身を駆け巡り、魔術師を逃すわけにはいかなかった。彼は文子の体を床にそっと横たえ、勢いよく立ち上がった。廃工場の暗い通路を走り抜け、足音が壁に反響する。


魔術師の黒いローブが遠くに揺れて見えた。悟志は一瞬も迷わず、その姿を追いかけ始めた。


「逃がすものか…!」


魔術師は廃工場の裏手にある森の中へと走り込み、悟志はその背中を捉えようと必死に追いすがった。足元の枝が折れる音、風に乗る息苦しい呼吸。だが、魔術師の姿は次第に木々の間に消えていくようだった。


悟志は汗を滴らせながら、全力で走った。彼の中に燃え上がる感情は、彼を前へと駆り立てる。追いつかなければ、文子を取り戻すことはできない。


「待てぇぇぇっ!!!」


廃工場にたどり着いた悟志は、慎重にその中へと進んでいった。薄暗い室内には、不気味な気配が漂い、足音がコンクリートの床に響く。悟志は慎重に辺りを見渡し、気配を探る。


そして、奥の部屋にたどり着いた時、彼は文子の姿を見つけた。魔術師の男がその前に立ち、何か言霊のようなものを唱えていた。悟志は咄嗟に声を上げた。


「文子!!!!!!!」


彼の声に反応して文子が振り向いたが、その表情は何も感情がない虚ろなものだった。まるで魂を抜かれたかのように立ち尽くす彼女の姿を見て、悟志は愕然とした。


「やっと見つけた!!この変態!!!」


魔術師は嘲笑を浮かべ、ナイフを握りしめながら悟志に向き直った。


「この女は、お前にとって不幸しか与えない存在だ。だから、この女をここで殺す!!!」


その言葉に、悟志は動揺を隠せなかった。


「文子を…返せ!」


悟志が叫ぶと同時に、男はニヤリと笑い、鋭いナイフを文子の首元に当てた。


「ならば、見せてやろう。お前の結末をな」


その瞬間、文子の腹にナイフが突き立った。


悟志は時が止まったかのように感じた。文子の体からゆっくりと血が流れ、虚ろな瞳が悟志を捉えた。怒りと絶望が彼の心を燃え上がらせた。


悟志はその場に凍りついたように立ち尽くしていた。文子の体が倒れ込む瞬間、彼は全身の力が抜けるのを感じた。彼女を失うことなど想像もできなかった。しかし、今、目の前で彼女が命を奪われたという現実が、鋭く悟志の心を突き刺した。


「文子……!」


震える声で文子の名を呼ぶも、何の返答もない。彼女の体からはゆっくりと血が広がり、冷たい床にその鮮やかな赤が滲んでいく。だが、次の瞬間、奇妙な現象が悟志の目の前で起こった。文子の体から流れ出た血が、まるで逆流するかのように戻り始めたのだ。傷口はゆっくりとふさがり、彼女の肌は再び滑らかさを取り戻していく。悟志はその光景に目を見開き、信じられない気持ちで彼女を見つめていた。


「何だ……これは?何なんだよ!!!!!!」


口に出すと同時に、文子の体がゆっくりと起き上がった。彼女の瞳は冷たい光を宿し、その表情には以前の優しさは微塵もなかった。悟志が知っていた文子とは違う、異質な存在がそこに立っていた。


「そう、私は……悪魔なのよ。」


彼女の言葉は冷たく、悟志の心に重くのしかかった。悪魔――その言葉が頭の中で何度も反響する。文子は今まで、自分を「案内人」と名乗っていた。彼女の導きに従ってここまで来たが、それがすべて嘘であり、彼女自身が悪魔であったとは思いもよらなかった。


「悪魔だって……?」


悟志は動揺を隠せなかった。彼が知っていた文子は優しく、暖かい存在だった。彼女が悪魔だという事実は、信じることができなかった。混乱する悟志をよそに、文子は淡々と続けた。


「そう、私は最初から悪魔だった。あなたを「神々の戦い」を導くこと。そう、それが私の計画の一部だったのよ。」


その瞬間、部屋の隅で不気味な笑い声が響いた。謎の男が、冷ややかな笑みを浮かべながら姿を現した。彼は黒いローブをまとい、その下に秘めた力を解放するかのように、空気が重苦しく揺れ始めた。


「自己紹介が遅れた。俺の名前は、喜楽(きらく) 翔太(しょうた)だ。」

「君の名前は知ってるよ悟志君。この女は最初からお前を騙していたんだ。この女は悪魔としての本性を取り戻しつつある。お前はただ利用されただけだ。」


喜楽翔太――その名を聞いたのは初めてだったが、彼が文子と何か深い関係を持っていることは明白だった。悟志は彼に対して怒りを覚えたが、その怒りは次第に混乱に飲まれていった。


「文子……どうして……?」


悟志の問いかけに対して、文子は冷たく微笑むだけだった。彼女はかつての優しい笑顔を見せることはなく、その表情には冷徹さだけが残っていた。


「悟志、あなたはこの闘いの真実をまだ知らないのね。あなたは次期知ることになる」


文子がそう言った次の瞬間、喜楽翔太は再び手を振り上げ、鋭い刃を彼女の首元に向けて振り下ろした。


「やめろ!!!」


悟志の叫びが響くが、刃は無情にも文子の首を切り落とした。彼女の頭部は転がり落ち、血が床に広がった。悟志はその光景に絶望した。彼女を失ったという事実が、再び彼を襲った。


だが、その瞬間、再び奇妙な現象が起こった。文子の体から異様なエネルギーが放たれ、彼女の首が切られたにもかかわらず、倒れることはなかった。血が流れるはずの傷口からは、すぐにその血が逆流し、瞬く間に傷がふさがっていった。


悟志は目の前の光景に息を呑んだ。彼女の頭部が地面から浮き上がり、まるで磁石のように首に吸い寄せられ、元通りに繋がっていった。そして、文子は何事もなかったかのように再び立ち上がった。

文子は冷たい微笑みを浮かべた。その姿はまるで別人のようであり、かつての彼女を知っていた悟志にとっては、理解できないものであった。だが、文子が悪魔であることを受け入れるしかない現実がそこにあった。


「この女から離れろ!!!悟志君。」


喜楽翔太が冷ややかな声で言い放つと同時に、彼の背後で異様な魔力が渦巻き始めた。彼はその場で強大な力を解き放ち、悟志に向けてその魔力をぶつけようとした。しかし、悟志はその力に恐れることなく、文子を見つめ続けた。


「文子……」


悟志の言葉は届かない。彼女は完全に悪魔としての姿を取り戻していた。


「悟志、これが私の本当の姿。あなたが私を助けることなどできない。私はもう、あなたとは違う存在なのよ。」


彼女の冷酷な声に、悟志は胸が締め付けられるような痛みを感じた。だが、彼は諦めることはできなかった。目の前の文子を救いたいという思いが、彼の全身に力を与えた。


「違う!文子、お前はそんな存在じゃないはずだ!」

「お前は、俺とキスをしたじゃないか!!!」


悟志は叫び、文子に向かって駆け寄った。しかし、その瞬間、喜楽翔太の放った魔力が悟志を襲い、彼の体は空中に投げ出された。


「無駄だ。お前の力では彼女を説得できない」


喜楽の声が響く中、悟志は意識が薄れていくのを感じた。文子を救いたいという思いを胸に抱きながら、彼の視界は次第に暗くなっていった。


「文子……」


その声は虚空に消え、悟志の体は地面に倒れ込んだ。

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