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弱小言霊(ヴェルブム)の覚醒–言葉を紡ぐ者–  作者: メロンクリームソーダ姫
第一章 序章
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第4話 真実

美雪の瞳がかすかに揺れた瞬間、澤田はすでにその異変に気づいていた。美雪の顔に再び無表情で、澤田に攻撃を始めた。悟志は、美雪に澤田の本を燃やすように心の中で命じた。


「美雪、何をする。。。」


澤田の冷酷な怒号が響くと同時に、美雪の瞳が一層深く、暗い闇に覆われる。彼女の心を揺さぶりかけ、悟志の力で彼女を完全に操り始めた。美雪は無言のまま、ゆっくりと悟志に歩み寄る。その動作はまるで操り人形のようにぎこちないが、確実に攻撃の意図が感じられる。


「美雪、やめろ…!何をしているんだ!!!」澤田は叫ぶが、彼女の耳には届かない。彼女の表情は無感情のまま、徐々に手を伸ばし、悟志に近づく。澤田は、一体何が起きているのか焦っていた。


「くっ…美雪、目を覚ませ…!」


だが、美雪は無言でさらに行動を続ける。澤田に無言で、攻撃を仕掛け始めた。そして、彼女はゆっくりとポケットから一つの小さな銀色のライターを取り出した。それは、澤田が魔術書を燃やすためのライターだ。


「まさか…!」


その推測が正しいことが証明されるのは、彼女が澤田の持つ本を手に取り、そのライターで火をつけた時だった。本のページが一瞬で燃え上がり、炎が悟志の手元を照らす。だが、その炎は本だけに留まらなかった。次第に澤田と美雪の体全体がその炎に包まれ、激しい熱に襲われた。


「うわあああああ!」

「ぎゃああああああああ!」


叫び声を上げる澤田の体は、まるで本と共に燃え上がっていくように、皮膚の表面が焦げつき始める。彼はもがき苦しむが、炎はまったく消える気配を見せない。洗脳が溶けた美雪も泣き叫ぶ声が響き渡った。


「熱い、痛い!!!!!!!」


その時、文子が後方から囁くように悟志に伝えた。「悟志!それはただの炎じゃない!その本は、澤田の魂と繋がっている!それを燃やされたら、澤田と美雪も一緒に燃えるのよ」


衝撃的な真実が悟志の耳に届く。澤田が燃やしたのは単なる本ではなかった。それは言霊の力の源であり、彼と彼女の魂そのものと深く結びついていた。だからこそ、炎は悟志の体にまで影響を及ぼしていたのだ。


「このままでは…死ぬ…!」


悟志は必死にその炎を消そうとするが、どうにもならない。苦しみにもがきながら、彼は最後の力を振り絞り、何か反撃の手段を探す。しかし、目の前には燃え尽きようとする自分の体と、美雪は泣き叫びながら、燃えていた。


燃えている澤田の笑みが、悟志の絶望を見て一層深くなる。「愚かだな。自分の力が何であるかも理解せずに使い続けた結果がこれだ。お前も気を付けろよ」


澤田の体は燃え続け、炎が彼の皮膚を焼き、全身に激しい痛みが走る。彼はもがき苦しみながら、悟志に目を向けた。澤田は冷酷な笑みを浮かべ、まるで彼の苦しみを楽しむかのように無感情に立っている。澤田の心には、悟志に対する強烈な憎しみと、それ以上に深い絶望が渦巻いていた。


「自分も負けたら…」


澤田の体が燃え尽きようとする中で、悟志の中に小さな疑問が生まれた。それは、すべての戦いの意味を問いかけるものだった。澤田を倒すために全てをかけてきた自分が、こうして無惨に終わる運命だったのか、と。


「澤田…お前を倒すために、俺は…」


しかし、澤田はそんな悟志の苦しみに無関心だった。その姿を見た瞬間、悟志の中に残っていた最後の希望が砕け散った。


「もう、何もできない…」


絶望が悟志を飲み込もうとしていた。しかし、結果はこの無残な結末。燃え上がる澤田の体を見て、呟いた。


「澤田…」


その時、澤田と美雪の燃え盛る体が、突如として柔らかな霧のような結界に包まれた。炎は静まり、まるで時間が止まったかのように辺りが静寂になった。文子が作り出した結界が、二人を守っていた。




「逃げられないわよ、この闘いから。悟志。」




文子の冷静で鋭い声が、悟志の耳に重く響いた。彼女の言葉は鋭く、切り裂くように悟志の胸に突き刺さった。目の前の現実に圧倒され、悟志はその場に膝をついてしまった。神々の戦いの中で、自分の末路がここにあるのだという理解が、彼の心を急速に押しつぶされていく。




「俺はこんなはずじゃなかった…こんな運命を望んだわけじゃない…」悟志は苦しげに言葉を絞り出した。自分が選んだはずの道が、なぜこうも残酷な結末に繋がるのか。澤田を倒し、気づけば精神が狂っていた。




「そう言わないでよ、悟志。お前は自分の力を正しく理解せずに暴走したのよ。これはその代償よ。」文子の冷ややかな視線が、悟志を貫いた。彼女の眼差しには、憐れみすら感じられない。悟志はその言葉に深く傷つき、苛立ちが心の奥から湧き上がってきた。




「俺のせいじゃない!全部お前らのせいだ!俺はただ…」悟志は苛立ちをぶつけるように声を上げたが、次の瞬間、文子が無言で彼の前に歩み寄り、素早く手を振り上げた。彼女の手が彼の頬に当たると、鋭い音が周囲に響いた。痛みが走り、悟志はその場で立ちすくんだ。




「いい加減にしなさい、悟志」文子の冷たい言葉が、悟志の耳に響いた。彼女の目には怒りではなく、むしろ深い哀れみの色が宿っていた。悟志の顔に残るビンタの赤い痕が、その非情さを物語っている。




「痛っ!!…俺は一体どうすればいいんだ…!」悟志は叫んだが、虚しくもその問いに答える者はいなかった。澤田も、美雪も、燃え尽きそうな体で横たわっている。結界によって、特に澤田の目には、生気が薄れつつある。




だが、そんな中でふと美雪の瞳がかすかに揺れた。完全に悟志に操られていた彼女の体が、わずかに反応を示したのだ。涙がその瞳に浮かび、震える唇がかすかに動いた。「澤田…ごめんなさい…」か細い声でつぶやいた美雪は、次第に自分の意志を取り戻しつつあった。だが、その意志は弱々しく、魂が消え去るのを食い止めるには力不足だった。




「美雪…!」悟志は彼女の変化に気づいたが、どうすることもできない無力感が彼を苛んだ。目の前の彼女に手を伸ばしたい気持ちが湧き上がったが、すでに彼にはその力は残されていなかった。




その時、澤田が苦しげに、かすれた声で呟いた。「悟志…」彼の瞳に宿る冷たい憎悪は消え、代わりに残ったのは深い絶望だった。「お前が望んだ力…それはこんなものだったのか…?俺たちは…こんな形で終わってしまうのか?」




悟志は澤田の言葉を聞き、心が揺れ動いた。彼が追い求めていた力、それは本当に正しかったのか?戦いの中で命を賭け、全てを失う価値があったのか?その問いが彼の中で膨れ上がり、押しつぶそうとした。




「俺は…何をしてたんだ…?俺は人殺しか?」悟志は呟いた。目の前には自分の選択がもたらした結果が広がっている。炎に包まれた澤田と美雪、彼の力で命を失おうとしている二人。すべては、自分が引き金を引いたのだ。




「悟志、あなたにはまだ選択肢がある。」文子の静かな声が再び響いた。「最後に何を選ぶかで、すべてが決まるわ。この戦いを最後まで戦うのよ!」




悟志は文子の言葉を聞き、絶望と希望の狭間で立ち尽くしていた。霧のような結界が消え、元々居た校庭が見え始めた。




彼にはまだ、最後に選べる道が残されているのだろうか。自らの過ちに気づきながらも、彼の中で葛藤が続いていた。それでも、彼は最後の一歩を踏み出さなければならなかった。

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