第24話 絶望
翔太は強欲の悪魔の攻撃をかわすべく前に躍り出たが、その氷の剣は容赦なく彼を狙ってきた。氷の刃が振り下ろされる瞬間、翔太は直感的に跳び退いたものの、剣先から放たれる冷気が腕をかすめた。途端に激しい痛みが走り、彼の腕には氷のような裂傷が刻まれた。
「翔太!」悟志の叫び声が響いたが、彼自身もまた強欲の悪魔の剣をかわしつつ応戦していたため、翔太を助けることができなかった。
氷の斬撃を放つたびに、強欲の悪魔の笑い声が広がる。その中で、翔太は五十嵐の顔を見た。悪魔に支配されながらも、その目尻には一筋の涙が浮かんでいた。それを見た瞬間、翔太の胸に何かが刺さったような感覚があった。 「五十嵐はまだ完全に消えていない…!」 希望が微かに浮かび上がる。
しかし、強欲の悪魔は冷たく笑いながら言い放った。
「泣いている? おかしいな、これは彼の涙ではない。これは、彼が失われていく中で生まれた残滓にすぎない。」
その言葉を聞き、翔太の心は再び迷いに襲われた。彼は五十嵐を救いたいという思いと、目の前の悪魔を止めなければならない現実の間で引き裂かれた。
再び剣が振り下ろされ、今回は回避が間に合わなかった。強欲の悪魔の斬撃が翔太の身体を直撃した。その瞬間、鋭い氷が彼の胸と腹を貫き、彼の体にはいくつもの穴が開いた。凍りつくような痛みが全身を走り、翔太は地面に崩れ落ちた。
「翔太!」悟志が叫びながら駆け寄ろうとするが、強欲の悪魔が立ちはだかり、その動きを封じる。悟志は拳を握りしめたが、今の自分には何もできないことに打ちひしがれた。
「無力だな、お前たちは。」強欲の悪魔が冷笑する中、翔太の意識は薄れていった。
そのとき、悟志の足元に落ちていた古びた本が突如として輝き始めた。それは、彼がずっと持ち歩いていた、魔法の封印について書かれた一冊だった。悟志は驚きながら本を手に取ると、そのページが勝手にめくれ始め、輝く文字が浮かび上がる。
本を握る悟志の手に温かさが広がり、彼の中に失いかけていた希望が芽生えた。「これが答えだ…!」悟志はそう確信すると、ページに記された儀式を必死に読み解いた。
「翔太、待っていろ!まだ終わらせない!」悟志は強欲の悪魔の攻撃をかわしながら、封印の呪文を唱え始めた。しかし、悪魔もそれに気づき、悟志を止めようとする。
悟志の周囲に薄い光の結界が広がり、強欲の悪魔の剣がそれに触れると、激しい衝撃音を伴って弾かれた。だが、結界は脆く、何度も攻撃を受ければ破壊されるのは時間の問題だった。
一方で、翔太は自分の傷が深刻であることを理解しつつも、五十嵐の涙を思い出していた。「まだだ…俺は、五十嵐を助けるんだ…」 彼は残された力を振り絞り、這うようにして再び立ち上がろうとした。
悟志が呪文を完成させるまで、時間が必要だった。その時間を稼ぐため、翔太はボロボロの体で再び立ち向かう決意を固めた。
強欲の悪魔は笑いながら翔太に視線を向けた。「まだ立ち上がるのか? 愚かな人間だ。」しかし、翔太はその挑発に乗らず、静かに悪魔を見据えた。
「俺は、お前なんかに五十嵐を渡さない。」翔太の言葉には、揺るぎない意志が込められていた。その瞬間、彼の手の中に微かな光が宿った。それは、五十嵐との友情の絆が形を成したものだった。
翔太がその光を握り締めると、氷の剣が再び彼に向かって振り下ろされた。しかし、光が剣に触れた瞬間、氷が音を立てて崩れ落ちた。
「なに…?」強欲の悪魔が驚愕する中、翔太はその光を五十嵐の胸元に向けて放った。
「五十嵐!お前は悪魔なんかに負けない!」翔太の叫びとともに、光が五十嵐の体を包み込み、悪魔の力を徐々に押し返していった。
その光景を見た悟志は、ついに封印の呪文を完成させた。「翔太、今だ!」悟志が叫び、本の光が強欲の悪魔を完全に覆い尽くした。
「こんなところで終わるものか!」強欲の悪魔が最後の抵抗を試みるが、翔太と悟志の力が融合した光はそれを許さなかった。
やがて光が消えると、五十嵐は静かに地面に倒れ込んでいた。その表情には、どこか安らぎが戻っていた。
翔太は膝をつき、息を切らしながら五十嵐のそばに駆け寄った。「五十嵐…お前を取り戻せてよかった。」五十嵐は薄く目を開けると、かすかな笑みを浮かべ、「ありがとう…翔太…」とつぶやき、再び静かに目を閉じた。
悟志もまた、立ち尽くしながら呟いた。「これが俺たちの戦いの意味だったんだな…」
二人の心に新たな決意が芽生えたその瞬間、遠くから新たな悪魔の気配が迫ってくるのが感じられた。戦いはまだ、終わっていなかったのだ。