第2話 神々の戦い
私の名前は――峯文子。文子は、彼を見据えたまま鋭い声で告げた。
文子の鋭い瞳が悟志を射抜き、冷たい声で言い放った。「この戦いの名は『神々の戦い』。2000年もの時を超え、再び幕が開かれた――神の座を巡る壮絶な争い。運命に巻き込まれたのは君、木更津悟志君。」
悟志の心臓は激しく鼓動し、額に冷たい汗が浮かんだ。「神々の…戦い? 俺が何に関係してるのか?」
文子はそのまま冷然と告げた。「現実世界で、次の神を選ぶ戦いが次々に始まっている。まだ神として覚醒していない人間が、この地に存在する。そして、君はその神を導く存在として選ばれたのよ。その鍵を握るのが、君が手にした『精神の書』よ。」
悟志は混乱した。平凡な日常が一瞬にして音を立てて崩れ去るかのように感じた。「なぜ、俺が…そんなことに巻き込まれるんだ?」
文子は冷たく笑った。「理由なんてない。あなたの運命よ。『神々の戦い』はすべての理を超越した存在によって決定される。君が『精神の書』を手にしたその瞬間、あなたは逃げ場はなくなったのよ。」
悟志の胸に広がる不安は止まることなく膨れ上がる。「俺が…この戦いに参加しなきゃならないのか? 神を巡る戦いに?」
文子は静かに頷き、手のひらを広げた。「君一人じゃない。世界中の『選ばれし者』たちが次々に覚醒し、この戦いに参加する。生き残り、勝者となった者だけが神となる。私の役割は、その戦いを導く案内人として君を導くこと。そして、君の覚醒を促す。」
悟志の胸はドクンと大きく脈打った。「つまり、俺は戦うしかないっていうことか…?」
文子は彼の視線を受け止め、冷静な声で続けた。「『精神の書』は、ただの古い本ではないわ。それには強大な魔術――精神魔術の力が宿っている。その力を得た者は、他者の意識を覗き、操作し、さらには世界そのものを変える力を持つ。君には、すでにその力が宿り始めているの。」
悟志は震えながらも興味を抑えられなかった。「他人の意識を操る…そんな力が、俺に?」
文子は薄く笑みを浮かべた。「そうよ。精神魔術は強力だけれど、制御を誤れば、君自身をも破壊する危険がある。それが精神魔術の難しさ。力を得る者は多いが、その力に飲み込まれて滅びる者も数え切れない。戦いの中で、君がその力をどう扱うかが問われるの。」
悟志の胸の中には恐怖と興奮が混在していた。「この力で…俺は何ができる?」
文子は一歩近づき、彼の耳元で囁いた。「君が望むままに、敵を恐怖で打ち砕き、希望を抱かせ、絶望に突き落とすこともできる。精神魔術は他人の感情、意識、そして世界そのものに干渉できるのよ。だが、その力をどう使うかは君の意志次第。無限の可能性が広がるけれど、同時に無限の危険も待っているわ。」
文子は彼の決意を満足そうに見つめながら、言った。「その意志があるなら、君はこの戦いで成長するはずよ。でも、忘れないで。この戦いは君だけのものではない。他にも強大な存在が現れる。君の中の力を信じ、決して揺らがない意志を持ち続けなさい。」
彼女が手を差し出すと、悟志はその手を取った。その瞬間、身体に電流が走ったような感覚が全身を駆け巡り、心の奥底で何かが覚醒し始めるのを感じた。
「神々の戦いはすでに始まっている。君の力がどこまで成長するか、見物ね。」文子はその言葉を残し、ふっと微笑んだ。
悟志は立ち上がり、震える手で真っ白になった『精神の書』を握りしめた。「俺が…導く側かもしれないけど、その神になる可能性も、俺にはあるんだな。」
文子は冷静に頷き、「その通りよ。でも、覚えておいて。神の座を奪い合うこの戦いでは、裏切りや犠牲もつきもの。君が信じるものを決して見失わないで。」と告げると、再び鋭い目で悟志を見据えた。「この戦いは命がけよ。君の覚悟が試される時が来るわ。」
悟志の心は既に覚悟を決めていた。平凡な日常に戻れる道はなく、すでに彼の運命は決まっている――そして、それは自らの力で切り開くべきものだということを。
「さあ、世界は動き始めた。これからが本当の試練よ。」文子の言葉が、次なる戦いの幕開けを告げた。
文子が家に来た翌日、悟志がいつものように教室に入ると、周りがざわついていた。新しい転校生が来るという噂が広がっていたからだ。特に目立つ生徒ではない悟志も、その話題には少し興味を持ったが、気にするほどでもなかった。
教室の扉が開き、担任の工藤先生が現れる。「皆、おはよう。今日は新しい仲間を紹介する。彼女は今日からこのクラスの一員だ。」
その瞬間、教師の後ろから現れたのは、どこか冷ややかで鋭い雰囲気を纏ったセーラー服を着た少女だった。彼女の名前は――峯文子。
「峯文子です。よろしくお願いします。」
その自己紹介は短く、必要最小限の言葉だけで終わった。彼女の鋭い瞳が一瞬、クラス全体を見渡し、まるで誰かを探しているかのように止まった。その瞳が、悟志に向けられた瞬間、彼は体が自然とこわばるのを感じた。
「じゃあ、木更津君。彼女を案内してくれるか?」先生の言葉に、悟志は一瞬戸惑ったが、頷いた。
「えっと…よろしく。」悟志はぎこちなく声をかけたが、文子はそれに応えることなく、ただ頷いた。
その日の午後の昼休みで彼女が転校してきた理由を知らされることになる。
「私は、案内人。だから、この大勢の人間がいる学校であなた一人だけにする訳がないでしょ」
「何かが始まる――」そう感じた瞬間、教室の窓が不自然に揺れた。外を見ると、空の色が異様に変わっている。まるで世界そのものが彼を試しているかのように、空気が重くなり、異次元に足を踏み入れた感覚に陥った。
「悟志、準備はできているの?」文子の冷静な声が響く。
だが、その時、クラスメイトの佐藤美坂が急に立ち上がり、鋭い声で叫んだ。「誰よ!あんた!私は悟志の幼馴染よ!!!」その嫉妬に満ちた視線は、悟志ではなく文子に向けられていた。
「美坂…」悟志は驚きの表情を浮かべた。これまで冷静で穏やかな彼女が、こんな風に感情をむき出しにする姿を見たのは初めてだった。
文子は微笑を浮かべ、「嫉妬は強力な武器になることもあるわ」と、美坂の感情を感じ取るかのように言った。文子は、さらに意味深な口調で言った。
「でも、今はあなたにその力は必要ないわ。あなたの役割は別にある…そうでしょう?」
「そんなの納得できない!」美坂の目が怒りで燃え上がる。
その瞬間、教室のドアが勢いよく開き、同級生の杵島幸雄が慌てて駆け込んできた。「悟志、大変だ! 校庭で何か異常が起きてる!」
3人はすぐに廊下を駆け抜け、校庭へと向かった。そこには、奇妙な光の柱が立ち上がり、何かが渦巻いている。校庭の中央には見知らぬ存在が立ち、圧倒的な威圧感を放っていた。まるで神々の使者のようなその姿は、通常の人間とは明らかに異なっていた。
文子が低い声で呟いた。「来たわね…。彼も『神々の戦い』に巻き込まれた者の一人。」
悟志は心臓が再び強く脈打つのを感じた。「俺は…本当にこの戦いに挑むしかないんだな。」
「恐れることはないわ、悟志。あなたには『精神の書』がある。さあ、その力を解き放ち、次の一歩を踏み出すのよ。」文子の声が導きの光となり、悟志を包み込んだ。
悟志は深く息を吸い込み、震える手で『精神の書』を開いた。ページの中から光が溢れ出し、その光は彼の身体を包み込んでいく。