第18話 嫉妬の悪魔
三人は黙って頷き、急ぎ足で南口に向かった。悟志の頭の中には、京子が無事であるというレヴィアタンの言葉が反芻していた。しかし、その言葉の裏に潜む悪意が、彼を不安にさせる。南口に近づくにつれ、群衆の騒音は徐々に薄れ、まるで異世界に足を踏み入れたかのような静寂が広がっていく。
「この辺りか…?」五十嵐が不安げに周囲を見回す。駅の喧騒から離れたその場所は、普段なら人が行き交うはずの通路にも関わらず、今は誰もいない。静寂が不気味に感じられ、まるで時間が止まったかのようだ。
「気をつけろ…何かが起こる」翔太が低い声で警告する。その瞬間、空気が変わった。まるで霧のような薄暗い霞が、三人の周囲に立ち込め始める。
「これは…!」悟志が目を見開いた。霞は瞬く間に濃くなり、周囲の風景を飲み込んでいく。気がつけば、彼らは完全にその結界の中に閉じ込められていた。
「ようこそ、私の領域へ」声が響き渡る。霞の向こうから、ゆっくりとレヴィアタンが現れた。彼女の緑髪は不気味に光り、冷たい笑みを浮かべている。その隣には、縄で縛られた京子が、傷だらけの状態で倒れていた。
「京子!」悟志は駆け寄ろうとしたが、突然目の前に水の壁が立ちはだかった。冷たい水の波動が空気を切り裂き、彼を阻止する。
レヴィアタンは薄笑いを浮かべながら、挑発する。水の壁はより強固なものとなり、まるで生き物のように揺らめいている。「さあ、どうする?」
「試練だと…?」五十嵐は剣を抜き、水の壁に向かって斬りかかった。しかし、その斬撃は水に吸い込まれ、何の効果もなかった。
「そんなことでは通じないわ」レヴィアタンが手をかざすと、水が再び動き出し、鋭い刃となって翔太たちに襲いかかった。「水の斬撃!」
水の斬撃が飛び交う中、翔太と五十嵐はそれぞれ剣を構え、防御に徹した。翔太は素早い動きで水の刃をかわし、五十嵐は氷の魔法を使って反撃に出る。
「氷の斬撃!」五十嵐が叫びながら、氷の斬撃を放った。鋭い氷の刃がレヴィアタンの水の壁にぶつかり、激しく衝突する。しかし、その衝撃にもかかわらず、レヴィアタンは余裕の表情を崩さなかった。
「お見事。でも、それだけでは足りないわ」レヴィアタンは再び手を振り、水の盾を作り出す。氷と水が激しくぶつかり合い、霧が立ち込め、視界が遮られた。
その隙を突いて、悟志は京子のもとへ向かおうとした。彼はレヴィアタンが攻撃に集中している今こそがチャンスだと考えたのだ。京子に向かって手を伸ばし、あと一歩というところで、再び水の刃が飛びかかってきた。
「悟志、気をつけろ!」翔太が叫んだが、時すでに遅かった。悟志の体は無数の水の斬撃に貫かれ、彼はその場に崩れ落ちた。
「悟志!」五十嵐が叫び、翔太もその場に駆け寄ろうとしたが、水の結界が二人の前に立ちはだかった。レヴィアタンは勝ち誇ったように微笑み、ゆっくりと近づいてきた。
「残念だったわね。彼はもう…」レヴィアタンが言いかけたその瞬間、京子が薄目を開け、かすれた声で叫んだ。
「やめて…悟志…」
悟志の意識は薄れつつあったが、京子の声が彼を引き戻そうとする。その声に応じて、悟志は最後の力を振り絞り、手を伸ばした。しかし、彼の視界は次第に暗くなり、意識は遠のいていった。
「京子…」それが、悟志が最後に発した言葉だった。
翔太と五十嵐はその場で固まり、悟志が目の前で倒れる様子を見つめるしかなかった。彼らの中には怒りと無力感が渦巻いていた。翔太は唇を噛みしめ、五十嵐は拳を震わせたが、何もできない。
「京子を守るために戦っていたんだ。悟志は…こんなところで終わるはずがない!」五十嵐は叫んだ。
「俺たちがやらなければならない。レヴィアタンを倒す!」翔太が同意し、二人は再び立ち上がった。レヴィアタンは冷笑を浮かべたまま、彼らを見下ろしていた。
「いいわ、来なさい。どれだけ耐えられるか見せてもらうわ」レヴィアタンの声は冷たいが、そこには挑発の色があった。




