第13話 影
京子の明るい声が学校の校庭に響いた。「今日はクラスで文化祭の打ち合わせがあるんだって!楽しみだね、悟志!」
悟志は彼女の無邪気な笑顔に、心の奥底でわずかな安心感を覚えた。だが、その背後には悪魔との戦いが待ち受けているという現実が常に付きまとっていた。彼は頭を軽く振り、考えを振り払おうとした。
「文化祭ね…どうせ騒がしいだけだろうけど、まぁ、京子が楽しみにしてるならいいか」悟志はため息交じりに答えた。
その時、後ろから杵島が近づいてきた。「おーい、悟志」
「杵島か。なんだ?」悟志は少し面倒くさそうに問い返した。
「そうそう、5限目にクラスで文化祭の企画を決めるんだってよ。何やるかはまだ決まってないけど、いろいろ面白そうなアイデアが出そうだな」杵島は目を輝かせながら話していた。
「そうか。まぁ、適当に参加するさ」悟志は軽く返事をしながら、京子と杵島と一緒に教室へ向かった。
授業が終わり、文化祭の打ち合わせが始まると、クラスの雰囲気は一気に活気づいた。各グループで様々なアイデアが飛び交い、出し物の内容を巡って盛り上がりを見せていた。悟志も一応意見を求められたが、彼は特に乗り気ではなく、適当に相槌を打っていた。
しかし、そんな日常の裏で、暗い陰謀が渋谷のどこかで進行していた。
――緑色の髪をした妖艶な女性が、紫色の唇を軽く舐めながらスマートフォンを片手に持っていた。彼女はじっと写真を見つめ、その中には悟志の顔が映っている。
「この悟志って子を殺せばいいのね?」妖艶な声が渋谷の路地裏に静かに響いた。
電話の向こうからは、男の冷たい声が返ってきた。「そうだ。それに加えて、あの女もだ。見張り役を務めている北見京子、彼女も邪魔だ。始末しろ」
「了解よ」女性はにやりと笑みを浮かべた。
「絶対に失敗するなよ。お前の能力なら、この二人を始末するのやりやすいはずだ」
「分かってるわよ。さぁ、楽しい狩りの始まりね…」彼女は電話を切ると、すぐに歩き出した。渋谷の喧騒の中に紛れ込みながら、彼女の心には冷酷な計画が鮮やかに描かれていた。
同じ頃、悟志は何も知らずにクラスメートたちと文化祭の準備に没頭していた。彼の携帯が一瞬振動したが、彼は気づかずにそのまま話に加わっていた。
「ねえ、悟志さん。お化け屋敷とかどう?」京子が提案し、目を輝かせていた。
「お化け屋敷?まぁ、悪くないんじゃないか」悟志は少し考え込んだ後に答えた。だが、彼の心の中には、いつもの日常にどこか違和感が漂っていた。何かが起きる、そんな予感が彼を捉えて離さなかった。
午後になり、5限目が終わると、悟志は教室を出て、少し離れた場所で携帯を確認した。画面には五十嵐からのメッセージが表示されていた。
「悟志、すぐに連絡をくれ」
その短い言葉に、悟志の胸が騒ぎ始めた。彼は周囲を確認し、誰にも見られないように人気の少ない場所へ移動した。そして、すぐに五十嵐に電話をかけた。
「どうした?」悟志が尋ねると、五十嵐は即座に答えた。「悟志、お前を狙っている暗殺者が動き始めた。」
「暗殺者だと?」悟志は驚きを隠せなかった。
五十嵐は、その暗殺の特徴について話し始めた。
「緑色の髪をした女だ。彼女は非常に危険な存在だ。お前と京子を狙っている。特に注意しろ、彼女も言霊を使う能力者だ。京子と協力して、すぐに顔を見たら逃げるんだ!絶対に戦うなよ!」
「京子の力か…」悟志は彼女の顔を思い浮かべた。彼女はまだ、自分が言霊師であることを隠している。だが、この危機に直面すれば、彼女の力を頼るしかないだろう。
「わかった。京子にも伝える。ありがとう、五十嵐」悟志は電話を切り、再び京子のいる教室に向かおうとした。
だが、その瞬間、校庭の向こう側に、一瞬緑色の髪がちらりと見えた気がした。悟志は立ち止まり、目を凝らしたが、すでにその姿は消えていた。
「まさか…もう来ているのか?」




