第12話 七つの大罪
悟志は携帯を手に取り、京子が居ない所で五十嵐に連絡を取ることを決意した。すぐに電話がつながり、五十嵐の冷静な声が聞こえた。
「どうした、悟志?」
悟志は、五十嵐に聞いた。
「お前に聞きたいことがある。京子って女が今俺の家にいるんだが、誰なんだ?お前と翔太が見張り役を頼んだって話は聞いたが、それだけじゃないだろう?」
五十嵐は少し沈黙した後、ため息をついて話し始めた。「その通りだ、京子はただの見張り役じゃない。彼女は言霊師なんだ。」
「言霊師?」悟志はその言葉に引っかかりを覚えた。これまでの経験から、言霊を使える者は特別な力を持つことを知っていたが、京子がその一人だというのは想像していなかった。
「そうだ。そして彼女は『美の魔術書』という、特別な書物を持っている。その書は、美の力を言霊として操ることができる」
「『美の魔術書』…か」悟志は京子の無邪気な笑顔を思い出しながら、そんな力を持つ人物とは思えなかったが、今の状況では何も信じるほかなかった。
「それともう一つ、悟志。特級悪魔について話す時間が必要だ。お前、キリスト教の『七つの大罪』って知っているか?」五十嵐が続けた。
「七つの大罪?知らないが、聞いたことはある。何か関係があるのか?」
「大いにある。特級悪魔として存在しているのは、七つの大罪に基づいた悪魔たちだ。傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、そして色欲――それぞれの悪魔が、言霊を操る力を持っている。彼らは大昔、デビルと契約を交わし、その力を得たんだ。それぞれの属性に基づいた言霊を操るから、対処が非常に難しい。」
悟志はこの前の闘いのことを思い出した。
「じゃあ、あの摩天楼で俺たちが戦ったのは…」
五十嵐は、答えた。
「そうだ、あれは強欲の悪魔だ。文子のような下級の悪魔は言霊を使えないが、特級悪魔は別格だ。彼らの持つ力は俺たちの常識を超えている。今後の戦いは、さらに厳しくなるだろう。」
悟志は思わず息を飲んだ。文子との戦いですら命がけだったが、特級悪魔の力はそれ以上だという。自分がその戦いに巻き込まれる理由が、ますます重く感じられた。
「俺たちは全力でサポートする。だが、注意しろ。京子が言う通り、悪魔はどこにでも潜んでいる。お前が信じられるのは、自分と、ほんの一握りの仲間だけだ。」
五十嵐の言葉に、悟志は無言でうなずいた。電話を切った後、彼はしばらく考え込んだ。七つの大罪に基づく特級悪魔、そして京子という謎めいた存在。状況はますます複雑になり、自分がどう立ち向かっていくべきか、明確な答えが見つからない。
京子は悟志の様子を見ていたが、特に口を開くことなく、彼の思考を邪魔しないようにしていた。その無邪気な笑顔の裏に、どれほどの秘密が隠されているのか、悟志にはまだ全く分からない。
翌朝、悟志は目を覚ますと、全身に疲れが重くのしかかっているのを感じた。昨夜の五十嵐との会話や、それまでの戦いの記憶がまだ生々しく、まるで悪夢のように彼の頭の中にこびりついていた。彼はベッドの中で、しばらくじっとしていたが、やがて重い体を起こして周りを見渡した。
隣のベッドを見ると、京子がまだ眠っている。ピンク色の髪が彼女の顔を覆い、穏やかな寝息が部屋に静かに響いていた。
「本当に俺を守ってくれるのか…?」悟志は彼女の寝顔を見つめながら、自分に問いかけた。だが、答えは出ない。ただ、目の前の現実を受け入れるしかなかった。
悟志はゆっくりとベッドから降り、準備を整えると、京子を起こさないように静かに部屋を出た。今日もまた、学校へ行かなくてはならない。だが、悪魔たちが潜んでいるかもしれない現実の中で、普通の生活がどれだけ続けられるのか分からない。
学校に行く途中、サングラスを掛けた翔太が校門で待っていた。彼は悟志を見るなり、軽く手を振って近づいてきた。
「昨日の戦い、大変だったな。五十嵐から聞いたよ。悟志君、強欲の悪魔に遭遇したらしいな。」
悟志は不満そうな顔で答えた。
「ああ、まさかあいつが特級悪魔だったなんてな。けど、俺一人じゃ絶対に勝てなかった。五十嵐がいなければ、今頃どうなっていたか…」
翔太は、ニコニコしていた顔が真剣な眼差しに変わって悟志を見ていた。
「それはそうだが、次からはもっと警戒しろよ。特級悪魔に出会うたびに、俺たちは命をかけることになるんだ。油断すれば、一瞬で終わる。」
翔太の言葉に、悟志は頷いた。だが、それと同時に自分自身がどこまでこの戦いに耐えられるのか、不安が押し寄せてきた。
その時、ふと背後から京子の声が聞こえた。「悟志さん、大丈夫?」
彼女はいつの間にか学校に入学していたらしく、心配そうな顔で彼を見つめていた。悟志は少しだけ笑って答えた。
「ああ、大丈夫だよ。行こう、京子。」




