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第6話 王都へ②

 ローナは振り向きながら言う。


「そんなには待っていないよ。早かったね」

「ああ。片づけはジュリアスたちに任せてきた。洗礼式の方はどうだった?」

「五月十五日の五の鐘までに教会」

「承知した。アイリ。それじゃあ、行こうか」

「はい」


 愛理は立ち上がった。

 それから、ローナとラウラに向かって頭を下げた。


「いろいろと教えていただき、ありがとうございました」

「次に会うのは洗礼式の時かな。イアン様、アイリのことお願いね」

「ああ」


 イアンは愛理を連れて教会を出て行った。



 ローナは二人を見送ると、立ち上がって伸びをした。


「おなかすいたなー。食堂でサンドイッチでも頼んで、あたしの部屋で食べない? 研修の振り返りもしたいし」


 ラウラはこくんと頷いた。


 二人はまた事務所へと戻り、中を抜けて裏口から出る。

 目前には学舎があり、その一階の一部が食堂になっていた。

 まだ昼休憩前なので、食堂の席には誰もいない。

 ローナがカウンターに顔を出すと、食堂で働いている女性が二人に気がついた。


「シスターローナ、討伐ご苦労様」

「ありがとう。これから忙しくなるって時に申し訳ないんだけど、二人分のサンドイッチを作ってくれない? 部屋で食べるから包んで。討伐で疲れたから、早く休みたいんだ」


 女性は厨房に向かって言う。


「サンドイッチ2人分。包んでね」


 それから、女性はローナに向き直って尋ねる。


「今回はビッグウルフだっけ?」


 ローナはカウンターに肘を置き、眉間に皺を寄せて言う。


「そうだよ。運よく二日目で群れと遭遇できたんだけど、やつら、すばしっこくって。三匹に逃げられちゃって討伐延長。まぁ、でも、五日で終われてよかったよ。ずっと歩いていたから足がパンパン」

「討伐にしては早く戻れてよかったじゃない」

「イアン様の指揮のおかげだよ」


 ローナたちが雑談をしていると、男性が厨房の奥から包みを持ってきた。

 女性の隣に立って、ローナに渡す。


「はい。サンドイッチ、二人前。討伐ご苦労様。早めに街道の封鎖が終わって助かった」

「街道を迂回すると、商人たちも運搬に時間がかかるもんね。サンドイッチ、ありがとう」

 

 ローナとラウラは食堂を後にした。

 二人は学舎を通り抜け、裏口から出ると、寮が三棟並んでいた。

 寮は右手側が学生寮、中央が女性職員寮、左手が男性寮と別れていた。

 二人は女性職員寮の方へ回り、二階にあるローナの部屋へ入っていく。

 ローナの部屋はひとり部屋で、ベッドとクローゼットとデスクが置かれている。

 二人が部屋に入ると、少し狭く感じた。


「ラウラはデスクを使って」


 ローナは自分のベッドに腰掛けた。

 サンドイッチの包みを開けながら、ラウラに尋ねる。


「今回の討伐はどうだった?」

「イアン様の指揮も的確でしたので、勉強になりました」

「同行して感じたことだけど、ラウラはもう少し騎士たちとも話した方がいいよ。今回は初回だし、仕方がないけど、教会側から参加するのは大抵の場合は少人数だ。先輩がいたとしても騎士と仲良くなっておくのは今後の為にもなる。ラウラは優秀だから、近々また実地研修が組まれると思う。次は自分からコミュニケーションとっていこう」


 ラウラはこくんと頷く。


「はい」

「まぁ、今回は想定外のこともあったしね。ラウラがアイリに先輩らしく接していて、微笑ましかったよ。ラウラは学院でも『妹』や『弟』を取らないじゃない?」

「貴族学校を卒業してないですし、同学年にはアンジェリカがいます。わたしを『姉』にしようと思う学生は少ないのでは?」

「アンジェリカと対を張るラウラが何をおっしゃる」


 ラウラは首を横に振る。


「対を張るだなんてとんでもない。彼女は教会で随一であり、上級貴族でもあるランドール家。実力だって、Aランクの上級魔法使い」

「ラウラはBランクだけど上級魔法を使えるじゃない。謙遜する必要はないよ。教皇候補に名前も挙がっているって聞いたよ」

「他の候補者はAランク。わたしは数合わせに過ぎません」


 ラウラの言葉を聞いて、ローナは苦笑した。


「まぁ、今代はAランクのシスターやブラザーが少ないからね。教皇でしょ。枢機卿は年齢を理由に辞退しているし。あとは、伯爵令嬢のジョアンナ、レイチェル姫、アンジェリカか……。今回の教皇選抜試験では、Bランクのシスターやブラザーも候補に挙がってくるのは必然か」

「今回もランドール家のアンジェリカが有力でしょうか」

「どうだろうな。三代連続で、教皇がランドール家のシスターというのもどうなのかな。それよりもアイリだよ。あの子の魔力量が気になる」

「実は、昨夜試してみたんです。精霊石を投げても魔法が発動するのかどうか」


 ローナは顔を顰める。


「また危ない真似を一人で……、声をかけなさいよ。それでどうだった?」

「発動はしました。投げようとしたら発火して……」

「怪我はしなかったの?」


 ラウラは自分の手をローナに見せる。傷のない綺麗な手だった。


「すぐに手放したので、少しの火傷で済みました。治癒魔法を施したので、今はもう大丈夫です。騎士の方に怒られました……」


 ローナは苦笑する。


「だろうよ。寝ずの番をしてくれている騎士にとっちゃ、問題を起こされたらたまったもんじゃない。それで、ラウラでも難しかった?」


 ラウラは少し考えてから答えた。


「そうですね、精霊との意思の疎通の部分でしょうか。発火するイメージを強く持ってしまったから、いけなかったのかもしれません。その点、アイリはビッグウルフを遠ざけたいという意思の強さが、精霊にうまく伝わったのでは?」


 その回答を聞いて、ローナは椅子の背にもたれ掛かり腕を組む。


「だとしたら、アイリは精霊親和力も高い……か」

「ビックウルフを遠ざけたあの爆発規模も相当でした。魔力量もBランク以上はあると思います」

「あたしも同意見。洗礼式の魔力測定次第では、騒がしくなるかもしれないね。そうなれば、アイリの身元ははっきりさせたいけど。気がついたら森にいたというし、ルイスフィールドのことを全く知らない素振りだった」

「わたしは、アイリは嘘をついていないと思います。先生はぐっすりとお眠りでしたけど、アイリ、泣いていました。ひとりで心細いのでしょう」


ローナは苦笑を浮かべる。


「ありゃ。まったく気づかなかったよ。あたしもアイリが嘘をついているとは思わないけど、信じられる話でもなくない?」

「まるで転移魔法を使ったような話ですから……」

「アイリのことはしばらく様子を見よう」

「そうですね」

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