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最終話 愛理の決断

 愛理は祝勝会の翌日に学院に戻り、久しぶりにソフィーたち同期生と会った。

 聖女の称号を得ても、みんなはいつも通りに接してくれて、愛理は嬉しく感じた。



 教皇のマーガレットに呼ばれて、愛理は教皇の執務室に来ていた。

 二人は向かい合って座った。

 マーガレットは愛理に尋ねる。


「ゆっくりと休めましたか?」

「はい。ゆっくりと休めました。お休みをいただき、ありがとうございました」


 愛理は頭を下げた。

 王家からお触れが出た後に、愛理たちは魔王討伐から帰還した。

 街は魔王を討伐した一行を歓声とともに出迎えた。

 しかも、知らぬ間に祝勝会で愛理の聖女の称号授与式も行われることが決まっていた。

 愛理はその準備と休養のため、マーガレットから直々にお休みの許可を得ていたのだ。


「そう。それならばよかったです。それで、今日アイリーンを呼んだのは、今後のことを話そうと思ったからです。教皇選抜試験の続き、支部運営試験をどうするかをお話しします」


 愛理は魔王討伐のことで頭がいっぱいで、支部運営試験のことはすっかり忘れていた。

 愛理があっとした顔をしたのでマーガレットは笑う。


「ふふ。忘れていましたね。あなたは顔に感情が出すぎです。教皇になったらそれでは困りますよ。それで、続きですが、支部運営試験は八月十五日から行おうと思います。南部へは移動の時間もかかりますからね」


 愛理は戸惑いながらも頷いた。


 ――日本に帰るか、ルイスフィールドに残るのか、早く答えを出さないと……。




 愛理はイアンに支部運営試験についての話があったことを手紙で伝え、週末に話がしたいのでクレイグにも伝えておいてほしいと頼んだ。

 ローナとラウラにも話して、週末にエヴァンス邸に集まることの了承を得た。

 そして、愛理はとうとう心を決めた。



 週末。

 みんなでエヴァンス邸に集まった。

 見慣れたメンバーを前に愛理は言う。


「私は一度向こうに戻ろうと思います。やっぱり両親とはちゃんと話さないといけないと思うんです」


 ローナは寂しげに愛理に尋ねる。


「またルイスフィールドに戻ってくる?」


 愛理は少し困った顔をする。


「ルイスフィールドでずっと暮らすことにするかはまだ決めかねていて……。しばらくは行ったり来たりしようかと思います」


 クレイグは頷いて言う。


「うん。いいんじゃないか。アイリーン嬢が決めたことだ。それで支部運営試験はどうするつもりだ?」


 愛理は困った顔で答える。


「問題はそれなんです。どうしよう……」


 ローナは少し考えてから言った。


「支部運営試験は八月十五日からでしょう。八月一日ごろに王都を出れば間に合う。まだ時間には猶予はあるよ。一度帰ってから決めたら?」


 愛理はローナの提案に頷いた。


「それで、明日さっそく帰ろうと思います」


 それを聞いたイアンは微笑んで頷いた。


「承知した」


 ローナは言う。


「だったら、明日見送りに行くよ」


 クレイグとラウラも頷いた。



 翌日。

 愛理の見送りに来たのは、イアン、マリアンヌ、メアリー、ジェームズ、クレイグ、ジュリアス、ローナ、ラウラ、アデルだった。

 人目につくとよくないので、愛理たちはあまり人のいない慰霊碑の広場へ向かった。

 周りに人がいないことを確認してから愛理は言った。


「みなさん、お見送りありがとうございます。またすぐ来ますね」


 ローナは手を振った。


「気をつけてね」


 ジュリアスはおどけた様子で言う。


「今度は狭間の森に転移しないように気をつけろよ」


 愛理は笑った。


「そしたら、ジュリアス、また迎えに来てよ」


 愛理がイアンの顔を見ると、イアンは笑みを浮かべて頷いた。


「行ってらっしゃい、アイリーン」

「行ってきます、イアン様」


 愛理は精霊石を握って目を閉じた。

 しばらくして目を開けると、なぜか目の前にイアンたちがいた。

 愛理は首を傾げてから再度挑戦したが、転移することはできなかった。


「え⁉ ええ⁉ なんで?」


 愛理はパニックを起こした。

 イアンは苦笑しながら愛理の背を撫でる。


「落ち着け、アイリーン」


 愛理は青ざめた顔でアデルの顔を見た。


「なぜでしょうか? アデル様」


 アデルは気まずそうに頬を掻く。


「あー、考えられる状況は二つかな。一つ目は向こうにある精霊石の精霊力が不足している。二つ目は向こうにある精霊石が砕けている。二つ目だとしたら、手の打ちようがない……かな」


 愛理は足の力が抜けて、その場に座り込んだ。

 ローナは愛理の横に座り、肩を叩いた。


「心配することはないよ。教会にいれば生活には困らない」


 愛理は泣きそうな顔でローナを見た。


「前にも似たようなことを言われたような気がします……」


 愛理は、はっとして再度アデルに視線を向けた。


「アデル様は転送魔法が使えましたよね? 新しい精霊石を送ることはできませんか?」

「以前は、アイリーンが向こうにいたから目印があったけど、今は難しいかな。アイリーンが転送魔法を使えるようになればできるかもしれない。ただ、わたしの場合、魂を辿ってアイリーンの元に精霊石が届いたか確認ができた。けど、アイリーンの場合はそれができないから……」


 愛理の顔がさーっと青くなる。


「失敗していたらまったく違う場所に行くかもしれないってことですか?」


 アデルは苦笑しながら頷いた。

 それから、アデルは更に言いづらそうに言う。


「あと、懸念しているは、今回アイリーンは肉体ごときている。数年後に帰ったら、成長した姿で戻るということになるかも……」


 愛理は頭に手を添えた。


 ――向こうにある精霊石の精霊力が溜まるのを待っていたら、数年後の私の姿で戻るってこと? そんなの大変な騒ぎになる!


 アデルは続けて言う。


「それから、わたしには肉体ごと転送ができなかったから定かではないけれど、向こうの時間も進んでいる可能性がある」


 愛理は頭を抱えた。


 ――すでに向こうでは、私が失踪して大騒ぎになっているかもしれないということ? 前回みたいに向こうを出た時に戻れると思っていた……。


 ローナはアデルに尋ねる。


「つまり、アイリーンはすぐには帰れないということ?」


 アデルは申し訳なさそうに言う。


「そうなるかな。もしかしたら女神ララーシャならどうにかできるかもしれない……」


 ララーシャとシルフは数日前に世界を旅しに行ってしまった。

 ララーシャの元まで転移魔法を使うことも考えたが、今どこにいるのか分からないララーシャのところに飛んで、街中だったら大騒ぎになってしまう。

 ローナは愛理に言う。


「ルーカス伯爵に女神ララーシャが戻ったら知らせてほしいと手紙を書いてみたら?」


 愛理はローナの案に渋々と頷いた。

 それを見たローナは立ち上がる。


「じゃあ、しばらくアイリーンはルイスフィールドにいるってことだね。アイリーンを励ます会ってことでこれから飲もうよ」


 クレイグがそれに乗る。


「おお。いいな。飲もう、飲もう」


 愛理は溜息を吐いた。


「ただ飲みたいだけじゃないですか……」


 愛理が立ち上がろうとすると、イアンが手を貸してくれたのでその手を掴んだ。

 愛理がイアンを見上げると、イアンは優しく微笑んだ。

 それに愛理も笑顔で返した。

 先を歩くみんなの後姿を見ながら、二人は手をつないで歩いていった。

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