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第62話 祝勝会と聖女の称号授与式

 王家は魔王の封印が終わったことを受け、不安に駆られている国民に通達を出した。

 一つ目は魔王の復活と封印について。

 二つ目はアイリーン・エヴァンスが四大精霊の加護を得て、聖女の称号を得たこと。

 三つ目はそれらを受けて、王城で祝勝会と聖女の称号授与式が行われること。

 ルイスフィールドは一気にお祭り騒ぎになった。



「ねぇ。やっぱりこのドレス、派手じゃない?」


 愛理は黒髪を結い上げ、真っ白なドレスを着ていた。腰には金色の飾りがついている。

 まるで顕現した女神ララーシャが着ていたようなドレスだった。

 オレンジのドレスを着たララーシャは、愛理のベッドに胡坐をかいて座っていた。


「似合っているよ、アイリーン」


 緑のドレスを着たマリアンヌと、着付けを手伝ったメアリーも頷いた。



 愛理たちが一階に降りると、リビングではイアンが正装に着替えて椅子に座っていた。

 愛理たちが下りてきたのを見て、立ち上がる。


「馬車がもう着ている。行こう」


 愛理、イアン、マリアンヌ、ララーシャはこれから王城で行われる祝勝会に参加するのだ。

 そこでは愛理の聖女の称号の授与式も行われる。

 イアンは愛理にお辞儀をする。


「聖女様、エスコートをさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「イアン様、その呼び方はやめて」


 愛理はイアンの右腕に手を添えた。



 馬車が王城まで向かう道を走っていると、王都の人たちが愛理の乗った馬車を一目見ようと集まっていた。

 馬車に向かって手を振っている人や愛理の名を呼ぶ声がする。


「アイリーン様!」

「聖女様!」


 マリアンヌが言う。


「アイリーン、手を振り返して差し上げたら?」


 愛理は気恥ずかしそうに頷いて、馬車の窓越しに手を振り返した。



 王城に着くと、宰相のアランが扉の前で待っていた。

 アランが馬車から降りた愛理にお辞儀をする。


「お待ちしておりました。アイリーンお嬢様」


 愛理だけ控室に通され、アランから今日の流れを一通り聞いた。

 愛理は出されたお茶も飲まずに緊張して固まっている。


 しばらくして愛理のいる部屋のドアがノックされた。

 アランが愛理に右腕を差し出す。


「お時間です。ご案内いたします」


 アランは愛理を連れてゆっくりと会場に向かった。

 愛理は閉まっているドアの前に立った。

 室内からラッパの音がして、ドアが開かれる。

 ドアの先には赤く長い絨毯が敷かれ、その先には階段があり、その上に王のジャレッドが立っている。

 大勢の人たちが見守る中、愛理はゆっくりとその道を歩き、階段を上り、ジャレッドの前で跪く。


「アイリーン・エヴァンス、そなたは四大精霊の加護を得た。よって聖女としての称号を与える」


 ジャレッドは隣の従者から金色のティアラを受け取り、それを愛理の頭に乗せた。

 愛理は立ち上がり、王のジャレッドにお辞儀をする。

 そして、参列者の方を見た。

 ジャレッドは愛理の横に立って宣言した。


「ここにルイスフィールドの聖女が誕生した!」


 参列者たちは会場に響き渡る大きな拍手をした。

 愛理は参列者に対してお辞儀をする。

 もう一度、王のジャレッドにお辞儀をしてから階段をゆっくりと降りていく。

 階段の下で待っていたイアンは、二つ持っていたワインのひとつを愛理に渡す。

 愛理はワインを受け取って掲げた。

 王のジャレッドもワインを掲げ、高らかに言った。


「魔王討伐と聖女の誕生を祝って、乾杯」

「乾杯」



 その日の夜。

 旅をした仲間がエヴァンス邸に集まった。

 愛理、イアン、クレイグ、ローナ、ラウラ、シルフ、ララーシャである。

 愛理たちはワインで乾杯をした。

 ローナは一気にワインを煽った。


「人生でこんなにいろんな街を巡ることはそうそうないよ」


 クレイグは頷く。


「おかげで御者の腕が上がった」


 愛理たちは笑い、楽しんでいた。

 唐突にローナは愛理に尋ねる。


「アイリーンはこれからどうするの? 本当はいつでも戻れるんでしょう?」


 愛理はグラスを両手で持って黙った。

 考えていなかったわけではない。

 このままルイスフィールドにいるか、日本に帰るのかを悩んでいるのだ。

 クレイグは優しげな顔を浮かべた。


「アイリーン嬢の人生だ。俺たちがとやかく言うことではない。だが、帰るときは言ってくれよ。黙っていなくなったら寂しいからな」


 愛理は小さく微笑み、クレイグに頷いて答えた。



 ローナ、ラウラは教会の寮に戻り、クレイグは騎士団の寮に戻って行った。

 愛理とイアンは玄関先から帰っていく三人を見送った。

 愛理が家の中に戻ろうとすると、イアンは愛理の腕を掴んで提案した。


「酔い覚ましに少し風に当たらないか?」


 二人は庭の芝の上に座った。

 愛理が夜空を見上げるとたくさんの星が瞬いていた。

 イアンは隣に座る愛理の手を握った。

 愛理が驚いてイアンを見上げると、イアンは茶色の瞳を愛理に向けていた。


「アイリ、これからの話をしようか」


 愛理は小さく頷いた。


 ――イアン様はいつも一緒に考えてくれる。そういうところ好きだなぁ……。


 愛理はイアンの茶色い瞳を見つめた。

 イアンは少し間をおいてから口を開いた。


「俺はアイリにいなくなってほしくない。これからも一緒にいたいと思っている。アイリのことが好きなんだ……」


 愛理はイアンの意外な言葉に驚いた。

 イアンは目を丸くしている愛理に小さく笑ってから続けた。


「だが、これは俺のわがままだ。クレイグ様が言うように、アイリの人生なのだから、俺はアイリが決めたことを応援する」


 愛理は黒い瞳に涙を溜めた。


 ――イアン様と離れたくない……。でも、ママとパパのことを考えると、そういう訳にもいかない……。


 愛理の心は揺れていた。

 イアンは今にも泣きだしそうな愛理を抱きしめる。


「ゆっくりと考えればいい。この先どうするのか答えが出たら聞かせてくれ」


 愛理はイアンの胸に顔を埋め、小さな声で言った。


「イアン様、好きです……」


 イアンは苦笑しながら愛理を離す。


「分かっているのか? 俺の好きはアイリがいつもいうようなマリアが好きだとか、メアリーが好きだとかそういうのとは……」


 愛理は顔を真っ赤にしてイアンを見上げた。


「分かっています。ウンディーネ様に教えてもらいました。私のイアン様への好きは、恋の好きなんだと……」


 それを聞いたイアンは穏やかに笑って、愛理にキスをした。

 唇が離れると、愛理は恥ずかしくなって俯いた。



 家の中へ戻ると、愛理はすぐに自室へと行ってしまった。

 ララーシャとシルフの姿もない。

 リビングではマリアンヌがひとりでお茶を飲んでいた。

 イアンはキッチンにいるメアリーにお茶を頼み、マリアンヌの正面に座った。


「お兄様、ああいうことは庭ではなさらないで。ご近所の目があります」


 イアンはわずかに顔を赤らめ、咳払いをした。


「すまない。……見ていたのか?」

「みなさんを見送りに出て、戻ってこないから様子を見に玄関から少しだけ。いい雰囲気でしたのでお声を掛けずに戻りました」


 イアンはまた咳払いをする。


「どの辺りを……。あー、見ていたんだ?」

「手をつないで話しているところです」


 イアンは少しほっとした。

 マリアンヌはにやにやしてイアンを見る。


「それにしても、まさかお兄様とアイリーンが……ねぇ。そういう関係だったなんて気がつかなかったわ」

「なんだ。マリア、気持ち悪い笑い方をして」


 マリアンヌはふふっと笑った。


「いいえ。ただ、なんとなく嬉しくって」



 翌日。

 ララーシャは唐突に旅に出ると言った。


「あんまりルイスフィールドに長居はできないんだよね。天界に帰らないといけないからさ」


 ララーシャはシルフを連れて、あっさりとエヴァンス邸を出て行った。

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