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第59話 魔王の行方

 愛理たちは王都に戻り、今は王城で作戦会議が行われていた。

 参加者は王のジャレッド、王太子のアルフレッド、騎士団長のアーサー、教皇のマーガレット、シルフ、愛理、イアンだ。

 そこに女神ララーシャを招いている。

 王の執務室で愛理たちは女神ララーシャに跪いていた。

 マーガレットは頭を垂れて、代表して挨拶をした。


「女神ララーシャ、お目にかかれて僭越至極に存じます」


 ララーシャは女神らしからぬ冒険者の恰好である。

 傍から見れば、誰もこれが女神であるなどとは思わない。

 そんな彼女は軽く言う。


「そういうのは良いから。さぁ、座ろう」


 ララーシャにそう言われて、一同は恐る恐る顔を上げて席に着き、シルフは愛理の肩に乗った。

 ララーシャは尋ねる。


「それでさ、魔王の居場所の調査をしてくれているんだって? 状況はどうなの?」


 それに答えたのはジャレッドだった。


「アルフレッドの読み通り、貴族の家を転々としているようです。各地から報告が上がってきています」


 騎士団長のアーサーはそれに付け加えた。


「今は南部にいるようですね」


 ララーシャは椅子の背にもたれかかり、揺れている。


「そっか。わたしの気配を探っていたのかな。まだ襲ってこないってことは、魔王もまだ本調子じゃないってところか」


 愛理はララーシャに尋ねる。


「ララーシャ様の気配を追っているとしたら、王都が危ないのでは?」


 ララーシャは愛理に視線を向ける。


「そうだね。あんまり人が多いところにはいない方がいいかもしれない。魔王が本調子ではないように、わたしもまだ顕現できない」


 教皇のマーガレットは言う。


「かしこまりました。魔王の動向を探りつつ、しばらくは様子を見ましょう。それで、いかがでしょうか?」


 ララーシャは頷く。


「それでいいよ。できれば、魔王が完全復活する前に叩きたいけど、魔王が人里にいるとしたら難しいな。それを読まれているんだろうけど……。ねぇ、広くて、平らで、戦えそうなところ知らない?」


 騎士団長のアーサーは立ち上がり、テーブルの上に広げてあるルイスフィールドの地図を差した。


「クレア草原などいかがでしょうか?」

「草原かぁ。いいね。その辺りにしよう」


 王のジャレッドはララーシャに尋ねる。


「どのようなお考えか、お聞かせいただけますか?」

「うん? わたしが人里にいると、魔王が攻めてきた時に甚大な被害が出てしまう。だから、先に戦える場所まで移動しておこうと思って。わたしの方はもう少しで準備が整うから」

「なるほど。お気遣いいただきありがとうございます」


 騎士団長のアーサーが提案した。


「そういうことであれば、護衛に騎士団から百五十人を出しましょう」


 教皇のマーガレットも言う。


「教会からは三十人ほど出せます」


 そこへドアをノックする音がした。

 執務室に宰相のアランが入ってきてお辞儀をした。


「失礼いたします。エルフ族から使者が参っております。魔王討伐の件です。お通ししてもよろしいでしょうか?」


 アランの問いにジャレッドは頷いた。


「お通ししろ」


 しばらくして、エルフ族の使者が入ってきてお辞儀をした。


「エルフ族のティムと申します。まずは盟約を破り、こちらへ来たことを謝罪いたします」


 ティムは深々と頭を下げたあと、手紙を差し出す。


「エルフの王より手紙を預かっております」


 アランが受け取り、ジャレッドに渡す。

 ジャレッドはティムに言う。


「遠いところ来ていただき感謝いたします。余はジャレッド・グリフィン・ルイス。ルイスフィールドの王です。ティム殿もお掛けください」


 ジャレッドは手紙を広げ、内容を読んだ。


「エルフ族より魔王討伐支援で百の軍勢がこちらに向かっているらしい。ありがたい」


 これでララーシャにつき従う軍勢は二百三十人になった。

 ティムは尋ねる。


「現在の状況をお教えいただきたい」


 ジャレッドはララーシャを手で指し示す。


「まずは、ご紹介させていただきます。こちらは女神ララーシャであらせられます」


 ティムは驚き、椅子から降りて跪いた。


「女神ララーシャ。いらっしゃるとは知らずに、大変失礼をいたしました」


 ララーシャは手を横に振った。


「いいよ。ジャレッド、話を続けて」


 ティムは立ち上がり、ララーシャにお辞儀をしてから席に戻った。

 ジャレッドはルイスフィールドの地図を指差して説明する。


「魔王の居場所は今この辺り。これより、女神ララーシャはクレア草原に移動されます。そこで陣営を張ります」


 ティムは頷く。


「では、わたしたちもクレア草原へ兵を向かわせます」


 ララーシャは言う。


「戦いの時、わたしの依り代が殺されないように守ってほしい」


 愛理は頷いた。


「では、わたしたちがお守りいたします」


 マーガレットは言う。


「あなたたちだけでは少ないでしょう。シスターアンジェリカ、シスタージョアンナ、シスターアデルを加えましょう」


 アーサーもそれに付け加えた。


「騎士団からはジュリアスを加えよう。少数精鋭ならば、知らぬ者よりよく知る者の方が連携も取りやすいはず」


 愛理は頭を下げる。


「ありがとうございます」


 マーガレットはララーシャに言う。


「女神ララーシャの従者として、アイリーン、イアン、クレイグ、ジュリアス、シスターローナ、シスターラウラ、シスターアンジェリカ、シスタージョアンナ、シスターアデルの九名をおつけいたします」


 ララーシャは頷く。


「うん。しっかり守ってよね。依り代が死んだら、わたしはこの世界に顕現できなくなるから」


 愛理とイアンはしかと頷いた。

 アーサーは言う。


「兵を整えるまでに一日頂きたい。教会の方はどうだろうか?」


 マーガレットは頷いてからララーシャに尋ねた。


「教会の方もそれまでに整えましょう。明後日の出立でよろしいでしょうか?」

「うん。それでいいよ。問題ない」


 ジャレッドはララーシャに言う。


「女神ララーシャ。出立までは我が城にておもてなしさせていただきたい」


 ララーシャは手を横に振って断った。


「アイリーンのところに世話になるよ。堅苦しいのはごめんだからね」


 それに驚いたのはイアンだった。


「僭越ながら、我が家は狭く、大したおもてなしはできません」

「うん。しなくていいよ。アイリーンはイアンと暮らしているの?」


 愛理は頷く。


「はい。イアン様に後継人を務めていただいているので居候しています」

「ふーん。じゃあ、イアンの家に行こう」


 イアンは顔を青くしたり、赤くしたり忙しくしていた。



 王城からは馬車で愛理、イアン、ララーシャ、シルフはエヴァンス邸に向かった。

 エヴァンス邸の前に馬車が止まり、愛理たちは降りた。

 イアンは自宅を手で差しながら恭しく言う。


「こちらが我が家です」


 イアンは玄関を開けて、声を掛ける。


「今、戻った」


 イアンの声を聞きつけてマリアンヌ、メアリー、ジェームズが出迎えに出てきた。

 マリアンヌが笑顔で言う。


「おかえりなさい。お兄様、アイリーン。まぁ。シルフ様もご一緒なのですね」


 愛理の肩に乗っていたシルフはマリアンヌに飛びつく。


「マリア~」


 マリアンヌはシルフを抱きしめて頭を撫でながら愛理たちと一緒にいるララーシャに目を向けた。


「あら。お客様かしら?」


 イアンは青い顔で紹介する。


「女神ララーシャであらせられる」


 マリアンヌは驚いた顔でメアリーと視線を交わしてから跪いた。

 メアリーとジェームズもそれに続く。

 マリアンヌは言う。


「まさか女神ララーシャまで我が家にいらしていただけるなんて、なんて光栄なのでしょう」

「今日と明日、泊めてもらうよ。よろしくね」

「大したおもてなしはできませんが、どうぞおあがりください」


 マリアンヌは立ち上がり、ララーシャをリビングへと案内した。

 それからメアリーとジェームズを振り返り、指示を出す。


「メアリー、買い出しはこれからよね? 奮発して頂戴ね。それから、ジェームズはお風呂の準備をお願い」


 メアリーとジェームズは頷いて、それぞれの仕事をはじめた。

 マリアンヌはララーシャにお茶を差し出しながら言う。


「お疲れでしょう。ごゆるりとお過ごしくださいませ」

「ありがとう、マリア」


 ララーシャはお茶を一口飲んだ。


「いい家だね。落ち着くよ」

「お気に召していただけたのなら幸いです」


 イアンはほっとしたような笑みを浮かべた。



 夕食はメアリーが腕を振るった。

 テーブルにはステーキ、グラタン、サラダ、コンソメスープ、パンが並んだ。

 ララーシャはステーキを食べて、金色の瞳を輝かせた。


「うまい! ソースが美味しい」

「ありがとうございます。まさかわたくしの料理を女神ララーシャにお召し上がりいただける日がくるなんて……」


 メアリーは感極まって流れた涙をエプロンの裾で拭いていた。



 その日の夜。

 ララーシャを客室に案内し終えた愛理、マリアンヌ、イアンは、リビングでお茶を飲んでいた。

 マリアンヌが溜息を吐いた。


「いつもお兄様はお客様を突然連れてくるんだから……」


 マリアンヌの苦情にイアンは困惑した表情を浮かべる。


「しかたがないだろう。それに俺の客ではなく、シルフ様も女神ララーシャもアイリーンの客だ」


 愛理はイアンにむくれた顔を向ける。


「あー! 私になすりつけた! イアン様、ひどい!」


 そのやり取りを見ていたマリアンヌはおかしそうにくすくすと笑った。


「お兄様もアイリーンも随分と仲良くなったのね。最初はどちらもよそよそしかったのに」


 愛理とイアンは顔を見合わせた。

 イアンは茶髪の頭を掻いた。


「これだけ一緒にいれば仲良くもなるさ」


 愛理もなんだか気恥ずかしくなって何度も頷く。

 マリアンヌは頬杖をついた。


「教皇選抜試験がはじまってから二人は忙しくて、こうしてゆっくりと話す機会もなかったわね」

「そうだな。教皇選抜試験がはじまってから目まぐるしかった」

「でも、今は教皇選抜試験がらみではないのでしょう?」


 マリアンヌの問いにイアンは申し訳なさそうな顔をした。


「マリアンヌ。すまないが、詳しくは話せないんだ」

「分かっているわ。わたしは二人を信じている。必ず生きて帰ってきてね」


 愛理とイアンは力強く頷いた。


「必ず生きて戻るよ。マリア」

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