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第43話 愛理の覚悟

 愛理たちが砦に戻ると、マイケルが愛理の姿を見つけるやいなや駆け寄ってきた。

 愛理の無事を自身で確認して、心底ほっとしたような表情を浮かべた。


「シスターアイリーン、生きていたか。ああ、よかった……。疲れただろう。部屋へ案内しよう」


 愛理たちは案内するマイケルについて行くと、一階に応接室があった。

 愛理はソファーに腰掛けると、眠気が襲ってくる。

 一晩中歩き詰めだったので、もう限界だった。

 それはイアンたちも一緒だったらしく、みんな寝息を立てはじめた。



 愛理たちが起きたのは昼を過ぎた頃だった。

 イアンたちは昼食を取りながら愛理が失踪していた間の話を聞いた。

 ローナは唖然として言う。


「風の精霊シルフから直接加護を頂いたって……? アイリーンが?」


 イアンは顎をさすりながら言う。


「魔王によってこの世界が滅ぶ……?」


 ラウラも珍しく表情に戸惑いが浮かんでいる。


「女神ララーシャがこの地に降臨されている?」


 クレイグは頭を抱えている。


「訳が分からないことになっているな……」


 愛理は混乱しているみんなを見て苦笑した。

 シルフはシチューを食べるのをやめて顔を上げた。

 口の周りにはシチューがついている。


「この風の精霊シルフの言うことが信じられんと言うのか」


 愛理はシルフの口元を拭いてあげた。


「信じられないというよりも、情報が多すぎるのです。整理する時間をください」


 シルフは少し考えて頷いた。


「魔王は二十年ほど前に復活しておる。だが、今は気配が二つに分かれていて、何かが魔王の力を抑え込んでおるようだ。しばらくは魔王も完全復活というわけにもいかないであろう。その間に、愛理は他の精霊たちからも加護を受け取れ」


 愛理は首を傾げる。


「他の精霊様もルイスフィールドにいらっしゃるのですか?」


 シルフは頷く。


「地図はあるか?」


 クレイグは地図を取り出して机に広げた。

 シルフは地図の上を飛び、指を差していく。


「大地の精霊ノームは西部、水の精霊ウンディーネは東部、火の精霊サラマンダーはカスティル山におる」


 クレイグは腕を組みながら言う。


「しかし、今は教皇選抜試験中だ。こちらはどうするのだ」


 ローナは少し考えてからそれに答えた。


「あたしたちシスターは、女神ララーシャと精霊様にお仕えしている。その精霊様が言うのだから、教皇選抜試験より優先される事案だと判断する」


 イアンは頷く。


「シスターがそう判断するのならそうなのだろう。しかし、風の精霊シルフ、なぜドラゴンのお姿なのですか? 伝承では女性の姿のはず……」


 シルフは腕を組み、どや顔で言う。


「ドラゴンの姿の方がかっこいいであろう」


 愛理はシルフの真ん丸なお腹を突っつく。


「今は可愛らしいドラゴンですけどね」


 シルフは愛理の手を払った。


「仕方がないであろう。あの姿では人間族の世界は狭すぎる」


 たしかにここであの大きなドラゴンの姿になられたら建物が壊れてしまう。

 愛理はみんなに視線を向けた。


「とりあえず、私は一度南支部の教会に戻ってから西部へ移動します」


 ローナは首を傾げて言う。


「でも、アイリーンはそれでいいの? もしかしたら教皇選抜試験は失格になるかも……」


 愛理は頷いて言う。


「そもそも私は、この世界からいずれいなくなるかもしれない存在。そんな私が教皇のような重役についてはいけないと思います。それは以前からイアン様とも話していたことです」


 イアンは頷いて言う。


「アイリーンがしたいようにすればいいと、俺は思っている。だが、精霊の加護をアイリーンが受けるということは、アイリーンが魔王と対峙するということだろう。それこそルイスフィールドの人間ではないアイリーンがすべきことなのか?」


 愛理はイアンを真っすぐに見つめた。


「私にとってルイスフィールドは大切な場所になりつつあるの。この世界が滅んだら、みんな死んでしまう。そんなの絶対に嫌だ」


 イアンは愛理に跪いた。


「ありがとう、アイリーン。俺はアイリーンの護衛騎士だ。アイリーンが主だ。どこまでもついて行こう」


 ローナ、ラウラ、クレイグも跪く。

 ローナは顔を上げて言う。


「アイリーンにだけ重責を担わせるわけにはいかない。あたしもついて行くよ」


 ラウラも頷いた。

 クレイグは恭しく言う。


「アイリーンに忠誠を。その覚悟に敬意を示す」


 愛理は慌てて立ち上がる。


「そんな! みんな、跪かないでください。でも、みんなも一緒にきてくれたらすごく心強いです」


 愛理は安堵したように微笑んだ。

 イアン、ローナ、ラウラ、クレイグは顔を上げた。

 クレイグは笑い声を上げた。


「しかし、まさか世界を救うための旅に出る日がくるとは思わなんだ」


 愛理、イアン、ローナ、ラウラも頷いて笑った。



 愛理たちはアリスコーストに十七時頃に戻ってきた。

 宿屋でお風呂を済ませて、キャロルの両親が営む食堂で夕食をとった。

 南支部の教会に戻り、愛理は布団に入る。

 そこにシルフが潜り込んできた。

 愛理は目を瞑ると、すぐに寝息を立てはじめた。



 翌日。

 朝のお祈りが終わってすぐに、愛理はウィニフレッドを二階に呼んだ。

 愛理はドラゴンの谷であったことを話して、西部へ向かうことを告げた。

 もちろん愛理が元の世界に戻ったことは省いて話した。

 ウィニフレッドは驚いたようで、小竜の姿をしたシルフを見つめる。


「まさか精霊様とお会いできる日が来るなんて……。話の内容は承知いたしました。わたしも精霊様の御意思に従うべきと判断いたします」


 愛理はウィニフレッドに尋ねる。


「教皇様にも報告するので、手紙を書くための紙などいただけますか?」

「はい。ご用意いたします」


 ウィニフレッドは一階から紙と羽ペンとインクを持ってきて、愛理に渡した。

 愛理は手紙をしたためて、ウィニフレッドに託した。


「確かにお預かりいたしました。教皇様へお送りしておきますね。西部へはいつ行かれますか?」

「支度が出来次第、出立いたします」

「承知いたしました」


 愛理たちは荷物をまとめて、馬車に乗り込む。

 ウィニフレッドとキャロルが見送りに出てきてくれた。


「お気をつけて行ってらっしゃいませ。風の精霊シルフのご加護がありますように。……こほん。そのシルフ様がご一緒なのでしたね」


 ウィニフレッドは咳払いをして、少し恥ずかしそうにしていた。

 クレイグが御者を務める馬車が走り出す。

 ウィニフレッドとキャロルが手を振ってくれた。

 愛理は膝の上でくつろぐシルフに尋ねる。


「西部に大地の精霊ノームがいるんですよね。どの辺りに向かえばいいんですか?」


 シルフは小さい耳をぴょこんと動かした。


「詳しい場所までは知らぬ。わたしも会いに行ったことはない」


 愛理は困ったようにイアンたちに視線をやる。

 ローナは唸るように言った。


「西部も広いからな……」


 イアンは顎をさすりながら言う。


「とりあえず、西部の中心地、メイスンへ行こう」

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