表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/67

第39話 アリスコースト②

 翌朝。

 六時を知らせる一の鐘よりも早く起きた愛理は、朝食の支度をはじめた。

 まずは生地を捏ねてパンを焼く。

 メアリーに作り方を教わっておいたのが役に立った。

 スープは昨日多めに作っておいたトマトスープ。

 ベーコンと卵があったのでベーコンエッグを作った。

 愛理たちが朝食を食べていると、シスターがひとり出勤してきた。

 十代後半くらいで長い茶髪を下ろしている。

 昨日、昼食を用意してくれたシスターだ。


「おはようございます。みなさまに女神ララーシャのご加護がありますように」


 愛理たちも挨拶を返した。

 愛理はシスターに声を掛ける。


「食材いただきました」

「大丈夫ですよ。午前中に買い出しに行きますから」


 シスターはにっこりと笑った。

 それからシスターはローナに視線を向けた。


「ローナ先生。お久しぶりです。昨日はお声掛けができず、すみませんでした」

「お互い仕事中だったからね。シスターキャロル、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」


 ラウラも頭を下げてから言う。


「シスターキャロル、お久しぶりです」

「ラウラも元気そうでよかった」


 愛理が首を傾げる。


「お知り合いですか?」


 ローナは言う。


「去年の卒業生だよ。アイリーンとは入れ違いだね」


 しばらくして、他のシスターたちもやってきた。



 朝のお祈りを終えて、愛理たちは教会の清掃をすることにした。

 愛理、ローナ、ラウラは椅子などの拭き掃除、イアンとクレイグはトンカチを片手に補修を行っている。

 掃除をしながら、愛理は参拝者の出入りを確認していた。

 王都の教会であれば常に誰かしらお祈りにきているのに、南支部では朝から片手で数えられる程度しか来ていない。

 それも高齢者ばかりだった。

 ウィニフレッドが愛理たちの様子を見に来た。


「ありがとうございます。なかなか直せなかったので助かります」


 クレイグは首を横に振ってから笑顔を見せた。


「いいえ。他にもどこか修繕するところはありますか?」

「事務所の方なんですが……」


 ウィニフレッドはクレイグを連れて、事務所の方へ行った。



 しばらくして、教会の扉が開いた。

 愛理は入ってきた人物を見る。


「ジョン様」


 ジョンは頭を下げた。


「公爵からの返事を聞いてきました。明日で大丈夫だそうです。お時間は午前中にはいらしていただきたいと。昼食に招きたいと言っていました」


 愛理はジョンの元に行く。


「承知しました。調整いただき、ありがとうございます」

「明日は僕が馬車を出しますので、四の鐘の頃、お迎えに上がります。よろしいですか?」

「はい。助かります」

「それでは、今日はこの辺で失礼します」


 ジョンは頭を下げてから帰って行った。



 昼食を終えると、キャロルが愛理たちに声を掛けてきた。


「アリスコーストの街を案内させていただきますね」


 愛理たちはキャロルのあとについて教会を出た。

 春の日差しが暖かくて、散歩日和だった。

 教会はアリスコーストのほぼ中央にあった。

 教会を出て、キャロルは十字路に立つ。


「北はアリスコーストの居住区になります。東と西の道は商店街が並んでいます。西側は主に貴族様向けのお店で高いのでお気をつけください。西側は貴族の別荘が立ち並んでいます。なので、今日は東側を中心に案内をしますね」


 キャロルは東の道を進んでいく。


「宿屋へ続く中央の道も高いお店が多いです。ですが、一本中に入ると安い食堂なども多いんですよ。特にこの店は教会からも近いですし、おすすめです」


 キャロルは一軒の食堂の前に立った。

 そして、笑みを浮かべて言った。


「うちの両親がやっている食堂です。どうぞ御贔屓に」


 愛理たちはくすりと笑う。

 キャロルは商売上手である。

 それから、キャロルは杖の店や服屋などを案内してくれた。

 中央通りに出て、宿屋を通り過ぎると海に出た。

 階段を下りて、浜辺を歩く。


「朝、海辺を散歩すると気持ちいいですよ。夜はロマンチックです。ただし、カップルも多いので、ちょっと妬けます」


 しばらく浜辺を歩いて行くと、漁村に出た。

 桟橋には船が止まっている。

 キャロルは小屋の前でたむろしている漁師に声を掛けた。


「大漁ですか?」


 漁師のひとりが手を上げた。


「キャロルちゃん。って、仕事中? だったら、シスターキャロルって呼ばなきゃだめだなぁ」


 漁師たちは笑っていた。

 どうやら顔見知りのようだ。


「獲れたての真鯛だよ。食べるかい?」


 漁師に差し出されたのは真鯛の刺身だった。

 キャロルは嬉しそうに一切れもらった。


「そちらのお連れさんもどうだい?」


 キャロルは漁師に言う。


「こちらの方々は王都からいらしたから、生の魚はお口に合わないかも」


 それと同時に、愛理は目を輝かせて言った。


「いいんですか?」


 刺身なんて久しぶりで、愛理は喜んで一切れもらった。

 脂がのっていて、プリプリとした触感がたまらない。


「美味しい!」


 ラウラも一切れもらった。


「王都では生の魚なんて食べられないです。みなさんもいただいてみては?」


 イアン、クレイグ、ローナは美味しそうに頬に手を当てる愛理の様子を見て、ごくりと喉を鳴らした。

 イアンは恐る恐る言う。


「俺もいただいてもいいだろうか?」


 ローナは指で掴んだ刺身を見ながら言う。


「生の魚なんて初めて食べるよ」


 クレイグも頷いた。

 イアン、クレイグ、ローナは一切れ食べて唸る。

 クレイグは驚いた顔をした。


「これはうまいな」


 イアンとローナも頷いた。

 それを見た漁師は気をよくして言った。


「気に入ったかい? 一匹やろう」


 愛理は胸元で手を組んで喜んだ。


「いいんですか⁉ 今晩のお夕食に……」


 愛理は少しずつ声が小さくなっていく。

 漁師は愛理の様子を不思議に思って尋ねる。


「シスターさん。どうしたんだい?」

「私、魚は捌いたことないんです。どうしよう……」


 愛理はいただいた真鯛を見つめる。

 すると、キャロルが助け舟を出した。


「よかったらわたしが捌きましょうか?」

「いいんですか? シスターキャロル」


 キャロルはにこりと笑う。


「ええ。お夕食の支度の頃、教会に行きますよ」


 愛理は思いついてキャロルに尋ねる。


「よかったらシスターキャロルも一緒にお夕食を食べませんか? 調理は私がするので」


 それを聞いたキャロルは驚いて言う。


「シスターアイリーンがお夕食を作られているのですか? わたしが作りますよ」


 愛理は首を横に振った。


「いいえ。シスターキャロルは昼食を作ってくれているので、そのお礼も兼ねて作ります」

「では、お言葉に甘えて。楽しみです」


 キャロルはにっこりと笑った。



 愛理が夕食の支度をしていると、キャロルが教会に戻ってきた。

 キャロルは手慣れた様子で真鯛を捌いていく。

 愛理は捌いてもらった真鯛を皿に並べ、スライスした玉ねぎも乗せて、塩コショウを振った。

 オリーブオイル、レモン汁、塩コショウを混ぜたソースをかける。

 真鯛のカルパッチョを作った。

 街で買ってきたワイン、焼き立てのパンもテーブルに並べ、みんなで囲んだ。

 キャロルは尋ねる。


「明日はリチャードソン公爵のところへ行かれるのですよね?」


 愛理は頷く。


「はい。その予定です」

「リチャードソン公爵邸はドラゴンの谷が近いので、気をつけて行ってきてくださいね」


 ローナはキャロルに尋ねる。


「この辺りでもドラゴンを見かけるの?」

「この辺りで見かけることはまずありません。ドラゴンの谷には公爵家が築いた砦があって、そこまで行くとドラゴンの姿を見ることができます」


 ――ドラゴンか。一度見てみたいな。


 愛理はワインを飲みながらそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ