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第33話 はじめての遠征①

 愛理は通常の授業に加え、四限の自由時間は先生がついて試験対策、週末はローナとラウラと一緒に演説の原稿作成と、目まぐるしい日々を送っていた。

 そして、二月に入った頃、愛理は討伐要請を受けた。

 冬で獣や魔獣が冬眠に入り、討伐自体があまりない。

 そんな中、来た依頼は冬兎の討伐だった。


 愛理はクレイグが率いる小隊と、教会からはローナとともに狭間の森へと向かっていた。

 イアンも一緒だ。

 雪が続いた翌日で、街道は真っ白く染まっている。

 一行は雪をかき分けながら、ゆっくりと進んでいく。


 野営地に着いた時には、昼を過ぎていた。

 野営地も真っ白だった。

 テントの設置を騎士団に任せ、先に立ててもらったクレイグのテントで愛理たちは作戦会議をしていた。

 参加者は愛理、隊長のクレイグ、副隊長のイアン、ローナだ。

 クレイグはテーブルに広げた地図を指差した。


「冬兎が出たのはこのあたりだと聞いている」


 野営地からずいぶんと離れた位置だった。

 狭間の森には野営地が第四まである。

 今愛理たちがいるのは第一野営地だ。

 クレイグが指差した場所は、第二野営地とちょうど間くらいだった。

 イアンは言う。


「冬兎が第二野営地方面に移動していたら厄介ですね」


 クレイグは言う。


「商団の目撃証言によれば、王都方面に移動していたらしい。まずは、この辺りを探してみよう。見つからなければ、第二野営地に移動する。昼食後、数人を連れて探索を開始しよう」


 ローナは愛理に言う。


「冬兎は氷の魔法を使う。アイリーン。あたしたちは炎の魔法で戦うよ」

「はい」


 作戦会議は終了し、クレイグとイアンは二人で人員配備について話し出した。

 愛理とローナは少し離れたところで待機していた。

 愛理はローナに尋ねる。


「冬兎ってどんな魔獣なんですか?」

「冬兎は人の丈くらいあって、群れで行動する。可愛らしい外見をしているが、凶暴だから気をつけないと。ジャンプ力がすごいよ。すぐに接近戦に持ち込まれる。もこもこの前足でビンタしてくるから、できるだけ間合いは取ってね」


 愛理は小さい兎を想像していたので、話を聞いて認識を改めた。



 昼食後。

 愛理たちは森の探索をはじめた。

 今回は討伐が目的ではないため、総勢十二名で歩いている。

 先頭にクレイグが立ち、そのうしろに騎士が続いている。

 最後尾から愛理とローナはついて行く。

 雪化粧した森の中は静かだった。

 雪に残った獣の足跡を頼りに探していく。

 けれど、この日は冬兎に遭遇することはなかった。



 二日目。

 この日は朝から三つの班に分かれて捜索をはじめた。

 二班は探索、一班は野営地の護衛のため、お留守番である。

 本当なら愛理とローナは別の班になるところだが、愛理がはじめての討伐であること、治癒魔法が使えないことから、愛理とローナは同じ班になった。

 愛理たちの班の隊長はイアンが率いて探索することになった。

 愛理たちは第二野営地を目指して歩いていた。

 しかし、この日は天気が悪かった。

 探索をはじめてすぐに雪が降り出したので、泣く泣く第一野営地に戻った。

 第一駐屯地に戻った愛理たちは、駐屯地の中央で焚かれている火に群がる。

 愛理は震えていた。


「寒い……」


 隣で同じく震えているローナは言う。


「冬の討伐は命懸けだよ。うっかりしていると凍死してしまう」


 愛理はぎょっとした。


「こわっ!」

「早く冬兎の群れを見つけて帰ろう。温かいお湯で湯浴みして、ベッドに潜り込みたい」

「同感です」


 愛理は手に息を吹きかけた。



 三日目。

 昨日の雪が嘘のように晴天だった。

 愛理たちは再び第二野営地を目指す。

 雪が照り返す日差しで、歩いていると汗ばんでくる。

 日焼けしそうだ。

 愛理は日焼け止めクリームが欲しいと心の底から思った。

 第二野営地に近くなってきた時、イアンがしゃがみ込んだ。


「足跡だ」


 新雪にくっきりと足跡が複数ついている。

 雪が止んだあとについたもののようだ。


「報告に戻るぞ。聞いていた話よりも数が多そうだ。アイリーン、発見の合図を上げてくれ」


 愛理は頷いて、空に青色の魔法弾を三度打ち上げた。

 一行は第一野営地に戻った。



 クレイグのテントでイアンが説明をしていた。


「冬兎は第二野営地の方角に移動していそうです」


 クレイグは手を額に当てた。


「そっちだったか。明日、第二野営地に移動しよう」


 そう決まって解散した。



 四日目。

 朝から撤去作業が行われて、第二野営地に移動が開始された。

 街道は封鎖されているため人通りはない。

 一行は新雪を除けながら進んでいく。


 第二野営地に着いたのは、昼を随分と過ぎたころだった。

 この日は野営地を整えて一日が終わった。



 五日目。

 朝から部隊を二つに分けて捜索に出る。

 クレイグは騎士を二十五名連れ、愛理とローナも同行した。

 残りはイアンとともに野営地でお留守番である。

 この日は冬兎の足跡を見つけた辺りを中心に探索した。



 けれど、冬兎を見つけることができずに第二野営地に戻って来た。

 夜の作戦会議でクレイグは言う。


「明日が勝負だな。明日、見つけられなければ一度王都に戻ろう」


 ローナは言う。


「そうだね。寒さで疲弊して、兵士たちの士気も落ちてきている。凍傷の治療も増えてきた」


 愛理は尋ねる。


「その場合、冬兎の討伐はどうなるんですか?」


 イアンは答える。


「王都に戻り、騎士団長の指示を仰ぐことになるが、別部隊が第三野営地から第四野営地を探索することになるだろう。冬兎は移動も早い。もしかしたら狭間の森の奥地に戻ったかもしれない」

「狭間の森の奥地?」

「狭間の森は広い。俺たちが立ち入ってはいけないラインがある」


 イアンは地図に書かれている狭間の森の向こうにあるカスティル山脈を指でなぞる。

 カスティル山脈より先は地図に記されていない。


「ここから先は人間が立ち入ってはいけない領域と定められている。この先は魔獣や獣たちの領域だ。ここに戻っているとしたら、俺たちは手出ししない」


 愛理は納得したように頷いた。

 一応、人間と獣たちとの住み分けができているようだ。

 ラインを越えてこちら側に来た獣たちは討伐するということか。

 この日はこれでお開きとなった。



 六日目。

 この日は朝からイアンが率いる二十五人の兵士と愛理とローナで探索していた。

 昨日とは違うルートで第三野営地の方角を探す。

 早い段階で雪兎の足跡を見つけた。

 イアンは一行を振り返り言う。


「今日こそ見つけるぞ。冬兎は白い毛で雪と見分けがつきにくい。動くものに注意しろ。接近されてからではこちらに不利だ」

「はっ!」


 雪兎の足跡を辿って行くと、ひとりの兵士が声を上げた。


「いました。あそこです」


 兵士が指差す先を見ると、木々の合間から雪兎が三頭見受けられた。

 イアンは声を潜めて言う。


「よくやった。だが、数が少ない。もう少し大きい群れだと思ったんだが……。まぁ、いい。まずはあの三頭をやろう」


 ローナは愛理に言う。


「はじまるよ。覚悟はいい?」


 愛理は真剣な顔で頷いて、杖を抜いた。

 イアンが控えた声で言った。


「作戦開始」


 愛理とローナは木々に隠れながら慎重に雪兎に近づいて行く。

 騎士たちはそれについて行く。

 ローナは杖を構えた。


「ファイアーボール」


 愛理も続けて攻撃を開始する。

 愛理が放ったファイアーボールは冬兎に当たった。

 けれど、一撃だけでは冬兎は倒れなかった。

 冬兎はこちらに気がつき、パニックになって右往左往している。

 愛理とローナはファイアーボールを打ち続ける。

 騎士たちは愛理とローナの弾道を避けるように大きく迂回して冬兎を囲い込もうと動く。

 ひとりの兵士が叫ぶ。


「左前方にも敵を確認」


 ローナはそちらに駆け出す。

 愛理もそれに続いた。

 イアンの檄が飛ぶ。


「右陣はそのまま冬兎三頭に対処。左陣は左前方の冬兎に対処せよ!」


 愛理とローナは左側に現れた冬兎の射程に入った。

 そちらは総数六頭。

 愛理とローナはファイアーボールを撃ち込みはじめる。

 ローナが横にいる愛理を見る。


「アイリーン。後方注意ね!」

「はい!」


 最初の三頭を倒した騎士たちが、他の冬兎の対処に合流する。

 ローナの檄が飛ぶ。


「アイリーン。少し前に出すぎ! 下がって」

「はい」


 騎士たちが冬兎と戦闘を開始したので、愛理たちは撃つのをやめた。

 愛理とローナは杖を構えながら戦闘の様子を見守る。

 騎士の包囲網を脱した冬兎に、愛理はファイアーボ―ルを撃つ。

 怯んだ冬兎を騎士が切り付けて倒した。

 ローナが言う。


「アイリーン、今のナイス!」


 愛理はローナを見て頷いた。

 しばらく戦闘が続いたのち、無事に全頭の討伐が完了した。

 愛理はほっと息を吐く。

 背後で戦闘を指揮していたイアンは愛理の頭を軽く撫でた。


「よくやった」


 イアンはそう言ってから騎士たちの元へ行く。

 愛理とローナもそのあとに続いた。

 特に重症な怪我人はひとりで、冬兎のパンチを食らった時に腕を骨折した騎士がいた。

 ローナはひとまず歩くのが難しい騎士だけを優先して治療した。

 他の獣や魔獣が血の匂いにつられて寄ってくるため、早く戦闘場所から離れるためだ。

 ローナは治療をしながら愛理に指示する。


「アイリーン、作戦終了の合図をお願い」


 愛理は頷いて、青色の信号弾を二度上げた。

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